70.解除キーの呪文は“イフタフ・ヤー……”
エストギア方面連合は完全な情報統制を布いている“千年世紀守護神”の技術提携を受けてパラレル・ワールド間の地方自治行政やルールを取り決める超法規議会の運営、次元間の揉め事を裁く司法権を有し、幾つかの並行次元を統合統治する権利を許されているローカル複合体のひとつだった。
勿論、次元間の紛争を調停する軍事組織、調停機関も多数抱えている。
“フランキーの奇禍”として知られる未曾有の大厄災が突如としてエストギア方面連合を見舞ったのは、エストギア・ドメニコス標準歴MKH25082年のことと記録されている。
初動対処部隊の派兵に失敗し首謀者達の逮捕拘束は叶わなかったが、被災地の復興に次元連合防衛軍所属の広域瓦礫処理の巨大重機群を擁する撤去清掃師団や軍属のインフラ建造専任の技術者部隊、災害支援に特化した配給と備品支給専門の兵站大隊などが大規模な復旧軍団として派遣された。
取り逃した広範囲次元テロの首謀者と見做される者達は、エストギア方面軍に限らず、全てのローカル複合体で第一級次元指名手配になった。
俺達の打ち上げた花火は、この世界の中心を一瞬にして震撼させた。
全世界の信仰の中心地は、今や丸裸だ。
おそらく巻き込まれた連中は、何が起こっているのか全容を知ることもないまま恐慌状態に震え上がっているんだろう。
泣き叫びながら逃げ惑う人々を見ても、特に痛む良心が残っている訳でもないが、少し気の毒ではあるな。
巡礼者達が休息する街で出会った母子は無事だろうか?
こんな俺でも、知り合った人間を俺達の自分勝手なドンパチで蹂躙するのはちょっと気が引ける。
しかしまぁ、目的の為には鬼、悪魔と罵られようが、にっこり笑って返せるぐらいには鉄面皮だったりする。少なくともトーンダウンはしない。
これまでも、これからも、俺は俺の目的を優先する……そのスタンスはずっと変わらねえ。真摯な回々教徒にゃ悪いが、本当に神様が居るならば、俺には疾っくの疾うに神罰が下っている。
復讐と言う美酒が美味いか甘いか、興味が無いから考えたこともねえ。唯、俺を先へと突き動かす腹の底からの衝動があるだけだ。
本家本元のシィエラザードが裏から管理し、操られたこの世界……人々の営みが、歪んでいようがいまかろうが、俺にはどうでもいい。
お気楽と言えば語弊があるかもしれねえが、この星の人口の大半がシィエラザードの思惑に踊らされていると言っても間違いじゃねえ。
だからかな、48億年が産み落とした至宝を掠め盗っても、これっぽっちも悪怯れることはないんだろう。
クレマチスの色は薄く儚い。
熱砂と信仰の街、ジェッダ・マザリンの中心に屹立するキルロイ神殿の神域守護結界のシンボライズ化された視覚的な属性象徴がクレマチスの形を取っている。
酔狂にも聖なる結界とやらは、目に見えるクレマチスの花として神殿全域を覆っていた。別名、“クレマチスの神殿”と呼ばれる所以だ。
ここキルロイのモスク群を形成する装飾の意匠は殆どが幾何学模様だが、クレマチスを図案化したレリーフが所々に混ざってさえいた。
本来のクレマチスは、薄い紅の混ざる白だ。
極彩色の派手な色合いを好むこの星の文化にしては不思議な程に控え目な色をしていて、却って神秘的ですらあった。
残念ながら、詩人みてえに綺麗な花に感動して心切なくなったりするお可愛い趣味は持ち合わせてねえ……だから散らすのに逡巡したりしない。
広大な敷地を取り囲むように大量の蔦が繁茂し、乾燥地域には珍しいぐらいに咲き誇ったクレマチスは、だが5000年の堅牢さを積み重ねた驕慢も虚しく、実に他愛もなく散った。慈悲を感じる刹那も無く蹂躙する、こちらの放った剛性を伴った魔力風、エレメンタル・ブラストが結界を一瞬で打ち砕いた。
長い歴史と共にあった聖なる結界は、硝子でも砕け散るような盛大な轟音を伴って呆気なく消え去った。
遠目で覗くことが出来た筈だが、神殿の周りで起こった遥かなシャザルワーン回廊での“最後の審判”染みたオカルト・ハザードの数々は、信心深い聖職者と巡礼者達を容易に恐慌に陥れた。
既に暮れ泥む夕暮れ時なのに、神殿の灯火は殆ど点っていない。
だがそれもこれも、続くダントツ打っ千切りの絶対停止結界に包まれて、凡ゆるものが強力無比な時間凝固凍結に、濃密な瞬間接着エーテルで固められたようにピクリとも動くことは出来なくなる。
(どちらが多く地獄を見てきたかを競ってる訳じゃねえ、俺とお前を比べれば、俺の絶望の方がほんの少し深かった……それだけだ)
世間一般では在り来りだとされる裏切りの恨み辛みで此処まで来た俺が、おかしいかどうかは知らん……余所様の評価なんぞには興味も無い。
一体どうしたら、この遣り場の無い腹の底からの憎しみに釣り合う報復で相手を真っ黒に塗り潰せるのか……そればかりを考えて、此処まで来た。
(今、身共の自由に出来る戦闘特化の幻魔は420程、プラス別に眷属化した虎の子の魔獣と魔族、光の精霊達の軍団は1000万は下らず、無限増殖も可能)
(だと言うのに、全く敵う気がしない)
人為的に引き起こされた時限無作為操作のオーバー・ドライブは全宇宙を駆け抜けて、3千億光年の長さに渡って次元に亀裂を造った。
48億年に渡り練り上げられた精霊力なれば、それが可能。
シィエラザードの力、予想は出来ていたが思った以上にとんでもない。おそらく亀裂をこのままに……この状態が長く続けば幾多のパラレル・ワールドの融合を誘発して仕舞う。ディメンジョン・ビハインド・メルトオーバーラップだ。
(俺が運命を繋ぎ続けることが出来るのか……一度でも疑問に思ったら、そこで俺の復讐劇は潰える)
(絶対に負けられないし、負ける道理が無い)
(身共が貴方を何者か知らないのと同様、貴方も本当の意味での身共が何者かは知らぬ筈……自分を圧し殺して永い年月使命に生きた身共の苦節と悲願を知らず、また己れ等の役割も知らずに消えていった野望と請願と祈念に生きた者達……48億年の間に滅んでいった数多くの人々と幻魔と魔族と魔物、亜人、怪異、生きとし生けるもの全ての犠牲と想いを知らない)
(故に、奪われて良い筋合いが無いっ!)
(異世界からの来襲者、……実験温床“アリラト”に突如として出現した謎の驚異に、おいそれと差し上げる訳にはいかぬのです!)
あぁ、ほんとのところそいつの粗筋は見えている。
敵を知らずして攻略に打って出るは俺達のセオリーに反する。
ベナレスの一区画に建造されたタイムシャフト・ストリーム……時間井戸とも呼べる巨大な立坑、“イージーカム・イージーゴー”にハイパー・フリズスキャルブ直結の情報収集端末が大量に投入された。幾らこの世界に強力な呪が掛かっていようとも、エルピスの記憶にある“行動心理原則理論メタヒューリスティクス完全アルゴリズムに依るモデリング”、“究極帰納推論法……予言”に因り進化したハイパー・フリズスキャルブ改に暴けない真実などは存在しない。
幾星霜、過去に工作されたシィエラザード達に依る星の数程の人心操作、世論誘導、造られた時代変換点と戦争の火種、ビフォア・アフターが出来る程の前人未到のエポック・メイキングの数々……場合に拠ってはモラル的パラダイムシフトとでも言うべき落差で価値観自体が大きく変わって仕舞っている、の恥ずべき全容はほぼ完璧に把握している。
罪の自覚があるかは問題じゃない。隠蔽に自信が有れば有る程、悪魔に魂を売ったと言っても過言じゃない自分達の所業を知られているとは、想像もしないのだろう……団栗の背比べとは言わんが、修復不可能な迄に自らの理性を滅茶々々にしちまった俺からしても、普通に憐れだ。
キルロイ聖域大理石神殿の御神体……それは世界中の回々教徒がこぞって訪れる聖地に相応しく、その熱狂的な信仰に蝟集する人々に溢れ返るコロシアムのように広大な神殿内に安置されていた。
周囲を銀製のカバーで覆われた御神体たる聖なる黒石は、巨大な階段状の祭壇に埋め込まれて神兵を名乗る警護の者に守られている。
神兵はミフラーン朝北方アゼルヴァイジャン軍管区所属の立派な軍職だが、同時に近衛武官を冠する最も敬虔な回々教徒だとも言う……同じ神殿内に設置された神官階級の守護聖火と共に、命懸けで御神体を守る。
キルロイを訪れる大変な数の巡礼者達がこぞって跪き、黒石に接吻をするので、保護する銀の覆いが擦り減り、定期的に交換される。
だが、黒石の真の役目……“フランキー”を封じた特殊なビスミラ、所謂“聖杯”と呼ばれているミスリル製の幾分小振りな渦巻型クラテール……ゴブレットよりは二回りも三回りも大きな混酒器の甕を内包し、隠す為の、そして全回々教徒の日々の祈りを受け止め、吸収して、進化の糧とせんが為の受け皿としての役割を、良い面の皮の回々教徒達は誰一人として知らない。
飾らぬ真実は、この星のおよそ32億程の回々教徒の敬虔な全ての祈りが、ひとつ残らず“フランキー”成長の滋養分として吸収されていると言うことだ。
キルロイ中央大理石神殿の黒い御神体から取り出すミスリルで出来た聖杯から“フランキー”を解き放つには、“鍵”であるマルジャーナが必要になるが、そればかりかシィエラザードが仕掛けた封印は実に厳重且つ堅牢で、クラテールの壺の封印そのものだけではなく、前段として“シャザルワーン巡礼回廊”に用意された4つの関門を全て順番に開錠しなければならなかった。
そいつはこの星の古今東西、どんなダンジョン、どんなラビリンスよりも難易度は上だったと断言出来る。
これだけの大掛かりな罠を用意したシィエラザードに敬意を表して、横紙破りで押し潰すのをやめ、敢えて正面突破を選んだ。
90光年離れた巨大連星サマンガンを一時的に移動する算段なんかの準備にちくぅぅっと手間取っちまったが、通過儀礼程度に最短で辿り着いた。
(異世界最強を目指してる訳じゃねえ、ただ還り着く悲願がある)
魔術と異能で大概のことはなんでも出来る俺だが、それでもたったひとつ……生まれ育った故郷の世界には戻れないで居る。
(オルク・スティーブンソンってバルタン星人が創造しようと企んだものが、本当に何も彼も奪い尽くす究極の盗賊神達の集合体だとしたら……)
(そしてそれが宇宙の真理も、行きたいと思った世界にパラレル・ワールドを渡って行ける他次元ジャンプの法則をさえ掠め盗れると言うのなら……)
――それは狂気染みた渇望にまみれた、今の俺を突き動かす根本の衝動だ。
(是が非でも、手に入れなくちゃならねえ)
術が発動すれば、荘厳豪壮巨大なモスク群の900万の聖職者、巡礼の旅人、高僧から塔頭門徒の類いまで分子運動ひとつ出来ない迄に固まる。
砂漠を渡る鵟の亜種の群れが、羽搏いた姿のまま、大空に翼を広げて静止している。可視光線の粒子や波長さえ伝わらないので、視覚を得るには特殊なフィルターとソナーを打つようなちょっとしたコツが必要になる。
(何故、それ程迄に“フランキー”を欲するっ!)
(……俺の勝手な都合だ、だが裏切られた俺が酒と女に溺れもせず、腐って自暴自棄にも陥らず、曲がりなりにも一直線に遣って来れたのは復讐と言う一途な目的があったからだ)
(俺は、自分がどうしようもねえ片端なんだって理解してる……復讐に生きると決めてからこっち、きな臭く、ひりつくような修羅の道しか選べなくなった)
蟣蝨から第四の関門を攻略した連絡を受けると同時に待機させていた一番ガチな時間凍結術式を発動、隔離空間に保護した御神体周辺以外のキルロイ神殿全体を異界化した。最早、外界からの干渉は通常なら不可能になった筈だった。
通常ならな………
分かってたことだが、案の定本家本元の真正オリジナルシィエラザードは未知の術式で侵入してきた。
しかも秒だ。
驚くべきことに、クロノス・クロックに同調する為に膨大なプリマ・マテリアから還元反宇宙を生み出し、そして打ち消すようなオーバーヒートでこちらの術式に無理矢理に干渉してきた。
何者も、物理的どころか精神波さえ移動出来ない異空間を、まるで泳ぐように抜き手を切ってくる……疾い。
自らを“光の障壁”で押し包んでいる。
流石にカミーラが斃した傍流のシィエラザードなんざ、目じゃねえ。
この俺様の無限に圧縮出来る幾重にも分岐した魔力嚢は、メイオール銀河由来の記憶媒体規格をメシアーズが実装してるんで貯め放題だし、ベナレスからの供給を受ければ軽く世界の十や二十は滅せる。足りなけりゃ、隠し球の外付けを出すだけだが、遣り過ぎはきっと脆くなった次元間の壁を崩壊させて仕舞う。
問題は効率だな……如何にして綻びを緻密に補修しつつ、本家オリジナルを捕獲する手段の最適解には何がある?
或いは、惜しいが無傷の捕縛は諦めて、一度殺すか。
魂が消滅しないように息の根を止めれば、欲しい本家本元の能力も知識も何も彼も、フレッシュな死体なら手に入れられる。
……隷属化の自我完絶縁体を撃ち込む手もあるが、あれは成功率が区々だ。
フランキーの入手は必須だが、俺が本当に欲しているのは煉獄のようなこの世界を創り上げたシィエラザード、お前だ。
(端っから理解されることを期待しちゃいねえが、俺が恋焦がれているのは復讐って言うどうしようもなく薄っ暗い疫病神で、なんの達成感もカタルシスも与えては呉れないみみっちい、しみったれの便所虫、猫の下痢便みてえなもんだろう……だが、遣り抜かなくちゃならねえ、故に悲しみも怒りも、天井知らずの憤りも力に変えて今此処に立っている)
(例え1000年でも2000年でも、遣り遂げる迄は俺の中の憤りの炎を燻らせ続ける自信がある)
(だが時と言う鑢がゴリゴリと俺の不屈の復讐心を削り取っちまう前に、何がなんでも遣り通す……己れ自身に、そう誓っている)
(愚かな……貴殿の恨み辛みが、崇高なる福音を産み出さんとする壮大な企図と構想に勝っているとでも!)
(今まで何処の世界にも存在しなかった至宝を得んとしているのですよっ!)
(……だから、それが要ると言っている)
(手前勝手な私怨なぞ、百も承知)
(それが分かっているのなら、当方とは絶対に相容れませんっ!)
(愚者の蛮行……断固、阻止させて頂きます)
そりゃあ、相容れなかろうな……お前と俺とじゃ見てるもんが違い過ぎる。
(俺はな、とある世界で何も持たない貧乏な農民をしてる筈だった……)
(度量も見聞も塵屑みてえな取るに足りねえ、しがない半農半林業の杣夫だ……俺は物事に執着しないタイプだと自身思い込んでいた、だが手酷い裏切りが俺の心の底に眠った忿怒を呼び覚ました……別に心変わりを責めちゃいない、ただ衆人監視の中で、捨てた男を嘲笑うのだけは許せなかった)
(俺の望みは唯ひとつ、俺を裏切って虚仮にして呉れたどうしようもなく人非人な幼馴染み共に満足ゆくまで……気の済むまで仕返しをすることだ)
……唯の仕返しじゃねえ、絶え間なく永遠に苛まれる魂を焼き尽くす焦熱地獄、ゆっくりと未来永劫腐り続ける糜爛の呪詛、驚異的なスピードで再生と侵蝕を繰り返しながら体内で増殖する肉食性の寄生虫に何度も何度も内臓を喰い破らせる、なんて仕打ちは子供の悪戯程度にしか思えない、復讐に狂ったキ印だけが思いつく惨い仕返しを、今度じっくり語って聞かせて遣ってもいい……もしもお前が生き残れたらな、シィエラザード。
(憎しみ以外の感情が欠落しちまった俺には、他の生き方が出来ない)
(許す許さねえなんて話は端から通り越した……俺の願いは唯、奴等を殺して殺し捲ることだけだ、泣き喚いた挙句に死んだら再び蘇生させて、また初めから一寸刻みに斬り刻み続けることさ、俺が納得いく迄な……一体何処迄やれば俺の気が晴れるのかは、実際俺自身にも明確には分からねえ)
そんな焦燥に身を窶して、その日、その時が来るのを一日千秋の想いで追い求めて此処まで来た。
そうしている内に、俺は人の心を失って“復讐”と言う名の獣になる。
(造物主オルク・スティーブンソンの高邁な思想を引き継ぐ貴様の、生命進化、精神世界の進化を懸けて次のステージに到らんとする大望とは較べるべくもねえ)
(……だがな、例え怨念が何も生まないとしても、どんなに下らなくても、俺は俺の虚仮の一念を押し通す)
(……狂ってる!)
(狂っていなくて、どうして復讐に血道をあげていられよう……如何に強くなろうとも、己れを鍛え上げようとも狂人は狂人のままだ、尋常な正気に目覚めることなどある筈もねえ)
キルロイ……それは、熱砂の砂漠に聳える壮麗な大神殿だ。
この世界の大部分の民族が信仰する回々教総本山として君臨し、間違いなくこの宗教世界の中心とも言える一大聖地だった。
今まさに我らがソランは、この地を攻め落とそうとしている。
いや、正しくは前代未聞のビスミラ……9999の複数大幻魔神の宿る唯一無二の大聖器物、“フランキー”を強奪せんとしていた。
ダーリンの術式で縛られた強力で不可逆な時間停止結界を覗くのは難しい。
他ならぬダーリンだからだ。他の者の術式とは全く違う。
ここに侵入出来るのはネメシス姐さんか、カミーラ姐さん、辛うじてアザレア姉ちゃんぐらいのもんだろう。
メシアーズには可能だった……視覚共有、知覚共有はもとより、装着者のバイタルや感情の機微、ちょっとした思考の片鱗なんかもモニタリングされる。
無論、ダーリンが許可したらの話だ。
単なるアーマースーツの性能枠を超える“救世主の鎧”はあらゆる解析センサーを張り巡らせてもいる。放射線から電磁波、重力波、各種の粒子量測定や空間歪曲解析から魔力場の浸透度数まで、およそ450にも及ぶ常時分析を連動比較チャートで見ることが出来るし、そのことで何が起きているのか99パーセントの確率で正解を導き出しもする。
それとは別にエルピスの助言があったので、先行して41家系のシィエラザード分家の魂が眠る心霊空間ニルヴァーナも、ダーリンが絶対時間停止結界で凍結した上で理論上アクセス不能にする為に、暗号化して更に強制フラグメンテーション、断片化して座標空間をバラバラにした……まぁ、余程のことが無ければ再びこの世に転生してくることは無い筈だ。
殺してはいないが、殺したも同然かな………
―――聖域神殿キルロイのモスク群の遥か上空、地表の攻略対象と相対位置固定のまま高度60000メートルに滞空した最新鋭の次元潜航型多機能巨大揚陸突撃艦に待機した妾達は、指令ホール下部のモニタリングルームのドック型リンク式視聴覚装置に、それぞれ有線でダイブしていた。
320チャンネルを同時に、複々々音声とデータメニュー付きでマルチにディープモニター出来る。
先日竣工したばかりの高度攻性前進基地を兼ねる“踊る鬼糸巻鱝”……“破壊神ダンシング・マンタ”と命名された奇襲特化の揚陸艦は、エルピスの監修のもとベナレスとメシアーズの技術の粋を集めて生み出された、全くの新機軸。
巨大でフレキシブルな船体は、イトマキエイのフォルムを模している。
ふかしでもなんでもなく、この艦の威力なれば瞬時に大銀河の十や二十、殲滅も制圧も思いのままなんだよね。
「凄いね……シィエラザードの本気、これ程のもんか」
「まず必殺必中のスキルで対象を雁字搦めにした後、倒置魔法で因果律を反転して逆に帰結点より遡ってるんだろう」
「然るのち……あまりにも破格過ぎて元のオリジナルからは大きく掛け離れて仕舞ってるけど、間断なく撃ち出されるあれは多分シャイニング・アロー系のもんだと思う……けど威力は1000万倍にも増幅されてるし、更に凝縮してピンポイントに当てる迄に絞られてるね」
「非常識な程に強力な、軌道反転無効化の術式が付与されてもいるし、この高速戦闘の中でコンマ秒単位で魔術の性質変換をランダムに繰り返してる」
「シンディが嫌味も無しに敵を称えるのは珍しいのお」
何層ものレイヤー・マルチ画面の端に、発言者の小窓が開く。
「だってカミーラ姐さん、あの無限に硬化し強度を増す、そして不思議な膨張をし続ける攻撃性の守護結界は流石に一朝一夕には真似出来ない……複雑精緻な幾何学模様の、まるで織物かタペストリーのような不可視化された魔法陣が美し過ぎて怖いぐらいだよ」
シィエラザードの繰り出す軍勢で神殿の巡礼者や聖職者達は既に死に絶え、迎え撃つダーリンの術式に絶対不壊の筈の停止結界が沸騰し、溶融する。
地表は既に跡形も無い。メシアーズの特殊なセンシング技術が無ければ、光学視覚を得るのさえ難しい。
だと言うのに、本家シィエラザードは未だに対抗出来ている。
大聖女、いや大天使ジブリール様だったか……まじ胡散臭いけど、これはこれで“推し活”でもするかな?
ダイヤモンドのメンタルと、口にするのは容易いが、実際にその域に達するのは心を捨て去るギリギリまで自分を追い込むぐらいに難しいし、狂気と紙一重だったりする。長く生きていれば己れの手が血に染まっていても平気で優しさと同居出来るようになるんだろう、きっと。
だがまだ甘い……妾達には気鬱に浸るような人並みな機微、酔狂な贅沢は望めないし、また望みもしない。
そんな恐れ知らずの真似をしようものなら、本気のネメシス姐さんのパワーハラスメントの恰好の餌食だ。妾達の唯一の価値観は、尽きせぬ強さへの上昇志向と渇望……それ以外は全て切り捨てて来た。
――キルロイでの決着は手出し無用でダーリンの命令が出ている。
妾達は気ままに遣ってるように見えて、作戦行動上は軍隊式の命令系統が絶対にして唯一……滅多なことは無い筈だが、些細な遺漏が望まぬ結果を齎さないとも限らない。忠実な下僕にして統率された最強の兵士……それが、妾達だ。
ダーリンに負けは無い、だが見ているだけなのは歯痒過ぎる。
「……ソランは気付いたようじゃが、本家シィエラザードが無理矢理に時間結界を抉じ開けるのに使った現実改変エネルギーがあまりにも膨大過ぎて、大宇宙の反対側に影響が出ておる」
「梃子の原理で支点と作用点の位置の問題じゃろうが、何千億光年と言う長さで次元の亀裂が出来て仕舞っておるようじゃ……あの女は正攻法を捨てて、捨て身の作戦に出た」
「破れかぶれってこと?」
「おそらく“フランキー”を奪われるぐらいなら、この創られた世界と一緒に心中する積もりじゃろう………」
同じものを見ていても、カミーラ姐の見ているものは一枚も二枚も上をいく。
流石に“ハーミットの水晶”の開発者だけはある。
「じゃが、それでもソランの手の平からは逃れられん……濃密な呪詛と瘴気を高周波に変換して投射しておる」
「大概の者はこの透過性の高い呪縛に気付けん」
「降下準備は万全か、ビヨンド?」
珍しく寡黙なネメシス姐さんが、雌ビッチビヨンドに首尾を問うた……皆、真剣そのもので油断なんか毛筋程も入り込む隙は無く、神経は研ぎ澄まされていつも以上に入れ込んでいる。
イマジナス・プジィ(プジィって言うのは妾達の世界のスラングで女性器のことだ)に改造した吸引機能付きの膣は千変万化……なんとか天井とか蚯蚓万匹とかなんでも御座れで、おまけに最近は手足の長さを活かしてのアクロバティックな体位の練習に余念がないし(関節をフリーにしての通常の人体では有り得ない格好は普通に不気味で、ソランにはドン引きされていた……股関節を自由に脱臼して鼠蹊部を伸ばしたり、色々する姿は、流石に妖怪染みてる)、いつでも何処でもお構い無しに発情するエッチ大好きビヨンドだが、ワンペナやレッドカード即退場どころか総スカンを喰らってもおかしくない癖に、ここぞと言う作戦時にはピカイチ、ダントツに有能で超優秀なのが少し悔しい。性格はアレだが、確実な仕事をこなすと言った点では最も信頼に値する。
因みに“神逝きマンチョ”の違法改造は今も続行されている。
……降下準備とは速攻の奇襲制圧を主戦法とする“ダンシング・マンタ”独特のフォーメーションで、詳しく説明するのは難しいが、簡単に言うと艦体自体が有機質細胞のように分裂して、一瞬にして目標を包み込み遮断して仕舞う攻撃方法にシフトすることを意味する。
これを空間轟天機能と、呼んでいる。
「……いつでも行けます」
見えてはいなかったが、ネメシス姐さんが知覚リンクのフルフェイス・ヘッドセットを外す気配があった。
視覚野モニターの別窓で知覚オペレーション・ルーム全体を俯瞰するカメラを開くと、並ぶ個人コンソールのメイン操作卓のグースネック・マイクをオンにするところだった……艦内放送用の奴だ。
「総員に告げる……吾等が主は介入無用を厳命されたが、バックアップ部隊の待機までは否定されなかった」
「知っての通り、吾等が主は在るが儘に無敵である……じゃが同時に、人一倍無謀でもある」
「状況判断は支援待機班である吾等に一任されておる、ここぞと思えば迷わず打って出る……覚悟を固めよ」
「しっかあ・あ・ぁし、死ぬことは許されぬっ! “生きて還る”は絶対だ!」
「名誉も完全勝利も正面突破も要らぬ、この“狂える邪神”、暗黒大魔導ネメシスの名に懸けて、例え一兵卒と言えど欠けることは許されぬ、召集に応えてくれた諸君等の健闘に期待する……主が本懐の最初の一歩が、この一戦にあると心得よ」
うん、流石に本妻の貫禄っていうか、伊達に外人部隊ならぬ愛人部隊、嫁軍団のトップは張ってない。
気合の入れ方も堂に入ったもんだ。
もし妾が自分の部下を指揮することがあったら、こんなに上手く出来るかな?
「シンディ、貴様があの域に達するにはどのぐらい掛かるかのお?」
カミーラ姐さん、人の考えてることピタリと言い当てるのやめようよ、すっごく恥ずかしいから。
分かってるって……何せ200万年の修羅を生きた荒ぶる邪神、“復讐の女神ネメシス”なんだから。取り憑かれて呪い殺された英雄や伝説級の覇王、闇落ちの魔人なんかが百や二百は居るって聞いた。
“魔神王の花嫁”は、夜の幄のように限りなく無慈悲でなくちゃならないらしい。無慈悲と無関心は全くの別物だとも、闇の女王カミーラは言う。
妾は、未だにその違いが分かる境地に到達していない。
それより蟣蝨ちゃんの帰還が遅いな……ネメシス姐さんが福利厚生で展開してるベンダー・コーナーにまた引っ掛かってなけりゃいいんだけど。
何十台と並んだベンダーは飲料が中心だが、種類が重ならないよう異世界の各国主要飲料メーカーのものから零細ボトリング業者まで隈なくセレクションして複製してるから、地方限定品とか、或いはまず見当たらないような超レア飲料が混ざってたりする。因みに妾はリターナブル瓶のコアップ・ガラナが好みだ。
過去の販売終了品もレトロ飲料として復刻してるからそれこそ星の数程あって、あっちこっちの艦船の自動配給機サービスに分散してる。
その中から自分のお気に入りを見つけるのが、今の蟣蝨ちゃんのマイ・ブームらしいんだよね。6000年も生きた割りに微笑ましいっつうか、世俗の垢に染まってないっつうか………
「益体も無いことを考えおる……此方等の“超越神”、ソランの覇道が今まさに始まらんとしておるのじゃぞ」
「宣言しよう、最強無敗の魔神王の神撃は此処から始まる」
だぁ、かあ、らあ、人の心を一々読むのやめようよ、カミーラ姐さんてばっ!
(……シャザルワーン峡谷手前の巡礼者達の街、ズール・ハリーファで一組の母子に会った……上澄み珈琲の店で一緒のテーブルになった)
物凄い思念の奔流だわ、受け止めるだけでギシギシと神経が軋む……唯、意思を伝達しているだけだと言うのに、これはおそらく既存の幻魔のどれもが、束になってさえ遠く及ばない!
或いはフランキーでさえっ!
(流行病で亭主を失ったと言っていたが、取り繕ってはいてもあの果敢無げな母親が嘘をついているのは直ぐに分かった)
(開放される前、元は女奴隷の身分だった母親は随分歳若い頃に部落の共有財産として伽の相手をさせられたからか、肉欲の悦びに溺れ易い質だった……7歳で割礼した陰核が成長期で肥大化する)
なんの話をしているのか意図が読めなかったが、過去投影をしたのだと油断ならない大いなる敵、命懸けで基底現実“アリラト”そのものを犠牲にしても勝てるかどうかも分からない……真っ黒な悍ましいオーラが、まるで瘴気まみれのように見える驚異の厄災……異世界からの来訪者、ソランは言った。
この異形の覇王の来し方を知るにつけ知った名前……それが個人の名称なのか、身分を現すのか、或いは組織の名称なのかはいざ知らず、不吉に響く。
漆黒の花園に咲く、大輪の“悪の華”……触れれば誰彼の区別無く斬り付け、灼き尽くそうとする恐ろしさがある。
防御系、探知系、言霊、因果律操作、高速機動、一体幾つの魔術を同時展開しているのだろう……凄過ぎる。
とても現実とは思えない強さは、底が見えない。
“初見破り”の異能を鍛えてきた身共ですら、48億年の間についぞ出遭ったことの無いタイプだ……間違い無く過去・現在・未来、最強だろう。異相と言ってもいい奇妙な顔貌は敵意の禍々しさで出来ている……けれど、その中に深い悲しみと絶望に抗い、前へ進もうとする確固たる意志が見て取れるのは何故だろう?
(まだ子供が小さい頃、母親は間違いを犯す……元々多情だったのか、奴隷だったときの体験がそうさせるのか、女盛りの身体を持て余した倦怠期の母親は亭主が留守がちなのを良いことに、日頃抱いている変態的な欲望にまみれた夫以外との背徳セックスに破滅的で刺激的な性愛を求めて、何処の誰とも知れぬ行き摺りの色男と幾たびかの狂ったアヴァンチュールを楽しんだ)
(前後不覚になるまで、それこそ砂漠の乾燥地帯では命の危険がある程に身体中の水分を搾り尽くすようにしてだ……)
(貞淑な筈の回々教徒の女が酒に酩酊して魔が差した、なんて話は在り得ねえ、最初からバレなければ摘み喰いもありの確信犯だったんだろう)
(中には居るのさ、家人を顧みず色欲に突き動かされる沙門しい女が)
(……呆れたことにまだ乳飲み子だった子供はその度に近所に預けられた)
(その場限りの積もりだったが、何度目かの相手の執拗な誘いに負けて同じ相手との逢瀬を繰り返すようになり、愚かにも幼子や亭主よりもその不倫相手の方に情が移って仕舞う……結果、家族を捨てる)
婚外性交は“ズィナーの罪”として厳しく戒められている回々教徒だが、中には居るのだ、己れの快楽の為に夫や子供を捨てられる女が。
だが、世界の命運を懸けて闘っている最中に敢えて話す程、その母子の話が重要だとは思えぬのだが?
(そしてダメ人間になった母親は、主婦売春から人攫い迄手広く商売する犯罪ギルド……憎からず思えたしつこい相手、一緒に逃げた若い燕を演じた垂らし役の間男が所属する“ハード・コア”とか言う性奴隷の売買組織の罠に堕ちる、不心得もんの尻の軽い人妻が陥る因果応報として、お定まりの末路を辿る)
(お約束の悲劇の顛末は全て自業自得、恨むなら自身の身持ちの悪さをこそ恨むべきで、大勢を相手にする肉売女として人知れず短い生涯を終える筈だった)
だがそこで番狂わせが起きる。
失跡から2年目にして、駄目女の亭主だった男が特殊性癖の変態用に肉奴隷達を仕込む調教の場所を突き止め、急襲する。
嘗ての妻は、そんな需要と供給に向けた商品にまで堕ちていた。
そんなビジョンがはっきりくっきりド鮮明に投影されている。
強力な精神感応魔術で、こちらが幾ら締め出そうとしてもお構い無しに見せ付けてくるそれは、どう見ても肉売女本人の朧げな記憶よりも現実感があった。
おそらくは母親だと言う女の記憶を掘り起こして、そこから過去透視で遡り、実際を写し撮ってきたのだろう。
驚くべき技量だ。
実は駄目女の亭主は、銀等級の墳墓荒らしとして家族を養うを活計としていた。
他大陸への遠征クエストを達成して長い出稼ぎから戻ってみれば、良妻賢母と思っていた我が妻の不貞と失踪を知る。
残された子供は近所に預けられていた。
未練タラタラではないが、裏切った恋女房と人の女に手を出した盗っ人野郎に制裁を与えなければ気が済まないと、身銭を切って捜索を依頼する。
ようやっと突き止めた居場所は、女専門の拐かし業者の手に落ちた足取りを辿ってのものだった。蛇の道は蛇、闇ギルドの下っ端を痛め付けて吐かせ、捜索開始から6週間で押っ取り刀で乗り込んでみれば、既に裏切った尻軽妻は媚毒と閨房用の散薬で薬漬けにされ、複数の男を相手にする調教の真っ最中だった。
現場に香が焚き込められていたのは、そうでもしなければ交尾臭が堪らなく噎せ返っていたからだ。
応援を頼んだ自分のパーティの仲間には手出し無用と断ってはいたが、どうしようもなく手遅れになった堕落妻の姿を目の前にすれば思いの外、動揺して仕舞う。
2年振りに見た見知った筈の伴侶が、複数の肉棒を秘所と言わず尻穴や口に咥えて、もっともっとと絶叫しながら狂人の目付きで激しくも淫らに腰を振り続けているのだ……もう、これは斬って捨てるしかないと覚悟するが、いざ刀身を振り上げた瞬間に、躊躇いが出た。
この見違えて仕舞った浅ましい恥知らずな姿とは似ても似付かない、初々しく、幸せだった時代の妻との思い出が脳裏を掠める。
奴隷身分だった妻の過去は知っている積もりだったが……
一瞬の油断に、アジトの半死半生だった見張り役が放ったフレイムランスに心臓を撃ち抜かれて仕舞う。即死だった。
家庭崩壊の危機と頼んだ急造の討伐隊は失われた大切な仲間の為に、せめてもの手向けとアジトを徹底的に蹂躙し、壊滅させた。
肝心な堕妻は自分の亭主が目の前で死んだにも拘らず本能のままの獣セックスに溺れ続け、唯々絶叫エクスタシーに夢中になっていた。
他の犠牲者達と一緒に救出された罰当たりな色狂い便器は、そんな女達が集められる更生病棟に収監される。媚薬中毒や性交依存症、性病の専門治療院だ。
患者の収容所や療養施設と言うよりは、監獄に近かった。
数ヶ月後、そんな色欲地獄に堕ちた女達を収容し保護する施設に預けられた堕落妻は目覚め、薬が抜けて奇跡的に正気を取り戻した。肉地獄から生還した緩股女房は自分が犯して仕舞った罪の顛末を知る……亭主の仲間だった墳墓荒らし達から侮蔑混じりに亭主の最期の模様を聴かされて、心の底から慟哭した。
夫は、見るに耐えない無様な色気狂いになって仕舞ったザーメンだらけの肉便器を見てショックを受けていたと言う。
そしてそれが元で憤死も同然に、命を落した……自分が裏切って仕舞った夫に、子まで為した仲だったのに、見られているのも分からず痴情に狂っていた自分、そして目の前で死んで仕舞ったのにお構い無しに、まるで獣のように吠えて狂宴の悦楽を貪り続けた自分……最低だった。
懺悔しながら死のうとしたが、二人の間の子供が居た。
一度は捨てた我が子に対面した途端、不仕鱈な自分の不貞の為に亡くなって仕舞った亭主の面影を見た。
この時になって初めて我が子に、本当の意味で向き合ったと言っても良い。
それはこの世に残されたたったひとつの、亭主が生きた証し……自分が腹を痛めて産んだ息子と言うよりは、罪深い自分なんかの為に可惜道半ばに命を落した亭主の忘れ形見と言う想いの方が勝った。
我が子にとってきっと自分は毒親も同然だった。初めて己が良い加減な生き方を悔いて、恥じて、遣り直したいと思った。
子供を育てようと思った。
立派な益荒男として息子が幸せになれるよう、生涯を尽くそうと心に決めた。
卑怯とは思ったが、己が淫らな過去は封印することにした。自分の母親がどうしようもない愚かな色情狂で、人の道を踏み外したクズだったと知れば、幸せになれるものも幸せになれない。
母親の役をまっとうしたら、独り静かに姿を消して、自分の罪と共に墓場まで持っていく覚悟を決めた。
裁きにより伴侶以外と通じた不貞の罪で死罪か終身刑になるところ犯罪組織壊滅に一役買った夫の功労での情状酌量で罪一等を減じられ、鞭打ち百回を必死に耐えて生き残る。そして不都合な罪人としての烙印を隠して生きる為、事情を知る全ての人達の前から息子と二人で立ち去った。
互助協会の積立金から遺族への充分な恩給があり、関係各庁から弔慰金も出て生活に困窮することは無さそうだった。
(有り触れた不幸なのかどうかは知らん)
(……文化が変われば物の価値も変わる、所変われば兎や角言うほど女の貞節なぞは目くじらを立てるなんて一大事じゃ無く、取るに足りないほんの些細な出来事なのかもしれん)
狂気の闇に包まれて、悪鬼羅刹も裸足で逃げ出そうと言う忿怒の面貌にほんの僅かだが、寂寥が滲んだように思えたのは見間違いだったかもしれない。
(ただ俺の母親と違って、あの女には我が子を慈しむ確かな母性があった)
(他から見れば度し難い噴飯物の茶番劇……歪んだ愛情だったかもしれんが、善き母親たらんと言う気持ちには一点の曇りも無く、真心からのものだった)
私の仕込んだストーリーではない。ランダムに発生する、人々の営みだ。
中にはそう言った悲劇もあるかも知れないが、私の与り知らぬ出来事だ。
しかし、この万能の悪神が如き脅威の厄災が、人並みに女の腹から産まれたとはどうしても思えぬのだが………
(確かに女の過ちは非道く醜い……が、母としての愛情が失われずにあった、それは俺が欲してもどうしても得られないものだから……)
(それだけに尊く思える)
そんな遣り取りの間にも間断なく繰り出される奇妙奇天烈な、想像を絶する攻撃を全て捌くのは到底不可能だった。用意した身代わりの憑代を次々に失っていく。
矢張り相手が構築した絶対不変の結界内では分が悪い。
分かってはいた、あれ程の上位存在を用意してまで築いた4つの関門を難無くほぼ同時に攻略して見せた。どうやったかはまるで分からないが、90光年先の“霊鳥スィームルグ座”の主星、サマンガンを動かして見せた。
しかも、この非常識魔神は指一本動かしていない……驚くべきことにここ迄は全て彼の眷属の為したる業と知れている。
(……あぁ、気付いてると思うが、保存されている分家の仲間は呼べねえぜ)
(事前に魂の待機空間をズタズタにフラグメント化してある、現実世界からの疎通は事実上不可能だ)
矢張り、そうか。
緊急事態の強制転生を試みたが、失敗したのは相手型の事前工作があると感じてはいた……それ以外に考えられない。
総力戦に肝心の駒を欠いた時点で、背水の陣と腹を括らざるを得なかった。
48億年の永きには想像を絶する強敵とも対したし、絶望と挫折の味も知っている。だが何も彼もを失う程の恐怖に出会ったのは、初めてだった。
機を窺って、出し惜しみをしている場合ではない。
(スキル万象、クリエイト・ワールド!)
蟣蝨は、移動前進基地“ダンシング・マンタ”のベンダー・コーナーにあるパンやスナック菓子、栄養補助食品、カップ麺のディスペンサーやフードベンダーが立ち並ぶ一角で立ち止まっていた。
“シャザルワーン巡礼回廊”最後の関門、エルシャダイ山の“預言者の神殿”を守った世紀末級呪物、“パズル”を葬った。
未だ解明されることのない未知の秘蹟……体内の特殊な亜空間シリンダーに秘蔵された根元符の力を借りれば、たとえその一部の威力だろうと瞬殺だった。
最終決戦のバックアップ待機班に合流すべく、帰艦したところだ。
事象改変の解析と評価は全て記録している……また後で感想戦だろうな。
泣き出したいくらい、魔法戦闘士、機動兵士としての基礎訓練は厳しくて(人体改造以前はお試し期間だったらしい)、この頃ようやっと余暇を持てる余裕が出てきたところなのだが……
はっきり言って諸先輩方は鬼である。叩いて捻って引き伸ばし、鍛え上げることにどうしてあれほど執念を燃やせるのか、さっぱり理解出来ない。
ようやっとトイレの便座の上に足で乗って蹲むのではなく、普通に腰掛けることが出来るようになってみれば排便も食事も必要の無い身体になった。
マクシミリアン教学が中心になってメシアーズとベナレスの技術に依り開発された特別仕様のサイバネティックス・ハイブリッドボディは、トワイライトゾーン・システムと命名された。“根元符”を内包する為の亜空間ポッドが組み込まれ、半有機質ナノマシーンで常に魔素を循環させているポッド殻を通じて、根元符と外界との遣り取りを可能にしている。
秘蹟の謎を解く為に多層構造を読み取るマルチOCRで読み取られた根元符は、通常の神字とは全く違う言葉で記述されていた……今現在も、研究開発筆頭マクシミリアン大人の手に依って解析中だ。
シンディ教官を初め睡眠や排泄が可能なメンバーは、普段は人としての生活サイクルを守った方が好いと言う派なので(その方が人としての成り立ちを忘れず、感性が磨耗しないと言う理由)、異世界の料理や食文化の虜になっていたから勿論一も二もなく肖った。
……思えば不思議な縁だったかも知れない。
符術式の仙術、神術が主体の世界でも自分は異質な存在だった。
6000年と少し前、九つの魂持てる九天玄女として偉大なる聖央精霊天帝たる至尊金女に仕えていた身でありながら、唯独り主人より密命を戴いた。
太陰星君“姮娥”と呼ばれる墉宮玉女第一位階の仙女だったが、龍山“雷沢”にある浮遊大陸の最初のひとつ、精霊天帝聖山経の太元聖母宮を出て地上に降臨し、受肉して生命体としての肉体を得た。
失われた“根元符”を探して方々を彷徨い、暗殺や汚れ仕事を生業にするまで堕ちて求め続けて、神命を忠実に履行した苦難の日々に一体なんの意味があったのか、今でも時偶思い出しては呻吟する。
有る筈はなかったのだ……造物の霊能を以って世界を創り替えた根元符は、代々の至尊金女に依り太元聖母宮から遠ざける為、それとは知らず腹心の部下の体内に封印されて地上に放たれるのが慣例になっていた。
勅命が全てまやかしの虚しいものだと知れて、至尊金女様をお恨み申し上げなかったと言えば嘘になるかもしれない。だが、この世界のバランスにはどうしても必要なことだったと真摯に謝罪されれば、反駁の言葉も飲み込まざるを得ない。
人身御供や人柱のようにして犠牲になった過去の犠牲者達の中には、お役目を終えた後に真実を知らされ、騙されていた猿芝居を口止めされた者も居たらしい。
その者等は、自分達への仕打ちに納得出来たのだろうか?
いずれにしても過去の無為の6000年は棒に振ったも同然と知れてみれば、この先どうやって生きていったものか目標を見失う。
それもこれも含めて、長い々々道程を流離い、市井の底を這いずり回った絶望の日々に涙した夜が幾晩あったのだろう。苦しみも、悲しみも、可惜殺さずに済んだ無垢な命を奪った時の詫びも何も彼も、鉄の意思で乗り越えてはきたが、正直自分の運命を呪わなかったとは言えない。
そんな自分を必要だと言って呉れる、出鱈目な世紀の無頼漢が居た。
暴虐の復讐鬼に出会った。
己れの我を通さんが為、世界中を相手に喧嘩を売り続けている狂った復讐馬鹿だと、勝つ為には平気でどんな汚い手でも使う卑劣漢大魔王だと、目的の為には手と言わず全身を無関係な者達の血で染めることも厭わないサイコ・キラーだと、その人は自分自身を嘲笑った。
多分盟主は、報われたいとか、或いは無知故に幸せだった昔に戻りたいとか、そんな在り来たりの郷愁を微塵も抱いてはいない。
自称、復讐に狂った元平々凡々なニコチン中毒の木樵……疲れを知らず、忌むことを知らず、唯々復讐に生きている。
そして誰よりも強い。開幕ブッパで大概の敵は消滅する。
手札も多い……精霊術、道術、法術、新旧符術も取り混ぜれば、攻撃魔術だけで五千通りあると聞く。未属性無系統魔術になれば最早、無限だ……新しい魔術の創造と改良は常に進められている。
付き従う驚異の嫁軍団……ハーレム内に不文律はあれど、序列は存在しない。
だが、ネメシス王母だけは別格だ。
ハーレムメンバーの紛れもない正妻パート、センターポジションと言うだけではなく、盟主を復讐に駆り立てる切っ掛けを作った張本人であり、意識を共有させ続けたが為、最後の最後には本当の自分を曝け出そうとしない盟主の分厚い心の壁の内側に唯一人踏み込んでいる。
気味悪い、気持ち悪い、或いは気持ち悪くないは彼女等の判断材料ではなく、行動原理でもない。在るのは唯、裏切る、裏切らないと言ったごく単純な答えだけである。そして永遠の忠誠を誓った彼女等に、離れると言う選択肢は天地神明金輪際有り得ない……なのに盟主はこの先別々の道を歩むことになろうとも、個々の意思を尊重する覚悟をしたと言う。分不相応な自分に彼女等が尽くして呉れたこと、彼女等が自分の私怨に過ぎぬ復讐行を支えて呉れたことに、例え袂を分かったとしても感謝と恩義を忘れることはないと。
受けた恩には報いる。遠く離れていても、助けが要るのなら地の果てまで全力で駆け付ける……そう盟主は断言するのだが、盟主、ソラン殿に依って生きる意味を見い出した彼女等は未来永劫、離れる、背く、況してや決別するなんて道は絶対に選ばない……絶対にだ。
望むのは運命共同体としての一蓮托生と言うよりも、寧ろ一心同体であらんとする強い願望さえ窺える。
ベリービッチなビヨンド婊子は少し違う。誓約系のスキルで態々盟主を裏切れないように自らを縛っている癖に、本気で“寝取られプレイ”をヤッてみたいと考えるどうしようもなくイカれた下僕だ。その心酔レベルは最早ビョーキと言える。
だけど、付き従う一途な姿は少し格好良い。
セキュリティ上、暗号化された転移や転送の発着エリアは艦載戦闘機やMEの格納庫のすぐ上層にあるが、このベンダー・コーナーが近くに設置されているのはきっと何かの罠に違いなかった。
“太陽のマテ茶”500mℓペットか、レモン、マンダリンオレンジ、グレープフルーツをブレンドした“オランジーナ”420mℓペットか散々迷った末に、結局飲み物は“杏仁露”340mℓ缶のアーモンドジュースにしたのだが、ふと通りかかったベンダーが凄く魅惑的なデニッシュのラインナップなので気に掛かった。
セントラル・キッチンのベーカリー部門が造り立てをそのまま、永久に鮮度を保つマナ素充填で封入して供給している。透明フィルムのシュリンクは、酸化に影響する波長の外側からの透過光を100パーセントカットする特殊四層構造のAIPP材を使用している。
“茸とアスパラ、塩漬けパンチェッタのクリスピーピザ”、“ハラペーニョ、オリーブピクルストッピングのモッツァレラチーズとポモドーロのパニーニ”、無花果とクラッシュナッツ、胡桃を練り込んだ天然酵母ライ麦田舎パンを使った“チリ風味ミートパテとパストラミ増し々々BLTサンドウィッチ”……色々とある。
あぁ、本当に色々とだ。
思わず引き込まれて虜になるラインナップだった。
一瞬の気も抜けないような最重要な作戦が進行中だと言うのに、それをすら惑わせるような、なんてグローリアス且つデリーイイィィッシャスな品揃えなんだ。
あぁ、これは是非とも味わわねばならない、是非ともだ。
しかし、どれもこれもと言う訳には行かぬだろう。
単独ミッションを果たしたとは言え、作戦は進行中だ。気を抜いてる場合ではないのは火を見るよりも明らか……寄り道などしてるのがバレたら、どんな懲罰が待っているか分からない。
味わいつつも、最速で飲んで咀嚼して痕跡を始末しなければならない。こんなこともあろうかとベンダー・コーナーの監視カメラのごく僅かな死角はこの間確認してある。消費魔力をナノレベルで抑え、身体加速と隠蔽スキルを加減して使えば上手く誤魔化せる筈だ。
こうした食の探究はこのところの自分の属性に成りつつあった。
満たされることを望んでいない訳ではないが、秘かに伝授されるカミーラ様の闇の禁忌閨房術は剰りにも真剣勝負過ぎる。
誰にも内緒と秘密裏に受けた相談は、相談などではなく有無をも言わせぬ猛特訓の開始だった訳だが、これがまた極悪非道な迄に淫靡なカリキュラムでとても他人様にお話し出来るような内容ではない。
元仙女とは言え自分とて未通女ではない、だが6000年の間に身体を重ねた男の数よりもたった一回の教練で受け入れた相手の方が上回ろうとは、推して知るべしの……(どこもかしこもザーメンだらけなので途中何度か洗浄しなければならなかった)そんな内容である。
神経を擦り減らすような求道的な修練は、為堕ちの振りなどしようものなら阿鼻叫喚の折檻コースだ。何しろ逝く時は本気の本気で逝かなければならない。
あれは本当にクタクタに気力を消耗する。
妖力暗黒面の閨房魔術は本来のボディの性能を超えて、ソフト面でもハード面でも非合法な改造を可能にした。態々男の射精感を覚え込ませる為に、阴茎を形成しての実技指導ではカミーラ様の肛门を犯すように課せられた。
逝っても逝っても搾り取られるザーメンは術式に依って理論上無尽蔵であるだけに、最早甘美な羽化登仙などではなく新兵を鍛える地獄の即席強化キャンプのようですらある……詰まり泣き言は許されない。
カミーラ様が望むチンポ奴隷の道は茨の道……行き過ぎた限界快楽は難行苦行に似て、もうミッションの一種だ。
頭が真っ白になる逸楽も、溺惑も、唯繰り返せばそれはもう苦痛と似てくる。
盟主の女になるなら必要と言われたが、この指南は私には荷が重い。
“堕ちるのではない、昇り詰めると言う感覚を大切にせよ”と導き手であるカミーラ大姐は言うが、今一分からない。
盟主はヤバい……知れば知る程、仮令寛いでおられようとも、御酒を召し上がっておられようと、無意識に漏れ出る鬼気が寒気がする程凄まじいと気付くようになる。こんな存在が人並みに女を愛でるなんて信じられないが、導師カミーラの教導は真剣そのもので怖いぐらいだ。
だからかな、自分はこうやって隠れてスナック菓子やジュースを摘み喰いをするぐらいの細やかな楽しみが性に合っている。
流石にこの厳戒非常時なれば、パーティ上級メンバーと言えど全てを見通す透徹眼やイービル・センスも本気上等全開で使ってはいない筈で、こちらの感知無効化技術も向上してると信じていた。
だが実際はしっかり見られていてお仕置きを受けることになるのだが、恐怖で顔が引き攣る程のお仕置き自体がずっと先になる大変な危機的状況……盟主の率いた戦力が散り々々バラバラに分断され、予期せぬ不可抗力の大災禍に見舞われることになろうとは、この時の私には知る由もなかった。
(成る程、高位次元の精神世界アーカイブに何百、何千億のストーリーのシュミレーションをシナリオとして担保している訳だ)
(“クリエイト・ワールド”、面白いな……)
こちらの絶対時間凍結結界に上描きするように、局地的ではあるが全く新しい世界を創り出して見せた。しかも純粋培養の聖霊素とやらを無限に吸収して狂化変身する、怪物級幻魔神を鼠算式に輩出する世界だ。
手前勝手に都合の好い世界……なんでも思い通りになる、本当にそんな荒唐無稽なことが可能なら、幾らでも無敵だろうな?
なら、こっちはその創造力を超えるだけだ。
異様な速度で出現するので、もう空間や磁場が狂って仕舞っている。
おそらく正真正銘、シィエラザードの最大戦力だろう。
まるで細胞分裂のように増殖する神レベルの怪物全てが語り部である彼女の思うがまま、操るがままだ。
だが、大切な信者共を巻き添えにしていく背水の陣……遂に、形振り構わず今ある命を見捨てる方法に打って出た。
出現の神威に当てられ、既に地上は死に絶えて酷い有り様だ。
策を弄して遠ざけた母子まで被害は及んでいないが、見渡す限り地表に生き残った者の気配は無い。
逆に、これで生き残れてたら奇跡だ。
(いいのか、適者生存の弱肉強食で明け暮れる戦乱の世界に嫌気が差して、人が人らしく生きれるようにと、“信仰”と言う方法を造り出した筈だろう?)
(今更、切り捨てるのか?)
反吐が出る程、歪んだ価値基準だ。
だが、嫌いじゃねえ。
(必要な犠牲に涙する苦渋の決断と葛藤を、血塗られた手を合わせて祈る懺悔を何度乗り越えてきたと思っているのですかっ!)
(これしきのことっ!)
あぁ、自分自身信じて疑わねえって訳ね……何処迄も救いようがねえな。
(俺の額に刻まれた蝿の紋様が分かるか? こいつは歌舞伎者の伊達って訳じゃねえ……俺の意思を乗っ取ろうとするベルゼブブ因子を抑え込んでいる護符のようなもんだが、最近”蝿のクソ悪魔”はベナレスの技術を取り込むことに目覚めた)
ベナレスとベルゼブブが何かってのは、圧縮された情報投射で植え付ける。
(結果、俺にはデーモン系のユニークスキルも幾つか出来た……暗黒魔導の神聖魔術って奴を、見てみたくはないか?)
(……“冥府の灼熱”)
一瞬にして出現する幾千万の凝縮されたミニチュア版の真っ黒い太陽が、シィエラザードの怪物級幻魔神達をその増殖速度を相殺する圧倒的な殲滅速度で呑み込んでいった。相乗効果で一帯は6000万度に熱せられ、ガチな時間停止結界の絶対効果を上回って地表は一瞬にして蒸発し、プラズマと化す。
神レベルの怪物とは言え、対象の異能を全て無効化する副次機能のある真っ黒い太陽に抗える個体は居ないようだ。
無意味と迄は言わねえが、俺の復讐の前では無力だ。
(殺して奪う、が俺達のセオリーだが、ささやかな人々の暮らしや笑顔の絶えない日常を不必要に奪いたいと思ってる訳じゃねえ……彼等には彼等の人生がある)
……心を入れ替えた母親と坊主は戦地から遠い場所に足止めした筈だが、世界には意味も無く奪われるべきではない、罪無き命は幾らもある。
(望まぬ祝福かも知れねえが、あの母子の将来を摘み取りたくはねえ)
(だが最後の最後には、俺は俺の都合を優先する……お前は俺に似ているな、シィエラザード)
(何某かの屈託があろうとも、何かを切り捨てるのに躊躇しない)
(目的の為には幾らでも無慈悲で冷徹になれる)
(貴方と一緒にしないで頂きたい、積み重ねた罪への涙、泣く泣く切り捨てざるを得なかった犠牲への哀悼と悔しさと後悔が、貴方に分かる筈がない……)
(分かる筈がないっ!)
理解は出来ないが、お前がしてきた事は総て調べ上げてあるぜ。
(じゃあ、この術式は相当堪えるかもな……“断罪の鎮魂歌”)
強力な精神攻撃魔術の系統で、過去の負い目にまみれた記憶を嫌って程穿り出して、百億倍に増幅して追体験させる。まぁ、大抵の奴は精神が崩壊する。
然しものシィエラザードも、ぴくりとも動けまい。
何十億回と反射を繰り返し、上限無く増幅していく鬱屈した黒い感覚が決してお前を離さないし、心そのものを握り潰す。
あまりの魂の激痛に、声を出すことも出来ないようだ。
俺は初めて、エンカウントしてから不動の位置取りをしていた座標からシィエラザードの傍らに転移した。
「……声が聞こえてるか?」
「普段あまり使わねえがインフォメーションってスキルだ……言葉ってのはすげえよな、心で思ってるのと裏腹に相手を誑かす」
「調べたぜ、お前の得意技だろう?」
当然、チェックメイトを掛ける準備はしてきている。
「闇の子宮世界に於ける48億年の間の夜と昼の鬼畜の所業の洗い浚い……」
「例え他に選択肢の無い窮地だったとしても、それはお前の明らかな失態、そしてそもそもが大幻魔を出現させる為に屍山血河を築いてきたこの世界の血塗られた争いの歴史と由来はお前が演出した……全ては究極の至宝、“フランキー”を生み出さんが為の、仮初の生贄に過ぎない」
シィエラザードは見事に術に嵌って、魂自体に齎される回避不能の苦痛に悶絶していた。カタストロフ級の激痛に、無様な断末魔の痙攣染みた震え方に固って、白目を剥いている……想像を絶する壮絶で衝撃的な負の幻惑が輾転ち回り身悶えすることさえ許さず、唯硬直して無防備さを晒す。脳が沸騰し、身体がバラバラになる幻視痛が絶え間なく襲っていると見える。
それだけ罪悪感のストレスは半端じゃない筈だ。
お前の中の懺悔の念が強ければ強い程、未だ嘗て経験したことの無い空前絶後にして克服不可能な痛みで“胸の内の良心”と言う人らしさを責め苛む。
罪が多ければ多い程、悔いていれば悔いる程、魂の苦痛は激甚になる。
絶望に苦心惨憺する余裕も無かろう。
お前が堕ちたのは間違いなく、阿鼻叫喚の無間地獄だろうからな。
「してみれば、後悔と懺悔は四六時中だった筈だ……それを凝縮してお前の頭の中にフラッシュバックさせている」
「流石に絶えられんだろう……てっ、聞こえてねえか?」
だがその苦しみはお前自身の原罪……自業自得ってもんだぜ。
さてと、この隙に“フランキー”を頂くとするか。
復讐まっしぐらの俺に、時を浪費してる暇も余裕もねえ。
おっと、3千億光年の次元の亀裂は修復を頼んでおかねえとな。
情け無用の俺様でも、連続するパラレル・ワールドを時空間ハザードでぐちゃぐちゃにした日にゃあ、ちっとは寝覚めが悪い……バックアップ班が居る新しい揚陸艦、“ダンシング・マンタ”の性能を試すには丁度いい機会かも知れねえ。
(来い、マルジャーナ……)
待機させている嘗ての廃姫マルジャーナ・インシュシナの復活体を、強制転移で引き寄せる。今回は死んでからあまり月日が経っていなかったのもラッキーだったが、薄く分散しつつある魂を降霊スキルに秀でたカミーラが掻き集めた。
火葬が禁じられている回々教徒だから、埋められていた亡骸から損傷の少ない体細胞とDNAを採取するのも容易かった。
ベナレスの超高性能な有機質再構成装置を以ってすれば生前の肉体の複製なぞは訳も無く、入れ物に魂を合成すれば“鍵”としてのマルジャーナの存在を楽々復元出来ている……筈だ。
少なくとも魔力インピーダンスなどの検査では動作確認済みだ。
(外宇宙の反対側、3千億光年に渡り並行次元間の壁に亀裂が出来ている)
(観測出来ているか?)
(無論じゃ……)
(修復を頼めるか?)
(造作もなきこと……そちらこそ、縮尻るでないぞ!)
(誰に言っている……既にマルジャーナと合流した)
(これからローバーのスキルで例のクラテール、ミスリル製の混酒器をアポーツするところだ、奪い、盗むのが“フランキー”の専売特許じゃねえってことをきっちり教えて遣らねえとな)
待った甲斐があって出番が回ってきたようじゃ……こうしてソランに頼られるのも、悪い気分ではないのお。
「聴こえたか、皆の者……これより本艦、“ダンシング・マンタ”は轟天モードにシフトする、総員、配置に付けっ!」
各部署を映しているモニターから静かな復唱が、一斉にリードバックする。
作戦総司令のメンバーは全員、上層の高度戦略指令本部ホールに多機能シートごと転移する。
「ビヨンド、作戦宙域への亜空間転移にどのぐらい掛かる!」
「既に船内は作戦下加速時間を使っている、船外時間に換算してこの星の引力圏脱出に3秒、到達座標軸の算出に10秒、亜空間航行自体に5秒で行ける、誤差があってもプラスマイナス1秒」
流石ベナレスの技術、速度は段違いに上がっておるようじゃの。
「よしっ、作戦宙域到達と同時に轟天モード三式、“分身”を発動する」
「各員、稼働準備っ!」
―――最速で大銀河の反対側に移動すると、並行次元間ジャンプ理論を逆算して開発した即効のシーミング・マシーンを励起する。
無人のガンナー機を散開してのステープラー工法で部分的に縫い止めても自動的に治癒していくであろうが、そんなものを待っていては3千億光年の修復には日が暮れる。ここは強制的に閉じさせて貰うしかない。
「ワープ空間に飛び込むタイミングで、ウォーミングアップを始める」
「轟天モード三式、“分身”起動!」
ベナレスの情報体解析技術は凡ゆるものを素粒子レベルでマテリアル言語に置き換える……即ち、物の本質を完璧にコピー出来ていれば魔素をモジュールにした模倣が可能になる。
そしてベナレスの魔素供給量は、無限の二乗はある。何故なら消費するその先から吸収していくからじゃ。マナ――所謂吾等が世界で言うところの魔素の吸収システムは、枯渇の進むベナレスの世界から潤沢な別世界に移って来て遠慮無く呑み込めるようになってみれば、順調に自動拡張が進んでおる。
そして“ダンシング・マンタ”には、ベナレス直結の亜空間チューブを介した大規模な魔素コンビナートと積層貯留槽が内蔵されている。
擬似並行次元を創り出し同時存在を可能にする空間轟天機能には、“一式”の他に無限に近い相似分身体を物理的に現出させる三式がある。
「降下稼働、スタート!」
シィエラザード達の銀河系と全く裏側の外宇宙座標に最短で移動して来た吾等達は、“分身”の造り出す数千億の模倣艦隻を一直線に従えて、次元の亀裂がある場所に取り付くと強制修復の作業を開始した。
「シーミング・ディバイス、フル稼働! エネルギーの供給を絶やすなっ!」
「効果が確認出来次第、100倍光速から1000万倍光速に一気に速度を上げる……観測班は全員集中! 針が落ちる程の異常も見逃すなっ!」
撃ち合いや混戦でもないが、初めての試みなのは間違いない。
じゃが、失敗も遅滞も許されない。
(生体反応観測班Gチームより報告……進行方向およそ7000万光年先に文化度レベル73の文明圏が存在します、次元間の亀裂の影響を受けて崩壊の危機に瀕しているようです)
(生活圏は母星を中心に、メターナルフォーミングされた植民惑星など半径90光年程かと……ただし、生命体の中心は珪素系生物から進化しているようです)
どうやら恐れていたジョーカーを引き当てたようじゃ。
おそらくこれを見捨てても、亀裂自体の修復を依頼したソランのオーダーには違背しまい。じゃが、滅ぼすと決めたものだけを滅ぼす吾等がポリシーに反する……出来ぬことよ。
「コントロール班、“分身”4番から4500番艦までを先行させよ、時間を遡っての情報収集……復元の為のマテリアル言語化を蓄積するよう指示を出せ!」
「スピードを上げるぞっ、もたもたしておっては日が暮れる……三式“分身”フル展開、9000億隻まで伸長せよっ! 1000万倍光速が安定したら、残存型のシーミング・ディバイスを射出展開しつつ、500億倍光速に加速!」
何せ、3千億光年に渡る綻びじゃ、一朝一夕には済むまいが大言壮語した手前、遣り遂げてみせねばソランにドヤ顔も出来ぬわ。
奴の視聴覚と同期してるとは言え、出来れば本家シィエラザードとの直接の決着の場に間に合わせる為、時間遡行してでも戻って来たいしの。
こうして、鉤裂きのように破れて仕舞ったパラレル・ワールド間の次元の裂け目をチクチク、チクチク地道に縫い合わせる作業に、仕舞いには“三式”を無限伸展させて最短で確実に仕上げる方法で没頭していった。
吾等が“ダンシング・マンタ”の轟天機能なれば、それもまた可能。
新しく開発された魔素増幅機能付き魔力回路を組み込んだシーミング・ディバイスは役目を終えたら自動で帰庫するシステムだが、それが十年後になるのか百年後になるのかは初めての試みなのでまだ分からない。
何せ、一度出来た綻びは破れ易くなるので確実に全癒するまで抜糸は出来ないからじゃ……メルトオーバーラップと呼ばれる現象なぞ起こした日には、どれほどの世界に被害を及ぼすか知れたものではない。
次元シーミング・ディバイスは、パラレル・ワールドを渡っていくに当たって強力な空間修復機能など幾つかの補修手段が必要だろうと、カミーラの元筆頭開発だったマクシミリアンが提唱したプロジェクトが生み出したひとつだ。
蜥蜴面の癖に優秀な奴じゃ。
その他の新規開発案件と同様、ミニチュア版のプロトタイプでの模擬実験には立ち会っている。検証した理論データでは実戦投入にも十二分に有効だと、メシアーズの中に溶けてひそむエルピスが太鼓判を押したそうじゃ。
罪深く浅慮であった恥ずべき己が人生に終止符を打った筈でした。
亡国イェニチェリの公爵格であった筆頭宰相の父は戦争の責任を取って死罪になり、母と弟は流刑になった。
義理の第二夫人とその家族は鼻削ぎの上、砂漠に放逐された。
例え身分は奴隷に墜ちたとしても、わたくしだけが女の園に咲くのを条件に驕奢な生活を許された。
……過去のあやまちの何も彼も、そして真実を知った今と言う恥辱にまみれた境遇には、これ以上耐え難かった……逃げ出したかった。
流されて……敗戦国の王族に連なるものとして、勝者のハーレムに召し上げられるのもまた、戦の世の女の倣いと従ったのがそもそもの誤りでした。技芸、音曲に秀でて女の嗜みを能くするも、弱い立場なれば翻弄されるもまた仕方無しと思ったのが間違いでした。
汚れる前に、わたくしは自害すべきだった。
悦楽よりも愛の方が好いと言えたら良かった、言うべきだった。
豊穣の大地故の富国の公女として生を受けた自分の恵まれた環境に気付けぬまま……私は腑抜けたまま、学ぶべきを学ばずに幼い心のまま長じて仕舞った。
託された“蒼いジャンビーヤ”のこともすっかり忘れ、仇である敵国のハーレムで日々の情交に溺れていったのも、生き残れと言って呉れたヴァルディア王子を刑死に架けたのがロスタムのサルタン、ハーレムの主だと知ろうともせずに抱かれ続けて見苦しい絶頂を繰り返したのも、全て私の無知蒙昧の所為。
今となっては、貪欲な獣染みた快楽に嵌った日々は、唯々王子以外との肉欲セックスでも気持ち良くなれると知って、愛を忘れた結果だった。
清らかさなど欠片も無い下品な雌豚女の性交……女だらけの園では小間使い達との同性乱交さえ受入れて過ごした。そして例外無く白痴のような淫語と汚らしいヨガリ声に長く々々悶え続けた。
考えることも、理解しようと努めることも、人間として取り返しがつかない程に足りていなかった。
裏切るべきではなかった婚約者を裏切って色欲に染まった……どうしようもなく薄っぺらで、中身の無い、自分で自分の生き方を決めることなど考えもしなかった馬鹿な女に生き続ける資格は無かった。
王子はきっと、わたくしが生き続ける為には想い人に貞節を誓いなどしない変節漢だと知っていたのだと思います。娼婦のように浅ましい痴悦人形に堕ちるのが分かっていて、それでも尚生き残るように仕向けた。
愛し合った思い出も、紡がれた逢瀬も、終生離れ難いと思った気持ちも全てが擦り切れていくと知っていてわたくしを突き放した。いつしか濡れそぼり滴り落ちるように開発されて仕舞った股間に、朝昼晩と四六時中発情している雌猫として身体の芯から悦びを覚えるようになった。
名取を許されたイェニチェリ王家伝来の舞踏の技はいつしかハーレムの女達との裸踊りに変わり、滅茶苦茶に犯される交尾を望んでもっと奥まで突っ込んでと懇願する変態になって生きようとした。
酷う御座います、ヴァルディア様………
“鍵の存在を知らぬとは言え、真実をひとつ見落としたは俺の不明”、と謝罪する悪魔のように不気味な魔王は、見誤る筈も無きロスタムのハーレムを蹂躙し、サルタンを見るも無残に殺してのけた……そしてわたくしが肉欲に狂い喃々と罪深く生きることを許さなかった存在。
だが“蒼いジャンビーヤ”を奪っていくこと以外は、ただの気まぐれに過ぎなかったとも断言しておりました。
目覚めれば見たこともない不思議な場所で、塵ひとつ無い清潔さに驚いたものですが、そこは“せいめいいじぷらんと”と呼ばれていました。
蘇ったばかりのわたくしには、錯乱しないように幾重にも鎮静の術が掛けられていました……然もなければ、怖気を憶えるほどに美しい複数の邪神や、滅びの退魔神、不死の“神殺しの災厄”と言った面々を従えたこの凶相の魔王に震え上がって、絶叫と共に再び果敢無くなっていたかもしれません。
見落としていた真実とは、5000年の永きに渡り輪廻転生を繰り返す鍵としての系譜にわたくしが連なっていること、わたくしの前の世代、前の前の世代、そしてその前の世代と延々と生まれ変わりを繰り返して来たマルジャーナ、もしくはモルジアナと名乗る特別な魂だと言うこと。
何故選ばれたのかは分からなかったが、遥かな昔の盟約によりフランキーを封じ込めた聖杯の鍵の役目を代々引き継いでいること。
しかしながらそれ以外は何も特別な能力は無く、生まれ変わる度に過去の人生の記憶は引き継がれず、従って何度生まれ変わっても賢くはならず、それが故過去の人生の多くは愚かしい運命を辿ったらしかった……偶々波風無く、清く正しく過ごせた生涯は少なかったらしい。
「お前の残念な系譜が心より身体の方を選ぶ類いの魂だったとしても、幸運を運ぶとか言う四つ葉のクローバーだか五つ葉のクローバーだか、それとも夢見る乙女とは程遠い、聖女は一生セックスをしないとか言った碌でもねえ他の似たような良い加減な与太話と同じくらい激しくどうでも良い」
世紀末の魔王はわたくしが傷付く、傷付かないに興味は無く、必要だったから生き返らせた……そう語る割には、執拗にわたくしを侮蔑する意思を感じるのは気の所為でしょうか?
「いいんじゃねえか……心で結ばれていれば、肉体で誰と契ろうと問題無いし、裏切ってないって言い張る考え方に、別に反対はしねえぜ」
「だがな、お前は王子の寵愛をすっかり忘れて、理性やら貞操よりも肉欲と変態快楽を選んで股を開き捲った……だらしなくあちこちから涎を垂らして、もっとして呉れとせがんだのを、生き残る為には仕方なかったで済ませるには忸怩たるもんがあるんじゃねえのか?」
「白眼まで剥いて、オランウータン……まるで大猿みてえだったぜ、ウホッとかオホッとかよ」
武者振り付く豚のように下品で官能的なのが一方的に忌み嫌われる謂れはない、だが時と場所は選べと、錬金調合の香油媚薬を使ったあのハーレムは下種に過ぎたと、魔王が無慈悲な追い討ちを掛けるのに一頻り苦悶の涙を流しました。
原初から淘汰され続け選りすぐられた9999の最高位妖魔神が宿る至高のビスミラ、唯一無二の特級聖呪物、“フランキー”が閉じ籠っているミスリル製クラテールを開放する鍵の役割がわたくしだと言う。
そしておそらくは、開放した後に鍵の役目は終わる……自覚も無いままに5000年に渡り連綿と続いて来た呪いのような契約が消えて無くなる。
つまり、恥多き輪廻転生から解き放たれる……それが本当なら、今のわたくしには願ってもなきことに思われました。もう二度と間違いだらけの人生を生きなくて済む……これを最後に後悔ばかりの生涯を繰り返さなくても済むのなら、今のわたくしに取ってはたったひとつの願いに思われました。
「願いがある……嘆いていても何も得られないなら、叶える為には前に進むしかねえんだ、例えワールド・クリエイターの胆力が如何程のものであろうともな」
気が付けば、暴虐の主は絡め取ったシィエラザードに何か話し掛けていました。
良く見れば小刻みに震えるその女は、酷く醜く硬直して目の玉はひっくり返り、口からは泡を吹いて、表情は飯櫃に歪んでいるのに猶美しかった。
ヴァルディア王子の許で女官をしていたシィエラザードに初めて会った時、なんて綺麗な人なんだろうって衝撃を受けたのを覚えています。
でもその後、王子のお側に仕えている方なのに女の敵愾心を抱かなかったのは意識誘導が掛かったのだろうと、魔王に教えられました。
一瞬にして呼び寄せられた超常現象も斯くやと言う凄惨な闘いの場に、わたくしは魔王の庇護下にありました。今は漆黒の不思議な鎧に背負われて、フワフワと宙に浮いていました。まるで体重が無くなったかのように浮き上がるので、魔王に言われたように魔王の首に腕を回し、しっかりと獅噛ついています。
こうしていれば、魔王の見ているものがわたくしにも見えるそうです。
通常であれば一瞬で絶命する程の、邪王覇気とも言うべき不気味なオーラも、庇護下にある所為か今は気になりません。
およそ人らしい暖かさとは無縁な恐ろしい筈の横顔に頬を寄せていると、金属が焼けるような鼻を突くツーンっとする匂いがしたような気がしましたが、この人は魔王……匂いなどする筈がありません。
絶対不敗の魔王です。
魔王の手には、いつしか既に大きなミスリルの甕が握られていました……訊かなくても分かりました、両に握り手のあるクラテール、これこそが“フランキー”が封じられている聖器物。
全く関係の無い方向から、突如紫色、いえ紅色の稲光が弾けて、雷鳴が鳴り響きます。何かと思えば、稲光に包まれた何かが人の形に為りました。
「ヤオクと言ったか……秀でた一芸を密かに磨き続け研鑽するのは、辛く苦しかろうな、だがその程度の隠蔽と認識阻害の透明化ではまだ届かない、俺には」
良くは分かりませんが、どうやら隠れていた誰かを炙り出したのでしょうか?
何かに纏わり付いた燃える蛇のように鋭く畝る雷光は、徐々に綺麗なオレンジ色に変化していきました。
「確かに不死身のギガントマキアとやらの自己治癒細胞再生能力は、驚異的かもしれねえ……だが魂ごと滅却しちまえば復活は叶わない」
「輪廻転生を阻止する方法も、魂を霊的に消滅させる方法も、幾つかはある」
「常闇の焼夷炎」
途端、オレンジ色に輝いていたものは真っ黒い闇の炎?
……そうとしか言えない何かに押し流されるように、声無き断末魔の叫びと共に、悲しいぐらいにあっさりと消えていきました。
何かが死ぬ気配が、わたくしにも分かりました。
引き摺った無念……可笑しな比喩かもしれませんが、それはまるで許されない不倫同士の真昼の逢引きのように倦んざりする程悲しい哀惜と絶望に包まれてはいましたが、わたくしには響きません。
しかし魔王はもうそちらを見ていません。
凶相の魔王が見ているのは、身動き出来ない迄に雁字搦めにされている筈の本家シィエラザードでした。
動けない筈の彼女の手に、それはそれは見事な一本の魔法の杖が握られているのに気が付きました……きっと魔法先進国の一流宮廷魔導士でさえ、このように並外れた逸品を持ち合わせてはいないでしょう。
「忠義の腹心を陽動に反撃の隙を作ろうとしたは見上げた気概……と言うか、ちょっとした生命の神秘だな、どんな苦痛であろうと耐性を得られるのか?」
「魔法使いが魔杖を使うのはどうやら殆どの世界で万国共通らしい……これも調べさせて貰ったよ、回々教の聖典に出てくる楽園の聖木スィドラと火獄ジャハンナムに生息する樹木、ザックームを連理のように絡ませて創った一振り」
言われれば、二種類の木の枝が捩くれて絡まったように見えます。
「そいつを出される前に屈服させた積もりだったが……お前の杖、“唯一原理”には肝心の魔核になる魔水晶が無い」
成る程、驚きましたがその杖には見事な意匠の台座と石を押さえるベゼルは有っても、魔水晶が在るべき部分はポッカリ隙間になっています!
「何処にあるかと言うと………」
言葉の途中で魔王様は、首に獅噛つくわたくしの腕を押おさえになると瞬時にシィエラザード様の間近まで移動していました。
目に入ったのは、彼女の胸に深く突き込まれた魔王様の右手です。
たった今、わたくしの腕を上から押さえていた右手です。
「治癒魔術の応用で心霊手術並みに有機質体を切らずに臓器を取り出す方法だ、杖の魔水晶はお前の心臓と共にある」
引き抜かれた右手には、生々しく脈動する心の臓がありました。
あぁ、わたくしもこのように死ねたらどんなにか好いでしょう………
「死にたがりかよ、まっ、止めやしねえがよ」
「ただしその前に、俺の役に立ちやがれ」
憐憫の欠片も無い魔王の言葉が、わたくしの魂を抉ります。
魔王に取ってはわたくしの生き死になどに興味は無く、鍵の役目を終えたわたくしが己が汚辱と共に消えてなくなろうと露聊かも動じず、眉のひとつも動かさないでしょう。この人がわたくしに望むのは唯ひとつ………
「唱えろ、マルジャーナ!」
「お前の遺伝子に刻まれた“フランキー”を解放する呪文だ……それはお前の声でのみ効力を発現するっ!」
言われる迄もなく、“聖杯”を見たその瞬間からわたくしの魂に引き継がれた呪句が、忽然と頭に浮かんで消えません。
鍵の契約をした最初のマルジャーナの記憶でしょうか、矮人で蛙のような顔をした黒い皮膚の醜い魔物が、何か必死に喋っている場面を垣間見ました。
「イフタフ・ヤーッ・シムシム(胡麻よ、爾を開け)!」
声を限りに叫んでいました。
魔王の掴んだミスリルの聖杯がグニャリと歪みます。
そして、わたくしの唱えた鍵の合言葉で世界は変わって仕舞いました。
溢れかえる光の中に、光の巨神が膨れ上がるのが見えました。
しかし、剰りにも眩し過ぎて顔が……目鼻があるのかさえ良く見えません。
呪文と共に漏れ出した神威の光に、ミスリル製だと言う聖杯は一瞬で崩れるように溶けて消えました。
(5000年振りだな、いや、あの頃の記憶は最早無いのだったな……愚禿こそが、根元の叡智と真理をも掠め取る9999の盗賊神を統合する代理人格、)
(……“泣き虫シムシム”の真の姿だ)
魂に直接話し掛けられた内容に反して、“鍵の契約”を思い出して仕舞ったわたくしには“泣き虫シムシム”と名乗ったあの時の……最初のマルジャーナを捕らえた気持ち悪い顔の、少年の姿を思い浮かべることが出来ました。
とても同じ存在とは思えません。
世界を呑み込んで仕舞う勢いの大いなるフランキーの一端は光の塊になって、今尚膨らみ続けて魔王様が展開していた……どうせ理解出来ないだろうと雑な説明をされただけでしたが、絶対不可侵にして何物も破れない筈の隔絶結界を侵蝕するように凌駕しようとしていました。
「これこそが秘かにフランキーと呼ばれ続けた、9999の強奪幻魔神達の意思を統合する代理人格、幻魔神が王にして最強の一柱たる“泣き虫シムシム”の真の正体だと言う訳だ」
「それが単純な万能魔法兵器である訳がねえ……また、あって貰っては困る」
対する大魔王……魔神の王たる王ながら、垣間見せる人間臭きが故に氷結地獄のような冷たさの中に何処か温もりを感じさせるソラン様は、狂人の笑みを浮かべてそう呟かれました。
(永きに渡る“鍵の役目”、大儀であった)
(もしマルジャーナが望むなら、愚禿が所持する宝冠が聖魔石に主の魂を迎え入れても良い……永遠に愚禿と共に存在し続けることが可能)
(如何する……?)
“泣き虫シムシム”と名乗る光の巨魔は、どうやらわたくしに憐憫を感じているのでしょうか?
放っておいて欲しい……が正直な気持ちです。
こんな押し潰されるような存在と一緒に居るなんて、真っ平御免です。
フランキーと共に存在することになんの興味も持てません。
自らの宿命に打ちのめされた今のわたくしに取って、その提案は祝福でもなんでもなく、唯の呪いに思えました。
急なお申し出に動顛するも、わたくしの望みはただひとつ……無駄で無意味な輪廻を終わらせたい。唯それだけです。
「……本当に死にたがりだな、お前」
「生きて苦しむのも、そんなに居心地の悪いもんじゃないぜ?」
「苦しむだけの生き方に、何か意味があるのでしょうか?」
このように切羽詰まった佳境だと言うのに、わたくしは尋ねなければならない衝動に駆られて魔王様に問うていました。
「そりゃあ、お前、世の中の無慚な現実を噛み締めるとか、無垢でピュアなものを売り渡しちまった後にポッカリ開く喪失感の穴を埋める為にせっせと代償行為に励むとか、薄汚い快楽を貪る自己嫌悪で鬱病を患うとか……」
「或いは、それ迄どんなに聡明な良妻賢母だったとしても、一度姦通の間違いを犯せば、チャラチャラした金目の宝石や金銀財宝で頬を叩かれれば靡いてホイホイ股を開いちまう類いの浅ましい尻軽女達と一緒なんだなって、身体の疼きと共に自分自身妙に納得しちまう、とか……」
「まっ、色々あんだろ?」
それの何処に生きる意味があると言うのでしょうか?
「感情も感覚もぶっ壊れちまってる俺が、真面な説教なんかする筈ねえだろ」
「……長く復讐に生きてるとな、世の中には不幸じゃねえ人間の方が少ねえって分かってくる、それでもな、己れの身の丈に合った不幸が長年の相棒みたいに馴染んでる奴は一種、哲学者の如く達観して見えることがある」
「貴方もですか?」
「あぁ?」
「貴方もご自分だけの不幸と共にあると?」
「バカ言ってんじゃねえ、この俺様が卑怯上等の復讐に狂った狂人以外のなんに見えるって言うんだ」
「いいから、“泣き虫シムシム”の情婦でもなんでも為っちまえよ」
そうでしたね。
わたくしと言う存在の宿命を聞かされる問わず語りに、世紀末魔王の成り立ちを知りました。“復讐の魔王”を“復讐の魔王”たらしめている原点のお話です。
ハーレムを築き、全ての女に不幸を齎すのが目的だった壊れた精神障害勇者……その“魅了・催淫”の魔眼に将来を誓った許嫁、実の姉、幼馴染みのエルフを奪われたばかりか、裏切って洗脳された3人の女達が挙って勇者との行為を見せつけ、あまつさえ縛り上げられ、性的なくだらない嗜虐の興奮の為に仲の好かった筈の女達に殴る蹴るの容赦無い暴行を受けた、と言う悲惨な物語です。
女達の嘲笑う顔が忘れられないと魔王様は言いました。
実際、生身ながら魔王様が生まれつき頑健な肉体でなかったら、死んでいてもおかしくない程の虐待だったそうです。
甚くプライドを傷付けられた覚醒前の魔王は、3人の女と鬼畜勇者に生涯を懸けた復讐を誓います。強くならねばならなかった魔王の卵は、優しさを捨て、異能を手に入れる為に人らしい営みを対価に売り渡し、殺して奪う、奪って殺すを繰り返し、幾多のスキルと引き換えに次第にその手を血に染めていきます。
並外れた強大な加護に守られたクズ勇者に、漸く相見える力を手に入れたと思った矢先、肝心の勇者が他の者の手に依って討ち取られます。
一方、あろうことか従者の加護を失った裏切り者3人は、粛清を免れながらも勇者パーティの放蕩三昧の責任を取らされて王宮から放逐……衰弱しながらも細々と生き長らえて王国の辺境を彷徨ったらしいのです。
「目撃情報や噂を追って血眼になって探したが見つからねえ……」
「悔しいが、その頃の俺達には弱り切ったカスを探知出来る高性能なスペックが無くてな、他力本願に藁に縋ったのにバチが当たったのか、並行異次元に飛ばされた俺達は未だに異世界を漂流してるって訳だ」
だからこそ“フランキー”が要るのだと、その時に魔王様は明かされました。
――――「フランキーは渡さないっ!」
シィエラザードの断末魔の叫びにも似た足掻きに回想から引き戻されてみれば、喰い縛る口許から吐瀉する血反吐と蒼白となった彼女の面貌には最早、修羅か夜叉の如き鬼気迫るものが有りました。
ドクンッ!
神と悪魔が鬩ぎ合う領域の中で、魔王様が握ったシィエラザードの心臓が特別な鼓動を打つのがわたくしにも分かりました。
「絶火断裂降臨!」
(待て、シィエラザードッ、マルジャーナの魂を受け入れる準備中にその術式は耐えられん……今は駄目だ!)
(漆黒の黄泉反宇宙を呼び寄せて仕舞う……並行次元を貫く程の干渉連鎖が起ころう、自爆する気かっ!)
光の巨神に動揺が走りました。
「チッ、しくったか、こいつは拙いな……緊急防衛ギア、展開!」
魔王様を中心に凄い速さで回転する大きな何かが数十、数百、いえ、数え切れない数で次から次へと四方に散って消えて行きました。
しかし魔王様の一言で、どうやら回避出来ない予測不能の非常事態が起きているように思えました。分かります、一時的とは言え精神共有をしたからでしょう……この人は決して弱音を吐かない。その圧倒的な力を以って何も彼もを自在に操り、用意周到に完璧な計画をする、“蹂躙の魔王”様が揺れています。
「フ、フランキーは暴走する、もう誰にも止められんっ」
息も絶え々々のシィエラザードの呟きを魔王様の意識が捉えます。
フランキーの代理人格を自称する大いなる存在の世界を覆い尽くそうとする脅威が理解不可能な事象だとしたら、それを上書きするように今起こっている厄災は全く異質な別次元の滅びでした。
世界の落日、滅亡、消失、いえ、そんな生易しいものではなさそうです。
視界を得る為に部分的に魔王様が知覚共有を許されている所為でしょう、様々な情報が異国の文字や魔法陣のような図形となって次々と流れていきます……意味は分かりませんが、とても不吉なことが起きる前兆のようです。
感覚の共有の為でしょう、世界が罅割れて行くのが分かりました。
世界の綻びは更にズタズタに引き裂かれ、暗黒と混沌が弛緩と凝縮を繰り返し、芥子粒ほどの細切れとなって端から崩れ去り、溶けて、融合して、狂っていきました。終末神の災厄……次元溶融合が起ころうとしていました。
同時に魔王様の心が流れ込んできました。
(シット――奴畜生がっ、またもや俺には挫折を知り、敗北を知るターンが回ってくるのか……もしかして運命を司る尻穴糞野郎が何処かに居るのなら、まずはそいつから殺らなきゃならねえかもしれねえな)
(負の反魂宇宙の侵蝕……こいつの前には光速思考も時間停止遡行もまるで意味を成さない、つまり対向解析に圧倒的に時間が足りねえ)
(……いずれにしても単に俺達の運が心底悪いのか、それとも俺は信じちゃいねえが、“並行次元世界の調和”を司る何かが邪魔をするのか、どっちにしろ俺達はまたババを引いちまったって訳だ)
全てが押し流され、引き千切られ、爆発する光と闇と混沌の奔流の中に薄れゆく意識に、何故かそこだけハッキリと幻聴? 幻視が見聞き出来ました。
随分後になって知りましたが、時空間の歪みとやらで違う場所、違う時間に偶然繋がったらしいのです……いえ、それはわたくしを生かそうとする魔王様の温情だったのかもしれません。
そんな筈はないのに、あの冷たい眼をした凶相の魔王に人並みな情けなど毛程もある筈はないのに……何故かわたくしにはそう思えました。
……理解出来ない部分が多くとも、聞くべきではないことを聞いている自覚はありましたが、わたくし自身にはどうしようもありませんでした。
それは魔王様が率いる鬼神、誠に力ある聖霊神の如き戦女神様達の遣り取りのようでした。別に秘密ではないようでしたが正可の神様にプライベートな性生活があると知ったら、それはそれで少し罪悪感が湧きました。
「蟣蝨の仕込みは此方が済ませた、“限界突破エクスタシー”に耐え得ると太鼓判を押そう……凡そ、此方の調教の現実と夢幻の端境にあるような興奮と快楽に依る混濁の洗礼を受けておる、コンバット・ブローブンを保証する」
「時間さえ許せば永遠に連続逝き出来る性能に仕上げた、何処迄もエンドレスなマルチ下種セックスを堪能出来るし、させられる」
「ねっ、寝耳に熱湯なんですけど! いっ、いつの間に!」
「シンディには内緒で進めねば、邪魔するであろうが?」
「ハード・アナル、スカトロ、生きた蠱惑蟲が限り無く締め上げる撚動霊糸縄での緊縛SM、重力伝導クランプ式鼻フックを着けての無限膨張巨根3穴責め、衆人視姦のトランス羞恥プレイ、此方眷属の獣魔共とのオスメス複数輪姦、超電磁振動バイブレーション効果付きの(こいつは自分自身でも気持ち好くなれるぞ)感覚リンク式超弩級擬似生ペニスを生やしての此方への攻め、拡張性器と肛門への怒張複数同時挿入など一通りの変態行為と下品な快楽を絞り出す術は、此方が身を以って教え込んだ」
「……詰まらん追加オプション機能だが、肛口内の潤滑剤は性感ねっとりゼリーからさらさらオイル、大小様々なスクラブ・ビーズ入りのクリームまで好きなものを任意に自動充填したりもする」
「いや、あんたそれ、マルジャーナのことをビッチとか蔑めるレベルの話じゃねえから! なんてことして呉れてんの、カミーラ姐さん!」
「6000年を生きたとは言え、田舎育ちの純朴娘同然の蟣蝨ちゃんには妾がじっくり時間を掛けて子宮逝きの洗礼とか、アブノーマルなスケベの手解きとか、男を興奮させ翻弄する淫乱性技の数々、犯される醍醐味や腹黒い手練手管のひとつやふたつ、手取り足取り色々教えていこうって思ってたのおっ!」
喰って掛かるのは“灼熱の殲滅戦闘神”、シンディ様のようです。
わたくしの名前が出ていたように思うのですが………
「別に、此方はあの哀れな娘を責めてはおらんぞ……確かに裏切りは問題外じゃろう、ソランの琴線に触れるしの」
「じゃが貞淑第一のマジメ君や修道請願に生涯禁欲生活を捧げるような連中は掃いて捨てるほど踏み潰してきたし、見せしめ半分に躁宴や黒弥撒で幻覚剤を使った薬キメ乱交に興じるまで堕落させた敬虔な修道士や修道女の共同体も腐る程ある、そんな此方にあの娘を諫める資格なぞ爪の先程も有ろう筈はない」
擁護して頂いてるのではないと分かっていてさえ、薄れゆく意識の中ですが胸が締め付けられました。
「……夜のテクニックに於いて、こと調教済み蟣蝨は此方に肩を並べたとだけは伝えておこう、最早甲乙付け難い」
「切ない程に精液狂いの肉奴隷の浅ましさを曝け出すのに長けておるし、心の底から喜んでハメ狂いのゲス女の顔を剥き出しにしよる……」
「此方の常軌を逸したハード・プレイも楽々クリアした」
「そっ、それって、ひょっとして“究極の臨終オルガスムス”とか“賽子デスマッチ混合5種”とか、恐怖の“ジャングル・ルーレット乱れ浣腸”とか、女性器へのクリーチャー・パラサイティングなんかの魑魅魍魎馬鹿セックスのことですかっ!」
「噂に聞く“禁断の侵蝕尿道カテーテル”は本当にあるのですかっ!」
「そこんとこもっと詳しく!」
幾分喰い気味ですが戦慄してるご様子なのは、美の化身にしてクリムゾン・インフェルノと呼ばれる“紅蓮の大魔導神”こと、燃える赤髪のアンネハイネ様です。
お若いご容姿ながら常に理性と気品を纏っていらっしゃるのですが、違った一面を垣間見た思いです。
「モッモッモッモッ、モンスター・ディックッ、モンスター・ディックは姦ったのですかっ?」
何処か違う世界で王家に連なる止ん事無きお姫様だったとお聞きしたご身分を捨て、大魔王の使徒として付き従うアンネハイネ様は見た目こそ十四、五歳に見えますが、愛人関係にあるのでしょうか?
圧縮時間で戦闘能力改造と肉体のチューンナップ、工作部隊としての実戦演習や模擬訓練に明け暮れたので、実際の実年齢は違うと仰っていましたが……
「すっ、素が出ちゃってるってアンネッ、抑えてっ」
「抑えてよ、どう、どう、どう」
宥めに回っているのは、いつも鋭利な刃物のような視線を崩さないエレアノール様……いずれも劣らない暴力のような美の霊光が眩しいくらいなのですが、比べると幾分優し気に見えるアンネハイネ様と違って、冷たい印象を受けます。
なのに今は、普通に取り乱して見えます。
アンネハイネ様と同じ世界の出身と知らされてみれば、何処か粗暴な雰囲気が強いのにお二人の中がお宜しいのも得心がいきました。
蘇生してから入れ替わり立ち替わり、わたくしの許に訪れた美神達は“けんさ”或いは“かんさつ”と称して根掘り葉掘り質問していきました。どちらの方々も女神の覇気を押さえて呉れたらしいのですが、剰りにも彼女達が美し過ぎるので、その度ごとに喪神どころか毎回々々再び息の根が止まりそうになったのを覚えています。
だけど、この場での品位の欠片もない応酬には神の如き、いえ神そのもののような眼も晦む美貌も台無しの残念な気配がありました。
……でも美の化身達の遣り取りには何処か血の通った世俗っぽいところがありながらも、何故かわたくしにはこの方が好ましく思われました。
神々のセックスって、もしかして下々のとは少し違うのでしょうか?
いずれにしても確かなことは、世界を滅ぼせる力がありながら畏れ多くもちょっと頭のおかしい戦女神様達は皆が皆、魔王様を心からお慕いしていることです……信じられないことに、あの恐怖の大魔王に一途に懸想していらっしゃいます。
「良く耐えたと褒めても佳い……何せ違法改造し捲りのビッチ・ザ・ビヨンドを別にすれば、主等の攻殻サイバネティックス・ボディの人造皮膚と魔素集積回路内臓の有機質超マイクロ・ナノマシーン粘膜の性感帯感度はシーケンシャルに300倍までが限度、じゃが此方の闇魔法が経絡秘孔の禁忌術を用いれば2500倍まで増感可能じゃ、蟣蝨の域はそこまで達しておる」
「「えっ、ええええぇぇぇえええっ!」」
「ん、んんんんんんんんっ、アル!!!!!」 「「…………!!!」」
「それって、もう正気に戻ってこれないレベルだよね!」
戦女神様達一同が、驚愕しておられました。大変珍しいことだと思います。
「……此方の最強無敗の暗黒閨房術を以ってすれば、造作もなきこと」
「怪物レベルの危険なフェロモンと死に掛けのアンデッドさえ発情させる超媚毒細菌を体内生成し、思った部位を粘膜化することも、そしてまた粘膜の超微細な蠕動や男を悶絶させる強烈なパルスの発生も操れる……性欲の出し入れも、潮噴きや放尿、発汗や分泌、性感帯やオルガスムス自体のコントロールも自在じゃ……望めば0.1秒毎の蕩けるような容赦無い連続絶頂、暴力的に明滅し、神経を焼き尽くす爆発逝きが可能……何処迄も自分の願望に正直になれる、そしてその現象と感覚は相手にも感染する」
「この蟣蝨だけの特殊感応機能はインフィニティ歓喜天と名付けた……誰も為し得なかったソラン籠絡への第一歩じゃ」
その場の空気が急激に緊張していくのが、わたくしにも分かりました。
「どんなにエグい欲望にも応える代わりに心底その気にはならないソランも、これなればもしかして昂らせることが出来るかもしれん……心が信じられないというのなら、真心から身体の虜になっているのを証明するまでじゃ」
「……蟣蝨の奴、仕舞いには唯のヨガリ声で此方の眷属を魅了してみせた」
「むっ、無敵かよ、蟣蝨ちゃん、ヤッベエな!」
「シンディッ、吾が昔居た世界ではヤリマンビッチと言う人種がおってのお……知っておるか?」
一番幼い見た目なのに一番歳経ているとお聞きしたその方は、身震いする程の絶世の美女揃いの中でも一際輝く、“狂える邪神”ネメシス様、その人です。
何しろ美の天使と言った飛び抜けた奇跡の相貌なので、彼女の口から下世話かと思われる言葉が紡がれると変な違和感すら感じられます。
「斯く言う吾が、ヤリモク一択のイケイケ女子大生じゃった……乱パの女王じゃった吾と主等ではスケベの年季が違うわっ」
「“シスたそ”様、何故張り合おうとされるのですか?」
この方は聖母の如き慈愛と癒しを纏ったアザレア様です……
「アッ、アザレアだってスケベ自慢なら負けませんよっ、来る日も来る日も逝き過ぎて臓腑が引っ繰り返る程、繰り返し失禁絶頂する浅ましい精液便所をヤり続けてましたからっ!」
一体、何を比べ合っているのでしょうか?
「先輩方のスケベ自慢は的外れアルなっ、肝心で大切なのは愛と忠義アル!」
「「「「「あったりまえのことを言うなっ(言わないでっ)!」」」」」
「華陽のくせにっ」「ポンコツは黙ってらっしゃい」
「分かり切ったことを口にするのは恥ずかしいでしょっ」
至極真っ当なことを発言したのに、皆様から総攻撃を受けているのはここに居らっしゃらない蟣蝨様と同じ世界から来た、一番新参だと言う華陽様です。
田舎臭いと言えば語弊があるでしょうが、言葉に独特のイントネーションがあって、慈愛と無慈悲が混在する畏れ多くも美と武の化身たる戦女神様達の中では一番親しみ易い方でした……勿論、神威は並外れていらっしゃいますが、和み系のムードメーカーです。
あぁ、なんだ……魔王様に傅く戦闘狂で不器用過ぎる女神達は皆んな、言葉を選べないのはとても残念ですが、本当はこんなにも明け透けな人外級の好き者変態だったんですね。
だったら自ら自分の愛を裏切った変節と悦楽への貪欲も、そして取り返しの付かない罪に不道徳極まったように思えたわたくし自身も、責めと赦しを請うて生きてもいいんじゃないかな……?
一途な気持ちとは名ばかりに、王子を慕う気持ちをいつしか忘れ、肉の快楽を貪るように姦淫行為に耽り狂った……きっと、相手は誰でも良かった。そんな恥知らずなクズの淫乱女でも、白痴のような顔で絶頂する度に大切な何かを擦り減らして生きた哀れな雌犬でも、
……恥を忍んで生きていてもいいんじゃないかな?
今度こそ間違えなければ……王子の菩提を弔って生きても。
そう思えた瞬間だった。
偶然か必然か、ディメンジョン・メルトオーバーラップは多くのパラレル・ワールドに甚大な被害を齎し、犠牲者の数も天文学的な数字に及んだ。
これがたった一人の次元犯罪者が発生の大元ともなれば、“千年世紀守護神”の傘下にあるエストギア方面連合の長い歴史にも類をみない最悪の大災厄となった。
軽く仕上げると言っておきながらダラダラと書いて仕舞いました
中小企業に勤める身なれば管理職クラスが歯抜けのように居なくなり、後進が中々育たない宿命を抱えております……つまり予想外に仕事が忙しくてアップ出来ない状態が続き、気が付けば半年ほど更新が止まって仕舞いました
絶対にエタらないと豪語してる割には思うように更新出来ず、待って頂いてる方々にはご迷惑をお掛けしましたが、再びお目に掛かれたら幸甚で御座います
別途、訳あって公開分の改稿を進めておりますが、こちらも第10話「獣魔の卵を乱獲する」まで見直しました
イメージ画像も追加しましたので、併せてご覧頂けるとプレビュー数も稼げて大変具合が宜しいです
「異世界放浪編」はまだまだ続きますが、ソラン一行はお尋ね者になって仕舞いますので逃亡生活が始まります
従って「アラビアンナイト編」は今回を持って終了します、用意した画像が勿体無いので(”みてみん”さんに既にアップロード済み)、一気に放出しますのは貧乏臭いとお笑い下さい
クレマチス=キンポウゲ科センニンソウ属のこと/クレマチス属ともいう/学名のclematisはセンニンソウ属の植物を指すが、日本では園芸用語としてこのセンニンソウ属の蔓性多年草のうち花が大きく観賞価値の高い品種を総称してクレマチスと呼ぶ/修景用の蔓植物として人気があり、「蔓性植物の女王」と呼ばれている/クレマチスのKlemaはギリシア語で「蔓、巻きひげ」の意味/中国の原種テッセンなどもシーボルトによって中国のラヌギノーサや日本の八重咲きのカザグルマ〈雪おこし〉はフォーチュンによってヨーロッパに渡り、それらの種やヨーロッパ原産の品種などと交配により現在では数多くの園芸品種が作出されている/原種をもとに何世紀にもわたって交配が続けられて来た結果、現在では2000種を超える交配品種があると言われている/一重咲き、八重咲き、万重咲き、チューリップ咲き、釣鐘型と多くのバリエーションがみられ、大きく分けて蔓を残し越冬する旧枝咲き〈モンタナ系、パテンス系など〉や新旧両枝咲き〈フロリダ系、ラヌギノーサ系など〉と地上部が枯れ翌年に新枝を伸ばす新枝咲き〈ビチセラ系、ジャックマニー系など〉がある/かつては原種に基づいて分類されていたが属間における絶え間ない交配により色々な系統が混ざり合うことで系統間にあった境界線があいまいになり現在ではグループ分け自体が困難になってきている
アトリビュート=西洋美術において伝説上、歴史上の人物または神話上の神と関連付けられた持ち物/その物の持ち主を特定する役割を果たし、持物〈じもつ・じぶつ〉ともいう/正義の女神を例にとると、手に持った秤と剣、それに目隠しである/イコンなどの宗教画においては聖人の生涯、職業、使命を表すために用いられ、画面内に描かれている女性がオルガンなどの楽器を手にしていればセシリアであろうし、車輪とともに描かれていればアレクサンドリアのカタリナであると見分けることができる
パラダイムシフト=その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的に、もしくは劇的に変化することでパラダイムチェンジともいう/一般用語としてのパラダイムは「規範」や「範例」を意味する単語であるが、科学史家トーマス・クーンの科学革命で提唱したパラダイム概念がその意図からは誤解と誤用となるほどに拡大解釈されて一般化されて用いられ始めた/拡大解釈された「パラダイム」は「認識のしかた」や「考え方」、「常識」、「支配的な解釈」、「旧態依然とした考え方」などの意味合いで使われている
クラテール=古代ギリシアでワインと水を混ぜるのに使われた大型の甕/古代ギリシアでの饗宴でクラテールは部屋の中央に置かれたが、クラテールは非常に大きかったため満たされたまま持ち運ぶのは容易ではなく、従ってワインの水割りは別の容器で汲むことになった/実際、ホメーロスの「オデュッセイア」では宴会場でクラテールからワインを汲み、走り回ってあちこちの客の杯にそれを注いでいる様子が描かれている/古代ギリシアでは希釈しないワインを飲むのは大変な「無作法」と見なされ、そうして飲む人物は節度と徳に欠けた大酒飲みとされ、古代の著作家は長い会話に適しているワインと水の混合比率は1:3であると規定している/現代のワインは水で薄めると水っぽくなっておいしくない/そのため古代のワインは干しブドウなどにして糖度を増した原料を使って醸造し、現代のワインよりもアルコール度が高かったのではないかという推測もなされている/そのようなワインであれば経年劣化せず、輸送時の予測のつかない変化にも耐えただろう/しかし古代の著作家はワイン醸造法についてあまり文献を残しておらず、この説はもっともらしいにもかかわらず証拠が無いために立証されていない
バルタン星人=円谷プロダクションが日本で制作した特撮テレビドラマシリーズ「ウルトラシリーズ」に登場する架空の宇宙人/セミに似た顔、ザリガニのような大きいハサミ状の両手を持ち、高度な知能を備えた直立二足歩行の異星人で両手は厚さ20センチメートルの鉄板を切断できるという/マッハ5での飛行能力の他瞬間移動能力も有しており、分身するかのように移動できる/眼は5000個の眼細胞から構成される複眼となっており、1万メートル先の米粒も視認できる/その反面、どの個体も接近戦が苦手な描写が存在し、一般に「フォッフォッフォッフォッフォッ」と表記される独特の音声を発するが、「ウルトラマン」第2話の監督と脚本を担当した飯島敏宏によれば、その際に腕を上げて手を揺らすのは「腕を下げていると爪が重くて大変だったから休むために生まれたシーンで、腕を上にあげて立てていると楽だった」という/本作に登場するオルク・スティーブンソンは別にバルタン星人と言う訳ではない、その様相を見たソランがまるでバルタン星人みたいだとして、以降バルタン星人呼ばわりをしているに過ぎない
鬼糸巻鱝=軟骨魚綱トビエイ目イトマキエイ科イトマキエイ属に分類されるエイ/世界中の熱帯・亜熱帯海域、特にサンゴ礁周辺に生息し、普段は外洋の表層を遊泳するが沿岸域でも見られる/体盤幅450センチメートル、最大体盤幅910センチメートル、最大体重3トン、鱗〈楯鱗〉は複数の尖頭が重なるように密集し、体盤の表面には溝状の構造がみられる/体盤背面の白色斑の前縁は口裂に対し平行で直線的で口裂の周辺は黒い/歯は幅広く、比較的密集し互いに接する/体の形は他のイトマキエイ類と同じく扁平な菱形で、細長い尾を持ち、体色は基本的に背側が黒色、腹側が白色だが各々の個体によって異なる斑点や擦り傷などが見られ、個体識別の際の目印となっている/まれに全身が黒色の個体も見られ、ダイバーの間ではブラック・マンタと呼ばれている
コアップ・ガラナ=ガラナを原材料に誕生した清涼飲料水でブラジル大使館の指導のもと、全国清涼飲料協同組合連合会が、「コアップガラナ」を統一商標とし全国の中小飲料水製造業者が日本人の味覚にあうよう多少のリメイクを加え、炭酸飲料として製造販売したのが第1号である/コカ・コーラ社が全国にボトラー網を構築している頃であり、コカ・コーラに対抗できる清涼飲料水ということでガラナに白羽の矢が立ったといわれている/ほとんどの地域ではコアップガラナは定着しなかったがコカ・コーラのボトラー設立が他の地域より遅れた北海道では定着したとされる/以来現在に至るまで特に北海道での地サイダーとして特産品的飲料となるほど受け入れられている
ズィナーの罪=回々教法〈シャリーア〉における犯罪行為で、婚外の性行為〈強姦、結婚前性行為、売春、同性間の性行為など〉および肛門性交を重罪としている/ズィナーの罪に対して石打ち刑が科せられる根拠としてハディースの一節にマイズというズィナーの罪を犯した女性を石打ちにする記述がある/サウジアラビアでは石打ちが行われていると言われることがあるが、ワッハーブ派の解釈ではハディースの記述を採用していないため、石打ちは法定刑罰としては存在していない/このためズィナーの罪に対しては銃殺刑・斬首刑・絞首刑のどれかが科されることになっているが、男性の場合は「女性に誘惑された」などの言い逃れの手段があるので実際にこれらのやりかたで処刑されるのは女性のほうが多く、男性は鞭打ち100回で済まされることも多い
オランジーナ=フランスの柑橘系炭酸飲料ブランドでフランスではコカ・コーラを凌ぐ人気で国民的な清涼飲料水である/炭酸飲料であるが、ボトルを開ける前に軽く振ってから飲む/同社の公表によれば炭酸水とオレンジ10%、レモン・グレープフルーツ・ミカン計2%の合計12%以上の柑橘系果汁ブレンドと2%の食用果肉を成分とする/フランス系アルジェリア人のLeon Betonが1936年にアルジェリアで発売し戦後フランス本土で広まり後々には国民的な飲料品となる/1962年、アルジェリア独立によってフランスに引き揚げたBetonがオランジーナ社を設立し、1995年にはオランジーナ・ルージュという姉妹製品も発売された
ポリプロピレンフィルム=オレフィンの一種ポリプロピレン〈PP〉を成型したフィルムは比重の小ささや耐熱性・透明性などに優れ、さらには防湿性や燃焼による有毒ガス発生がない点などが評価されている/ただしガスバリア性には劣り、バリア層がコーティングまたはラミネートされている場合が多く、またヒートシール性にも劣るため袋状に成型する際には接着部分にのみPEフィルムなどをコーティングする/延伸していないフィルム〈CPPまたはIPPフィルム〉は、パンや果物類、雑貨などの軽包装分野で採用されている/二軸延伸したフィルム〈OPPフィルム〉のうち熱固定を経ていないものは熱により収縮する傾向が強いためシュリンクフィルムとして使用される/一方で熱固定を行ったものは寸法安定性や耐水性・耐摩耗性などに優れ、1988年にオーストラリア建国200周年記念として初めて発行され、以後各国でも採用されたプラスチック製紙幣にも使用されている/PVDC樹脂を片面または両面にコーティングし、ガスバリア性や防湿性などを向上させたKコート〈KOP〉フィルムは包装用にて多用されている
パンチェッタ=俗に生ベーコンとも呼ばれ豚バラ肉の塊に荒塩をすり込み、1ヶ月以上熟成と乾燥をさせて仕上げる
ハラペーニョ=メキシコを代表する青唐辛子で辛さは中程度/名称はその発祥の地といわれているベラクルス州のハラパに由来する/「ハラペノ」や「ヤラピノ」等と呼ばれた事もある/多くのメキシコ料理店ではハラペーニョをタマネギやニンジンと一緒にピクルスにした「ハラペーニョ・エン・エスカベーチェ」を注文することができる/アメリカ合衆国でもよく普及しておりサルサに加える他、チェダーチーズなどのチーズを詰めたハラペーニョに衣をつけて揚げたハラペーニョ・ポッパーなどは酒のつまみとして人気がある
パニーニ=パンで具材を挟んだイタリア料理の軽食でチャバッタやロゼッタなど伝統的なイタリアのパンに具材を挟むものをさす/バールなどではショーケースに陳列されているほか、各種食材店でもその場で作ってくれる店があり、具材にはトマト、モッツァレッラなどのチーズ、ハム、ローストビーフやポルケッタなどの肉製品の薄切り、レタスなどの野菜を組み合わせる/意外なことにホットサンドメーカーを使って表面をグリルしたパニーノはイタリアでは俗にトーストと呼ばれ、食パンの一種パーネ・イン・カッセッタの薄切りが用いられ、プロシュットとプロセスチーズをはさむことが多い
パストラミ=香辛料で調味した肉の燻製食品でコンビーフ同様、現代のような冷蔵技術がない時代に牛肉を塩漬けにしてから燻煙することによって保存性を高めるために作られた/食塩水に漬けた赤身肉を少し乾燥させ燻煙した後、粗挽き胡椒、ニンニク、コリアンダー、パプリカ、オールスパイス、マスタードなどの香辛料をまぶすのが一般的である/主にデリカテッセンで製造販売され、薄く削ぎ切りにしてサンドイッチやベーグルサンドの具材などとして食用される/北アメリカではパストラミサンドイッチにライブレッド〈ライムギ粉を少量混合したパン〉を使うことが多く、シンプルにパストラミをはさんだパストラミ・オン・ライと呼ばれるサンドイッチやザワークラウトなどを加えてトーストしたルーベンサンドイッチがよく知られている
BLTサンドウィッチ=パンに挿む食材として、ベーコン〈bacon〉、レタス〈lettuce〉、トマト〈tomato〉 が用いられることからそれぞれの頭文字を取って名づけられた/BLTサンドに使われる材料ははるか昔から存在しているにも拘らず1900年以前のレシピについてはほとんど資料がない/1903年に出版されたイザベル・ゴードン・カーティスの「グッドハウスキーピング・エブリディ・クックブック」に掲載されたクラブサンドのレシピには二枚のスライスパンでベーコン、レタス、トマト、マヨネーズ、スライスしたターキーをサンドイッチするものがある
応援して頂ける、気に入ったという方は是非★とブックマークをお願いします
感想や批判もお待ちしております
私、漢字が苦手なもので誤字脱字報告もありましたらお願いします
別口でエッセイも載せましたので、ご興味のある方は一度ひやかしてみてください
短めですのでスマホで読むには最適かと……是非、通勤・通学のお供にどうぞ、一応R15です
https://ncode.syosetu.com/n9580he/





