37、繋ぎ止めたいみたい
「はーい、アニスちゃん。ふふ、なんだか嬉しい」
「うん? パフェ?」
「それもだけど、アニスちゃんって優しいもの」
「そうかな?」
「うん、みんな冷たいの。気持ち悪いから近寄るなと言われたり、無視したりするの」
確かに、彼女には近寄りたくないオーラが半端ないもんね。その気持ちはよくわかる。
でも、これだけ不満だらけなら、きっと闇エネルギーはたくさん溜まるはず。上客ね。
「リンちゃん、私も正体が知られると怖がられるよ」
私がそう言うと、彼女の表情はパッと明るくなった。そして、イヒイヒとちょっと怖い笑い声をあげている。10歳の姿じゃなきゃ、ほんとに気持ち悪いかも。
「アイスが溶けちゃうから、早めにどうぞ〜。あとで感想を聞かせてね」
私は営業スマイルを浮かべ、厨房へと戻った。
「アニスさん、食堂のお客さんから、さっきのデザートを食べてみたいと言われているのですが、どうしましょう?」
「うん? まだ、試作品なんだけどな〜」
「そのことも伝えましたが、食べてみたいと……」
「そう、わかったわ。お一人様?」
「確認してきます」
店員さんが、ホールへ出て行き、試作品のパフェを食べたい人の数を確認していた。そんな風に言ったら増えるじゃない。
私は、ホールの声を聞き、人数を数えた。うん、やっぱり、ほぼ全員ね。
店員さんも食べたそうな人いるし、10個くらいでいいかな。アイスクリームとソフトクリームの量を確認した。うん、ギリギリかな。
私は、パフェ用の器を並べ、フルーツパフェを作った。魔法で補助していけば、2個作るのも10個作るのも、あまり時間は変わらない。
「アニスさん、5人分お願い……えっ?」
「聞こえてたから、作ったよ。あとの5個は、食べたい店員さんの分だから、交代で休憩しちゃって」
「じゃあ、これを運んだら……」
「私が持っていくよ。あ、スプーンは……」
「パフェ用のスプーンは、こちらにあります」
スプーンの先を紙ナプキンで包んだ状態で、引き出しの中に入っていた。オットーさんかな? 仕事が早いわね。
「あの、どの方かわかりますか?」
「わかんないけど、ホールで聞くからいいよ」
私は、フルーツパフェを5個トレイにのせて、ホールへと運んだ。
「パフェの試作品をご注文された方は〜?」
そう問いかけると、『はい』の人が、見えちゃった。頭の中を覗くつもりじゃなかったんだけどな。
でも、私は反応を待った。そして、手をあげたり返事をした人に配っていった。『はい』じゃない人まで返事をしている。
「あれ? 5名様じゃなかったんでしたっけ?」
私が、ジッと顔を見ると、嘘つきおじさんが苦笑いをしていた。私は、『はい』の人に先に配った。
「ご用意しますから、少しお待ちくださいね」
私は営業スマイルを浮かべつつ、冷ややかな目を向けた。
「あ、う、うん、お願いするよ。なんだか、見たら食べたくなって……あはは」
すると、さっきの店員さんが、パフェをひとつ持ってきた。店員さん達の分が減っちゃったね。
でも、まぁ、いっか。食べてもらわないと注文も入らないもんね。
「カフェコーナーのメニューです。お気に召したら、お知り合いにもおすすめしてくださいね〜」
私は、営業スマイルを浮かべて、厨房へと戻った。
「アニスさん、このパフェは、保冷魔法をかけておきました。他のお客さんも食べたいと言われるかもしれないので、店員は、閉店後にいただきますね」
「そう、わかったよ。しっかし、嘘つきなおじさんって嫌ねー。お客さんじゃなかったら、私、殺しちゃうかもしれない」
「……アニスさん、お客さんですからね」
「うん、わかってるよ」
オットーさんは、ハラハラしながら私を見ている。自分ではわからないけど、イライラが顔に出てるのかな。
スゥハァスゥハァ
私は深呼吸をして、気持ちを切り替えた。
(うん? なんか、嫌な視線……)
私は、ねっとりと、まとわりつくような視線を感じた。これは……あの子しかいない。かまってほしいのね。スーパーの店員さんと一緒にいるはずなのに……。あ、お姉さんは、席を外してトイレに行ったんだ。
「アニスさん、見られてますよ、睨まれてます……」
店員さんが、少し怯えている。仕方ないなー。
私は、おかわり用のティーポットを持って、彼女の席に向かった。私が近づいていくのがわかると、ニタリと笑って、パフェを食べ始めた。あんなに睨んでいたのに、素知らぬふりをする気ね。
「紅茶のおかわりはいかが?」
「ありがとう、ください」
「はい、どうぞ。リンちゃん、パフェはどうかな? ウエハースがあればいいんだけど」
「パフェは美味しいよ。ウチの店にウエハースも置くよ。あー、うーん……どうかな、ウエハースってこの世界にはないかも」
なんだろう? 彼女は、私に協力したくて必死な感じがする。ポッキーはあるって言ってたけど、店にあったかな?
嘘というよりは、繋ぎ止めたいという願望が強いのね。同郷だということもあるだろうけど、それだけ、彼女には友達がいないってことかも。
私はなんだか、この呟きの神が、かわいそうになってきちゃった。もっと楽しく気楽に生きていればいいのに。
「リンちゃんのスーパーって、配達してる?」
「えっ!? してな……するよ?」
「じゃあ、星形の粒チョコ、店に並んでたじゃない? あれ、定期的に届けてくれないかな? パフェの飾りに使うとかわいいと思うの」
私がそう言うと、彼女はこれまでにないほどの笑顔になった。
「私が届けるよ、ちゃんと届けるよ、ふふ、ふふふ、ふふ」
「この食堂のオーナーは私なんだけど、店長はオットーさんなんだ〜。リンちゃんは闇系の人って苦手だよね? 私が居ないときにリンちゃんが配達に来てくれたら、どうしよう」
「大丈夫、アニスちゃんが居る時に届けるよ。それに、闇系の種族は、神ならいいことにするよ。アニスちゃんは、暗黒神だもの。お友達の種族を嫌ってたらダメだもの」
(暗黒神ってバレてるんだ)
「そんなことできるの?」
「できるよ。じゃないと、アニスちゃんとお友達でいられないもの。私、できるよ」
彼女は、自分で自分に言い聞かせているように見える。なんだか、放っておけなくなってきちゃった。
「リンちゃん、闇系の種族にいじめられたの? だから苦手なの?」
「えっ? あ、あぅ」
「話しにくいなら聞かないよ。でも、困ったことがあったら言いに来て。たぶん、リンちゃんより私の方が強いから、なんとかしてあげる」
リンは、ニタリと笑った。




