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184、アニス、試される?

「いらっしゃいませ、お嬢様、お兄様。こちらがメニューになります」


 私は営業スマイルで、店長パークさんと高飛車なお姉さんの席にメニューを広げて置いた。


 高飛車なお姉さんは、ガチガチに緊張している。一方、パークさんは楽しそうね。意地悪な笑みを浮かべている。


「アニスさん、なぜ、この子から先に挨拶するの? どう見ても僕の方が上だよねー?」


 やーね、大きな声で。他のお客さんが何人がこちらを見てるじゃない。そっちがその気なら、いいわよ。勝負ね。


「はい、当店では、地位や種族は忘れて、皆様にゆったりくつろいでいただきたいと思っています。ですので、レディファーストで、女性からご挨拶させていただいています」


「なぜ、女性から? 全然理由になってないよ」


 意地悪な笑みねー。ニヤニヤしちゃって。


「この世界では、村や町、その長は、ほとんどが男性です。男尊女卑の種族も多いですよね。とある超神は女性であるがゆえに、妙な偏見や批判のまとになっているようです。当店は夜は劇場です。日常とは違う空間を演出する上で、女性に敬意を払うことは、とても素敵なことだと思われませんか?」


「へぇ、そんなことを考えているんですね、アニスさんは。女神信仰論者のようだ」


 何? そんな宗教があるの?


「別に、女神信仰でも、女尊男卑なわけでもありませんよ。適材適所、適性のある者が人の上に立てばいいと思います。あっ、なんだか、変な話になってしまいましたね。申し訳ありません。ご注文がお決まりの頃に、お声掛けさせていただきます」


 営業スマイルを浮かべ、軽く頭を下げて席を離れた。もう反論してこないのねー。飽きたのかしら?




 私が離れるとすぐに、別の店員さんに何か言ってる。ふぅん、注文は何でもいいのか、お金を払わされるのかをオーナーに聞いてくれって? お客さんなんだから、無銭飲食するなんてあり得ないんだけど。


「オーナー、あの二人が……」


「お客さん体験だから、当然、普通のお客さんと同じようにしてもらうよ。もちろん、支払いもしてもらうから」


「えっ、でも……」


「いま、あの二人は仕事中だから、給料出てるじゃない」


「給料? あ、報酬ですね。確かに、仕事中に仕事していないから、食べた分くらいは払ってもらいましょう」


 店員さんは、そう言いつつ、大きく頷いている。うん、当然よね。



 私が紅茶のお代わり用のポットを持ってホールをまわり始めると、彼が二人に私の話を伝えにいった。


 高飛車なお姉さんの、叫び声が聞こえたような気もするけど、まぁ、放っておこう。



 営業スマイルで、紅茶を注いでまわっていると、いくつかの視線が突き刺さった。でも、店内をひと通り回ると、視線も気にならなくなった。私を見ることに飽きたのかも。


「アニスさん、私もお願いね」


「かしこまりました、お嬢様」


 彼女……ユウカさんは、けっこう長居しているわね。ウチは別に、いいんだけど、彼女の時間は大丈夫なのかしら。


「アニスさん、本当に貴女、店員さんみたいだわね。そんなことは、店員にやらせておけばいいのに」


「私は好きでやっているので、大丈夫です。それに、態度で示さないと、まだこの店の店員さん達には伝わらないと思うので」


「私には理解できないわ。この場所の出店は、いいアイデアだと思うし、やられた感はあるのよ。こんなに人が多く集まる場所は、そう多くはないわ。でも、なぜオーナーである貴女が接客をする必要があるのか……何か秘密があるの?」


 ふぅん、ユウカさんは、この店が儲かるかどうかしか考えていないのね。私は儲けなんて、どうでもいいんだけど。根本的に違うのよねー。


「別に何かがあるわけではないです。ただ、私が理想とする店にするには、態度で示すしか方法はないですから」


「貴女なら、洗脳系の魔法も使えるのではないの?」


「ん〜、使えるかもしれませんけど、操ると本当の笑顔は引き出せませんからね」


「やはり、わからないわ」


 首を傾げる彼女に、軽く会釈をして、私は厨房へと戻った。



 そっか、私がここにいるから、彼女は帰らないのね。何か良い情報が得られると思っているみたい。


 でも、メイドカフェの良さを知らない人には、理解できないよね。言葉で説明なんて、できないもの。


『おかえりなさいませ、お嬢様』


 前世で何度か通った、あのメイドカフェの店員さんの笑顔がよみがえってきた。疲れたときに、あの笑顔って、ほんと最高なのよね。


 あっ、そっか。この世界って、あんな風に、人間関係のストレスで神経をすり減らすことはないか。


 でも、別のストレスが半端ないかも。


 やっぱり、素敵なメイドカフェにしたい。この店に来ると、嫌なことは全部忘れてリフレッシュできるような、そんは店にしたいな。




「オーナー、あの二人は、紅茶を注文しましたよ」


 厨房では、さっきの店員さんがそう教えてくれた。


「そっか。じゃあ、サービスでアイスクリームを付けてあげて。あのお姉さんは、食べたことないと思うから」


「いいんですか?」


「うん、みんなも、食べたことない人は食べていいよ。他のアイスクリームにすり替えるとマズイということがわかるわ」


「あー、昨夜の横流しの件ですよね。もし誰かに横流しを強要されたら、アイスクリームを渡していいけど、必ず報告するようにと、店長が言っていました」


「そう。間違っても、他の代替品を店で出さないでね」


「はい、その件も注意されました。下手すると、その場にいる全員が殺されかねないって……。ちょっと大げさですよね〜」


 店員さん達は、軽く考えているわね。


「アイスクリームを食べたら、わかるよ。これを食べに来たのに別の物を出されたら、キレちゃう人は何するかわかんないよ」


「そんなに美味しいんですか!?」


「味じゃないの。まぁ、食べてみて」



 店員さん達は、それぞれアイスクリームをスプーンですくってきてる。ワンスプーンで、わかるかしら?


「オーナー、これ、何が入っているんですか? ポーション? いや、違うな。魔力値がググッと押し上げられるような感覚……」


「アイスクリームを作る工程で魔法を使うから、私の魔力と闇が溶け込むの。だから、わずかな闇耐性が得られるわ。魔族の血が混ざっている人なら、魔力値も上がるでしょうね」


「ポーション効果を感じますが」


「魔力値が上がるときの副作用じゃない? 私は回復魔法は使えないもの。成長の止まった魔王でも、魔力値は増えるよ」


 私がそう言うと、店員さん達の顔色が悪くなっちゃった。



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