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04.筋肉に鎧われた女は好きですか?


挿絵(By みてみん)




 「お前達を鍛える、もう何者にも惑わされない迄に強く、常に正しい判断が出来る迄強く、間違いなど決して起こし得ようも無い程に強く、徹底的に鍛える」

 師匠の言った言葉は、言霊となって深く私達に刻まれた。




挿絵(By みてみん)




 “大丈夫だっ、死なない程度に配慮する”と言って呉れていた割には、私達は地獄の特訓とやらに正に命の危機を感じていた。

 神だと思ったのは間違いだった。この人は骨の髄から言語道断の、鬼か悪魔そのものだった……そう言い切れる。



 翌朝から早速、私達には生傷(なまきず)が絶えない日々が待っていた。

 殴る蹴るは当たり前、へたり込んだ私達に鬼の教官は容赦なく電撃を見舞い、地獄の業火も()くやと言う程の火炎攻撃で焼き()くそうとする。


 こんな特訓は、勇者チームの教練でも経験したことは無い。


 「体術は、ほんのちょっとのセンスと申し訳程度のテクニック、後は一に体力、二に体力、三、四が無くて、五、六、七、八、九、十まで、すべて体力だあああああああぁっ!」と(わめ)く師は、度を()す走り込みで仲良く気絶した私達に、ご丁寧にも吃驚(びっくり)し過ぎて飛び起きる迄に冷やされた冷水を浴びせるのが常だった。

 低反発素材?、のグリップソールを持つトレイル・ランニング用トレッキングシューズ?、とやら言うものを()かされて、ただ只管(ひたすら)に不整地を駆け巡った。

 走る時はベンチレーション機能?、に優れ体温調節に特化されたゴ、ゴアテックス製?、のトレーニングウェア?、に着替えさせられた。


 ステラ姉はすっかり健全だった頃の艶を取り戻した黒髪を髪紐で(まと)め、ポニーテールにすると、朝のお祈りもそこそこに早速(さっそく)柔軟体操を始めた。

 ここのところのステラ姉には青息吐息(あおいきといき)の日常に、少しでも人より努力しようと言う気配が感じられた。

 修業を修めるには基礎体力が必須と、ハーレムも同然の屑勇者パーティではお飾りだったが一応は回復担当のエリスと、スキルを失ってみればそこいらの三流魔導師にも劣る魔法職のステラも、等しく同じプログラムを()いられた。

 剣術も(しか)り、3人共に身体強化の魔法で腕力、足腰のツボを活性化させ、50kgはあろうかという振り棒を、汗みずくになって何千回も振り抜いた。

 師は、約束して呉れた。私達の頑張りが本物だと認められたら、私達のピアスもタトゥーも取り除いて呉れると。

 師の治癒術師としての偉大なる能力なら、私達の身体の呪縛を解除出来ると。


 目紛(めまぐる)しい修業に翻弄される喪心(そうしん)の日々だったが、不思議と宿痾(しゅくあ)が抜けて心身が浄化されていく効果を体感していた。


 偶々(たまたま)死に損なった私達が心から後悔していたかも疑問だが、王宮を追われてからの仕打ちに充分に苦しんだかと問われれば、それすらも怪しい。

 贖罪すべきはとんだ色惚(いろぼ)けの業務怠慢、人道無視の敵前逃亡はA級戦犯……本来なら民間人の私刑(リンチ)に裁かれるのが相応(ふさわ)しい。

 何より良い加減な救済活動の為に見殺しになった被害者の方々にきちんと詫びてもいないし、肝心要(かんじんかなめ)の裏切って仕舞った恋人……あぁ、今となっては恋人と呼べる資格すらないのだろうが、ソランに合わせる顔が無くて故郷に帰れずにいる。

 詰まるところ、逃げているのだ。



 「もうダメ!、もう死ぬうっ、死んじゃうっ!」

 「回る、グルグル回るうっ!」


 「ステラ姉、煩いっ、吐きそうだから黙ってて!」


 (ただ)れた乱交ハーレムでの度を越した荒淫生活と、今迄の惨めを極めた逃避行に、嘗ての活力は大きく()がれていた。特に私達の中では、余分に脂肪を溜め込んだステラ姉がしんどそうだった。

 吐こうが泣き(わめ)こうが、師匠は一切斟酌(しんしゃく)しない。

 ステラ姉の贅肉(ぜいにく)を削ぎ落すのに、師は特別な脂肪燃焼のアーティファクトを付けさせた。ごく弱い効果を常時発動するそれは、副次的な効能として必要以上に多量の魔力を消費する。

 つまり、魔力枯渇を起こし易い。


 「体力も魔力も、ギリギリまで追い込めば生物の反作用で、より強くなる、筋繊維は増強され、肺活量は大きく、魔力の練度も上がる」

 と言うのが師匠の持論で、この思い込みのスパルタのせいで、ほぼ毎日、私達は無茶苦茶な日々を(すご)していた。


 初めは(うずくま)って目を回していた豊満体型のステラ姉が、無慈悲な(しご)き地獄に附いてこれるか心配だった。

 アルコール依存症から立ち直った明晰な状態で、疲弊しきっていても、どんなに朦朧(もうろう)としていても、目の輝きが失せることは少なくなっていった。

 小さな声でブツブツと呟く言葉を効き耳スキルが(とら)える。もう、ステラ姉は大丈夫だろう。

 「ソラン、ソランンンッ、お姉ちゃんはっ、お姉ちゃんがお姉ちゃんでいられる為に、死ぬ気で頑張るからね……」


 「日々、これ修業! チャクラを回せっ! 気の流れを見るんだ!」

 「丹田(たんでん)から経絡を這わせ、天座(てんざ)に至るっ、開門の感覚を知れっ!」

 経絡秘孔の思想などは、我々西洋生理学には無いものなので、なかなか理解が追い付かない。

 むしろ功夫(クンフー)という練習方法の方がまだ、チンプンカンプンではない分、その厳しさを除けば組し易い……必ずヘトヘトになって気を失うのだが。

 「だらしねえぞっ、どうせお前らはド底辺の汚物女、いや女ですらねえな……這い上がらなけりゃ、もう下はねえぞ!」


 修業の場はジャングルから、いつの間にか急峻な山岳地帯に移されていた。

 天秤と呼ばれる六尺棒の両端に水桶を(くく)られ、朝もまだ暗いうちから野山を走り廻されて、水を(こぼ)すと並走する師に鞭でシバかれたり、震脚(しんきゃく)と呼ばれる脚を踏みしめる修業では、鋼鉄製の太い金棒でどやしつけられながら夜を徹してやらされた。



 初日に3人共、不思議な程軽い、“ジャージ”と呼ばれる臙脂色(えんじいろ)の修業着の上下を渡され、下着も“スポーツブラ”?、という胸当てと、恥ずかしい程股上(またがみ)の浅い、同じ伸縮する素材のぴったりしたズロースを支給された。

 肌に吸い付くような感覚が、最初は違和感ありまくりだったが、そんなことを気にしていられる余裕は、初めの一週間で無くなった。




 ***************************




 「この世界の呪文は、ゲール語と神聖キリル文字から派生している、お前達は、これらの言語にどれぐらい精通している?」

 ある日、野営地に戻って来た師匠が渦巻髭を(ひね)る癖と共に問い掛けてくる。

 この人はこの髭さえ無ければ奇跡的な絶世の美男と言ってもいい容貌なのに、返す返すも残念な蛇足と思っているのは私だけではないと思いたい。

 私達は導師のことを密かに、”巻き髭”という渾名(あだな)で呼んでいた。


 「呪文詠唱も、発動句も、術式紋章も、すべてには意味がある」

 「数学と同じだ、ただ数式を丸暗記するのと、意味を知り、理解を深めた学びとでは習熟度も効果もまるで違う」


 残念ながら、私達の嘗ての魔術教師は宮廷魔術協会の典座職にして、経典の貸し出しを良しとせず、もっぱら暗記を主流にしていた。

 ついでに言うとカバラの数秘学にも精通していない。


 「勘違いするな、記憶力は武器だ、無詠唱で思い浮かべる語句は、鮮明であればあるほど効果を発揮する」

 「それと、例えばの話、お前達は多分知らないだろうが、無詠唱よりも口で読み上げる詠唱の方が、言霊(ことだま)が乗る分、威力に勝る」


 知らなかった。無詠唱の方が術的に優れていると教わって、それを信じて疑わなかった。焚き火を囲んでぐったりしている私達は、初めて聴く逆説的な考え方に目を見張っていた。


 山稜の気温は急激に冷え込む。クールダウンを済ませた私達は、ダウンの防寒コートを羽織らされていた。

 師に言わせると、充分に昇華された気力、頸力の達人は硬気功(こうきこう)や操気術などの発動に依り、例え火の中、水の中でも平気になるというのだが、未熟な私達の域では程遠い……内功を練るのは魔力を溜めるよりも難しかった。

 気が向いたときだけ()れて呉れる直火式のエスプレッソ珈琲とやらに、泡立てたミルクをたっぷり入れたものを味わいながら、疲れ切った身体を寄せ合って、師の話に聴き入っていた。

 私は、トッピングするキャラメルソースが好きだった。


 「ただしだ、実戦では長ったらしい呪文を唱えている暇もないし、後衛職の砲台がパーティに守られて、なんて言うのはレベルの高い戦いじゃ現実的じゃない」

 「高速詠唱だ、明日からは高速詠唱を教える……充分に練られた高速詠唱は、ただ一音に感じられる、こんな風だ」



 「Ω!」、師匠の発した音として感じられるただの一音で、野営する山の周囲に連なる峰々、半径数十キロの太さで光術の柱が、規格外の規模で、轟々(ゴウゴウ)と天に昇っていく……見上げる限り、果て無く何処までも何処までも。

 私達は、今、魔術の真髄、奇跡を見せられていた。

 私達は、立ち上がることも忘れ、揃って腰を抜かしていた。


 「……こんな神の御業(みわざ)のような術、私達にも会得出来るんでしょうか?」

 到底無理だと思っているステラ姉の気持ちに、私もエリスも何も言えなかった。逆巻き立ち昇る、この奔流の凄まじさに、まったく同じ思いで打ちのめされていたからだ、光り輝く御柱(みはしら)に唖然としながら。



 「今日はもう風呂に入ってこい、特別に自炊は免除だ、俺が(おご)ってやる」

 あのヒーリングの大浴場は毎晩使わせて貰っている。

 お陰で毎日出来る生傷も、消耗し切った体力、魔力も不思議な程全快する。

 肝斑(しみ)(いぼ)黒子(ほくろ)や無駄毛でさえ次第に消え去っていく。心做(こころな)しか体力、活力増強にも効能があるようだ。

 最近は、水銀髑髏のメイド達が香油でマッサージや、美顔、産毛剃(うぶげそ)り、髪の手入れまでして呉れるようになっている。

 王宮に居た頃のように化粧こそしないが、エリスもステラ姉もあらためて美人なんだなと思う。

 ハウスキーパーかリゾート施設のサービス係のように面倒を見て呉れるスタッフを初め、どうやら異次元の魔宮は、基本この水銀髑髏の眷属達で営繕系の仕事が(まかな)われているようだ。


 甘えは許さないという、師匠の方針で、基本私達は自給自足だ。

 その日の訓練の途上で仕留めた(きじ)や猪を担いで帰り、(さば)いて調理する。リクエストすれば魚介類や新鮮な野菜も供給して貰えるが、師匠の分も含めて、自炊するのが私達の役割だ。

 大変なのは、(かまど)づくりや食材の下拵(したごしら)えから調理の実際、炒める、焼く、蒸す、配膳、後片付け、すべてに於いて魔術で行わなければならないと言うことだ。

 手を使う禁則を犯すと、師匠の掛けた呪術で、身体がビリビリ(しび)れるペナルティが即座に発動する。


 やってみると、意外に繊細な作業は、魔力のコントロールの精度を上げるのに持って来いと思われた。実際、最初の内は誰もがビシバシ(こぼ)して、夕飯の時間が大層遅くなったものだ。



 (たま)に疲れ切って身動き出来きない日に、師がご飯を出して呉れることがある。

 そんな日は、魔宮の豪華な大食堂に招待され、フルコースのディナー、リキュールの食前酒に葡萄酒も振舞われ(最初のうち、ステラ姉だけ苔桃のシロップとかで我慢させられたが)、食後のデザートはケーキにソルベ、フルーツのコンポートと盛り沢山で、夢見るようなご馳走攻(ちそうぜ)めの夜になる。

 だから、さっきの師匠の「(おご)ってやる」の一言に、顔にこそ出さないが私達は諸手を挙げて喝采(かっさい)していた。


 「この間の、苺とキャラメル・カスタードのミルフィーユ、デザートにまた出てくるといいなぁ、一緒に飲んだアップル・ティーも衝撃的だったっ!」


 「私は、大きなお鍋から取り分けたパエリア?、なんとか貝と魚介と黄色いお米の料理、また食べたい」


 「あたしは、ショーロンポー?、前菜に出てきた熱々のスープのお団子が忘れられないの!」

 こそこそと、食べ物の内緒話をするのは年頃の娘としては相当に意地汚く、()められる部類のものではないのだが止められなかった。


 こんな他愛無い話で笑い合える日が、また来るとは思っていなかったからだ。




 ***************************




 まだ陽が登らぬうちから修行の朝は始まる。

 ピピピピッ、と鳴る妙な目覚まし時計?、に起こされて起床するや、着替えと洗面を5分で済まさなければならない。

 手早くホワイトグースダウン?、の寝袋とウレタンフォームのパッド?、を正しい手順で圧縮し、寝座(ねぐら)として与えられているフレーム構造?、のリップストップナイロン製?、テントから()い出る。


 「今日は、神仙逢魔流体術の初伝で、試しをやる」

 「初伝の破魔拳発勁で大岩を穿(うが)って貰う、上手くクリア出来たら晴れて目録、中伝は今やってる天駆の歩法の上位版、天翔術に進む」


 歯磨き、洗面、草叢(くさむら)で済ますのがスタンダードになった朝の用足し(これも訓練と手早く穴を掘って埋める手順を伝授され、尻を拭くのはどの葉っぱが適しているか教えられた)、昨晩の残りがあれば温め直す朝食……無ければ、導師から手渡される固形バーとゲル状チューブのバランス栄養食やスポーツ飲料で簡便に済ませ、ウォームアップに古流内家拳で呼吸を整えたり、乾布摩擦や、今習ってる流派の剣法で形稽古を使って見せたりしたあと、本日の強化教練のスケジュールが“朝礼”と称して発表される。

 ちなみに“気をつけ、礼、休め”の号令は一週間交代の当番制だ。



 一遍に何種類もの武術や武器術を並行して仕込まれているので、頭がこんがらがってくる……発勁だけでも何流派あるのやら。

 夜は夜でゲール語と神聖文字に加えて魔術理論の座学だ。また、レクチャーは昼間の訓練中にも行われる。疾走しながら、組手をしながら、語られる内容を噛み締め消化しつつ、忘れないよう記憶の補助魔術で仕舞い込む。

 髭師匠(いわ)く、身体を動かしながら、あるいは戦闘しながらでも、自分を高められる、例えどんな状況下でも進化出来るチャンスを貪欲に(つか)みに行く為には、是が非でも必要な訓練らしい。

 今週は退魔術の呪句を唱えながら、両手に訓練用の振り棒を持たされて、振り回しながら疾走する荒行だった。




挿絵(By みてみん)




 ある晩、夢を見た。あの時の辛い体験だ。


 「人殺し、私の赤ちゃん返してよぉ……」

 ステラ姉が、言ってはならない一言をエリスに(つぶや)いていた。


 「ステラ姉、やめなよ、エリスだって狂っていたんだから」

 あの日まで、勇者に魅了された被害者の女達、誰もが等しく狂っていた。


 「狂っていたら、何でも許されるわけ?」

 「大体、ドロシーは女達を(あお)って、色キチガイみたいに(あえ)いでいたものね!」

 「気に入らないったら、ありゃしない!」

 ステラ姉の誹謗(ひぼう)の矛先が私に変わっていた。


 「……お前さえ居なければ、私は、私は勇者なんかに付いて来なかった!」

 「私は、弟のソランさえ居れば、よかった」

 勇者に進んで取り入ったステラの言い分とも思えなかった。

 盗人猛々(ぬすっとたけだけ)しいにも程がある。


 「今更何言ってるの、売女! 姉弟でなんて気持ち悪い!」

 「言わせて貰うけどねっ、あたしはねえっ、エリスのおかげで、もう子供も産めない身体にされたんだよ! エリス、あんたは人で無しの悪魔だ!」


 「めすぅブタァァッ! ブヒブヒいいながら尻を振って、もっと続けてと泣きながらせがんで離れようとしなかったのは、どこのどいつだあっ!」、エリスが私の頬を勢いよく張ったのを引き金に、3人で取っ組み合いになった。

 互いの首を絞め合い、爪で顔を引っ掻いて血だらけになった。

 私はエリスに馬乗りになられ、左右の頬を殴打された。醜かった。

 頭に血が上って、醜さが加速していくようだった。

 私達は、更に醜く(いさか)い、互いを(ののし)り合い傷付け合った。


 「お前がぁ、お前が、だらしなく酔っ払うから、私はしなくてもいい堕胎をっ! 私が人殺しならっ、お前も同罪だぁっ!」

 エリスの拳が、ステラの鼻骨を砕いていた。

 3人共、疲れ果て、肩で息をついていた。



 明確な境界線があった訳ではないが、何年か振りで自我が戻って来たのは3人で顔を突き合わせる三日前の夕方近くだった。

 メイド達と同性同士の複数セックスに(ふけ)っている最中だったから、タイミングはまるで神罰が下ったのだと思える程に最悪だった。

 最初は今迄感じたことの無かった倦怠感と睡魔に襲われて、酷い目眩(めまい)に気持ちが悪くなった……勇者パーティのスキルには疲労耐性があったのにだ。

 とんだスキルの無駄遣いだが、寸暇(すんか)を惜しみ夜を徹して性愛に狂っていれば常人ならば衰弱死していてもおかしくはない。

 それが従者としての、勇者の恩寵(おんちょう)を失う前兆だった。


 「いやああああああああああああぁっ!」


 理由は分からないが、全裸で絡み合い互いの股間に顔を(うず)めて愛撫為合っていた相手の女性の方が、先に正気に戻った……悲鳴と共に力一杯、全裸の私は突き飛ばされていた。彼女は真っ青な顔色でブルブル震えながら、一心不乱に口許に(まと)わり付いた私の愛液を(ぬぐ)っていた。

 さも醜悪な汚物に濡れたようにして……そして彼女はボロボロと涙を(こぼ)した。

 何故、と言う(いぶか)しみは次の瞬間には全てを思い出した本来の理性に依って、違う意味の“何故”として悲劇の悪夢が(よみがえ)った。

 仕出かして仕舞った不仕鱈(ふしだら)な行為の数々が浮かんでは消えて、胃が痙攣して引っ繰り返る程吐き続けて、一晩を明かした。

 何年にも渡り、不特定多数の男と女に股を開き、進んで犯された(おぞま)しい記憶に気が狂いそうだった。実際、気が触れて仕舞った女達が何人もいたが、運が悪いことに丁度私は、躁状態を誘発する魔毒をドラッグとして使っていたので半分以上ラリっていて、クスリが抜けなかった。

 髪を引き千切り、爪で皮膚を(えぐ)る自傷を繰り返しても、同時にクスリでハイになってる状態は悲しさド底辺の筈なのに笑いが止まらず、遂に感情乖離(かいり)の精神破壊を発症する。

 忘れたくても忘れられないが、沢山の変態行為をした記憶はあっても数を数えることは出来なかった。覚えてはいても、それが100人なのか500人なのか、或いはそれ以上なのか全く見当も付かなかった。

 例えそれが1000人だとしても長きに渡って複数輪姦の快楽に溺れた罪が軽くなったり、重くなったりする筈もなく、全く意味を成さなかった。




 「死のう、私達はお互いを憎んでいる、ひとりずつ、一番罪深いと思ってる相手の咽喉を突いて、一緒に死ぬの、それが一番いい」

 互いを罵倒し合うのに疲れた私達は、3人一緒に死のうと言うことになった。



 ………結局、私達は死ねなかった。ステラは私の咽喉に刃先を突き入れ、エリスはステラを、私はエリスに突き入れたが、それ以上突き込むことは出来なかった。

 何度も、何度も、力を()めようとした。出来なかった。

 心の奥底では、銘々、自分が一番罪深いと思っていたからだ。

 ここまで堕ちたのは誰のせいでも無い、自分のせいだと本能的に悟っていた。

 醜く()れあがった顔、醜く()れあがった(まぶた)から、涙が溢れて止まらなかった。

 私達は、自分を憐れんで泣いた。


 私は、衝動的に自分で自分の腹に短剣(ダガー)を突き入れた。焼けるような強張りで、それ以上、何も出来なかった。

 私は、自分が自害も出来ない胆力しか持たない、ただの能無しの女だと知った瞬間だった。


 熱く噴き出す静脈血で、辺りを濡らし、ごめんね、ごめんね、と謝り続けるステラ姉とエリスの声を、何処か遠くに聞いていた。

 (ソラン、御免なさい、許される筈もないけれど……)


 村では、あんなに仲の良かった3人なのに、もうどうしようもなく壊れて仕舞ったんだと思った。

 自分自身、()()()()()だなって自覚したら生きる気力も無くなった。(ふさ)ぎ込んでいたら、いつの間にか王宮を追われていた。




 ………………………夜中にテントの中で目を覚ますと、上体を起こしてジッとこちらを伺う、ステラ姉とエリスが居た。


 「(うな)されていたから……、“何で死ねないの、ごめんね、ソラン”って、……あの時の夢だよね」


 「……今まで謝る機会も無かったけど、ドロシーにした私達の仕打ちは取り返しのつかないものだった」

 「私達は、一生を掛けて償うよ……」


 気が付くと、私は夢を見ながら泣いていたのだろう。涙の跡があったが、その上にまた涙が溢れて止まらなかった。


 「一生、友達でいて呉れさえすれば、もうそれだけでいいよ」


 その晩、私達はお互いを絶対に見捨てないと、誓い合った。




挿絵(By みてみん)




 こうして私達は末法的な虐待に近い修行という名の(しご)きに邁進していくのだが、勇者の加護を失って弱く成り、王宮を放逐されて惨めに彷徨(さまよ)った当所(あてど)無い逃避行は生きるか死ぬかの命ギリギリの風前の灯火(ともしび)ですらあったが、今の状況に比べれば子供のお飯事(ままごと)にすら思える。

 それ程までに巻き髭の教練教官は、苛烈で凄絶、酷薄なまでに(なさ)容赦(ようしゃ)無かったが、却ってそれが清々(すがすが)しく思えるのはどうしてだろう?






勢いで書き出したけど、この先の展開のプロットもアイディアも不足しているのを早くも痛感しています

大丈夫かな、これ?


トレイル・ランニング=またはマウンテンランニングは陸上競技の一種で、 様々な種類の地形〈砂地、土の道、林道、一人しか通り抜けられない森の小道、雪道等〉や環境〈山、森林、平原、砂漠等〉で行われるスポーツであり、 トレランやトレイルランと略される/不整地を走るランニングスポーツで、日本では以前から山岳マラソンとして同様のものが存在していたが、1970年前後にアメリカを発祥とし、欧米では盛んだったが2000年代初頭まで日本ではあまり知られていなかった/しかしマラソンブームや登山ブームの波に乗って、両者の要素を併せ持つ「トレイルランニング」が知られるようになった

コースは森林、山岳地帯、河川などの自然地形を利用して設定され、そのため馴染みのない地形や天候にも対応する必要がある/またフルマラソン以上の長距離を走ったり、種目によっては1000m近い高低差があるコースを走ったりすることもある/道路を走るマラソンと比べて地形の変化が大きく、危険性が高いため適切な装備を準備することが重要である/シューズはスピードや快適性よりも、トレイルの不規則な地形に対応できるように作られたもので、足裏をしっかりサポートし、グリップ性に優れることが求められる/ランニングウェアは吸汗速乾性に優れていて、裾を引っ掛けて転ぶ危険もあるのでパンツは短めかタイトなもの、シャツも肘の部分が伸縮性があり身体の動きを妨げないものなど、トレイルランニング向けのものが選ばれる/水筒類は山に入り、長時間のランニングをする際は必ず水分補給ができるものを持って行くが携帯型の水筒に類するものが多数あり、トレイルランニング用の小型のバックパックで持っていく人が多い/トレイルランナーは雨具としてレインウエア上下を持参しておく必要があるが、同時に暑い季節に濡れた状態で過ごすことは身体の冷やしすぎや体調不良の原因となるため、レインウエアは持って行くことが重要である/ヘッドランプも必要で、ランニングコースは森林部では日没前から暗くなることが想定され、山間エリアであり林道はライトアップされていないことが多いし、夜間では自分のペースを取り、足元をしっかり確認しながら進むために必要なアイテムである/走る時には自分の位置や進んだ距離、走りの速度などを把握する必要があるため、GPS機能付きのウォッチがあると便利/他に行動食・ファーストエイドキット・地図とコンパス・ホイッスル・サバイバルシートなどが携行される

ゴアテックス=ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、テフロン)を延伸加工したePTFEフィルムとポリウレタンポリマーを複合化して作る

その最大の特徴は防水性と透湿性を両立させていることにあり、つまり水蒸気は通すが雨は通さない

丹田=内丹術で気を集めて煉ることにより霊薬の内丹を作り出すための体内の部位/下丹田は東洋医学における関元穴に相当し、臍の下3寸〈臍と恥骨稜の間を5寸とする骨度法による〉に位置し、英語圏では日本の禅僧によって坐禅瞑想が紹介された経緯から、下丹田をharaと呼ぶこともある/意味は気の田のことで、気から成る丹を耕す田であり、体を上下に走る経絡である衝脈の直線と腰回りを一周する帯脈が、下丹田の存在する臍の辺りで交叉して田に見えることから、これを丹田と称するとも言う/内丹術では、気を材料として下丹田を鼎炉とみなし意識と呼吸をふいごとして丹を煉成する/尚、女性の場合は乳房の間の膻中穴を鼎炉とする

ジャージ=メリヤス生地〈天竺生地〉の総称または天竺生地で作られた衣類、特にトレーニングウェアのことを指す/ジャージという呼び名はイギリス海峡のチャンネル諸島のうちのジャージー島で17世紀以来つくられてきた漁夫のシャツに由来し、それがアメリカのメリヤス生地の呼び名、およびメリヤス生地で作られた競技用ウェアをジャージと呼ぶようになった/日本の学校では体育で用いる体操着として用いられるだけでなく、一種の作業着などとしても活用されていて、上下ワンセットになっており、ボトムスを「トレーニングパンツ」、トップスを「トレーニングシャツ」と呼ぶことが多い/特に学校指定のジャージの場合、機能面・耐久性が考慮されていて、一般にトップスはファスナーがついており、身体前面で開けられ、着替えやすく体温調節もしやすい/ボトムスは長ズボンだけの場合もあるが、長ズボンに加えて短パンが用いられている学校もあり、季節に応じて使い分けられている/学校の体操着としてのジャージに多く用いられるデザインにも様々な種類があるが、多く採用されているタイプはトップスの左右両方の肩から袖、ボトムスの腰から裾まで線〈ライン〉の入ったものである

エスプレッソ=深煎りで微細に挽いたコーヒー豆を充填したフィルターに沸騰水を加圧状態で濾すことで抽出されたコーヒーのことであり普通のコーヒーカップの半分ほどの大きさのカップで供されるためデミタスとも呼ばれる

特徴的な抽出方法により風味が濃厚であり、使用するコーヒー豆が深煎りのため焙煎工程で揮発し抽出時間も短い

クリームなどを加えて、カフェ・ラッテ、カプチーノ、カフェ・マキアート、キャラメル・マキアートなどのバリエーションもある

電気式のエスプレッソマシンは直火式に比べてより高い圧力をかけて抽出することができるため、より濃厚に淹れられると言われる

ソルベ=シャーベットと同義だが糖類のほか果汁や酸などを加えて凍結させた冷菓で、これには乳脂肪分や乳固形分を含む場合もある/イギリスではアメリカ風のシャーベットに近い氷菓をフランス語からの借用語を用いソルベ〈sorbet〉と呼ぶ

コンポート=果物を水や薄い砂糖水で煮て作るヨーロッパの伝統的な果物の保存方法/ジャムに比べ、果実自体の食感や風味が残っており糖度も低いため、そのまま食べたりヨーグルト、アイスクリーム、スポンジケーキなどにしばしば添えられる/基本的にジャムにできるフルーツはコンポートにも応用できる

パエリア=「パエリア」という言葉は本来バレンシア語でフライパンを意味する/バレンシア地方の外にこの調理器具を用いた料理法が伝わるうちに、調理器具よりも料理の名称としてスペイン人全体や他国民に浸透していった/

パエリアを炊く人のことを女性なら「パエジェーラ」〈paellera〉、男性なら「パエジェーロ」〈paellero〉と呼ぶ

パエジェーラと呼ばれる専用のパエリア鍋〈両側に取っ手のある平底の浅くて丸いフライパン〉で調理する米料理で、野菜、魚介類、肉などの具材をたっぷりと入れて炒め、それにジャバニカ米、水、黄色の着色料としてサフランを加えて炊き上げるが、その際に蓋をし、いわば具材を蓋の代わりにして炊きあげるのが一般的である/蛸、海老、ムール貝〈ムラサキイガイ〉、ヨーロッパアカザエビ、烏賊、白身魚を用いた魚介系のパエリアが有名だが、バレンシアの猟師が獲物を米と一緒に煮込んだのが始まりと言われるバレンシア風パエリアは、兎肉、鶏肉、蝸牛、隠元豆、ピメントなどの山の幸を中心にして作る

小籠包=中国・台湾・マレーシアなど中華圏の国々でよく食べられている中華料理の点心の一種/豚の挽肉を薄い小麦粉の皮に包んで、蒸籠蒸しにした肉まん〈肉包子〉のことで、挽肉には豚皮を煮込み冷やして出来上がった煮こごり〈ゼラチン〉を混ぜるため、蒸し上げるとゼラチン成分が溶けて皮の中にスープが入った状態になるのが特徴である

ダウン=一般的にスリーピングバッグ、シュラフと呼ばれる寝袋は袋状の携帯用寝具だが、保温材として使用される天然素材は羽毛が中心で、鵞鳥〈グース〉、家鴨〈ダック〉など水鳥のものを使い、胸のあたりに生えているボール状であるため保温性が高い綿毛〈ダウン〉を主に、かさ上げ性能を高めるため羽根〈フェザー〉を少量混ぜると良いとされている

テント=1970年に2本のフレームを本体スリーブを通してX字状に組み、本体四隅の穴に通してその張力で本体を自立させ柔構造で軽量と耐風性を兼ね備えるドーム型テントエスパースが東京で発売され、フレームの丸みゆえに居住空間も大きく圧迫感がないことから急速に広まった/また1970年に試作され1971年に関西で発売されたカラコルムテントはスリーブを使わず、フレームを自立させた後でテント本体をフックでフレームに吊り下げる方式を採り、凍えた手で厚いミトンをしたままでも迅速に設営撤収ができた/これらの発明によりウィンパーテントは急速に姿を消し、その後はドーム型テントが主流である/同じドーム型でも複数のポールを使うものや魚座型にクロスさせるなどメーカーにより様々な工夫が成されている

テントのシートに防水性があっても、それ1枚だけでは結露や人間自体の呼吸・発汗等によって内部が湿ってしまうため、フライシートとインナーシートで二重構造にし、隙間を作ってこの問題を解決しているものが主流である/フライシートには防水性が高いものを、インナーシートには底面以外に通気性がある素材が使用されていることが多い


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別口でエッセイも載せましたので、ご興味のある方は一度ひやかしてみてください

短めですのでスマホで読むには最適かと……是非、通勤・通学のお供にどうぞ、一応R15です

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運営様ご指摘により改稿中、ここも少し手を入れました 2021.01.17

全編改稿作業で修正 2024.09.12


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

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拙作「ソランへの手紙」にお越し頂き有り難う御座います
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別口で“寝取られ”を考察するエッセイをアップしてあります
よろしければお立ち寄り下さい
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― 新着の感想 ―
[良い点] Twitterから来ました。蛙鮫です。一話一話の話が長く,重厚だったため,ゆっくりと読ませていただきました。  三人の懺悔の物語。内容が中々にえげつなくて、思わず顔がひきつりました。笑笑…
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