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ネットワークミュータント

作者: 長沢とーる

Twitterは小説よりも奇なり

 腕につけているデバイスのバイブレーターに覚醒を促される。


「何時だ? ……3時か。ろくに寝てねえってのに」


 ぼやいたところで仕方がない。仕事の時間だ。依頼主が近くに住んでいないのならこっちの現在時刻は関係ない。俺はいつでも仕事を受ける勤勉な日本人なのだ。


「で、内容はっと……C国の製薬会社のデータ? なんでわざわざ?」


 A国からの依頼としてはおかしいなと思ったがすぐに首を振る。


「あ、そっか。こないだC国にデータ渡したの俺だった」


 報復措置と証拠入手とデータの隠滅か。

 マッチポンプというなかれ。クラッカーなんてこんなもんだ。


「まぁいいや。両方からカネがもらえるんだから文句はありませんよっと」


 そういって、俺は腰のポーチからアンプルと無痛注射器を取り出した。

 慣れた手付きでトリガーを引く。

 肩口の筋肉からワクチンを入れる。

 よくわからないがワクチンは肩口から筋肉注射するのが作法らしい。


「首でもどこでもいい気がするんだが……きた」


 見た目の変化はない。だが、俺の視界は通常の視界に加えて、まるで星空のような黒に銀の光をばらまいたような光景が見えている。

 かつてインターネットと呼ばれていた世界規模の広域ネットワークは、基本的に有線接続であった。

 だが21世紀になって携帯電話の回線速度が向上し、ケーブルを引き回さなくても端末をネットワークに繋げることができるようになった。

 そして、未曾有の感染症の流行。

 それへの対策として開発されたワクチンには、後に深刻な副作用が確認された。

 携帯電話の接続用電波の影響で変質したワクチンが、人間の脳に革新的(あるいは致命的)な変容をもたらしてしまったのだ。

 電波接続能力者。

 かつてプログラムやネットワーク管理の知識を以てサーバに侵入し、データの窃盗または改竄を行っていたクラッカーは、インターネット接続端末すら必要としなくなった。

 最初の副作用が確認された患者の脳は、ほどなく献体として保存された。

 最初は単なる脳血栓によるものと思われていた死因は、後に電脳世界への強制接続に精神の方が耐えられなかったのだと結論付けられた。

 そして全世界規模で起こる、ネットワーク障害。

 感染症の二次災害として当の病気以上に世界を混乱に陥れた、ネットワークミュータントの誕生である。


「ま、それもすぐに収まったけどな。能力は特定のトリガーを引かないと発動しないのがわかったし。俺ら数世代目ともなれば当たり前の能力だしな」


 ぼそぼそと意味不明のつぶやきが口から漏れたが、仕事はしている。

 一見無秩序なプラネタリウムのようだが、星座の見方がわかれば星の名前がわかるように、あの光の群れも読み方さえわかれば。


「お目当てのサーバは、あれだ」


 まるで本棚の本を漁るように、プレイリストの順番をスクロールするように、俺は光の群れを掻き分ける。


「さて、いっちょやりますか」


 思ったより先でもない未来のクラッカーは、端末などなくてもネットワークに接続できるようになっていた。

 きっかけはあの、感染症とワクチンだったのだ。

俺はワクチン接種します。

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