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06.図書館で“蟲喰い”と名乗る精霊に取り憑かれる


挿絵(By みてみん)




 3人で組み手をやると、ステラ姉もエリスも私の目の動きや癖を見抜いているようで、どうも苦戦して仕舞う。

 本来私は“剣帝”だったので、得物を持った戦いの方が得意だが、師匠の指導方針ではまず無手の格闘術での投げ、打つ、極めるを徹底させるようだ。




挿絵(By みてみん)




 数万度の熱線で溶けて仕舞ったギルド連合世界侵入禁止区域がひとつ、真戒魔界“竜の顎門(あぎと)”の谷底は、導師が修復の(まじな)いを掛けて呉れたので、超高温溶融に一面ガラス化した土壌ごとゆっくりとだが、自然の姿を取り戻す筈だ。

 後で聞いたのだが、私の放った限界攻撃で上空の気流が爆発するように激しく乱れ、一時は収集のつかない喧騒(けんそう)を極めたらしい。


 無事、本命のケルベロス・ドラゴンを射止めた私は、従魔眷属の盟約を交わしたが、あの巨体を連れ歩く訳にもいかず、眷属間の遠話心通で呼べば、立ちどころに参上、何しろ自己申告に依ると、ケルベロス・ドラゴンは魔力の翼の一()きで軽く音速を突破、千里も万里も飛ぶと言う……とのことだった。


 実際に呼び寄せたとき、暴風被害が出ないか心配だ。

 主人と従魔、盟約を交わす上で互いに真名(まな)を教えあったが、ケルベロス・ドラゴンの真名(まな)は“プリ”と言った。

 以降、私達の中では破滅級竜魔神は()()()()()になった。


 ステラ姉も無事、白い髭、白い鱗で、三本の大きな山羊角を持つ神代竜と盟約を交わすことが出来た。なんでも神代(かみよ)の頃から生きているらしく、人族の間では(すた)れて仕舞った歴史の語り部にして、神の如き叡智(えいち)の託宣者、失われた神代魔法の伝承者であり、唯一の使い手……らしい。


 信じられないのは、エリスだ。

 彼女は昔から人と違う独創的なアプローチが得意だったが、いつの間に調べたのか、自らが竜になる方法を見付けていた。

 彼女は、群れ飛ぶ実際の竜共には目もくれず、竜達が餌にしている(みずち)の精霊の湧いてくる中心を只管(ひたすら)探して、見付けたのが(みずち)性の女王、所謂(いわゆる)女王(みずち)だ。

 エリスは女王(みずち)と盟約を交わした。

 これに因り、エリスは己れ自身が竜化する道を選んだのだ。まだ試してはいないが、女王(みずち)が憑依することに依って、竜に化身するのだとか……

 エリス一人だけが己の眷属をベースキャンプに連れ帰った。

 精霊なので実体は無い。ちょっと透けてる蛇みたいだ。名前が無かったので、ニョロちゃんって呼んだら、エリスに怒られた。


 私達があんまりあっさり課題をクリアした所為か、(おご)る、と言ったのに何故か師匠と一緒に飯盒炊爨(はんごうすいさん)をしていた。

 師匠秘伝のカレーレシピを伝授するとのことだが、いまいち納得がいかない。

 ダッチオーブンで米を炊き、私達は手を使わずに人参、ジャガ芋、セロリ、ズッキーニ、鞘隠元などの皮剥きや下処理をさせられていた。

 玉葱を炒めるのにバターじゃなくてギーという精製オイルを使うのが、美食家気取りの導師独特の拘泥(こだわ)りらしい。金色の巻き髭が触れないようにしながら香りを確かめつつ、大理石(マーブル)の乳鉢で香辛料を調合するのに、ひとつずつ解説が入った。

 師匠の汁っぽいルーは想像を絶する辛さだった。

 でも美味しかった。私達は、皆んなで師匠のカレーを御代わりした。

 ニコニコ笑って、カレーを食べた。




挿絵(By みてみん) 




 普段の実地訓練を取りやめて、自習と称して魔宮の別棟にある大学都市並みに広がった巨大図書館に遣って来ている。

 (たま)に巻き髭導師には緊急召集が掛かることがあるようで、そんな日は自己鍛錬のカリキュラムをこなすように言われている。


 午前中は、ファイア・ランス、コールド・スピア、ソニック・ブリット,サンダー・アローと言った5大元素系や光属性、金剛闇魔法その他の基礎攻撃魔法を空に向けて、撃ち(まく)っていた。

 威力を込める撃ち方、速射力を競う撃ち方、広範囲に拡散させる撃ち方、弾幕を張るように防御として展開する撃ち方、最後に上位互換の殲滅級魔術と様々な撃ち方を、全力でワンセットずつやる。

 裾野や隠れ里の職能猟師や杣人(そまびと)に見(とが)められてはならじと、山陵全体をカバーする認識阻害を同時に展開しているので、とても疲れる。

 夜明け前から始めているので、およそ6~7時間ぐらいは自主練に費やした。


 この頃になると、私達はひとつ強くなる度に、隠蔽と擬態を覚えさせられた。

 これをやって於かないと、やがて常に溢れ出る魔力、神力、妖力、霊力、理力で大変なことになるらしい。無意識の気当たりだけで周囲の人間が気絶したり、あるいは回復不能なダメージを与える、と(おど)されている。


 早めに切り上げて、訓練用の武具や、狩猟の道具を手入れする。

 師匠に貰った小型のクロスボウやスリングショットは、食材調達などで良くお世話になるので念入りに油を擦り込んで、磨き上げた。


 魔宮の大浴場で汗を流してから、お昼にした。

 時間通りの三度々々の食事は、私達の体内時計に刻み付けられたかもしれない。

 導師の方針で、どんなに私達がぐったりして食欲が無くても、時間になるとかっきり食事を()らされた。

 午後の鍛錬の消耗の燃料切れ以前に、規則正しい食事は、規則正しい生活の基盤として、健康管理には欠かせないものらしい。


 いつもは遠出の模擬戦闘訓練になるので、小休止にサンドウィッチにチーズ、紅茶、或いはクラッカーに缶詰のランチョンミート、保温ポットで供するアメリカンと言った、ごく簡便な弁当食と言うか行動食の戦闘糧食(レーション)なのだが、今日はベースキャンプに居ることもあり、魔宮殿の大膳部に隣接する巨大食堂、絢爛豪華な式典ダイニングホールの片隅でランチメニューを選んだ。


 もう慣れたが、他に人が居ないので非常に閑散とした雰囲気だ。

 見たことの無い酒瓶がビッシリと並び、何十もの足付きグラスが吊るされたウエイティングバーも、食後の強い酒と煙草の香りを楽しむ為のポーカールームとかにも、唯々(ただただ)水銀魔法から生まれた髑髏のバーテンダーや執事や、ギャルソンが、黙々と無音のままに静かに仕事をし続けている。

 私達がお邪魔しただけで、呼吸音さえがゼイハアと静寂を破るようで、最初のうちは大変申し訳ない気持ちで一杯だった。きっと私達は居るだけで迷惑な、騒がしい雑音に過ぎない。


 水銀髑髏のメイド達に給仕されて、好きなものを注文することになったが、簡単なカロリー管理も託されているエリスに(はば)まれて、どうやら太り易い体質のステラ姉が、拉麺(ラーメン)が食べたいという最初のチョイスを却下されていた。

 鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で少々ショックを受けていたようだ。

 この頃、ちょっと微笑ましい、村にいた頃と同じ残念姉さんが見れて嬉しい。


 師匠が留守の時に私達が不便にならぬようにと、自由に魔宮への出入りをする為に“魔神界の合鍵”と言うサブマスターキーを預かっている。

 絶対に無くすなと厳命されているので、首に掛けるネックチェーンに通して肌身離さず、常時身に着けている。

 鍵の形はしておれど、実際に鍵穴に通す訳ではなく、異次元結界の認証ツールとして機能するのだが、同じ鍵で蔵書フェチ師匠ご自慢の魔宮図書館区画への入館が許されるようになっていた。


 昔、他国の大陸最大といわれる国際学術都市セント・デラ・ラグーナの州立図書館を見たことがあるが、比べ物にならない規模だった。

 何千憶冊もの蔵書が、師匠個人の収集によるものだというから(おそ)れ入る。

 中には貴重な古写本や稀覯本(きこうぼん)もあるらしいのだが、最初の頃は、異世界の知識を学ぶのに、デジタルメディアの動画記録をマルチスクリーンの巨大モニターで、ずっと何時間もぶっ通しで視聴させられた。

 文字媒体の速読魔術は基礎として習得させられたが、それの応用で32倍速の画面を見ていくのだ。

 面白かった。異世界の知らない技術や文化、思想を知ることが、それ自体だけで面白かったのだ。


 とは謂え、我らは日々研鑽(けんさん)の身、読書にも強く己れを(きた)える為の目的がある。

 就寝前のテントで読むのに借りてくるのは、大半が魔術書だった。

 今日の午後の自習には、魔術経典やスクロール等が多く収められた書架を目指して、館内中核の5号棟に来ていた。

 師匠の図書館は幾億もの書棚を収めた大小様々な建物で構成されているが、その中心は何棟かが林立する巨大な円筒形の建物の連なりだ。

 何十層からなる各階の壁に配列された書棚に沿って円形回廊が配されていた。

 天辺(てっぺん)にはドーム型の格天井(ごうてんじょう)の真ん中に開けられた巨大なオクルス……磨りガラス入りの円形採光窓があり、明かり取りとして吹き抜けの各階に光が注がれている、と言うある種、荘厳な作りだった。


 高速詠唱の修練で何とか3音程度までには短縮出来た私達だったが、更なる高威力の長韻詠唱句を探して、習得しようとしていた。


 「ねぇ、ねぇ、これなんか、どうかな? 石も、鉄も、地面も、金剛石さえ腐らせる術、効果範囲は半径数十キロまで自在だって」


 「裏マニ教曼荼羅(まんだら)の透かし付きで30行もあるじゃない、それに、ほらここ、あたし達がまだ習ってない闇系の特殊韻だよ」


 「これはっ、これは? 世界を“厄災の胞子”で満たす禁忌コード、胞子に(さら)された生物は全て“苦悶の夢”の中に永遠に眠り続けるんですって」


 「本気でいってる? 世界を滅ぼして、どうするのよ?」


 そんな目的で、私達は色々スクロールを(あさ)っていた。

 「“巻き髭”は、あたし達にはまだスクロールは早いって言ってたけど、どうしてかな? そりゃあ、王宮の古文書館で見たのはみんなショボくって、ここにあるのとは全然違うけど……」、私の問い掛けにステラ姉が応えようとしたときだった。右の棚を見ていたエリスが、


 「きゃっ!」と叫ぶのに振り向くと、取り落としたスクロールが1本、

 その開いたスクロールから小さな小さな人影が立ち上がっていた。

 一瞬、我が目を疑って目を(こす)るが見間違いじゃない。


 「わらわを呼び出すのは、どちら様かな?」

 見ると、南国風の薄物の衣装に身を包み、何とも言えぬオリエンタルな風情を(かも)す、妖艶な女精霊だった。

 絹のオーガンジーのようなベールで口許を(おお)っているので、良く分からないが、長い睫毛や切れ長の眼許からして大層な美人だ。

 艶のある黒髪を異国風なティアラで抑えた頭を上向け、私達を振り仰ぐと光背(こうはい)を一段と強めて名乗るのだった。


 「わらわは、スクロールを()べる精霊王、名をジャミアスという」


 またもや、私達の知らない不測の事態だ。“巻き髭”のトンデモ魔宮に身を置いていると、時偶(ときたま)こんなことが起きる。

 例えば、紅茶の空きカップを下げにきた長い前掛けの水銀髑髏のギャルソンが、突然に水銀の大柄なマンティコアに変身したりとか、冷蔵庫を開けると何故か酔っ払ったガーゴイルの集団が躍り出てくるとか、いずれもこと無きを得ていて、慣れたといえば語弊(ごへい)があるが、普段は物音ひとつしない師匠の魔宮は、実は大変危険な不思議に(あふ)れていた。


 「ん? どうした、小娘らよ、何か用があってわらわを呼び出したのであろ?」


 「……あのぅ、貴方は、そのぅ、何ですかっ?」


 「スクロールを(ひき)いる精霊王と申したではないか、およそ有りとあらゆるスクロールは我が眷属、我が意のもとにある」


 それって、存在するスクロール全てを自由自在に(あやつ)れるってこと? 大法螺吹(おおぼらふ)きなのかしら、大言壮語で誇大妄想の精霊?

 ここは丁重にお引取り願った方が、無難かもしれない。


 「あのぉ、特に用事は無いんで、お帰りになって頂いても……」


 「馬鹿を申すでない、仮にも“蟲喰いのジャミアス”がわざわざ降臨しておるのだ、はい左様ですかと帰れる訳もなかろう」

 「おぉ、そうじゃ、天秤の小娘、汝が額の眉間緋毫(みけんひごう)、我が住処(すみか)としてとても相応(ふさわ)しかろう、棲み着いて(つか)わすによって、有り難く思うのじゃ」


 えっ? 何言ってるの、この人、冗談だよね。やめて、やめて、やめてよぉっ、やめてって言ってるでしょ―――――っ!

 「ただし、小娘、我を使うときは心せよ、その神力、聖なる精霊力、生半可(なまはんか)なものではない(たぐ)いもあるでな……」




 ***************************




 「はぁ、選りにも選って“蟲喰いのジャミアス”に取り()かれるとはなぁ」

 「だから、スクロールの棚には近付くなって言ってあったろう?」


 私達は、テントの前の地べたに正座させられていた。

 あれよ、あれよ、という間に、自称精霊王とかいう押し掛け霊能に棲み着かれた顛末(てんまつ)を正直に報告した結果だ。


 「あのぅ、天秤の娘とか言われましたけど……何のことですか?」


 「……ドロシー、お前はな、“世界を救わなければならない”宿業を背負っている、だがそれは後何百年ものちの話だ」

 「あたし、そんなに長生きしませんけど……」

 「するんだよっ! それよりジャミアスだ、奴の力は使い方を誤れば、世界を百万遍は(ほろぼ)せる、ドロシー、お前はより一層、清く、正しく、美しくなれるよう精進しなければならない」

 全然望みもしなかったのに、過ぎたる力を手に入れて仕舞った貧乏くじ体質の私は、ただ呆然と気が遠くなる思いの中、苦虫を噛み潰した(てい)の師匠の言葉を、何処か遠くで聴いていた。



 私はドロシー。

 愛した幼馴染みの恋人を、筆舌に尽くし難い方法で裏切った女。

 あの日、錯乱した挙句に、身も心も廃人レベルにまで堕ち、二度と再び陽の当たる場所へは帰って来れないと、帰ってきてはいけないと思い詰めた女。

 居場所を追われ、石を投げられた。

 絶望の果てに死ぬことも試みた。


 今また、何の因果か、不幸にも訳の分からないものが私の額に住み着くという。

 私の人生は、何処まで歯車が狂って仕舞うのだろう?






そろそろ夏の花と、クリスマスローズやガーデンシクラメンの植木鉢を入れ替えようかと思っています

どうも手入れが悪くて花付きがよくありません

隣の芝生が青く見えて、ご近所の一年草をやられる方々が羨ましい今日この頃です


飯盒炊爨=飯盒はキャンプ・登山など野外における調理に使用する携帯用炊飯器・食器である/英語からメスティン〈食事缶〉とも呼ばれ、メスキット〈食器セット〉の一部ともなっている/日本では主に屋外での炊飯に使われ、飯盒で炊飯することは炊爨〈すいさん〉と表現する〈爨も「かしぐ・飯を炊く」の意〉/「盒」の字は合わせ蓋のついた容器を意味し、本来は兵士が野戦等の際に食料を入れて携行したり、食事の配給を受け取るのに用いる容器というのが主な用途で、非常時には調理器具やバケツなどとしても用いられた/日本では旧日本陸軍が野戦時の炊飯用として改良・利用したことで、野外炊飯用として定着している/本体や蓋の素材は一般にアルミ製/日本で単に飯盒と言えば、主にキドニー〈腎臓〉型、あるいはソラマメ型と呼ばれる曲がった扁平な形をしたものを指し、兵式飯盒とも呼ばれる/旧日本陸軍の兵士が装備した「ロ号飯盒」が原形で、この他に将校用が存在したため「兵士用」の意味で「兵式」の名がある/兵式飯盒の独特の形状はヨーロッパなど各国の軍用飯盒に見られる形で、日本でも旧日本陸軍、陸上自衛隊で歴代採用されている/この形状が採用された理由としては、ベルトや背嚢〈リュックサック〉にくくりつけて携行する際にかさ張らず安定するため、多数の飯盒でツルに棒を通して同時に炊飯するときに全体の幅が狭くなって竈を小さくできて薪を節約でき効率的であるから、均一に火が当たりにくい焚き火での炊飯でも対流によって全体に熱が回りやすく容易に米が炊けるため、などが考えられている/日本の飯盒は炊飯用に特化しており、標準的な兵式飯盒は米4合炊きで本体に2合、4合で用いる水量の目安が刻印されている/本体の他に蓋と中子〈中蓋・掛子〉で構成され、それぞれ食器や米の計量にも使用される〈中子が2合、蓋が3合〉/外蓋に折り畳み式で鋼製のハンドルが付きフライパンとして使えるタイプもあり〈ヨーロッパ各国の軍用で一般的〉、日本のレジャー用ではチロル式・スイス式と呼ばれる

ダッチオーブン=分厚い金属製の蓋つき鍋のうち蓋に炭火を載せられるようにしたものの名称で、鋳鉄製のものが一般的だがアルミニウム合金や鋼板製・ステンレスのものもある/アメリカ合衆国で伝統的に用いられている蓋は全体的に平らなデザインで周囲に縁取りがあり蓋の上にも炭などの熱源を置くことができ、オーブンと同じように上下から同時に加熱することができる/このようなデザインは炭火を利用したローストチキンやピザ、パンなどの調理に適している/鍋に厚みがあることで温度変化が少なく鍋全体が均一の温度に保たれ、食材にじっくりと火が通る/また食材から出た水分による水蒸気が蓋と鍋の隙間を埋めて、蓋本来の重さも手伝って密閉状態になるから、この状態で暖め続けられると内部の気圧が高くなり圧力鍋と同じ状態になる/さらに水分が蒸気として逃げないため食材の水分を利用した無水調理がしやすい

ギー=インドを中心とした南アジアで古くから作られ食用に用いるバターオイルの一種で乳脂肪製品

牛や水牛、山羊の乳を沸騰させて加熱殺菌し凝固したものを撹拌してバター状にする、これをゆっくり加熱して溶かし脂肪分が黄金色になり、沈殿した固形分が褐色になったら濾過して容器に移して冷ます

加熱濾過の過程で水分、糖分、蛋白質などが除かれるためバターよりも腐敗しにくくなり、平均気温の高い地域において長期間、常温で保存することが可能になる

乳鉢=固体を粉砕または混和するために使用する鉢で乳棒と共に使用される/世界各地で古代から使われており、食品の加工や調剤・実験器具として用いられる/日本語での「乳鉢」という用語の使用はヘンリー・エンフィールド・ロスコー の著作などを基に、1874年〈明治7年〉に翻訳刊行された「小學化學書」にまで遡れることが知られており、それ以前は「薬局の臼」「石臼」といった臼に関連した訳語や用語が用いられていた/この「臼」から「鉢」への変遷は様々な形状や材質による乳鉢が導入され、粉砕する器具としてだけでなく、混和する器具としての使用法も認識されていったからではないかと考察されている

クロスボウ=西洋で用いられた弓の一種であり、専用の矢を板ばねの力で弦により発射する武器/漢字圏で弩〈石弓〉と呼ばれるものと構造がほぼ同一となっている/ヨーロッパでボルト〈Crossbow bolt〉、クォレルなどと呼ばれる太く短い矢を発射する/木でできた台〈弓床〉の先端に交差するように弓が取り付けてある

日本ではボウガンという表記がされるが、報道などではクロスボウを和訳した洋弓銃という呼称が使われてきた/それまで一般に使われていた弓は他の武器に比べ射程が長く強力ではあるものの、弓を引き絞って構えるための筋力とその状態で狙いをつけて放つための技術・訓練が必要で、弓術の訓練を受けた弓兵や狩猟で使う猟師以外には扱いにくかった/またモンゴル帝国など騎射による強力な軍隊を有する勢力が優位となってからも、幼少から馬と弓に慣れ親しんだ騎馬民族以外には簡単には真似できないことから軍事的に大きな優位となっていた/これらの弱点を克服するために台座に弓を取り付けることで固定し、あらかじめ弦を引いてセットしたものに矢を設置して引き金〈トリガー〉を引くことで矢を発射できるようにしたものがクロスボウで、弓のように長期間の訓練が不要となり、ほぼ素人でも強力な弓兵として運用が可能となった/また台座を固定して弦を引っかける時だけ力があればいいので、手では引けないような強力な弓を搭載することで威力や射程を大幅に高めたクロスボウも登場した/弦を引く方式にはいくつかの種類があり、初期には台尻の腹当てを腹にあてて体重を使いながら手で弦を引っ張ったり、先端にとりつけたあぶみに足を掛けたり、腰のベルトの鉤に滑車の鉤をかけて立ち上がったりすることで弦が引かれる方式、ゴーツフット〈goat'foot:山羊の脚〉というレバーで弦の掛け金をてこの原理で引く方式、てこの原理でレバーを押す方式、後部のハンドルをネジのように回すことでハンドルが後ろへ下がり弦が引かれるスクリューアンドハンドル〈Screw and Handle〉方式、後々にはウィンドラス〈windlass〉という後部に付ける大きな両手回し式のハンドルを回して弦に繋がる滑車を巻き上げる方式や、クレインクイン〈cranequin〉という下部や側部に付ける足掛け不要な片手回し式ハンドルを回して歯車と歯竿で弦を引くラック・アンド・ピニオン方式のクロスボウなども誕生した/一部には弓の張力をやや落してハンドル操作で矢のセットと弦をつがえる操作を行えるリピーター・ボウも登場したが、こちらは威力が小さく構造が複雑で故障も多かったため、あまり普及せずに終わっている

スリングショット=Y字型の棹をはじめとする枠構造にゴム紐を張ってあり、弾とゴム紐を一緒につまんで引っ張り手を離すと弾が飛んでいく仕組みの道具で武器や猟具の一種/腕あてで固定し、握りから角状に出る2本の棒にゴムを取り付けたもので人力をもって引き伸ばし、その反動によって金属製の玉又は小石等を発射させる機能を有する構造が一般的/用途や求められる威力によって様々な形状があり、玩具としての簡易なものでは前述の通りY字型の棹の上両端にゴムを結わえ付け、その中央に弾を保持する構造を持っているが、強い牽引力でも安定して支えられるよう手首側に支えがある強力なものも製品として出回っている

ランチョンミート=食肉を原料とした料理のひとつで日本では缶詰のものがポピュラー、別名はソーセージミート/本来のランチョンミートは香辛料などを加えた挽肉を金型に入れて固めたものを、オーブンで加熱後に冷却して保存性を高めたホームメイド・ソーセージの一種である/ランチョンとは昼食の意味で、この種の保存食品がしばしば昼食のメニューに用いられたことからランチョンミートの名が定着した/豚肉を基本とする畜肉とラード〈豚脂〉、肉に対しておよそ2.5%の食塩、香辛料や調味料を細断機にかけ、加熱せずに脱気充填する/12オンス〈約340グラム〉規格で直方体のスコア缶〈ランチョンミート缶〉が一般的/密封された缶詰は340g入り缶の場合、116℃、65分間の加熱殺菌を施される/沖縄戦から戦後にかけアメリカ軍に捕虜として収容された住民は元々軍隊食として用いられたランチョンミートを軍から支給された食糧として、また解放された後も食糧難より軍からの払い下げ品として食べ始めることとなったが、同じく一時米軍支配下にあった鹿児島県の奄美群島ではデンマークのTULIPブランド製品のシェアが高く、俗に「チューリップハム」と呼ばれる/日本の他県ではスーパーや輸入食料品店の缶詰コーナーで売られているアメリカの商品名から「SPAM」と呼ばれることが多い/ランチョンミートの市場ではホーメル社のSPAMとデンマークのTULIPが2大勢力である/近年の日本本土ではSPAMの人気が高い模様だが、沖縄の家庭向けとしてはTULIP社製品の方が伝統的に優勢で、両社とも独自に減塩タイプ、香辛料を増量したもの、チーズ片入り、七面鳥使用、スモーク風味、低脂肪、無添加などのバリエーションを展開している

マニ教=サーサーン朝ペルシャのマニを開祖とする二元論的な宗教で、ゾロアスター教・キリスト教・仏教などの流れを汲み、経典宗教の特徴をもち、かつては北アフリカ・イベリア半島から中国にかけてユーラシア大陸一帯で広く信仰された世界宗教であった/マニ教は、寛容な諸教混交の立場を表明しており、その宗教形式〈ユダヤ・キリスト教の継承、「預言者の印璽」、断食月〉は、ローマ帝国やアジア各地への伝道により広範囲に広まった/マニ教の教団は伝道先でキリスト教や仏教を名のることで巧みに教線を伸ばし、これについてはマニの生まれ育ったバビロニアのヘレニズム的環境も大きく影響している/この地では多様な民族・言語・慣習・文化が共存し、他者の思想信条や慣習には極力立ち入らない環境でそうした折衷主義は格別珍しいことではなかった/そして古代オリエントの住民は各自のアイデンティティを保つため、特定の宗教・慣習・文化に執着する傾向も薄かったと考えられる/マニ教は徹底した二元論的教義を有し、宇宙は光・闇、善・悪、精神・物質のそれぞれ2つの原理の対立に基づいており、光・善・精神と闇・悪・肉体の2項がそれぞれ明確に分けられていた始原の宇宙への回帰と、マニ教独自の救済とを教義の核心としている/この点について、善悪・生死の対立を根本とするゾロアスター教の二元論よりも物質・肉体への嫌悪感が非常に強く、禁欲的かつ現世否定的な傾向があるギリシア哲学的な二元論の影響がうかがえる

オーガンジー=50番手以上の細い糸を使った平織り物に“硫酸仕上げ”という加工を施した生地のこと、この硫酸仕上げによって独特の透け感が生まれ薄地ながらハリとコシのある生地に仕上がる

ティアラ=広義のクラウン〈crown、冠〉の一種であるが、クラウンが第一礼装用の装飾品であるのに対してティアラは第二礼装用の装飾品

装飾が前面〈前頭部〉のみのバンド型で後面には装飾を持たないという特徴がある


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私、漢字が苦手なもので誤字脱字報告もありましたらお願いします

別口でエッセイも載せましたので、ご興味のある方は一度ひやかしてみてください

短めですのでスマホで読むには最適かと……是非、通勤・通学のお供にどうぞ、一応R15です

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全編改稿作業で修正 2024.09.15


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

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拙作「ソランへの手紙」にお越し頂き有り難う御座います
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