6、私は何者? アニス、ひたすら質問をする
「私が危険なの? まさか死神とか?」
私は、オットーさんに問いかけた。
「へ? 死神なんて下級神ですよ。神じゃない、魔族ですね。あんな奴らには何の危険もありません」
「じゃあ?」
「アニスさんは、暗黒神の中で最強ですね。暗黒破壊神と呼ばれる神です。おそらく制御が大変だと思います」
そのとき、ブホッと何かを吹く音が聞こえた。アブサンだ。ゲホゲホと咳き込んでいる。
アブサンは、少し離れた席で、シトラスさんの指示どおり食事をしていた。きっと、怖がらせた、よね……。
(やだ、もう最悪)
「シトラスさんは、私が不安定だって喜んでるみたいだったけど」
「はい、いつも、他の神々から目をつけられておられますからね。今後は、アニスさんに注目が集まるでしょうから、分散されますね」
「分散?」
「はい、神々の監視です。あと、たまに勇者……は、ザコなのでどうでもいいですが、力を持つ魔王に狙われることもありまして」
「命を狙われるんですか?」
「はい、神の能力狙いですね。殺されると能力を奪われることがあります。基本、神に死はありません。殺されても別の身体に転生できますから。あるのは滅びです。すべての能力を奪われると消滅してしまいます。あの方が、妙な呪いをかけられていましたが……」
「殺したら滅びを与える、でしたね」
「はい、あの方は慎重ですから」
(あれは、殺したら消滅させるという呪いなのね)
コトっと、目の前に皿が置かれた。
「ランチプレートです。よかったらどうぞ」
「ありがとう、いただくね」
私は店の味を知りたいと思ってたから、ちょうどよかった。あちこちから視線が突き刺さる。こんなに見られると、食べにくいな。
でも、普通に美味しい。店が古い感じだから期待してなかったけど。
「うん、美味しい。こんな感じが流行ってるんですか?」
厨房の奥で、何人かがホッとしたのがわかった。
食べてみて、私は味の好みが少し変わったかもしれないと思った。普通に美味しいけど、物足りなさを感じる。
眠っていた能力が、暗黒超神シトラスさんによって引き出されたことで、私は人間じゃなくなった。だからなのだと、なぜか察した。これも私の能力なのかな。
「この街ではよくある料理です。味は悪くないはずなんですが、お客さんは少なくて……。あっ、でも、ランチ時間は、この店の半分くらいはお客さんが来るんですよ」
オットーさんは、なぜか必死に弁解をしている。
そういえば、転生のときに、シトラスさんが配下に準備をさせておくと言ってたっけ? 私もシトラスさんの配下か。ということは、オットーさんは先輩じゃない!
「オットーさんは、シトラスさんの配下なんですよね?」
「はい、そうです。この店の店員はほとんどが、あの方の配下や、その関係者です」
「じゃあ、私の先輩ですね」
「い、いえいえ、年功序列ではありません。すべては実力主義の世界です。私は、あの方の直属の配下ですが、他の店員は直属の配下ではありませんから、気を遣わないでください」
なんだか、オットーさんは焦った顔をしていた。先輩だと言っちゃいけなかったのかな。
「直属かどうかって、何が違うのですか?」
「あの方に転生させてもらったか否かです。神々の中でも、あの方が転生させる数は群を抜いて少ないのです。直属の配下のことを、あの方は、下僕と呼ばれます」
(下僕って、普通なら奴隷のことよね?)
「シトラスさんには、彼女の転生者以外の配下もいるんですね」
「はい。暗黒神のトップは暗黒超神である、あの方です。人を転生させる権限を持つ暗黒神はたくさんいますが、彼らもすべて、あの方の配下なのです」
「暗黒神の頂点にいるのが、シトラスさん? オットーさんは、なぜ彼女のことを、あの方と言うの?」
私がそう尋ねると、オットーさんは、また焦った顔をしていた。シトラスさんって名前は言っちゃいけないの?
「名前を出すと、あの方の耳に届いてしまいます。うるさいから、緊急時以外は名前を出すなと、以前こっぴどく叱られまして……」
「そんな能力もあるんですね」
「アニスさんにも、同じ能力がありますよ。魔導チョーカーが軽減してくれるとは思いますが」
うわさ話が聞こえたりするのかな? 確かにウザいかも。でも、緊急時は便利ね。
これから私は何をすればいいんだろう。器に闇エネルギーを集めて献上しろって、シトラスさんは言ってたけど、どうやって集めるのかな。確か、そのために準備をさせておくって言ってたのは、この店のことよね?
「オットーさん、質問攻めで悪いんですけど……」
「はい、私は、アニスさんのサポートを命じられていますから、何でも聞いてください。それに、アニスさんの方が、私より格上です。私はただの暗黒神ですから」
「そう。じゃあ、変な質問ですけど、私は何をすればいいの? 器に闇エネルギーをどうやって集めるかもわからないです」
すると、この質問を待っていたのか、オットーさんはニッコリと微笑んだ。
「この店は、アニスさんが闇エネルギーを集めるための場所として、あの方の命令で作りました。怪しまれないようにするために、アニスさんが生まれてすぐに開店したのです。新規店は、様々な調査が入りますので」
「この店で闇エネルギーを集めればいいの?」
「はい、そうです。いまさら調査も来ませんので」
「集める方法は?」
「その器は、あの方が作り変えられたようです。どこかに置いておけば、あの方が望むエネルギーが自然に集まります。闇エネルギーを集めていると知られると厄介なので、店のどこかに隠しておけば大丈夫です」
「勝手に集まるの?」
「はい。食堂のような場所では、人々は、愚痴話や不満話をします。その愚痴や不満がエネルギーとなって、その器に集まるのです」
「へぇ、負の感情が闇のエネルギーになるんだ。面白いですね」
「はい。また、闇を与えると人々はより一層、愚痴や不満を口にします。ですので、料理の味付けの一部に闇を混ぜておけば、集まりやすくなります。既に実験済みです」
「闇を混ぜる?」
「そうです。暗黒神の闇は、調味料として使えます」
「へっ? 調味料?」
「はい。暗黒神の闇は、なぜか少し甘いのです。他人の不幸は蜜の味っていいますでしょう?」




