22、カフェスペース作りの方が大事でしょ
「転生者が能力を奪えるのは、3日間だけ?」
「はい、神以外ならそうです。神はいつでも1つ奪われてしまう代わりにこのルールは当てはまりません。他の種族は、転生者が不安定な3日間だけです。だから、転生者は、15歳になると、すべてこの中央都市に集められるんです」
「転生者をこの中央都市に軟禁するのは、不安定な3日間を、町から隔離するためなのね。じゃあ、3日間が終われば、地元に戻される?」
「いえ、何かが起こると、その原因調査が終わるまでは軟禁されます。だから、期間のことは大天使様も何も言われなかったでしょう?」
そういえば、しばらくの間としか言ってなかったっけ。
「そうかも」
「しかし、困りました。属性のない転生者は、この3日間に出来る限りのチカラを吸収しようとするでしょう」
「ふぅん、責任者以外の能力も吸収できるのね?」
「……できますが、自分より劣る能力は吸収されません」
「責任者の能力ならすべて吸収されるの?」
「はい、同じ能力でも上乗せされます」
「じゃあ、責任者を殺す方が、圧倒的にお得ね。繋がりが絶たれて属性がなくなってしまうのも、考えようによっては弱点がなくなるってことだもんね」
私がそう言うと、オットーさんはなぜか慌てた。私は殺さないわよ? 消滅させられるもの。
それに神はこのルールに当てはまらないんでしょ? シトラスさんの呪いがなくても、私は3日ルールに興味はない。属性がなくなるのはいいかもしれないけど、別に、そうまでして強くなりたいとは思わないもの。
「アニスさんは……」
「ん? 私は責任者を殺そうだなんて思わないよ。だって変な呪いが発動しちゃうと私は消滅するんでしょ? それに、あの人のことは、性格悪いとは思うけど、別に嫌いじゃないもの」
そう言うと、オットーさんはホッとしたけど、店の客の緊張感が高まっていた。
「では、この3日の間に、他の誰かの能力を奪いたいと思いますか?」
店の客が、私の返事に集中したのがわかった。
「私は、そんなことより、テーブルクロスを決めなきゃならないの。まだケーキの試作品も1つしか作ってないし。かわいいカフェスペースを作る方が、圧倒的に大事でしょ」
「そうですね。ふふ、よかったです」
店の客の緊張が一気にゆるんだ。そっか、私に殺されるかもしれないって思ったんだ。
私の方がどの客よりもほとんどの能力は高いと思う。だから、殺しても意味ないもの。上乗せされるなら考えてもいいけど。
オットーさんは笑顔で、私が食べ終えた皿を持って厨房へと戻っていった。
たぶん責任者を吸収した属性のない転生者だけが、他の人も襲うんだと思う。あ、うん、これで正しいみたい。責任者との繋がりがなくなると、制御できなくなるのね。
オットーさんは、店の客を安心させるために、私の考えを聞いたのね。
あのギルと呼ばれていた人、神なら今じゃなくてもチカラを奪えるから、すぐに帰ったんだ。誰かを探していたみたいだったけど?
一緒にいた魔族が、時間がもったいないって言ってたのは、3日ルールのことなのね。
でも、夢で見た感じと、だいぶ見た目も年齢も違うようだったけど……属性がなくなると歳を取るのかなぁ?
あっ、責任者を吸収したから姿が変わったのね。
疑問に思うと、答えは頭に浮かぶ。シトラスさんが与えた知識は、肝心なとこが抜けてたけど、やっぱり便利ね。
私は、テーブルクロスを広げてみた。何色か用意されていたけど、やはり、クリーム色がいいかな? 水色やピンク色は、好みが分かれるもんね。
「オルガくん、クリーム色にするよ。うん? オルガくん、まだ暗い顔だね」
「アニスちゃん、ぼく、殺される」
「また、その話? どうして?」
「みんな、ぼくの転移能力が欲しいんだ。もともとは別の神の能力だったんだけど……」
「オルガくんが、その能力を奪ったんだね。それで狙われるようになったの?」
そう尋ねるとコクリと頷いた。なるほど、自業自得ね。でもそれを指摘すると、泣いちゃうかもしれない。扱いが難しいな。
私は、放っておくことにして、カフェスペース作りに戻った。
雑貨屋さんが店の左側のテーブルにたくさんのテーブルクロスやエプロンを置いていたから、左端にはお客さんはいない。
まずは、左端からテーブルクロスをセットしていった。クロスをかけるだけで、テーブルのイメージはグンと変わった。でも、椅子がかわいくない。
「オルガくん、大変だよ!」
「ど、どうしました?」
「椅子が、ぜんっぜん、かわいくないの」
「へ? 椅子ですか?」
「カフェは、くつろいでもらいたいからさー。食堂の椅子だと、かわいくないし、くつろげないよ」
「はぁ……うーん……」
「テーブルはクロスをかけるからいいんだけど。椅子屋さんって近くにある?」
「はい、1204番地は住宅地なので、家具屋もあります」
「じゃあ、行こう。あっ、雑貨屋さんのお会計はまだだよね?」
「いえ、父さんが払ってます」
「えっ?」
「店の分だからって」
「そっか、じゃあ椅子を買ってもいいか、オットーさんに聞かなきゃね」
「大丈夫です。アニスちゃんが自由にしていいんです」
「そう。じゃ、カバン取ってくるよ。オルガくんも出かける用意してきて」
「はいっ」
厨房に、カバンを取りにいき、一応、店長であるオットーさんに、椅子の話をした。
「アニスさん、買い物は自由にしてもらって構いませんが、気をつけてくださいね」
「属性のない転生者のこと?」
「はい、今日は、家具屋には転生者が多く集まっていると思います。それに、闇属性を嫌う大天使様が動かれている頃でしょうから」
「確かに、部屋の家具を買い揃えたくなるよね。昨日はみんなそんな時間はなかったと思うし。大天使様は見回りかな?」
オットーさんは頷いた。心配そうにしているが、行くなとは言わなかった。一応、信用してくれているみたい。
「アニスちゃん、お待たせしました」
「よし、じゃあ、行こっか」
私達は、店の前の道を住宅地の方へと向かって、歩き出した。
「家具屋だらけだね、この路地って」
「はい、住宅地の路地にありがちな雰囲気です」
たくさんの店がありすぎると迷う。
「ここにしようか。業務用って書いてあるし」
「たぶん、父さんはこの店で、店のテーブルセットを買っています」
「そっか」
じゃあ、かわいくないかもしれないと一瞬思ったけど、とりあえず見てみよう。
私達は、業務用の家具屋へ入って行った。




