29、ふたりで緊急ミッションを受ける
「あれ? 緑色の服のおじさんじゃなくて、別の人が来た」
私がそう言うと、神経質そうな年配の男は、私をチラ見してスルーした。ギルドの人って、チラ見スルーする習性があるのかな。そしてアブサンに、もう一度確認するかのように話しかけた。
「カウンターの彼が、どのようなご迷惑を?」
すると、アブサンは、また凍えるような冷たい目をしている。うそ、この爺ちゃんを叱る気?
「あの、失礼ですが、貴方は誰ですか? 俺、貴方を呼んだ覚えはありませんけど」
「私は、ギルドの職員の教育を任されております。この者は成績も悪く失敗ばかりなので、手を焼いていましてね」
まぁ、そうよね。仕事できるタイプじゃないもの。でも、なんだかこの爺ちゃん、感じ悪い。カウンターのお兄さんは下を向いている。
「教育係ですか。じゃあ、職員さんの手本になるべき人なんですよね」
「はは、まぁ、いろいろと厳しく指導しておりますよ。ギルドは、依頼者と受注者で成り立っていますからね。気分良く利用していただきたいですから」
「へぇ、じゃあ、爺さん自身はどうなんだよ。いま、俺はあんたの態度にムカついてるんだけど」
アブサンが、ほんとに爺ちゃんを叱ってるよー。
「私が何か?」
「教育係なら新人をきちんと教育するのが仕事だろ。新人に対する愚痴を依頼者にぶちまけるわけ?」
「えー、いえ……」
「だいたい、俺にだけ話しかけて、アニスのことを無視するってどういうことだよ。チラ見して無視するとか、すんげー感じ悪い」
なんだか、アブサンが怒ってる。カウンターのお兄さんだってチラ見スルーしてたけど?
「あー、いや……」
神経質そうな爺ちゃんは、カウンターのお兄さんの前だからか、なんとかごまかそうとしてるみたい。あー、アブサンのことを生意気なクソガキって思ってる。やーね、性格悪い爺ちゃんだわ。
「お待たせしました。うん? 何かありましたか」
緑色の服のおじさんが、手に書類を持って戻ってきた。さっきアブサンが書いていたのと同じ依頼票の束みたい。
神経質そうな爺ちゃんは、急に焦った顔をしている。ふぅん、この人のことは怖いんだ。
「ギルマス、いえ、別に……失礼しました」
あっ、逃げた! 爺ちゃんは、奥に引っ込んでいった。でも、アブサンのことを遠くから睨んでる。陰湿なタイプね。あの人は、いらない。不満を溜め込んで……こっそり復讐するタイプみたい。
「変な爺ちゃんだねー。性格悪そう」
私がそう言うと、緑色の服のおじさんはケタケタと笑った。
「このギルドで一番古い人だからね。ちょっと変わってますが、あれでも教育熱心なんだよ」
「でも、アニスのことを無視してましたよ。男尊女卑とか?」
「そうですか? うーん、女性冒険者には普通に接してるはずですが……。無視は不快でしたね、お嬢さん、ごめんなさいね」
「別にいいですよー。でも、あんな人が教育係って、新人さん大変そう」
そう言うと、緑色の服のおじさんは、確かにと言って笑っていた。このおじさんの頭の中はあまり見えないな。でも、裏表はない感じ。
「本題に戻りますね。昨日登録された騎士学校の学生のうち、受注したのは6人。その中で2人は終了報告がまだのようだね」
「その名前は教えてもらえますか」
アブサンがそう言うと、緑色の服のおじさんは依頼票を私達の前に置いた。
「登録したばかりのランクの低い冒険者は、終了報告を忘れ
ることも多いので、危険なミッション以外はこちらも気にしていないんだけどね。居なくなった二人かな?」
「はい、この二人ですね……。危険なミッションじゃないんですか」
「うーん、ガーベラ高原の湖か。初心者でも大丈夫なはずだけど……うん? ちょっとごめんね」
他の職員さんが、彼に何か耳打ちをした。盗み聞きするつもりじゃないけど、聞こえちゃうんだよね。
騎士学校からの問い合わせみたい。彼は職員さんに、指示を与えた。マスターがいまちょうど調べているって伝言ね。
「いま、騎士学校からも問い合わせがあったそうだよ。捜査のミッションをギルドから出すことにする。念のために、ある程度のチカラのある冒険者に依頼するから、結果を待っていてもらえるかな」
「調査のミッションですか?」
「うん、緊急ミッションにするからすぐに出せるよ」
アブサンは、私の方をチラッと見た。何?
「じゃあ、それ、俺達が受けますよ。なぁ? アニス」
「うん? アブ兄、登録してないよ?」
すると、アブサンはカウンターのお兄さんの方を向いた。
「さっきの魔法袋の話は有効?」
「は、はい!」
「じゃ、俺とコイツが登録するから。手続きしてくれる?」
「はい! ありがとうございます! すぐに!」
カウンターのお兄さんは、慌てて席を離れた。魔法袋を取りに行ったみたい。
「受付の彼は気づいてないようだけど、お嬢さんは転生者だね。仲良しの彼が騎士学校に入学させられたってことは、魔族かな」
「秘密ですよー。ふふっ」
「そのチョーカーを外してくれるとわかるんだけどね。あまり無謀なミッションは受注させられないが……彼が強いから、まぁ大丈夫かな」
「アニス、この人はギルドマスターだから、隠さなくてもいいんじゃないか?」
「ダメ〜。怖がられたらお客さんが減っちゃうもん」
「なるほど、その言葉で十分だよ。属性も隠されているが、ないわけではない。ということは、闇系かな」
「し〜〜っ! おじさん、秘密だってばーっ」
「アニス、おまえ、バカか。カマをかけられただけだぜ?」
「えっ……ま、まじ!?」
「あはは、失礼しました。悪魔族あたりは隠したがりますが、そんな風には見えない。何だろうな」
「秘密だから〜っ」
私が怒った顔をしても、緑色の服のおじさんは全く動じないで笑ってる。怖がられないのは、いいね。
そして、冒険者登録をして、冒険者カードと魔法袋をもらった。やった〜! 魔法袋ゲットだぜ〜。うふっ。
冒険者カード、種族不明になってる。秘密の方がいいのに。
【名前】アニス(女・15歳)
【種族】不明
【冒険者レベル】1
【討伐ランク】Gランク冒険者
【所属】ギルド1199
「何かミッションを受注し達成すると、冒険者レベルが上がります。討伐ミッションなら、さらに、討伐ランクも上がります」
お兄さんは、嬉しそうに説明してくれた。所属はこのギルドの番号ね。番地と同じなんだ。
「緊急ミッションの依頼票ができたぞ。レベルは達成報告時に上がる。調査だけでいい。無理はするなよ?」




