[挿話03].人で無し好色勇者、曖昧宿に死す
うらぶれた連れ込み旅館の薄汚い部屋の一室で水槽に泳ぐ熱帯魚を見ていた。
変だな……あぁ、そうか、右目は潰れて仕舞ったんだな。
この世界の熱帯魚ってのは、一体何処から仕入れてくるんだろう?
ヤルだけが目的のこんな宿屋で熱帯魚なんて、差別化にしちゃシュールな趣味だな……派手な色は全然違うが、縞模様の感じが元の世界のエンゼルフィッシュに似ているような気がする。
俺は爆散した腹の中身が天井まで飛び散った部屋で、ドロリと血だらけになったベッドに俯伏ていた。真っ赤な血溜まりのベッドは寝心地が悪い。
強化された肉体が足枷になって、即死も出来ないなんてなんの冗談だよ。皮肉屋のユーモアにしてもイカれ過ぎ、歪み過ぎていて笑えない。どうせ俺はド腐れ外道の勇者、精々苦しみ抜いて死ねってことだろう。
あぁ、死にたくねえなあ……散々好き放題に他人を不幸に至らしめて来たから碌な死に方をしないのは覚悟していたが、いざ死ぬとなると未練があった。
もと居た世界でも、直接じゃないがある意味女の怨みを買って腹を刺されて死んだ。あれは痛かった、灼け付くような感覚がちょっとしたトラウマになった。
因果は巡り、こっちの世界でも似たように女を甚振った報いから死ぬことになるのも、また道理ってもんだろう。下種には相応し過ぎて嗤える。
腹が真っ二つに裂かれたような、鈍器で頭を潰されるほど殴られたような痺れる痛みはもう感じられなくなっていたが、ここは無性に寒かった。
耐え難い程に、寂しい程に、寒かった。
薄れいく意識の中で、昔、子供の頃にお袋が淹れてくれたホットミルクが飲みたいって思っていた。子供を捨てた糞な母親なのに、何故か無性に懐かしい。
「元の世界のお袋はまだ生きてるのかな? 身体を壊してなきゃいいが……」
七五三の時に写真館で撮った記念写真、とっくに無くしてしまったが、まだ幸せだった頃の思い出が何故か頭に浮かんだ。大切なものが指から零れていくのは一瞬で、そしてそれはとても分かりにくい。
俺みたいなクズが、死に際に悟る内容じゃないな………
次に生まれてくることがあったとしても、俺は多分クズのままだ。
幾ら望んでも、懇願しても、憧れたあったかい家庭なんか手に入らない。
だとしたら、俺なんかは生まれてくるべきじゃない……これで終わりにしよう。
地獄に落ちる迄の僅かな時間に、これ迄の悪行が走馬灯にように頭をよぎった。結局、俺がクズになったのはお袋の所為でも、雌豚の正体を隠していた工藤美由紀の所為でもない。きっと俺自身がクズになりたかったんだろう。
殺伐とした現実は、もう沢山だ。
俺は無神論者だが、本当に神様が居るならば何故俺みたいな奴を勇者に選んだりするのか、正直分からない。
尊いものを踏み躙り合うような生き方が正しいものだとは、到底思えなかった。
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王都の街はずれに、連れ込み宿の蝟集する一画があった。
連日、飽きもせず、季節の陽気に変わりなく猥褻なことに血道を上げる盛りの付いた男女で賑わっていた。
昼間から淫気を誘う香が焚き込められ、知らず知らず若いカップルなどは人目も憚らず、待合いコーナーで服を脱ぎ出す恥知らずな輩が後を絶たない。
今日も今日とて、千早翔一こと召喚勇者“トーキョウ・トキオ”は靡いてきた町娘と懇ろになる為に、この特殊宿屋街を訪れていた。
この日を境にシェスタ王国が没落していく、国中を震撼させた“勇者暗殺事件”の幕開けとも知らずに…………
勇者として召喚されたトーキョウ・トキオは、真面目に魔王討伐などする気は更々無く、日々の享楽を楽しんでいた。
そもそも異世界召喚される前は仲間と徒党を組んで、三流大学生を演じながらネットでの株トレーディングで資金を作り出し、裏カジノを経営し、当局の眼を掠めてはファウンド商法詐欺で組織を大きくしていった。
女を騙しては金をせびるペテン師紛い、情夫紛いの生活も少しは本人自ら体験したようだが、千早が世の中の女に復讐する為だけに作った組織が大きくなるに連れ、効率を考えて役割は分担制になった。
女を逝かせる竿師役は裏DVDの調教師が適任だったし、輪姦す男優なら掃いて捨てる程居た。コマシ役の結婚詐欺師は本物のトラディショナルで、いい所の坊々出身、海外留学の経験まである。どう道を踏み外したのか、自分の仲間を率いてジゴロを気取っている……歌舞伎町当たりのホストクラブに居る下品に髪を染めた自称イケメンとは一線を画していた。
嘗て女を喰い物にする、女に復讐する為の組織を運営した千早翔一は、死後に異世界に召喚されてからは、何故か“トーキョウ・トキオ”を名乗った。
偶々異世界に呼び出され、勇者認定されて、聖剣も与えられ、報奨も思うがまま好き勝手だと言う。その代わり、魔王を討てと。
宰相には、女も抱き放題だと耳打ちされていたようだ。
そんなことをしなくても、“魅了・催淫”と言う最強外道スキルに目覚めた淫蕩勇者は、手当たり次第に女をモノにすることが出来た。貴族の奥方や令嬢も、宮廷女官、侍女の類い、小間使いも、衛兵の女兵士も、城付きの治癒聖女達も好きなだけ抱き捲り、連日凌辱し捲った。勇者の身体能力補正は、どうやら精力も底上げしたようだった。
仕舞いには飽きて、寝取った亭主や恋人の目の前で素っ裸にした女を抱いて、“もう、貴方のことなんか愛していない、勇者様とのセックスが気持ち良過ぎて虜になったの、これからは勇者様との愛慾に溺れて暮らすわ”、と叫ばせる遊びを覚えた。遊び半分に魅了を解いた女達は、当然気が狂わんばかりに許しを請うたが、これまた当然のように亭主達に捨てられ、誤ちを悔いる暇も無く路頭に迷った。
傑作だった。取り澄ました女達が破滅していく様は、全ての女達を軽蔑する千早翔一の心を否応なく癒した。
もっと、もっとだ……もっと下劣な本性を剥き出しにして、喘いで、溺れて、身を持ち崩して、襤縷々々になる迄不幸になればいい。それだけが唯ひとつ、千早翔一が女に願っていることだった。
公爵家の奥方を籠絡したときは流石に遣り過ぎかと思ったトーキョウ・トキオこと千早翔一だったが、王室からは何の音沙汰も無かった。だからかも知れないが、仲を引き裂く他人達の激しい怨みを買い、国民の信頼を失う悪行には更に拍車が掛かっていった。
適当に魔物討伐をする振りをして、地方を巡回しては街々の人妻や娘を喰い散らかした放蕩勇者に、あるとき頭の中で従者を選別せよとの啓示が聞こえた。
王宮御抱え天文司のゾディアック・サインを占う長官から、聖なる神託を受けたとして、“神命により、クラン県ボンレフ村へ向かえ”との託宣を言い渡される。
少し王都からは遠いので面倒だったが、田舎の方が純朴な女が多いかと思い、気を取り直した。素朴な田舎娘を色気違いに変える方が堕とし甲斐がある。
実際、青空の下で天道虫が飛ぶのを眺めながらするのは、牧歌的でなかなか乙なものだと、勇者は側近に漏らしている。
尤も、この世界の天道虫の大きさがどれもこれも拳大の大きさばかりなのを知って、何故かショックを受けていた。
何故ここまで劣悪な物件を召喚しているのかといえば、問題は王国側にあった。
経年劣化でシェスタ王朝も二十三代目ともなると頽廃を極め、国家樹立の祖たる初代始皇帝時代の高邁な建国精神など擦り切れて、影も形も無い。
召喚の儀を執り行える者もごく一部に限られ、当代では年端もゆかぬ第一王女しか、その稀有な能力を引き継いでいない。だが、正邪も分らぬ10歳の幼女に真面な召喚が出来る訳もなかった。
ここ数世代は似たような事情が続いている。
斯くしてここ何世代かの勇者召喚は似たり寄ったりの事情から王国の権威を保つ為とは言え、外聞を憚る不祥事を引き起こすばかりで、隠蔽工作専任の担当大臣並びに影の隠密部隊が任命される始末だった。
召喚の儀を執り行う者に、もっと緊乎した徳を積む英才教育を与えるべきだろうが、無駄にプライドばかり高くなって仕舞った王室には自らを律する術など皆無だった。諫言すべき忠臣は王宮を去って久しい。
「父上様、何故トキオ様の館を訪れてはならぬのですか?」
「姫よ、何故に、そこまで召喚勇者にこだわる? あれはの、其女とは生まれも育ちも、成り立ちさえも相容れぬ隔たりある者、其女の傍らには相応しからぬ」
近衛の居並ぶ謁見の間にて厳ついカイゼル髭の王は、荘厳なる玉座の壇上から目通りを請うた我が子を見下ろしていた。濃褐色の瞳を潤ませる、見目麗しいと呼ぶにはまだ遥かに幼い我が子だった。
「父上、勇者様を悪くおっしゃらないでください、あの方は寂しい方なのです!」
何が心酔させるのか悉皆骨抜きにされた我が娘は、明日にでも宰相に言って幽閉して仕舞おうと思った冷酷で無情な現国王、厳戒王シェスタ・ジェンキンス十三世だった。魅了の虜になっている召喚者など役には立たぬ。
廃嫡の手続きなど簡単だ。勇者召喚の能力を引き継いだ故、好き勝手をさせていたが、女に帝王学を仕込んだところで無駄とばかりについ甘くなった。
男に懸想して我を通そうとするならば、罰を与えねばならぬ。いっそのこと秘密裏に殺して仕舞うか?
いや、王朝の恩恵たる能力の血筋を絶やすのは拙い。飼い殺しの上、人知れず種付けをして児を生ませるか?
御年10歳の幼い姫君には、家族愛など疾うに捨てた無慈悲な王家の在り方など想像だに出来なかったが、孰方にしても勇者如きの心無い世辞に上気せるようでは賢いとは言えなかった。
教育を与えなかったのは態とではないが、凡庸な子供、思慮分別の足りない子供は、こと権謀術数渦巻く王家では真面に長生きは出来なかった。他の誰を恨むでもない、もしこの先若い身空で儚くなろうとも短命なのは己れ自身の無能と知れ……酷薄な王は愚かな我が娘に対して、そう思っていた。
召喚の儀式に呼び出され、異世界とかに来てみればテレビもインターネットも無いクソな世界だった。
俺に勇者の恩恵が無ければ、まず間違いなくチフスか赤痢と言った時代遅れの病原菌で死んだに違いない。聞きしに勝るとは言い得て、それ程異世界の衛生状態は最悪だった。
宮廷の中に在ってさえ下水施設が無いので、トイレ事情から悪臭が漂う場所がある。その日の風向きに依っては思わぬ臭気溜まりが出来るので、ご苦労なことに王宮では鬘に宮服を着た家令が大声で触れて回った。
高貴な淑女の方々でさえ、専用のバスタブは持っていても入浴は三日に一度程度だ。その代わりに毎日香油を塗り込めていたようだったが、きっと異世界人は鼻が悪いに違いない。
垢だらけの女を抱くのはご免なので、館を賜ると大きくて清潔な湯殿を拵えさせた。勇者ハーレムでは、女中に至るまで毎日の入浴を義務付けた。
一流の広告代理店に勤めていた親父はよせばいいのに覚醒剤に手を出して会社を首になり、自宅を抵当に興したアパレル企業は倒産し、パチ屋のパート勤めをしていたお袋が従業員仲間だった若いツバメと行方を晦ませたのは、俺が公立高校に進学した入学式の日だった。
それからの親父は男の甲斐性は飲む、打つ、買うの三拍子とばかりに太く短く生きると決めたようだった。何処で人生を間違えたのか、良いところのお坊ちゃんだった筈なのに身を持ち崩して転落生活一直線だ。親戚一同からは総スカンを喰って絶縁されたようだ。
得体の知れない水商売の女達が出入りするようになった。女達はしどけない半裸の姿で家を闊歩して親父達とセックスをした。親父達と言うのは、素性の知れない男達も出入りするようになったからだ。大声で笑いこそしないが、男達の吸う電子煙草の変梃な臭いが堪らなく嫌だった。
女達は身分不相応な高級下着を(逆に言うと下着しか着ていなかったが)、部屋干しにするので、柔軟剤に入ってる芳香剤の匂いと生乾きの洗濯物の糊臭い匂いが混じった嫌な臭気に満ちていた。
親父はどうやら裏稼業のシノギに手を出したようだ。海外サイトを経由した裏アカでの違法ポルノムービーの有料配信、妊婦もの、乱交もの、スカトロ、下手物セックスのオンパレードを地でいくアダルトムービーの通信販売などのちんけな商売は警察に摘発されるまで続いた。無修正自体は違法じゃなかったが、契約したアダルトコンテンツに仕込んだフィッシングが悪質だったのと映像の派手なグロさが目を付けられた。
俺の童貞卒業は、そんな女優さん達3人に襲われてのものだった。生臭くてグロテスクなそれを顔に押し付けられて、嫌なのに身体は反応していた。男が強姦されるのも情けないが、何度も放出させられてこんなものかと思った。
逃げた母親は俺を捨ててった。元から愛情の薄いクソ女だった。
幼稚園の運動会はコンビニの弁当を持たされた。授業参観は忙しいと言って一度も来た試しがなかったが、小学校も高学年になると普通に幸せそうな親子関係を同じ教室で眺めているのも馬鹿らしくなってふけたとき、偶然に粧し込んだ母親が近所の電気屋の男とラブホテルに入るのを目撃して仕舞う。
子供心に股の緩い女だと思った。
そうこうしている内に浮気がばれたかして、親父に容赦無く折檻されていた。
顔に痣が出来たりすると世間体が悪いので露出しない部分を親父は執拗に打擲していたようだったが、この夫婦……俺の両親は呆れ返った変態だった。
小さな頃は分からなかったが、まだ裕福だったからか庭付き郊外の洒落た一戸建てに住んでいたので防音もしっかりした密閉構造だったから、夜毎の凌辱姦や緊縛姦などが続いていたようだ。ある夜に叩き起こされた俺は、親父ともう一人の男に責め苛まれる母親を視姦させられた。ギリギリと縛り上げられ、素っ裸にひん剥かれたお袋は、もう一人の男に挿し貫かれていた。
「あがああぁぁっ、見ないでええっ、翔ぢゃんん、お母ざんのこんな姿あぁ、見ぢゃ駄目ええぇぇっ!」
悶えくねり続ける母親は、言葉とは裏腹に涎を垂らしながら絶頂していた。
俺の家庭は父親だけでなく、お袋もイカれていた。
母親を犯し続けるもう一人の男は、いつか見た近所の電気屋の親爺だった。
後から考えると、幼い頃の俺が育児放棄で死ななかったのが何故なのか不思議なくらいだったが、乳幼児の面倒を能くこの女が見れたものだ。
子供に愛情を注ぐより、自分の快楽の方が大切だって魂の腐った女は世間にも珍しくないんだと思う……少なくとも俺にとっちゃ、ごく身近に居た。
身の危険を感じた俺は、公共図書館とかで“家庭の医学”みたいな書籍を読み漁った。中学に上がった頃、風疹が流行ったことがあった。案の定、栄養状態のよろしくない俺は感染して高熱で魘されたが、母親は男遊びで家を開けていた。父親は当時真面な会社員だったから、出張で数日家を留守にしていた。
自分で医者に行ける体力が残っていなかった俺は、死にたくない一心で万引きでストックした解熱剤や抗生剤をボリボリ噛み下して生き延びた。今日日、麻疹擬きで死ぬなんて笑い話にもならないが、当時は必死だった。
身体を鍛えなければ、生き残らなければと言う思いが当時の俺を駆り立てた。株のトレードの勉強、通信講座の格闘術、メンタリストの書いた本を読んで実践してみるなど、思い付くことは何でも遣った。
俺に人並み以上のスペックがあるとすれば、間違い無くこの時の体験と人生観がそうさせたんだと思う。
よくチンピラの若い母親が幼児虐待とかで自分の子供を殺して仕舞うニュースを見たりするが、うちの母親は化粧が濃くいつでも鼻が曲がるほど香水を振り撒いている他は、卒なく、ごく普通に外面だけは良かった。
授業参観には来ない癖にPTA総会なんかにはよく顔を出していた。多分、浮気相手を求めて物色していたんだと思う。
不甲斐ない親父には愛想が尽きたのか、元々多情な女なのかは分からない。
母親が行方知れずになったのは親父が零落れていくのを支えるのが馬鹿らしくなったのかもしれないし、元々が生来から怪しい貞操観念の堕ちた魂に支配されていたのか、もしくは親父との異常な夫婦生活でぶっ壊れて仕舞ったのかは定かではなかったが、俺にとってはどっちでも良い。
こんな家庭環境で生まれ育った俺が、歪まない訳は無かった。
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俺が女を蔑視するようになった決定的な要因は、進学校だった高校時代の同級生の交際相手、工藤美由紀との思い出だ。今思い出しても胸糞悪くなるが、それ以上に世の中の女達を不幸のドン底に堕としてやったので、少しは胸の痞えも癒えたと言うものだ。
高校に進学した俺は、猫を被って優等生を演じる裏で悪仲間を集めてマルチ商法や野球賭博の胴元など、地廻りのヤクザの眼を掻い潜り荒稼ぎをしていた。
一方、学校では一般ピープルに溶け込むよう注意していた……こんな狭い世界でもヒエラルキーはある。
そして、いつも工藤美由紀はクラスのマドンナだった。
こんな俺にも世の中の純なものへの憧れが、この頃まではまだ少し残っていた。自分が醜く歪んでいるのは自覚していた。
だが、こんな俺でももしかしたらって言う希望に縋り付いたのは工藤美由紀に声を掛けられたのが切っ掛けだったのかもしれない。
「千早君って字が綺麗ね」
そう話し掛けられたのは、2年に進級した一学期だった。工藤の席は俺の斜め後ろ、若くて視力の良い者ならノートの紙面が見えたのかもしれない。
クラスでは足が付くので裏の商売をひた隠しに、無口な優等生を演じていた。あまり目立ちたくは無いが、成績は学年トップだ。ガリ勉を装っていれば、話し掛ける者も少ないだろうと思ったのだ。
「あぁ、世界史の須藤先生の板書は速いですからね、ノートなら貸せますよ?」
終わったばかりの授業のノートだろうと、面倒なので当素法で返答した。
俺の先読みの返答に、工藤は暫し絶句していた。
工藤は美人なだけでなく成績も悪くなかった。少なくとも公立では進学校の部類に入る都立堂ヶ島高校の授業レベルに、難無く付いて来れた。
「千早君って、エスパー? 何でわかっちゃうの?」
「そりゃあ……ちょっとした人間観察と推論ですよ、その方が話が早いでしょ、持って回った社交辞令で話を先送りにするのが時間の無駄なんで、嫌なんです」
「あははっ、千早君って面白いね!」
俺の嫌味にもめげる様子も無く、工藤は屈託なく笑った。
結局、ノートのお礼と言って放課後、ハンバーガーショップに付き合わされた俺は、その後工藤と良く会話するようになった。
「ねぇ、千早君ってさあ、彼女とか居るの?」
「いえ、僕にはそう言うのは必要ありません」
「ええぇっ、折角の人生に一度しかない高校生活だよ、青春を謳歌しても罰は当たらないと思うんだけど?」
「ねぇ、試しにあたし達付き合ってみない? 恋愛するってどう言うことか一緒に経験してみようよっ」
「即行、お断りさせて頂きます、僕には何のメリットも感じませんので」
「えぇぇ、なんでえ、いいじゃんっ」
放課後、ヤバい課外活動の為もあるが何より家に帰っても勉強出来る環境じゃなかった俺は、授業の予習、復習、宿題を良く図書室で遣っていたが、工藤が便乗して来た。
3年になる頃にはもう、儲けた金で手に入れたアジトなどを転々とし、抵当に入った20畳リビング郊外一戸建ての家を引き払った親父が都内に引っ越したボロマンションに帰ることも無くなったが、今はまだ手持ちが寂しかった。
つんと上を向いた鼻っ柱の愛らしい工藤に、耳に掛かる後毛を掻き上げながら交際を迫られ、司書係の生徒に静かにするように注意されて仕舞った。
その後もしつこく交際を求められるのに根負けした俺は、済し崩し的に工藤と付き合うようになった。
カラオケ、ゲームセンター、映画館、工藤の好きなアーティストのコンサートにも行ったりと、年相応の普通の学生らしいことをするのが新鮮だった。自然とSNSのアカウントも交換した。
それは、世の中には本当に汚れない、純な女も居るかもしれないと希望が持てた穏やかな日々だった。
水族館デートや動物園デート、一度行ってみたいと言うので落語の寄席に行ってみたり、遊園地では絶叫マシーンに乗った。油ギトギトのチェーン店のラーメン屋にはよく行った。細っこいのに、意外と美由紀は大食漢だった。
2年の夏休みにはよく図書館デートもしたが、ちょっと田舎の夏祭りとか花火大会に行ってみたりした。明るいうちに在来線で移動して終電近くに帰ってくるスタイルだった……反して都内の神輿祭りとかは人が多くて駄目だ。
一度、物凄く早起きして千葉の海水浴場に行った時、ワンピースだったが初めて水着姿を見たときは凄く眩しかったのを覚えている。
こうして急速に女の子と仲良くなっていくのは、俺の人生では初めての体験だった。二学期になると、人目がないところでは普通に手を繋ぐようになった。俗に言う、恋人繋ぎってやつだ。
違和感を覚えたのは、初めて美由紀の家に遊びに行った時だった。彼女の母親が出迎えてくれたのに如才なく挨拶をし、あまり学生として値の張らない手土産を渡して彼女の部屋に通された。
「座って、座って、今紅茶持ってくるから、紅茶でいいよね?」
「今朝から大掃除してたから、綺麗でしょ?」
経験の差か、俺は人並み以上にそっち方面の感が鋭い。
美由紀の部屋には男の臭いがした。
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ウォールナットのドアは召し合わせも無く隙間だらけだが、子供騙しのようなウォード錠を内側から掛けると同時に簡易結界と施錠の護符が働く。こんな理由から、この世界で錠前の技術が発達するのは当分先になるんだろう。
薄汚れた宿の壁紙は、それなりに高級な織物が使われているようだが、俺には良く分からない。それより明り取りの天窓近くに描かれたフレスコ画が男女の交合を描いたもので、その卑猥なポーズに思わず苦笑した。
連れ込み宿にしけ込むと町娘はすぐに、コルセットに似た締め上げるベストと前掛けのような民族衣装と、リネン製のペチコート、庶民にしては高価な絹のドロワースをかなぐり捨てるように脱ぎ棄てた。
娘は張りのある肢体を惜しげも無く晒す。肌の色が黒かったらまるでホッテントット族のような見事な釣り鐘型の乳房だ。あまり好みじゃないが、こういうのはもと居た日本じゃあまり見なかったな。
発情した雌猫のように絡みついて、腰をくねらせながら俺の股間に手を添える。まるで小鳥が啄むようにして情熱的で断続的な口吸いを繰り返し、舌を絡めて来る。
この仕草は、俺が死んだ前の世界で犯して捨てた工藤美由紀を思い起こさせた。多くの男に遣り輪姦される中で、この世のものとも思えない快楽と共に、朦朧と意識を半ば飛ばしながら俺の口を夢中になって吸ってきた彼女の、無意識のキスの仕方に似ている。陵辱してる筈なのに、まるでしゃぶり付くように求めて来たのが哀れだった。
工藤の母親に腹を刺されて俺は死んだ。別に怨んじゃいない。
娘の美由紀の方は、ラオスの裏繁華街で死に掛けていたのを現地の警察が保護してすぐさま日本大使館に人物照会があったそうだ。
奇跡的に発見された行方不明者として、当時は結構ワイドショーを賑わせた。
帰国し、療養施設で数ヶ月入院生活を送るも、心も身体も戻ってはいなかった筈だ。知る必要も無いので、俺は調べなかったが、工藤の母が俺に意趣返ししに来たということは、思ったより記憶ははっきりしていて美由紀本人の口から事の真相を訊いたのかもしれない。
いずれにしろ、こっちの世界に生まれ変わった俺には関係無いし、知る術も無い。
「ねぇん、勇者様ぁ、あたしも勇者様のゴージャスで豪華なハーレムの末席に侍りたいの」
「綺麗な服を着て、美味しいものを食べて、気持ちいいことを毎日楽しみたいの……駄目かしらん、あたし、具合がいいって皆んなに言われるのよ?」
最近は魅了のスキルを使わなくても、女の方から寄ってくるようになった。
こいつみたいに頭の悪そうな女が多かったが、その場限りの気晴らしには持って来いだ。
王宮の敷地内に宛がわれた恩寵離宮は、男の庭師や厩舎係を除けば、給仕メイドや家事メイド、ランドリー、キッチンなどの女中も総て俺の“魅了・催淫”の虜だった。
コンパニオンやレディーズ・メイドと呼ばれる侍女や腰元などは、アッパー・サーヴァントと呼ばれる所謂上級使用人で、一般の家政婦達のようにお仕着せの仕事服ではなく、宮廷衣装のようなドレス姿だったが、同じように俺の肉奴隷だったので、すぐに脱げるような工夫を自分達でしていた。
それ程奢侈な暮らし振りじゃないが、まぁ、一般家庭から見れば豪華な食事と言えなくもないか……
「それじゃぁ、具合がいいってのを確かめさせて貰うか……」
俺はその日に知り合った行きずりの女とベッドに倒れ込んだ。
「うふふっ、嬉しい、早くあたしの中に入ってきて、熱い塊を感じさせて頂戴っ!」
女は、街中では決して見せられぬ淫らな笑いを滲ませて、明らかに興奮した息遣いで股を開いて行った。
俺はまた、工藤美由紀の時のように、滑稽な悪夢の続きを見ているのだろうか……ふと、そんな考えが頭の片隅をよぎった。
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あたしが家庭教師のタカシ兄ちゃんと関係を持ったのは、いつからだったろう?
高校に上がる頃には、兄ちゃんの調教セックスはすっかりエスカレートしてしまった。緊縛、露出、放尿に浣腸と変態セックスで盛り上がった。
親が留守の時でも部屋が汚れるかもしれないので、ラブホに行くようになった。一学期の終わりには目線にモザイク入りで無修正投稿サイトにもアップするようになった。ハンドルネームは“変態JKミユキ”だ。兄ちゃんの趣味だった。
塾講師でバイトをしていたタカシ兄ちゃんは遠い親戚だったが、学業優秀だがそれ程学費を出せない一般家庭で育ったあたしの家庭教師になった。
実は大変な資産家の御曹司で、ラブラブ変態な肉体関係を続けていれば玉の輿も夢じゃないかと思った打算もあったが、最近じゃ良く分からない。夫婦や恋人の性交渉とは、あたし達の関係は少し違っているように思えた。
最近では次第に壊れていく日常に、理性やモラルが欠落した快楽はすっかりあたしの身体を支配してしまい、醜く糜爛した性器や肛門は他人に見せられるものではなくなり、悲しいことに最早調教セックスの虜になって、抜け出せなくなっていた。
職場の健康診断で二次検診を勧められたタカシ兄ちゃんは、大腸カメラを遣ったときに知ったモビレップって下剤、飲む腸内洗浄液をその後の変態プレイの為にあたしに試すに至り、もう絶対に真面じゃなかった。
最初は同年代の他の子達より先に大人の世界を知ったような気がして、有頂天になっていた。興味もあったし、知識もあったが実際にしてみるとでは雲泥の差だった。何て言うか、自分の身体がこんなに濡れるなんて知らなかった。
SMテイストも最初はファッションのニュアンスが強かった。
あぁ、よそう、何を言ってもいい訳だ……今のあたしは正真正銘のドスケベでド変態な、どうしようもない馬鹿女だ。
このままではいけない。真人間として生きたい。
親の前で渡された蒔絵の万年筆の他に、入学祝いと称して亀甲ボンテージって鞣し革製の全身拘束具を貰っても、何処に仕舞っておけばいいのかほとほと弱って、結局下着用のチェストの奥に隠した。
2年生の誕生日にタカシ兄ちゃんが呉れたアダルトグッズ、今までよりもひとサイズ大きくてエグいバイブレーターやお尻の穴用のプラグなんかを眺めて、今更ながら異常な関係を築いてしまった、エッチなことに流された自分が恨めしかった。
普通の恋愛がしたい、そう思い詰めたあたしは高校に進学すると同時に友達を作ることに専念した。闇雲に男も女も分け隔てなく仲良くなった。
2年になってクラス替えがあってから、一人、ちょっと気になる男の子が居た。
私立じゃないので特進学級がある訳ではないが、学年主席の千早翔一君と言うその子は、クラスの誰とも馴染まなかった、と言うか馴れ合わずに孤立することを懼れていないように見えた。
目立たないように、わざと俯き加減で猫背で歩く……そんな風にあたしには思えた。
無口で影が薄いのも、そう振る舞っているような素振りがあった。口性無いクラスメイト達の陰口では唯のチキン野郎と叩かれていたようだが、本人の耳に入っても特に気にした様子もない。
興味が湧いたのは、地味目を装っていても整った顔立ちだからと言う訳ではない。
初めて話し掛けた時に、シニカルな苦笑と共に答えてきた千早君のミステリアスな雰囲気がとても気になった。同級生の誰にも感じられない大人びた気配があったからだ。
この子となら……正直そう思えた。
諦めずにアタックして済し崩し的に付き合い出した。やっぱり普通の恋愛って良い……何でもない日常の幼稚な遊びでさえ、本当に心の底から楽しいと思えた。翔一君があたしを気遣ってくれる、何気ない仕草に気が付いた。遣ろうと思えば大人のようにエスコート出来るのに、敢えて学生らしく振舞うような素振りがあったからだ。
前々から興味はあったが友達からは、太るよ、と言われて敬遠していた背脂たっぷりのラーメン屋さんに連れて行って貰った。形振り構わず盛大に啜るラーメンの美味しさは、未知との遭遇だった。あたしは味玉を追加した。
遊園地の観覧車では、初めてのキスをした。あたしが初めてじゃないってバレないかドキドキしたが、翔一は何事も無かったように動じていなかった。
その後のジェットコースターに乗ったときに気が付いたが、翔一は滅多なことでは慌てたりしないんだって思った。
頼もしいかどうかは良く分からないが、人より喜怒哀楽が少ないかと思えば、どうやらそうでもない。郊外の夏祭りを見にいくのに、浴衣姿で一緒に電車に乗ったとき、相手の感動した表情をあたしは見逃さなかった。
早起きして行った海で、水着姿を披露した。縄の跡とか、プレイの痕跡が残っていないか気になったが、どうやら大丈夫だったようだ。
将来のことは分からない。
でもクリスマスには、翔一に抱かれようと思っていた。
けれど、そんな見せ掛けの幸せは冬休み前の日曜日に脆くも崩れ去った。
日曜日の公園デートは、派手にならない学生らしさの範疇でと言った翔一のリクエストで始まったが、12月になれば結構寒さが身に染みてあたしはスカートをやめた。
椿や山茶花の他はすっかり冬枯れて仕舞った寂しい公園で、久し振りの冬の晴れ間に暖かな日差しが嬉しかった。人気も疎らな園路に時報のチャイム、“恋は水色”が流れると、冬鳥の群れが羽搏いた。良く分からないが、鶲とかの小さな鳥だ。
ここのところ、翔一が少し余所余所しかったが、何故なのかその理由が明瞭になった。
ベンチに腰掛けるあたしの前に仁王立ちになった翔一が、タブレットで動画を再生したのだ。
(おごおぉぉっ、気持ぢいいいいっ! もっど、もっどおぉ、突っ込んでえええっ!)
それが何か理解した途端、自分の口許が引き攣るように戦慄くのが分かった。
何故っ! なんでっ! 何処からバレたの!
絶対に知られてはいけないことだったのに!
「真田孝志さんのご自宅のパソコンはリスク管理が甘く、プロクシーもVPNもセキュリティ・ソフトはチャチな物でした、出来ればプロバイダを乗り変えることをお勧めしますよ」
「ちょっと時間は掛かりましたが、動画ファイルのオリジナルデータを取得しました」
それは翔一への裏切りの証拠、タカシ兄ちゃんにすっかり開発された女の性欲は、疼きを鎮められずに兄ちゃんとのプレイに昂っていた先週のものだ。兄ちゃんは必ずプレイを録画するし、あたしもその方がより興奮する。
結局、翔一と付き合いながらタカシ兄ちゃんとの変態セックスがやめられなかった。でも! なんでっ? そんな―――!
タブレットの中のあたしは、全裸のまま小手高に縛り上げられ、四つん這いで破廉恥なまでに剥き出しのお尻を高く掲げて、無惨に電動マッサージ機を求めてケダモノの様に吠え狂っていた。
「女子高生の正体見たり、クソマゾ雌ビッチ……と言う訳です」
翔一の眼は今まで一度も見たこともない冷酷非情なものだった。何故か屠殺される家畜の様な気分に身震いしたあたしは、ゆっくり薄手のゴム手袋を付ける彼の所作を非現実的なものとして捉えていた。
ゴム手袋をした方の手で口を塞がれるのに抵抗出来ずにいた。
彼がコートのポケットから取り出したのが小型のスタンガンだと分かった。
脇腹に走る激痛に全身が硬直するのを感じる間もなく、気絶した。
***************************
照明が落ちているので、昼か夜かも分からない暗闇の支配する部屋の中であたしとタカシ兄ちゃんの痴態が壁一面に映し出されていた。
あたしはまるで色情狂みたいに乱れて、嬉しそうに痴悦に歪んだ顔で画面一杯にサカっていた。さっきのタブレットと一緒で、モザイクは入っていない、獣のように繋がっているのがあたしとタカシ兄ちゃんだってはっきり分かる奴だ。
翔一にだけは絶対にバレちゃいけない奴だった。
あたしはもう何がなんだか分からなくなって、必死で頭を左右に振り続けた。
知られたくなかった変態プレイの関係を人知れず清算して、翔一と遣り直したかった。自分でも虫のいい願いとは思ったが、道を踏み外したばかりか馴染んでしまった性癖を隠し通して普通の生活に戻るには、もうこれしかないと思った。
その為にも、付き合い始めた翔一だけにはあたしの正体を見せてはいけなかった……騙したかった訳じゃない、でも本当のことを告白する訳にはいかなかった。
「別にね、アブノーマルセックスに溺れるのはいいんですよ、裏切ったり、不誠実だったり、嘘を吐いたりしなければね」
「更に言うなら、同級生の女の子にそういう可能性が無い訳じゃないってのも許せます、女子高生がケツ穴逝きするのが普通かどうかも含めて……ショックですけどね」
「でも、俺と付き合う振りをしてるのに、一方でのこれは酷い裏切りですよね」
「世の中には本当に、不倫だとか、寝取られ背徳セックスとか、貞操観念の緩い女の人が多過ぎます……“被害者の会”ってサイトを立ち上げました」
「ゆくゆくは攻勢の活動に着手する心算です……つまり、法的制裁に頼らず裏切った女達に直接、」
「復讐する組織です」
「醒めてみれば、なんてことない滑稽な悪夢でした」
「工藤さん、俺はあんたに礼を言わなくちゃならない、これで踏ん切りが付きました……俺は矢張り、騙されるより騙す側として生きて行きます」
「普通の人は裏切った相手に制裁とかは考えないかもしれません、また結婚もしてない相手に慰謝料とかも請求は出来かねるでしょう、しかしながら嘗められたまま終われないって男は、意外かもしれませんが結構多いんですよ、それだけ男の方が一途で、純情ってことですかね?」
「今考えているのは、行動部隊への指示とか、協力者への連絡とかも全てネットで遣ろうと計画しています、シンパは互いに顔を知らない方が良い」
「でも必要最低限の活動拠点、アジトは必要かなって、今資金を調達してる最中なんですよ」
「ここは仮の隠れ家で、廃工場跡です」
暗がりで良く見えないんだけど、淡々と話す翔一の声が震え上がるほど冷たかった。
身動き出来ないよう椅子に縛り付けられたあたしは、全てを剥ぎ取られた素っ裸でただただガタガタと震えるしかなかった。極度の恐怖と緊張で寒さも感じられない程だった。
「真田孝志さんを恨むのは筋違いとも思われましたが、こう言うのは理屈じゃありませんからね、お二人の素顔が映ってる部分を拾って強調し、入手した動画を編集しましたよ」
「絶対に経路を追跡出来ない方法で架線して、使い捨てアカウントからダイジェスト版の動画をお送りしました、貴女のご両親のお勤め先とか、孝志さんのお勤め先とか、ご実家の親戚筋とか……アドレスを調べ上げるのに苦労しましたが、その甲斐あって充分に効果を発揮すると思います」
「皆さん、笑って許してくれる程、寛容だといいですね」
「でもねぇ、映ってる内容がねえ、割とガチで変態のやつですからねえ、夫婦が趣味で奥さんのヌードを撮るのとは訳が違う、穴あきのラテックススーツとか細い鞣し革を縒って造る拘束具はお遊びじゃ無い、完全にマニア向けの物でした」
あたしはもう、怖くて、心細くて、一糸纏わない恥ずかしさも、括られた手足の痛みも気にならない程ブルブル震えながら、悲鳴を上げることも忘れて泣き出した。涙が止め処なく溢れて、頬を伝い、首を伝い、胸を伝っても止まらなかった。
「でも、心配しなくても大丈夫ですよ、貴女を非難する知り合いの人達に、あんたはもう二度と会えませんから……」
「御免なさいっ、御免なさいっ、騙すつもりじゃなかったんです、どうか酷いことはしないでくださいいっ、謝ります、あたしの出来ることは何でもしますっ!」
死の恐怖に捕われたあたしは混乱し、生き延びたいが為に必死で懇願した。
「あぁ、誤解させちゃいましたかね、殺したりなんかしませんよ」
「……死んだ方が遥かに増しだった、そう思えるぐらい苦しんで貰いませんと、腹の虫が治まりません」
「やめてええっ、家に返してえええっ、ほんとに、本当に何でもするから、一生掛けて償うからあああっ!」
声を限りに叫んでいた、そうしないと恐怖で気が狂ってしまいそうだった。
嘗ての翔一はそこに居なかった。居るのはあたしを虫螻の様に見下す、冷血な見知らぬ男だった。
「今更謝って貰ってもねえ……同級生の男子とお子ちゃまデートする裏で、雌豚の情痴を繰り広げてた訳ですから、結局バレなければ何でも有りってことでしょ?」
「ちがっ、違うのぉ、本当に好きだったのは翔一君、貴方だけだった、ほんと、本当よっ」
「あたし馬鹿だっ、馬鹿だった、身体の快楽なんかに溺れて抜け出せなくなったのおっ、翔一君だけが真面な恋愛の救い手だった!」
あたしはその瞬間、本当に自分の罪を悔いた。バレなければ何でもあり、本当にその通りだ……あたしは翔一君の純情を踏み躙った。
あたしは、あたしの罪を償うべきだ。
浅ましい了見からすっかり薄汚れて仕舞ったあたしの思春期を取り戻したかった。でもあたしの身勝手な願いから巻き込んでしまった翔一君に、あたしはどうやって償えばいいのだろう?
「……でもね工藤さん、俺の唯一の純情だった部分を弄んでくれた代償は、あんたが考えているよりずっと高くつきます」
「俺と言う男をたらし込んだのは、拙かったですね……実に運が悪かった」
「覚醒剤漬けにしてソープに沈めるか、足が付かないよう海外に売っ払うか、色々プランはありますが、まずは素顔のレイプ動画を拡散用の裏サイトにアップします、孝志さんのぬるいお遊びプレイじゃなく、本物の陵辱輪姦プレイです……工藤さん、それであんたの人生は終わる」
「二度と表の世界に戻ってくることは出来ないでしょう」
「何、心配しなくてもすぐにヨクなりますって、穴と言う穴を抉られた大抵の女はこの世の天国と呻いて、もっと犯してくれと自分からせがむようになります」
これからの逃れられない運命に、あたしは絶望して目の前が真っ暗になる錯覚に捕われていた。
快楽に溺れたあたしに、なんて相応しい罰なんだろう……ぼんやりとそう思った。正気でいられる、これが最後だった。
***************************
工藤は、死に掛けの冬の蛾の様に惨めな姿を晒していた。
男達の出したザーメンにまみれて何時間も陵辱され抜かれた後だ。
「拉致に使った盗難車両は既に処分した、経路の防犯カメラは一時的に具合が悪くなってる、周到に計画したからな」
陵辱メンバーと一緒になって責め抜いた工藤に話し掛けるが、聞こえているのかいないのか、もう虫の息だった。
「ところでさあ、何で俺なんかに声掛けたの? 何かのゲーム?」
俺なんかに粉掛けなければ、こんな目に合わなかった運の悪い工藤美由紀に最後に声を掛けた。蚊の鳴くような小さな声で、彼女が何か呟いていた。
(普通の青春がしたかった、ただそれだけ……ゴメンね、ほんとうに御免なさい)
「親に内緒で乳首にニップルピアスまでしておいて、よく言うよ」
「もう戻れない壊れた倫理観のシンボルを受け入れた時点で、アウトでしょ」
「俺にそのキズモノの身体を見られたらどうする気だったの? 馬鹿なの?」
最後の謝罪も俺には響かなかった。どうでもいいな……
それからの俺は、嘗て思い描いた世の中の女達に復讐するための組織、“メガイラ”を立ち上げた。ギリシャ神話に登場する復讐の3女神エリーニュスの一柱で、“嫉妬する者”を意味する。構成メンバーはプロの犯罪者も居たが、多くは会の趣旨に賛同した者達だ。
手当たり次第に、女を堕として行った。
看護婦、デパガ、お嬢様系の女子大生、主婦、高校教師、金融系キャリアウーマン、セレブな人妻、化粧品メーカーの美容部員、ブティックの店員、何でも御座れだ。
身持ちの堅そうな女、緩そうな女、どっちも一皮剥けば皆同じ淫獣だった。
ちょっと背中を押してやるだけで、皆、快楽に溺れた。
一年ほど過ぎた頃、行方不明だった工藤美由紀が奇跡的に東南アジアで身柄を保護されたが、廃人同様の状態だったようだ。多分、健常体への復帰は難しいだろう。海外に流す前に薬と催眠暗示で記憶をブロックしたので、自分の名前を思い出すかさえ怪しい。
大学2年の夏、渋谷のスクランブル交差点で腹を刺されて現世での死を経験する。刺した相手は、見たことも無い中年の女だったが、俺達のせいで身を持ち崩した女の一人かと思った。
微かな記憶を辿って思い出した顔は、何処から嗅ぎ付けたのか工藤美由紀の母親だった。
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「小さい頃のドロシーれすか?」
馬に揺られながら、メス豚従者のステラに昔の話を訊いていた。
飲んだくれでだらしないこの女は、昼間から酒の臭いをぷんぷんさせて、多少呂律があやしかった。
「そうれすね、お医者さんごっこが好きで、よく私の弟のパンツを脱がしてました」
「くくくっ、子供の頃からスケベだったのか」
「いえ、人の嫌がることをするのが趣味だったというかぁ、わざと人前でゲップやオナラをして小母さん……母親に叱られてました」
母親か……ドロシー達にも当然、女親がいる訳だ。
今のこいつらの色気違いっぷりを見せてやれば、さぞや腰を抜かすことだろう。心臓が弱ければ、もしかしたらそのまま悶死しちまうかもしれないな。
……そう言えば、離宮に置いてきた家政婦長のイリアは、何処とは言えないが、何故か母性を感じさせる女だった。
王宮内の別邸を譲り受けて、身の回りの世話をする者を殆ど女で固めた。
女官やメイドなどの使用人もハーレム要員にして、片っ端から犯した。興が乗れば夜昼構わず乱交状態だ。
あるとき、商業組合の斡旋所からの紹介と、40絡みの取り澄ました中年の女を連れてきて、家政婦長にどうかと、俺付きの大臣が推薦してきた。
どうも、女中達の纏め役が必要だと考えていたらしい。
小母さんはピンと伸びた背筋が如何にも物堅そうだったが、男好きするような容姿だった。
その日の内に、既婚者だという小母さんとセックスした。
手足が長いからか、それ程ふくよかには見えないが、乳房も尻も大したものだった。少しダブついてきた脂肪が程好い抱き心地で、お袋と遣ってるような感じがして、俺は興奮した。肌の色も、ハニーブロンドの髪の色も瞳も日本人には似ても似つかないが、何故か中年の小母さんはお袋を連想させた。
イリア・コーネリアスは、以来俺のお気に入りになった。
余り相手にする機会は多くはないが、家政婦長は俺が命ずれば、その場でドロワースを脱いで、尻を剥き出しに卑猥な言葉で挿入を強請った。
自分でそこを淫猥に弄って、イヤらしく水音をさせ、誘った。
仕事熱心な小母さんだったが時には昼間から人目を憚らず、好い聲で哭いたが、行儀作法に煩い小母さんは声を嚙み殺すのに、自分の脱いだ下着を噛み締めてヨガリ声を耐えた。
こっちの世界に来る切っ掛けになった工藤美由紀の母親の顔が、思い出せたのは、俺の中にも少しは残っている暖かい家庭、決して裏切らない肉親、信頼と誠実、帰り着くべき我が家への憧れが、呼び水なのか、想起し連想させる匂い(?)、となって閃いた為だろう。
現に刺された瞬間は、あのとき多く手掛けていた“久し振りの同窓会で盛り上がり、酔った勢いで不倫して仕舞う人妻の証拠写真を突き付けて、更なる肉便器地獄に突き落とす”って言う俺達の制裁プロジェクトの被害者の一人かと思った。
美由紀が失跡した後、所轄の警察署から刑事が学校や交友関係の有った生徒達の家庭に聞きこみに廻った。
不特定多数にはバラ撒かなかったにもかかわらず、曝露された未成年淫行動画の噂は瞬く間に広がって、噂に尾鰭がついて風評被害が出るは、面が割れたタカシ兄ちゃんとやらの実家の財閥がバッシングされるは、社会問題に発展しかねない始末だったから、所轄署としても放ってはおけなかったんだろう。
俺は大っぴらではなかったが、付き合っていた彼氏と言うポジションから、美由紀の自宅に呼ばれて、彼女のご両親と揃って事情聴取を受けた。あらかじめアリバイ工作はしてあったから問題は無いが、彼女の母親の落ち込み様が哀れで、思わず同情して仕舞った。
俺は一緒になって本気で心配している演技をした。
暴かれたガールフレンドの素行に、怒り心頭に発したボーイフレンドが犯行に及んだ、ってのが警察が考えそうなことだから、立ち位置は完璧に繕ってある。何等かの犯罪に巻き込まれた彼女の、裏の顔はまるで知らなかったって言うスタンスだ。それが、良い子の日常ってもんだろう。
俺んちの家庭環境がネックだったが、旨く誤魔化した。
母親の方には何の落ち度も無い。
俺のことまで心配して慰めてくれる善人だが、しいて言えば子供の監督不行き届きかな?
あの人も、あの身近な者達が演じるポルノムービー……自分の娘と家庭教師の不純異性交遊の記録は見た筈だから、悪いのは自分の娘だと分かった筈なのだが、それでも尚我が子は可愛いのだろうか? あれを見ても尚且つ我が子を盲目的に信じれる程、親子の愛は、絆は、強いというのだろうか?
あんなに憔悴する程愛されていた美由紀が、俺は少し、羨ましくはあった。俺の親はあんなに取り乱したりするだろうか?
だからと言う訳ではないが、自業自得の彼女の家庭を滅茶苦茶にして遣ったのは、それはそれで満足だった。
以来、母親と言う人の顔も名前も忘れてしまった。
腹を刺されるまでは………
「トキオ様、如何されましたか?」
肉便器従者として付き従う3人の内、エルフのエリスが俺の方を心配そうに窺っていた。魅了されているとはいえ、こいつらの乱れっぷり、肉欲セックスへの依存っぷりは半端じゃなく、俺でさえタジタジとなる激しいものだった。
「いや、何でもない……ところでお前達のボンレフ村とやらはまだなのか?」
昔、一度来たきりなのでさっぱり記憶に無い。
「トキオ様、申し訳御座いません、既にこの果樹園はボンレフ村のものなのですが、村の中心地、集落はもう少し先になります」
昨晩も乱れに乱れて、すっかりアヘ顔を晒す肉奴隷っぷりが板に付いてきたドロシーが騎乗から振返って申し訳なさそうに詫びてきた。
道すがらの野営では、現地調達の村娘達を交えて3人共俺の怒張を受け入れ、端無い嬌声を辺りに響かせていた。
俺のハーレムメンバー達と一緒に有力貴族連中への貢ぎ物として差し出すパーティも、回を重ねるごとに盛況は下種な方向へと流れ出したが(獣姦とかゲテモノ系のアトラクションだ)、別に嫌がる素振りも無く、悦楽に溺れる今の境遇を心の底から楽しんでいた。
「お前達の、幼馴染の……何て言ったか、樵夫クンの男は居るんだろうな?」
「大丈夫だと思いますよ、この時期は山林の間伐と羊追い牛追いぐらいしかすることが無いので村を離れることはありません」
「こんな辺鄙な村では他にすることもありませんしね」
偶々指名従者の3人の出身地、クラン県の近くに遠征に出て、いつもの遊びを思い付いたからちょっと寄り道をする気になった。
託宣に従って訪れた地で、ステラ、ドロシー、エリスの3人を召し上げたのがつい昨日のことのようだ。最初は渋るドロシー達を王命として、半ば強制的に連行したが、王都への道すがら魅了のスキルに転ばせるのは実に他愛なかった。ドロシーなどは、幼馴染との婚約指輪をドブ溝に抛った程だ。
土台、魔王を討つなどと今の人類側勢力にとっては夢のまた夢。
シェスタ王国でも、本気で魔族領侵攻を考えてなどはいなかった。ただそういう姿勢を示しておかねば人間側勢力の仮想敵に向ける一丸となる結束が弱まってしまう……ただそれだけの為の、扇動用デマゴギーだ。
勇者などは宣伝看板に過ぎない。
しかし一部の内戦地帯を除けば、おおよその諸国の軍隊や騎士団、近衛師団、対魔族連合軍の練度を維持するには実戦を繰り返すしかない。やはり仮想敵は必要なのだ。
「ソランにこれ見よがしに、あたし達のセックスを見せ付けるのが楽しみですね、今から興奮して濡れちゃいます」
「あいつ、ヘナチョコメンタルですから、泣いちゃうかも知れませんね」
村を発つときにドロシーの婚約者と言う男が居たのを思い出し、その男の前ですっかり寝取られて心変わりしたゲス女達の派手な喘ぎっぷりを、拝ませてやろうという算段だ。
確か、ステラに取っては血を分けた実の弟、訊いたところではエリスも惚れていた相手らしい。楽しいイベントになりそうだ。
将来を誓い合った娘達に裏切られ、寝取られてしまった女達が性的に征服され身も心も奪われてしまっている悪夢のような現実を知ることになる幼馴染クン……人生に絶望し、二度と信じられなくなった世の女共に復讐でも初めてくれれば、負の連鎖としては御の字だ。
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「復讐の女神ネメシスは、私の願いを聞き届けてくれた」
抱き合う女が胡乱な声音で囁くのに、あらためて相手の町娘の顔をまじまじと直視してみた。快楽に歪んでいる筈の表情は微塵も無く、冷めた眼をしていた。
深いミッドナイトブルーの蒼玉に似た藍色の瞳だ。
「宮廷貴族のギブレー男爵にアザレアって言う娘が居たのを覚えているか? ……お前が魅了のスキルで手籠めにし、ゴミのように捨てた女だ、王都を追われ行方知れずになった」
「私はギブレー男爵がパーラーと言う下女に産ませた庶子だった、嫡出子として公には出来ないが、幼い頃の姉だけは私に家族として接して呉れた」
そう言われてみれば、この容姿には見覚えがあるような気がする。
「油断したな、女神ネメシス様に賜った勇者デバフのメダイには、危機察知、状態異常反射などの勇者の恩恵を総て無効化する呪が掛かっている」
女の胸元に妖しく光る楕円のペンダントトップは、この世界の女神教の信仰対象とする女神の御姿とやらを写し取っているのだが、門外漢の俺にはそれが何の女神だかは見分けがつかなかった。
「女、復讐か?」
身の危険を感じた俺は、覆い被さる女の首に手を掛けた。幾分黄み掛かったブロンドの髪が首筋に這う。
「無駄よ、ご自慢の身体能力超向上も今は使えない……今なら反王政派の抵抗運動グループで赤軍パルチザンの非合法活動をしている私の方が膂力で勝る」
「ただの復讐じゃない、多くの因習に囚われた王国は唯一の決め手である勇者を失うことに依って、長年の封建主義を見直さざるを得なくなる」
「その為に、私は刺客を買って出た」
気が付くと女は、下から四肢を絡ませ、俺の動きを封じるようにホールドしていた。
「覚えておけ、暗殺者エイプリル・カムシー・ウィル、お前を滅ぼす者の名だ」
グボアッ、ガハァッ!
女は白い光に包まれたと思ったら、一瞬で燃え尽き炸裂した。勇者スキルで硬化されている筈の俺の腹をも撃ち抜く程の勢いだった。肉体錬成のスキルから即死は無かったが、却って俺は細胞のひとつひとつが悲鳴を上げる程の未曾有の激痛に見舞われていた。
おそらく、ここからのダメージ回復や蘇生は幾ら勇者の恩恵でも在り得ない、と何となく俺にも分かる。自分の身を犠牲にして、俺を葬ろうとしてくる奴等が居ようとは想像もしていなかった。
改心して、一度死んだ人生を遣り直す気にもなれなかったから、前世と同じく女を漁り続けた強欲まみれのオマケの舞台だったが、どうやらここで幕引きだ。上手く踊れたか未練はあるが、俺だけが我が儘を言って通用する程、世の中甘くはない。
いや、死に際迄自分の気持ちを偽っても仕方がな、い、な………
し、正直俺は、裏切った美由紀に復讐する為、目の敵にしてきた信頼を裏切る女達を悲惨な目に合わせてやる為、い、今の今まで生きてきた。
第二の人生を手に入れても、凝り固まった“所詮、女なんて”って気持ちを捨てられずにいた。
心の底では救われたかったのかもしれない。
あのとき俺が、もっと違った選択をしていれば、み、美由紀と遣り直す道もあったのかな……もと居た世界で美由紀はまだ生きているのだろうか?
自分の遣ったことながら、安らかに眠れる夜を過ごしているのか気になった。
正気が戻っているとしたら、それはそれで悪夢に苛まれていなければい…い、が………
血の海になったベッドで横を向くと、極彩色の熱帯魚が泳ぐ、あまり大きくない水槽が目に付いた。ここはこんなに寒いのに、ね、熱帯魚はげ……元気そ……う……だ………
小さな頃に、お袋が作って呉れたホットミルクは、シナモンと蜂蜜が入っていて優しい味だった。
お笑い要素の1mmも無い、重苦しい回になってしまいました
物語りの発端となる、魅了・催淫で多くの女を惑わせ、人生を狂わせたド外道勇者の最期を描いています
どうしてこのような人間が出来上がったのか、どのようにして人格形成が歪んでしまったのか……悪党には悪党の理屈がある
とまでは言いません、口幅ったいようですが所詮道を踏み外すか外さないかは本人の正義感との真摯な対話だと思っています
しかし心が弱くさもしいのは、何も千早翔一だけに限った訳ではありません
私達も異世界召喚されたら、ひょっとしたら大いに狂ってしまう可能性を否定できません
人間の心とは、リアルに、その程度には弱いものと思います
ほんの少しばかり本作の主人公、ドロシー達が出てきますが、頭がピンク色のお花畑だった時点ですね
この後のソランへの仕打ちは次章で描かれる予定ですので、行き過ぎた表現箇所が無きよう、よく吟味して念校する予定です
流石に650000字近くまで行って、18禁サイトへの移行を勧められると悲しくなるので………
カイゼル髭=伸ばした口髭を油や蝋で固めて左右を上へ跳ね上げて逆“へ”の字にしたもの
ゾディアック・サイン=アストロロジカル・サインは西洋占星術などのホロスコープを用いる占星術において、黄道帯を黄経で12等分したそれぞれの領域/黄道帯〈zodiac〉とは天球上の黄道を中心とした惑星が運行する帯状の領域である/12のサインを合わせて十二宮や黄道十二宮と言う
ウォールナット=チークやマホガニーと共に世界三大銘木のひとつに数えられ、1660年から1720年にかけヨーロッパ市場ではイギリスデザインやウォールナット種の製品が大変な人気を博し、ヨーロッパ家具の歴史では「ウォールナットの時代」と呼ばれるほど持て囃された/木質は重硬で衝撃に強く、強度と粘りを有し狂いが少なく加工性や着色性も良いという特性を持つので、落ち着いた色合いと重厚な木目から高級家具材や工芸材に用いられてきた
ウォード錠=古代ローマでその原型が作られたと言う錠前で、現在でも南京錠や簡単な鞄などの錠に使われている/錠の内部にウォードと呼ばれる障害が設けられており、正規の鍵はその障害に当たらずに回転できるような形状になっている
レディーズ・メイド=別名ウェイティング・ウーマンと言って女主人の寝室での世話、衣装選びや着付け、髪結いや旅行の準備など全ての事柄に気配りをしたり、女主人がディナー・パーティーや舞踏会に出席すると夜遅くまで起きて待っていなければならなかった/女性使用人の中でも別格の位置付けだったが、この職に就くには針仕事や帽子作りの技能を要した
ハウスキーパー[家政婦長]=ナニー、ガヴァネス、レディーズ・メイドの三者を除く台所担当及び全ての女性使用人を管理・統括する役回りで、食料品貯蔵室の鍵を預かり管理もしていた/リネンと高価な陶器の管理も任されており、自分の部屋と鍵がかかる戸棚とシンクを備えた小さな陶器部屋とは繋がっていた/私室は仕事部屋も兼ねていて、そこには奥行きの深い高棚と床から天井まで届く戸棚があり、保存食品、ピクルス、スパイス、極上の食品、菓子、砂糖、ビスケットが置かれていた
ヘッド・シェフ/コック=一般には女性のコックが雇われていたが大きな屋敷には男性のシェフがいた/女性の料理人はハウスキーパー同様、独身であっても常に「ミセス」の尊称付きで呼ばれていた/
仕事はその名の通り料理人でキッチンの最高責任者でありキッチンメイド、皿洗い女中達を統括していた
チェンバー・メイド=女主人の寝室の掃除、ベッド・メイキング、女主人の服装の世話をした/レディーズ・メイドと役割が重なる部分もある
ナニー/ナースメイド=貴族の女性は子供を産んでも胸の形が崩れるから、社交に忙しいからという理由で母乳を与えることから下の世話に至るまでナニーに任せきりだった/また田舎の健康な女性の方が乳の出も良く、丈夫な子が育つとしてナニーに頼っていたが、子供が乳離れした後の面倒を見るナニーもおり、子供の朝食を作り、子供に規則正しい生活を守らせ、子供にきちんと喋らせ、行儀振る舞いを厳しくしつけることが要された
ガヴァネス=ナニーやベビーシッターと異なり、子供たちの身の回りの世話をするのでなく専ら教育に従事する役回りで、その対象は乳幼児でなく学齢期の児童である/彼女らはまた、中流婦人に期待される「教養」もその生徒たる若いレディに教えたが、それは例えばフランス語その他の外国語であり、ピアノなどの楽器であり、また絵画〈通常、油彩よりもより上品な水彩画〉などであった
コンパニオン=上流階級の女性の話し相手をするのが仕事で、中流階級出身の女性がこの任に就いた/ガヴァネスと同じく常に供給過剰状態だった
シャペロン=若い未婚の女性が外出する時、もしくは社交場に出る時に付き添いをした職業/多くは年配の婦人で社交の行儀作法が守られているかを監督する目付
ファースト・キッチンメイド=コックの下で料理の手伝いをする女性使用人で毎朝7時までにキッチンに入り、鳥の翼と足を胴体に串で固定するのが仕事/また料理の手伝いや様々な料理の下拵え、アイスクリーム、ソースを作り、子供部屋に出す食事や使用人の食事も作った
スカラリー・メイド〈皿洗い女中〉=大抵の場合、女性が初めて屋敷に奉公に行くと最初に就く仕事は下っ端のハウスメイドか皿洗い女中だった/持ち場は食器洗い場で仕事内容はキッチン道具のこすり洗い、床や棚磨きから鳥の羽根むしり、猟獣の皮を剥ぐといった雑用までもこなし、キッチンメイドの数が少ない時は野菜を洗い調理した
スティルーム・メイド=ハウスキーパーの下に就き、レンジや菓子製造用のオーブンがある食品室で働いていた/ここでハウスキーパーと共にジャム、ケーキ、ビスケット、紅茶、コーヒー、清涼飲料水、屋敷で採れた果物や花々の砂糖漬けなどを作った
ハウスメイド=一般女中とも言われて仕事範囲は多岐に渡り、使用人が食事や休息をとるサーヴァンツ・ホールで食事の手はずを整え、時には主人役も務めた/また家具を磨くなど館全体を清潔にし、様々な雑用をこなした
パーラー・メイド=食卓を整え、給仕を行い、訪問者の到来を告げたりした
プロクシー[Proxy]=インターネット関連で用いられる場合は、特に内部ネットワークからインターネット接続を行う際の高速なアクセスや安全な通信などを確保するための中継サーバ「プロキシサーバ」を指す/安全な通信として外部ネットワークからのアクセスは全てプロキシを経由して各使用者のパソコンなどのクライアントに届くようにすれば、プロキシが通信内容をチェックすることでクライアントが外部ネットワークに直接晒されなくなり、不正アクセスや侵入行為が困難になる
VPN=仮想専用線[Virtual Private Network]:大規模ネットワークのスケールメリットと管理設備を利用するために、パブリックネットワーク内に構成されるプライベートネットワーク/インターネットや多人数が利用する閉域網を介して、暗号化やトラフィック制御技術により、プライベートネットワーク間があたかも専用線接続されているかのような状況を実現するもの/近年の電気通信インフラの形態の傾向などから、IP網〈特にIPv6網のことが多い〉ではあるが、通信キャリアの閉域網内から外に出ないで実現されているVPNも運用されるようになってきている/トンネリングの形態として、IPパケットを融通する、いわゆる「レイヤ3」で実現する方法と、イーサネットのフレーム等を融通する、いわゆる「レイヤ2」で実現する方法がある
シンパ=ある人物や団体の政治的思想に賛同し信奉者となった人のことをさす言葉/シンパサイザー〈Sympathizer〉の略で共鳴者、同情者の意味が転じて影響力のある人物、団体の信奉者、支持者、賛同者等々の類語と同じような意味でも使われる
アカウント[account]=ユーザーがネットワークやコンピュータやサイトなどにログインするための権利のことで、ユーザーに割り当てられたアカウントをユーザーアカウントとも呼ぶ/ネットワークにログインするためのアカウントや電子メールを送受信するためのアカウントなどがある
デマゴギー=デマゴーグ〈独: Demagog、英: Demagogue〉は古代ギリシアの煽動的民衆指導者のこと/民主主義社会に於いて社会経済的に低い階層の民衆の感情、恐れ、偏見、無知に訴える事により権力を得かつ政治的目的を達成しようとする指導者を言う
応援して頂ける、気に入ったという方は是非★とブックマークをお願いします
感想や批判もお待ちしております
私、漢字が苦手なもので誤字脱字報告もありましたらお願いします
別口でエッセイも載せましたので、ご興味のある方は一度ひやかしてみてください
短めですのでスマホで読むには最適かと……是非、通勤・通学のお供にどうぞ、一応R15です
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