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21、転生者の3日ルール

「そんなことより、ごはんまだかな?」


「アニスちゃん、ごはんどころじゃないです」


「えー、ごはんの方が大事でしょ」


 やっとオットーさんが、私のランチプレートを持ってきてくれた。もう、新たなランチ客は来ていない。厨房は、いまは飲み物の用意だけをしているみたい。



「アニスさん、お待たせしました。ちょっとお話をさせてもらってもいいですか? 召し上がりながらで結構ですので」


「はい、いいですよ。なんでしょう?」


 オットーさんは私の夢の話を尋ねた。私はランチプレートを食べながら、オルガくんに話したのと同じことを話した。


 食堂の客は、近くにいる人達は静かになった。私達の話を聞いているみたい。変なことは言わないように気をつけなきゃ。


「なるほど、やはり噂は事実のようですね」


「オルガくんが、属性のない転生者がどうのと、怖がっているんですけど?」


「ええ、さっきの魔族、いや魔王でしょうか……彼が、その噂の転生者ですね。毎年、数万人の転生者がこの星で生まれますが、たまにこういうことが起こるのです」


「転生のくじ引きの不具合ですか? 魔王は引いた玉の色の属性になるって説明を聞いた気がするけど」


「はい、私も転生するときは同じ説明を聞きました。そしてくじに不具合は起こりません。後天的な問題です」


「転生後ってこと?」


「はい、しかし、魔王でこれは困りましたね。私の知る限りでは、くじを2回引いた人に起こっていたのですが」


 周りで聞いていた人達も、シーンと静まり返り、どんよりしている。声の届かない席の人は、席を立って、こっちに移動してきている。店にいる全員が、この話を聞いていた。



「属性がない原因は、わかるんですか?」


「ええ、原因はひとつしかありません」


「何?」


「アニスさんは、あの方に封じられていた能力を解放されたとき、どう思いましたか?」


 私は、いまシトラスさんの名を出してはいけないと、本能的に察知した。客がきっと私を怖れるとわかったんだ。リラックスしてもらわないと闇エネルギーが集まらない。


「うん? ん〜、よくわかんない。でも、前日までの自分とは違うんだってことは、わかったよ」


 そう答えると、オットーさんが少しホッとしたことがわかった。シトラスさんの名前を言わなかったからかな?


「おそらく、彼はそのときに強い欲を持ったんです。彼を転生させた魔王が、彼にその感覚を植えつけたのかもしれません。愚かなことです」


「意味が全くわかんないんだけど」


「すべての転生者には、転生させた責任者がいます。アニスさんの場合は、あの方です。私もですが」


「うん、下僕だって言われたもんね」


「まぁ、配下だという意味ですけどね。あの方は、配下のチカラには興味はないようです。ですが、魔族には、強い配下を増やすことで自分の勢力を拡大しようとする者がいます」


「ふぅん、確かに中央都市以外の場所では、いろんな人達が勢力争いをしてるよね」


「はい、たまに、転生者を煽りすぎて事件が起こることがあるんです。封じられてらいた能力を解放されたばかりの転生者は、みな、能力が不安定ですから」


「事件?」


「ええ」


「どんな事件?」


 私がそう聞き返すと、オットーさんは黙った。言えないことなのかな。


「おそらく、昨日、その事件が二つ起こってしまったようです。だから、彼は、もう一人を捜しに行ったのでしょう」


 さっき、そういえば、例の魔族って言ってたっけ。彼と、もう一人の転生者が事件を起こしたってこと?


「その事件って、言えないようなこと?」


「はい、アニスさんはまだ不安定なので、アニスさんまで同じ事件を起こしてしまうと大変です。属性のない転生者は、すべての足かせを排除しようとします。アニスさんまでそんなことになってしまうと……」


 なんだろう? オットーさんまでが怖がっているみたい。それを知ると、私の属性がなくなるの? 暗黒神でなくなると、闇エネルギーを集められなくなるけど、別にいまさら地球に戻れなくても困らない。



「父さん、たぶんアニスちゃんが、さっきの人の天敵みたい。ぼく、殺される」


 オルガくんが泣きそうになりながら、オットーさんに訴えていた。ちょっと、ちょっと〜。みんなが聞いてるのに、それはダメでしょ。


 でも、それを聞いて、客は逆にホッとしているみたい。何よ、全く訳がわかんない。


「オルガ、アニスさんが天敵かどうかなんて、わからないだろう。転生者には必ず苦手な相手がいる。抑止力として、『大いなる父』がそう作られている。でも、苦手な相手でも簡単に殺してしまえることだってあるんだ」


「違うよ。アニスちゃんが暴れん坊だからじゃないよ。アニスちゃんは夢の中で、彼の能力が見えたんだ」


(暴れん坊って何よ)


「えっ……。本当ですか? アニスさん」


「見えたというか、人間の数万倍の戦闘力のある魔王がいると思っただけ。でも、夢の中の魔王は、さっきの彼じゃないよ。私と同じくらいの年齢だったもん」


「いえ、なるほど、やはり彼は属性のない魔王なんですね。そして、アニスさんは彼にとって天敵です」


「どう言うこと?」


「話を聞くと、アニスさんはあの方を殺そうとしませんか」


 あの方ってシトラスさんよね? 殺したら滅びを与えるという呪いをかけられてたんじゃなかったっけ?


 私がそう考えたときに、オットーさんもそれを思い出したらしい。急に明るい表情になった。


「そうか、あの方が対策をされていましたね。アニスさんはいくら不安定でも大丈夫ですね。属性はなくなりません」


「もったいぶってないで説明してよー」


「は、はい。天敵にはどれだけ隠しても、『大いなる父』の前では能力を知られてしまいます。だから、アニスさんが夢の中で彼の能力が見えたのです。そして、転生者には3日ルールがあります」


「何それ?」


「封じられていた能力を解放されてから3日間は、すべての転生者は不安定です。その間に、責任者を殺せば関係が絶たれ、属性はなくなります」


「私があの性格の悪いあの人を殺せばってこと?」


「え? あ、はい」


 オットーさんも、シトラスさんが性格が悪いと認めたわね。うぷぷ。


「属性がなくなって何が問題なの? 逆に損じゃないの?」


「転生者は、その3日間は、殺した相手のすべてを奪えますから。神なら殺されても復活するので最も強い能力をひとつしか奪えませんが」


「だから、オルガくんは神じゃなくて魔王だから最悪って言ってたんだ」


 オットーさんは静かに頷いた。



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