189、カボチャぱんつをはかなきゃ!
地面が透明になったのは、大天使様の透過魔法みたい。透き通っちゃうなんて不思議ね。
あっ、地底からこっちを見て、なんか言ってる。ワラワラと集まってるのはシトラスさんの城の警備兵かしら。やーん、もうっ! カボチャぱんつをはかなきゃ!
私は予備で入れてあったカボチャぱんつを魔法袋から取り出し、高速ではいた。うん、バレてない、バレてない。
ふぅ〜、予備の服を入れておいてよかったぁ。以前、大天使聖堂で、ロリータ服がボロボロになっちゃったから、あれ以来、着替えは魔法袋に入れてるの。うふっ。
うーん、地面の透過魔法だけでは城は見えないけど。大天使様は、地底に逃げ込まれないように透明にしたのかしら。
シトラスさんの城って、簡単に見られないようにしてあるのね。地底には、階層というか地層があるみたい。警備兵っぽい人達は、地底の地面に立ってる。でもきっと、城は、さらにその下にあるんだわ。
そういえば、治療院も、かなり地下深くだと思ったけど、城は、もっと下にあるみたいだった。
シトラスさんって、用心深すぎると思ってたけど、大天使様でさえ、こんな透過魔法を使うんだから、過剰防衛ってわけでもなさそうね。超神なら、かなりの深さをスケスケにできちゃいそうだわ。
「ただの関所を装って、何をしているのだ!?」
「大天使、おまえ、気でも狂ったか。ぞろぞろと人間を引き連れて……うん? そっちのガキ二人は何者だ?」
よかった、サクラにオールバリアをかけておいて。
「皆、冒険者ギルドのミッションで来た。この付近のアンデッドの徘徊騒ぎの調査にな。使い古した人形と化した死者を、この辺りに棄てているのだな。だから、暗黒竜神の闇に触発されてアンデッド化したのか。太陽神が三人もいながら、なんてザマだ」
大天使様は、めちゃくちゃ怒ってる。正義感が強いのね。
「地底火山のエネルギーには、太陽神の加護はかけられぬ。勝手にアンデッド化してくれたら、ゴミが減って一石二鳥じゃねぇか」
「ちょ、おい。人間共が何人もいるんだぞ。地底火山の話なんてするなよ」
太陽神って、なんだかサイテーね。死者をゴミ扱いしているのが、この中のリーダー格かしら。
「仕方ねーな。関所で働いてもらおうか。大天使は、どうするかな。まぁ、いくらでも代わりはいるか」
は? みんなを殺す気? バカじゃないの?
「太陽超神の直臣が、何を言っている!?」
あらら、大天使様、ビビっちゃった。ふぅん、確かにリーダー格の男は強そうかも。太陽超神の直臣なんだ。そんな偉い人がここで動力炉の管理? ちょっと窓際族な感じね。
小屋の裏手には、小高く積み上げられた場所がある。その場所は、濃い怨みの闇に覆われているわね。あれが、使い古した死体捨て場みたい。
だけど、濃い怨みの闇は残っているけど、死体は数体しかないわね。他の人はゾンビになっちゃったか。
この付近の墓地には、闇が満ちていたけど、墓の中は空っぽだった。使い古した後、せめて元の墓に戻してあげれば、ゾンビにはならないかもしれないのに。
ほんと、自分勝手よね。
ゾンビになっちゃったら、その魂は新たに生まれ変わることができない。このまま放置すると、この街の人間が減っていっちゃう。
いや、もう既に、随分減ってるのね。この怨みの濃さは、数十人や数百人ではない。数十万人や数百万人だわ。
それって、サイテーじゃない。
もっとたくさんの人間がいれば、もっとたくさんのカフェを作っても十分に採算が取れる。
人間は寿命は短いけど、いろいろなかわいい物を発明する能力が高い。これは、魔族にはない圧倒的な長所だわ。
ということは、こいつらのせいで、かわいい店が思いっきり減ってるってことよね。サイテーすぎる。
カチャリ
あっ、大天使様は、覚悟を決めたみたい。剣に手をかけてる。でも睨み合い状態ね。先に剣を抜くと、正当防衛にならないからかしら。
バタリと、小屋で働いていた人が倒れた。すると何も喋らない太陽神が、チッと舌打ちをして、外に蹴り飛ばした。そして、すぐに新たな人形を補充している。
倒れた人から強い怨みの感情が伝わってくる。
棄てられた人の背中に串刺しにされたスライムは、死んでいるみたい。太陽神はスライムを、電池代わりにつくり変えてるんだ。その寿命が尽きると、死者ごと棄てるのか。
サクラは悲しげな表情を浮かべた。いつもヘラヘラしている子が、こんな顔をするなんて。
ふと、サクラが私の顔を見た。
「すらいむがいじめられてるの」
私は、サクラの頭に手を置いて、軽く頷いた。
どうしようかな。でもさっき、大天使様には、サポートをするって言っちゃったんだよね。
『アニス、さっさと目障りな太陽神を処分しなさい!』
頭の中に直接響く性格の悪い声。あ、声に性格は関係ないか。
透明な地面の下を見ると、こちらを見上げる彼女がいた。兵もいっぱいいるじゃない。だったら、自分でやればいいでしょ。
『兵は自力で転移できないのよ。私が出て行くと面倒でしょ。そこにアナタがいるんだから片付けなさい』
『やだよ、面倒くさい。それに、大天使様が主役なの。私はサポートをするって言ったんだから』
『バカ犬! 大天使がそいつらに敵うわけないでしょ』
『えー、じゃあ、大天使様が殺されたら何とかする』
『は? その前にそこにいるアンデッドやスライムが犠牲になるわ。まぁ、いいわ。そうなれば、サクラは、アナタを見限って、私の元に来るわね』
『えっ? なぜそうなるのよ』
『サクラは、私にも助けを求めているからよ。ふふっ、アナタは、面倒くさがってダラダラしていなさい』
きっと、これはシトラスさんの挑発ね。この距離だと嘘かどうかの見分けがつかない。
「ふん、飽きた。さっさと始末しろ」
にらめっこ状態だった状況が動いた。大天使様が剣を持つ手を離した。遅いわね。
「じゃあな」
突如、無数の光の刃が、私達に向けて放たれた。
ガッ、ババババッ!
あぶなーい。ギリギリ間に合った。みんなをターゲティングしておいてよかった。
「何だと!?」
私が出したぶよんとしたバリアに、無数の光の刃が突き刺さって空中で止まっている。
大天使様が、ハッとして私の方を振り返った。そしてホッとした顔をしてる。明らかにギブアップみたい。
仕方ないか。
別に、シトラスさんにサクラを取られるだなんて思ってない。でも、私がやらないと帰れそうにないもの。
「ガキ、おまえの仕業か」
ふぅん、ふふっ。ゾクゾクする目ね。
「オジサン達、死にたいの?」




