お昼にラーメンを食べたかったステラ姉が、エリスに却下されていた
基礎体力を増強する鍛錬をやっていた頃、太り易い体質のステラ姉が師匠に脂肪を落とすよう厳命されていました。
ある日、師匠が所属機関の別任務で出向し、3人は自主練になります。
普段はあっちこっち転々とする強化キャンプのベースには居ませんので、訓練地先での模擬戦闘用レーションですが、今日はいつもお風呂を使わせて貰ってる師匠のお宅のメインダイニングでお昼をすることにしました。
ステラ姉はラーメンが食べたかったのですが、メンバーのカロリー管理を任じられているエリスに却下されて仕舞います。
師匠のガレー船の士官用トイレにやって来ていた。
師匠のスパルタ式健康法のお蔭なのか、ほぼ便通は毎朝一回だけだった。
王宮を追われて彷徨ったときもそうだったが、今のキャンプ生活でも毎朝のお通じは草叢に穴を掘って埋めた。師匠からは、掘って、出して、埋めるまで3分と言われている。
およそ戦士たるもの、用足しの最中に敵に刺殺されるなどという不名誉はあってはならないらしい。
ガレー船のトイレは綺麗な真水の水洗だった。
生活排水の再利用でもなければ、海水でもない。
最初使ったときも、あれれぇ~っ、と思ったが、客船と違い無補給で作戦行動をするかもしれない本来貴重な筈の軍船上の水を、これだけ使いまくれるのは、貯水槽に無限に水が湧く宝珠があるのか、どこかの水源に次元チューブを繋げているのか、あまり詮索しない方が良さそうだった。
ところで、巻き髭導師の健康管理だが、最近は歯磨き指導まで受けていた。
歯間ブラシは2種類を使い分ける。ペンシル持ちの歯磨きの仕方など、それまで私達は知らなかった。
トイレに併設するパウダールームの大きな鏡は、歯磨きに最適だった。
迷い海、とやらを目指して“蛮族の鉄槌号”は航行していた。オールは自動航法の第四船速では固定されたままらしい。
今は最上部デッキに仮設した折り畳み式のフレームプールから、ミツコと、ミツコの母親に航路を見て貰っている。
彼女達には、渡り鳥のような特別な方向感覚があるらしかった。
ラグーンの村でも実際に沈んだ巨大な遺構を目にした者は少なく、盗掘グループを束ねるミツコの母親、名をシラセと言ったが、その“連”と呼ばれるグループから精鋭を選抜して、海底に沈んだ“黄金の御座船”かもしれない何かを調査しに遠征する際はほぼ毎回指揮を執っていたらしいのだが、それでも自らの眼で確認出来たのはたったの一度切りとのことだった。
今では、そこまで潜れる機材も制限されている状態だが、何とか近付きたいと思っているそうだ。
ミツコもそんな母親の後を継ぐべく、遠征には毎回参加している。
「ほんに、ドロシー様はよお似ておられる、まるで生き写しじゃ、わちきは祝女として祭祀も司るので、本宮内に安置されたイコンの御姿も目にしておりますが、まさしく瓜二つでおじゃりまする」、シラセと顔を合わせる度に褒めそやされるので、もう反駁するのも諦めた。
巫女頭も務めるミツコの母親は、年齢に反して若々しく見えるが、釣鐘型の乳房は母性を感じさせるものだった。
ミツコと同じ青い瞳と椿油が香る金髪で、ミツコとよく似た顔付きをしている。つまり、美人だ。
……郷に入れば郷に従えだが、ここの女達は胸を隠すと言う風習が無く、里帰りしたミツコも元の習慣に戻って仕舞った。
「母上、わたくしも、初めてお会いしたときに、深く感じておりました、この方こそが救世主様だと……」
あぁ、もう二人とも、私は処女神どころか、色情狂で、背徳的な性依存症で、最低の姦淫の罪を犯した雌犬だったんだよ。これ以上、勘違いすると、本当に天罰が下るよ。それでも、いいの?
「みんなぁ、お昼にしましょう?」、ステラ姉とエリスが師匠の轟天号、バーバリアン・アタッカーの展望テラスにワゴンを押してきた。
展望楼には士官用と思われる幾分小さめの厨房が別にあり、電子調理器具をはじめコンロも水場も遥かに使い易かった。備品に圧力鍋があったので、鮑と干し貝柱の即席中華粥を作ってみた。
師匠も使い勝手の良いキッチンの方を最初に教えて呉れれば良いものを、何でここまで私達の自主独立性にこだわるのか、まったくの謎だ。
その師匠は複雑な星読みや、海図を示す幾つもの魔道具で埋め尽くされた操舵室で、すっかり手脂の滲み込んだ舵輪を、一人、握っていた。
ほぼオートパイロット任せなのに、咥え煙草で、竜舌蘭から造る強い蒸留酒の瓶をラッパ飲みして陣取っている。
「ねぇ、よく煮込んだ中華粥ってポタージュみたいだよねっ」
「本当は鋳物鍋でコトコト煮込んだ方が美味しく出来るんだけどね」
「昔、王都の中華街で食べたのは、調味料臭かった……」
「この揚げパンの油条は私とエリスで作ったの、よかったら一緒に食べてね、千切ってお粥に乗せるといいわ」、ステラ姉が親娘にも勧めていた。
皆んなでニコニコ笑って、中華粥を堪能した。
蓮華が無いので銀食器のスープスプーンを代用しているが、ステラ姉の用意したペイズリー柄のゴブラン織りランチョンマットが、深めの金襴手風スープ皿にマッチしていい感じだった。
オケアノスを強襲した夜、街中に遅くまで営業していた台所用品を扱う店を見つけたステラ姉が、目敏く、手当たり次第に色々仕入れてきたのだ。
生活雑器で暮らしを彩る……そう言ったセンスはステラ姉には敵わない。私達にあんなことさえなければ、誰よりもいいお嫁さんになれた筈だ。
現に、私の知る限り、出奔する前のボンレフ村の青年団では結婚したい女、ナンバーワンだった筈だ。
しかも、肌を見せたくないエリスに倣って私達もウェットスーツ姿だったが、ステラ姉だけ異常にグラマラスなのはちょっと悔しい。
残念ながら、火事場泥棒同然にくすねてきたキッチン雑貨屋には蓮華やライスボウルの和や中華食器は無かったが……
厨房にミキサーがあったので、デザートに杏仁豆腐を作ってみた。杏子の種が無かったので代用したらアーモンドブラマンジェみたいになってしまったが、枸杞の実を乗せるとそれっぽく見えた。
あぁ、思い出した。エリスがハムハムと食べていたのは、幼い頃に皆んなで焼いたアーモンド・ガレットだったっけ。
今更ながらだが、レセプションホールで状況を開始する前に感じていた既視感の正体に思い至った。
ステラ姉がポロポロ零すエリスを見るに見兼ねて、甲斐々々しく世話をしていたっけ……今は戻りたくても戻れなくなった村での何気ない出来事が、切なくて、苦しくて、無性に懐かしい。
少し離れたところで、燕尾服の水銀髑髏弦楽四重奏団が、食後のプーアル茶を喫する私達を慰撫するように、心地好い調べを奏でていた。
師が、気を利かせた積もりか、そんなんでも不遜に客人を持て成している積もりなのか、良く分からないながら、安らぐひとときだった。
師匠と初めて出会った日に、この名も持たないカルテットとも出会っている。
耳の良いステラ姉に言わせると、彼等の演奏は超絶技巧で、完璧なゆらぎを生み出しているのだとか……
今は、私達が好きで多くリクエストしていた異世界の曲で、“韃靼人の踊り”からアレンジした“娘達の踊り”という曲を奏でていた。戦利品として略奪されて来た娘達が歌い踊るという健気な曲調が、気に入っている。
「皆様、本当に美味しそうに召し上がりますね」、ラグーンの村落で人魚頭の任にもあるシラセが、私達の食卓を評して素直に感想を述べた。
「……生き延びる為に、食うや食わずで彷徨っていたことがあってね、こうして何気無く普通に食事出来ることが、以来、凄く有り難いんだ」、本当はもっと悲しいことがあるのだけれど、それでもステラ姉達と食卓を囲めるのは掛け値なしに嬉しいことなのだと思う。
勇者チームでの面妖で胡乱な淫虐と倒錯にまみれ、破廉恥な交合に溺れた日々、王宮を放逐されて最底辺を逃亡し、安寧を追われ軽蔑と汚辱にまみれた日々、導師に拾われたはいいが、極みともいうべき疲弊と限界を突破し、繰り返される非日常的な日々を通じて、仲間達と語らいながら美味しいものを食べ、何気ない雑談に心和む、そんな今の時間が、例え仮初だとしても、とても貴重な掛け替えのない……とても大切な、宝石のように光り輝く宝物なのだ。
「ご苦労されたのでおじゃりますか……?」
「いやいや、身から出た錆、当然の報いといえば報いですから」、笑って答える私に、何を思ったかそれ以上はシラセもミツコも、詮索しないで呉れた。
自然に笑えていただろうか?
まだ他人に己等の罪科を、屈託無く告白出来る冷静さは持てずにいた。
複雑な海流に阻まれるラインを超え、問題の地点の上空にやって来た。
航路管制室では自動的に天球儀や魔道の複雑な海図記録装置などが記録を開始していたし、観測室が音波や霊脈解析装置、精霊波動による探りを入れていたし、中央に据えられた透過用の水晶球が海底を映し出そうとしていた。
師は、アンモナイト型の探査使役獣を何体も投下した。
「見つけたぞ……」、操舵室の上階、コントロール室の多面体モニターを、見詰めながら、くだんの構造物らしき映像を確認していた。深度4000メートル程の地点だ。ここまで来ると、陽の光は全く届かない。
探査使役獣は、増感とサーチライト相当の光源を発していた。
「行くぞっ、付いて来いっ!」、言うが早いか、師匠は展望楼最下層まで貫いた滑り棒で一気に下って行く。
「えっ、えっ? ちょっと待ってよ、……ミツコはどうする?」
抱きかかえてコントロール室まで連れて来たミツコに問うてみる。
「行くに決まっておじゃる、わちきらの潜航艇が役に立たぬ今、この目で見れる機会を逃す筈も無しっ!」、答えはステラ姉にかかえられた母親のシラセの方から返ってきた。呼応するように、ミツコが黙って頷く。
遅れが許されないのは、日頃の訓練で染み付いている。私はミツコを背負い直すと、初めて使う滑り棒にしがみ付いた。
着地するとき加減が分からず、足裏で凄い音を立てて仕舞った。瞬時に強化したが、両足がジンジン痺れている。ガニ股になって耐えていると、上から早く退けとエリスに罵声を浴びせられ、間一髪で横に縮地で飛び退く。
振り落とされないよう促していたから、ミツコの両腕で絞められた首が酸素を求めてヒューヒュー鳴った。
見ると、師匠は既に潜航艇ハンガーに通じてるであろうスクランブル・スライダーの乗車口に佇んでいた。
「このコクーンは一人乗りでな、直接潜航艇内に乗り込む、ちょっとGが掛かるからその積もりでな」
師匠が手ずから人魚母娘の自動フィットタイプ・ストラップベルトを調整し、緊急乗船用の棺桶みたいな耐衝撃コクーンのカバーを手早く閉じた。
シュッと言う圧搾空気とチャージ型磁力推進で打ち出される音は一瞬で、圧倒的なスピードの割に意外と静かだった。
潜航艇内部の非常搭乗口のコクーン架台から、母娘を運び出すときには二人とも顔が蒼褪めていた。
艦内は狭く、操縦席、副操縦席の前席コックピットの他は、戦術哨戒卓や警戒監視卓、魔道炉機関調整卓、火器管制卓他の様々な計器類や小型モニター、レバー、スイッチ類に埋め尽くされた搭乗席しかなく、それぞれの座席に分散して4点式ハーネスを掛ける。母娘のアジャスターは、また師匠自ら確認した。
「あぁ、またオッパイ触ってる!」、間髪入れず頭を叩かれて、黙らされた。
「椅子に座るのはちょっと苦痛かもしれないが、辛抱して呉れよ、なるべく艦内の湿度を上げるようにするからな」、師匠が母娘の下半身が乾いてしまわないよう配慮する間も、ひっきりなしに潜航艇の魔導AIが異世界の言葉で駆動ウォームアップの状況を刻々と知らせてくる。
(オールグリーン……)、最後の状況報告を受けて、師匠が私達を見回した。
「魔力バッファ耐圧服の着脱訓練を8時間以上やらないと、本当は載せられないんだが、まあ、いいや……全員、着水衝撃態勢っ!」
ちょっと、ちょっと待ってよ、さっきまで展望甲板で潮風を浴びていたから私ら3人はウエットスーツにビーチサンダルだし、シラセ達は完全に裸だよ?
直感で悟っていた……この潜水艇はなんらかの方法で海中に撃ち出される!
間違いない。座席の構造からしてそうだし、この遣り方こそ師匠の好み100パーセントに違いない。
無理っぽくない? 泣いても叫んでも師匠の無茶振りが留まることが無いのは先刻承知だったが、潜水艇は静かに浮かべられると勘違いして、師匠の派手好きな性格を完全に読み違えていたことを呪い、歯を食い縛った。
常在戦場……師匠の教えの第一だ。いつでも戦いに臨む覚悟が欠けていた。
もっとも、この頃では教えの第一が多過ぎて、覚え切れていない。
座席に取り付けられているタブレット画面が、次々と入水時の耐衝撃注意点を映して行くが、まったく頭に入ってこない。
師匠が一段低くなった操舵席に滑り込むと同時に、アナウンスが始まる。
(当艇は、間も無く無限加速式電磁カタパルトによる射出態勢に入ります、搭乗員の皆様は確実にシートベルトを締めて、案内にあった対衝撃緩衝態勢を取ってください)、無機質に同じ内容を繰り返す艇内AIは、まるで無慈悲なカウントダウンを奏でているようなものだった。
ゴクンッと船体が浮いたように感じるのは、ホイストか何かで持ち上げられているのだろうか? 艦首が下を向いてるように感じるのは私の三半規管がちょっと調子が悪い所為だと信じたい。やがて船外も船内も、滾るような甲高いハム音で満たされて行き、頂点を超えた。
やばいっ、と思った瞬間、シラセとミツコの身体を理力で押さえ付ける。
ゴガンッという、水面が剛性を持った流動体と化す衝撃が船体をビリビリと振動させて、大変な後方Gに血液が逆流するようだ。涙滴フォルムか、流体力学の形状か、どういう外見をした船なのか分からなかったし、盛大な水柱が立ったのかは定かではない。
ただ、がくがくと揺れる船体が、まるで弾丸のように相当の深さまで撃ち込まれたのを感じていた。
グングンッ、グングンッ潜っていく深海探査艇は魔導の光源で、まるで太陽の光かと思えるほどの不思議さで前方を照射し、時折現れる深海生物が逃げ惑う様をコックピットのあまり大きくないキャノピー越しに映し出していた。
気が付くと、シラセとミツコが白目を剥いて失神している。泡こそ吹いていないが美人台無しの形相だ。
ゴメンね、馬鹿師匠の所為で、と心の中で謝りながら(口にすれば鉄拳制裁必然だから)、ステラ姉と手分けして気付けのまじないを行う。
操縦席でも揉めていた。「ちっ、ちびった……」
どうやら師匠と並んでコパイの席に陣取ったはいいが、若くして泌尿器系に難のあるエリスがお漏らしして仕舞ったらしい。
「お前は相変わらず、膀胱が緩いよな……拭いとけ」
鰾膠も無くデリカシーの欠片も無い導師の言葉に、エリスが泣きながらクリーンの魔法を掛けるのだった。
さっきから額が疼くのは何故だろう?
師匠に頂いた眉間緋毫が熱を帯びたように、脈動しているような錯覚を覚える。
強く、正しく、美しくある為の戒め、間違いだらけだった私達の人生をやり直す為に、忘れもしない師匠と師弟の契りを交わした日に授けられた。
ルビーのような深紅の印は、いつでも私達の額に輝いている。
「ビンゴだっ、もしこれが想像を絶する大きさの船首像だとしたら、女神ニンリルの像以外あり得ない」
海底に埋もれた構造物は、何処迄が人工物なのか皆目見当も付かなかったが、師匠と師匠の弾丸型潜水艇の探査魔導器には全容が把握出来ているようだった。
現に場所をあやまたず、海中に突き出た、途方も無く巨大な隆起物に辿り着いていた。その場所は、まるで海底火山が盛り上がったように、鋭い隆起と、地上における山のような高低差があった。
馬鹿な、もしこれが船首像だと言うのなら、船自体はどれ程の大きさがあるというのか………
(耐衝撃注意! 前方構造物より、衝撃波感知! 耐衝撃注意!)、突然、潜航艇のAIが緊急アラートを発する。
見る間に膨れ上がる圧力に、艇が姿勢制御スラスターを全開にするが、巻き上がる渦に揉みくちゃになって仕舞う。
よく高速飛行魔法で、錐揉み旋回などをやってる私達は大丈夫だが、ミツコ達が泡を吹いて仕舞う。
「だっ、大丈夫、気をしっかり持つのよっ、ゆっくり呼吸して、ヒッ、ヒッ、フーッ」、何を血迷ったのか、ステラ姉が妊婦と取り違えた気付けをしていた。
そんな中、私は、降り積もった海底の付着物を微細な振動波で振り剝がし、真の姿を現し、長い長い眠りから覚めようとしている巨大な何か、悠久の時を跨いで、決して息絶えてはいなかった何かが、こちらをじっと窺っているのを感じていた。
少し上方から望むそれは、巨大なニンリルの女神像だった。もう、こちらの光源照射に関係なく、光の射さない深海にもかかわらず、鈍く黄金色に、いや、これはプラチナ色だろう、その面を輝かせ、無機質な表情なのに、それはそれは神秘的な存在だった。
「どういうこと……?」、私は、思わず自分の額を抑えていた。
気が付くと、女神像の額にも深紅の印があったのだ。
ニンリルの女神というよりも、目の前のそれは、巨大な私の顔だった。
だって、私のこの額の印は一年前からだよ?
(……コマンド・オフィサーの資格を認めました、本船の再起動まで5秒)
非現実的な事象に白日夢に紛れ込んだかと思った。
まるで、目の前のニンリルの巨大な船首像が話し掛けているように、頭の中にはっきりと強大な意思が響いたからだ。
「やばいっ、浮上する積もりだぞっ」、珍しくいつも泰然自若たるゴーイングマイウェイの導師が、鉄面皮をかなぐり捨てて狼狽していた。慌てて、吸着アンカーなどの射出準備を始め、様子を窺う為に離れていた距離を全速で詰めだした。
急いで表層の露出した部分に潜航艇を固定した瞬間、まるで天変地異のように地を割って、“ニンリルの翼”はゆっくりと浮上しだした。
その巨体故に、周囲の何も彼もを巻き込んで、まるで天地創造のように激しく、荘厳で、想像を絶した。
(当船の中央コントロールセンター“ナンシー”です、新しいコマンド・オフィサーへ情報を送ります)
私の頭に無理矢理流れ込んで来る、膨大な知識、映像情報、史実、が傍若無人に吹き荒れ、昂るテンションに顳顬の血管が畝り、白目を剥きそうになる。
それは、然ながら壮大な叙事詩であり、黙示録のように、私に何があったのかを告げていた。
ひとつの文明の終焉だった。人々は繁栄し、星々を渡り、生活圏を広げ、この世の覇者を謳歌していた。
やがて迎える熱的エントロピーの死。人々は移民船団を組織し、他星団の新天地を求めて散っていった。エクソダス計画だ。
巨大要塞戦艦“ニンリルの翼”も計画の一環として、移民団の護衛艦の役割を担うべく、建造されたうちの一隻だった。
辿り着いた新天地、多くの移民船が途中で挫折して星屑と化し、生き残ったのはごく少数だった。
“ニンリルの翼”の主任ナビゲーターが、新天地で初代首長を務めて幾星霜、役目を終えた弩級戦艦は、その中枢コントロールと共に眠りについた。
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海を割り、空に躍り出たそれは、今はまだその大きさとて、把握しきれなかったが、普通に都市の大きさ程はありそうだった。
船首の女神像は小山ほどの大きさがあり、明らかにミツコ達の村にある女神像とは、比べ物にならない大きさだった。
羽を広げ、舳先に背を付けている。
どういったテクノロジーなのか、船体の表層をごく薄い力場が覆っていく。
落とし切れなかった不純物が分解され、空中へと蒸発していく。
陽の光を照り返す姿は、さながら幻想の空中都市だ。
師匠が格納されていた補助歩行脚とマニュピレーターを駆使し、どうにか甲板まで登り詰め、外に出てみることにする。
“ニンリルの翼”の非常識に広大な甲板に降り立たった。
ミツコとシラセは、ステラ姉とエリスに抱きかかえられている。
見た目と懸け離れた膂力はあるが、自分より大きなミツコをお姫様抱っこするエリスはミツコのオッパイを顔に押し当てられていた。
「こいつはすげえなぁ、分かるか? 白金の同位元素だ」
「つまり、この船は正真正銘、プラチナでできている」
「あきれ返った技術だ、 錬金術? 硬度無限大?」
「船、……船と呼べるかどうかは別として、こいつは先史文明なんかじゃなさそうだ、間違いなく、何処か別の天体からやって来たんだろう」
「つまり、こいつは星渡りの船だ」
「ニンリルの像といい、艦内の構造からして可成り人類に近い種族だったんじゃないかな? ドロシー、何か聴いたろう?」
私は、すっとぼける師匠を問いたださなければならないと、心底思っていた。
………「師匠、初めからすべて知っていましたね?」
ガーデニングをやっているのですが、初心者なので蔓薔薇の赤いピエール・ドゥ・ロンサールが折れてしまいました
どうやって上手く這わせるのか、思案中です
ワイヤーを這わせよう、這わせようと思っていたら、もう冬になって仕舞いそうです……なんちゃってガーデナーの不精話でした(つまんないですね)
祝女=琉球神道における女性の祭司で神官/地域の祭祀を取り仕切って御嶽の祭祀を司り、ヌール・ヌルとも発音される/琉球王国の祭政一致による宗教支配の手段として、古琉球由来の信仰を元に整備されて王国各地に配置された/琉球神道はアニミズムと祖霊信仰を基本とするもので、海の彼方のニライカナイと天空のオボツカグラの他界概念を想定するが、宗教概念上でノロはこれら琉球の神々と交信することのできる存在であり、また祭祀の間はその身に神を憑依し神そのものになる存在とされている/ノロは原則として世襲制でノロ殿地と呼ばれる家系から出る
イコン=聖人、天使、聖書における重要な出来事やたとえ話、教会史上の出来事を画いた画像/多くは平面であり、正教会においては立像は用いられない訳ではないが極めて稀であり、その形状は板絵のみならずフレスコ画、写本挿絵、モザイク画など多様である
竜舌蘭=リュウゼツラン科の単子葉植物の分類群で100種以上が知られている/学名 Agave はカール・フォン・リンネがギリシャ神話のアガウエーから名付けたもので、メキシコではマゲイとも呼ばれている/アオノリュウゼツランやテキラリュウゼツラン等の樹液を発酵させたものがプルケで、蒸留酒も作られていて肥大化した茎の部分〈葉を切り落とした姿がパイナップルに似ているため「ピーニャ」と呼ばれる〉を蒸し焼きにして糖化を引き起こし、これを搾って得た糖液をアルコール発酵させ蒸留したものでメスカルという蒸留酒である/メスカルの中でもメキシコのハリスコ州テキーラで作られるテキーラは世界的に飲まれている
油条=中国・タイ・ベトナム・台湾・シンガポールの伝統的な麩料理、細長い揚げパンの様子をしている/食塩と重炭酸アンモニウムを水で混ぜたものに、薄力粉ともち粉を少しずつ加えながらこねて生地を作り、寝かせた生地をのしてから包丁で 20〜30cmほどの棒状に切って伸ばし、半分に折って高温の油できつね色になるまで揚げる
散蓮華=中国や東南アジアで一般に用いられる陶製スプーン/形状は底が楕円形の平たい舟の形状で舳先となる部分は丸くまた船尾となる部分が先細に伸びて柄となる/中国語では湯匙〈タンチー〉という
韃靼人の踊り=ロシアの作曲家アレクサンドル・ボロディンが作曲したオペラ「イーゴリ公」の第2幕の曲でボロディンの最も有名な曲のひとつであり、またクラシック音楽でも有数の人気曲
日本語の題名は「ダッタン人の踊り」「韃靼人の踊り」「ポロヴェッツ人の踊り」などとも記され、しばしばオーケストラのコンサートなどでオペラとは独立に演奏される
ただしオペラでは合唱を伴うが、演奏会では合唱のパートを省略することが多い
中国から伝わった韃靼〈だったん〉という表記を用いるが、タタール〈Tatar, タタール語: татарлар〉は、北アジアのモンゴル高原とシベリアとカザフステップから東ヨーロッパのリトアニアにかけての幅広い地域にかけて活動したモンゴル系、テュルク系、ツングース系およびサモエード系とフィン=ウゴル系の一部など様々な民族を指す語として用いられてきた民族総称
鰾膠=スズキ目スズキ亜目ニベ科に属する魚で東北沖以南や東シナ海に生息し、近海の泥底に棲む/この魚の鰾〈うきぶくろ〉を煮詰めて作る膠〈にかわ〉はきわめて粘着力が強く、この膠自体も「鰾膠」〈にべ〉と称する/そのべたべたした性質から愛想や世辞を表す言葉にも転じ、無愛想な様子を表す「にべもない」という慣用句の「ニベ」も、この「鰾膠」のことである
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運営様の勧告により一部改稿:2021.01.15
レイアウトの改修を機に全面的に見直す:2024.03.23