20、属性のない転生者、アニスが天敵?
「創造神オリジン? そんな名は知らないよ」
私がそう言うと、オルガくんは、嘘でしょと言いたそうな顔をした。
「シトラスさんに教えられていませんか?」
「うん、初耳だよ」
「え〜、当たり前すぎて、もれちゃったのかな?」
シトラスさんの辞書から消したい名前なのかもしれないよね。きっと、シトラスさんも、あの人のことは苦手だと思う。
「偉い人だよね?」
「はい、超神の生みの親です。すべての起源だと言われています。でも実体を持たない神です」
「じゃあ、あの姿は幻なの?」
「幻じゃないです。身体を持たないことで、様々な姿になり、そしてすべての場所を見ることが出来るそうです」
「ここも見られてる?」
「常に見ているわけではないでしょうが、すべてを把握していると思います。当然、未来予知もするそうです。だから、大変な事態になるとわかれば、夢の中に現れて、指導されるそうです」
「でも、顔合わせみたいな感じだけだったよ。同郷だから仲良くしなさいって、学校の先生みたい」
「顔合わせですか」
そう言うと、オルガくんはまた、オドオドし始めた。なんだか落ち着きがない。
「何? どうかしたの?」
「アニスちゃん、顔を見られたんですよね? 凶悪な人はいましたか?」
「ん? 魔王がいたよ。シトラスさんは、魔王や神は、普通の人間の数百倍の能力って言ってたけど、あれ、適当な話だったんだね」
「まさか、その魔王って……」
「うん、人間の数万倍以上の戦闘力だと思う。夢の中だったから正確には測れなかったけど」
そう答えると、オルガくんはポカンと口を開けた。何? 呆れたの?
「アニスちゃん、魔王の戦闘力がわかったんですか」
「いやいや、だから、正確にはわかんないってば」
すると、オルガくんは、唾をゴクリと飲み込んだ。そして、すごく小さな声で囁いた。
「アニスちゃんが、天敵なんだ……」
オルガくんは落ち着きなく、ウロウロし始めた。うーん、どうしたのかな? あっ、エプロンも届いてる。
私は、テーブルクロスと一緒に、何枚かのエプロンが届いているのを見つけた。全部広げてみると、シンプルなものもあったけど、1枚めちゃくちゃかわいいエプロンがあった。
白いエプロンで、縁がフリフリになっている。腰から下だけのタイプがよかったんだけど、これは胸当てもついている。まぁ、いっか。
私は、白いエプロンを身につけた。そして、窓ガラスを一瞬、鏡に変えて全身をチェックした。うん、かわいい。でも水色のロリータ系よりも、このエプロンなら黒のゴスロリ風な方が合いそうな気がする。
「オルガくん、どうかな? このエプロンかわいいよね」
「アニスちゃん、かわいいですけど、それどころじゃないです。どうしよう。また、ぼく、殺される」
なぜか、オルガくんは怯えている。ちょっとパニックになってるみたい。
「どうしたの? 殺されないでしょ」
「きっと、その魔王ですよ。噂になってる凶悪な転生者。神じゃないんだ。魔王だなんて、最悪です」
「どんな噂なの?」
「属性のない転生者……です」
私は、頭の中で、オルガくんの言葉を繰り返した。でも、シトラスさんが私に与えた知識の中には見当たらない。
ちょっと待って。転生するときに、三つめのくじ引きが、白い玉以外だったら、その属性の魔王になるって説明されたような気がする。
魔王なのに、属性がないなんて、オルガくんは混乱してるんだ。白い玉を引いたら、神になる。扉の繋がった神の下僕だって言ってたっけ。神も属性があるんだよね。
「オルガくん、その言葉も、シトラスさんが私に与えた知識にはないよ?」
「当然です。属性のない魔王や神なんて、普通はいないです」
「うーん? それならなぜ、属性のない転生者?」
カランコロンと、店の扉が開いた。
すると、一斉に、ほとんどの客が緊張したのがわかった。オットーさんも、固まっている。何よ、いらっしゃいませを言わなきゃいけないんじゃないの?
入ってきた数人に、私は近寄っていった。
「いらっしゃいませ、何名様ですかぁ?」
すると、一番最後に入ってきた人に、ギロリと睨まれた。ジッと私を見ている。やーね、このエプロン、そんなにかわいい?
「おまえか?」
「うん?」
この人は何を言ってるのかな? 私は首を傾げた。おまえか、って何がおまえなんだろう?
「はん、バカだな。違うか」
「ギル様、やはり、魔族の中にいるのではないですか?」
この人、私のことをバカって言った? 私はカチンときたけど、今は店の中だから我慢がまん。スゥハァと深呼吸して気分を変えた。
「あの、ランチを食べに来たんじゃないんですか? ここは食堂ですけど。人探しですかぁ?」
すると、ギル様と呼ばれた男が私を睨んだ。あれ? なんか、見たことあるかも。どこかで会ったっけ? スーパーの客かなぁ?
「ふん、低俗だな。おまえ、それでも神か? しかも、首輪付きか。チカラを隠す魔道具だな。弱いことを知られると狩られるからな、弱小神は。ふぁっはっは」
「私にケンカを売ってるんですか?」
そう尋ねると、その男は好戦的な目をした。なんか、楽しそう。強いのかな? でもよくわからない。あっ、腕輪が、魔道具なのね。変な魔力の流れが見えた。
「ギル様、弱小神なら相手をする時間がもったいないです。例の魔族を捜しましょう」
彼は、20歳前後に見える。そして一緒にいるのは魔族だ。でも彼の種族はわからない。腕輪で隠しているんだ。たぶん私も魔導チョーカーで隠されているんだよね。
彼は、私を見下すような視線を向けた。ちょっと感じ悪いんだけど。
「あぁ、そうだな。潰すべき相手は、さっさと潰しておかねばな。チカラの使い方に慣れてくると厄介だ」
そして、彼らは、そのまま店を出て行った。ちょー感じ悪いわね。
彼らが出ていくと、食堂の客の緊張は一気にゆるんだ。そんな怖い人達なのかな? 確かに一緒にいた魔族は強そうだったけど。
「アニスちゃん……大丈夫ですか」
オルガくんが駆け寄ってきた。
「ん? 何が?」
「だって、今の奴ですよ。噂の、属性のない転生者」
「ギルって呼ばれてた人?」
「はい」
「ふぅん、確かに種族は見えなかったけど、魔道具を身につけてるからだと思うよ」
「夢で見た魔王じゃないんですか?」
「うん? 夢で見た魔王は、もっと若かったよ。だってみんな15歳でしょ」
「やはり、噂は本当なんだ。どうしよう」
オルガくんだけじゃない。話が聞こえた人は、皆、怯えた表情になっていた。




