150、生産系の魔族の集落
時空スライムのサクラは、ニコニコして、ジッと何かを待っているみたい。もしかして、あとで服を買いに行こうって言ったからかな。
でも、こうしてオルガくんと二人で並んでるでいると、かわいらしいカップルね。ふふっ。
「サクラ、服を買いに行こっか」
「うんっ!」
私がそう言うと、サクラは目を輝かせた。ふふっ、かわいい。でも、小さな女の子の姿だけど、この子に性別はあるのかしら。スライムって分裂して増えるから、普通に考えれば、性別はないわよね?
「オルガくん、子供服を売ってる店、わかる?」
「はい、お供します」
うん? サクラがなんだか飛び跳ねてる。
「サクラ、どうしたの?」
「おうちが、とどかないの」
「ん? おうち?」
サクラが手を伸ばしてるテーブルの上には、金魚鉢が乗っている。スライムに戻れば、ぴょんと跳躍できるのに、人化していると全然ダメなのね。
金魚鉢を取って、サクラに見せた。また金魚鉢の中に入るのかしら?
「これのこと?」
「うんっ」
サクラは、両手で金魚鉢を大事そうに抱えると、お腹の中に入れた。え? お腹に入れた!? 金魚鉢は、サクラが抱えているだけで、そのまま、お腹の中に消えていっちゃったよ。
「サクラ、お腹に入れたの?」
私がそう尋ねると、サクラはお腹をポンポンと叩いてみせた。華奢なお腹にどうやって、大きな金魚鉢を入れたのかしら。
「オルガくん、どうなってるのかな」
「はい、時空スライムは、無限の魔法袋ですから」
「あ、別の次元というか時空に収納したのね」
「そうだと思います。時空スライムを飼う魔族の多くは、彼らを魔法袋として使っています」
「ふぅん、なんだか虐待してるみたい」
「時空スライムの知恵だと思います。彼らは、とても弱い魔物なのに、こんなにも繁殖しているのは、魔族の荷物を預かることで共存できるからだと思います」
「へぇ、時空スライムってすごいのね」
「さくら、すごいの?」
「うん、すごい知恵だね」
私がそう言うと、サクラはまたピョンピョンと飛び跳ねてる。人化していても、飛び跳ねるのはスライムの習性なのかしら?
「オットーさん、ちょっと出かけてきます」
彼に向かってそう叫ぶと、一瞬こちらを見て、ぎこちない笑顔で頷いた。
魔王ドーラさんの相手に必死みたい。常連さんみたいだし、別に放っておいても大丈夫よね。
「じゃあ、オルガくん、お願いね」
私達は店を出ると、オルガくんの転移魔法で、サクラの買い物のために移動した。
「わっ、初めて来る場所ね」
街の中心部からは、かなり離れた場所にある集落みたい。
「はい、ここは、魔族の集落なんです。と言っても、非戦闘系の魔族が集まっているので、危険はないです」
キョロキョロと見回すと、どちらを向いても石造りの美しい建物が並んでいる。たくさんの住人が暮らしているのね。集落というよりは、ちょっとした街という感じ。
「建物がとても素敵ね」
「ここは、生産系の魔族の集落なので、こだわりがあるみたいです。様々な彫刻や飾りは、種族を表現しているのです」
「ふぅん、看板の代わりなのね」
私達が歩いていると、住人は不思議そうな顔をして、こちらをチラチラと見ている。チビっ子を二人連れた私って、この子達の、年の離れたお姉さんに見えるのかな?
非戦闘系ってことは、サーチ能力も低いのかしら。
魔道具らしきものをこちらに向けて首を傾げている兵もいる。うん? 兵がいるのね。でも、大天使様の警備隊とは違う。兵は鎧を着ているけど、みんな魔族だもの。
「あの、すみません。我々は保安官です。集落の安全のために、ここに来られた目的をお尋ねしたいのですが」
保安官と名乗った人達は、オルガくんに声をかけた。
「この子の服を探しに来ました」
「あの、なぜ、この集落に? ここは、魔族の街ですし、買い物なら、都市部の方が多くの良い物がありますが」
ふぅん、この人は、オルガくんが暗黒神だとわかっているのね。だから、ビビっているみたい。襲撃者かもしれないと思ったのかしら。
サーチをして、サクラは時空スライム、私は不明だったみたい。でも、ここまで完璧に人化できるほど、魔力の高い時空スライムは存在しないのね。
それで、魔道具が不調だと思ってるみたい。
「この子は、少し特殊なので、都市部より、ここに来る方が早いと思ったんです。ピクシーの服を探しに来たんです」
「それでしたら、あちらの通りです。ご案内しましょう」
保安官と名乗った人達は、私達を案内してくれるみたい。でも、案内じゃなくて、危険視されてるのよね。だから、ずっと張りついておきたいみたい。
オルガくんは、少し嫌そうな顔をしてる。私の方をチラッと見るから、私が代わりに返事をしようかな。
「お兄さん、私はこの街は初めて来たの。案内は助かりますよ」
「では、参りましょう」
ふふっ、私の素性を考えてるみたい。オルガくんの姉なのか、それとも配下なのか、ただの奴隷なのか。
ふぅん、魔族って、やたらと上下関係にこだわるのね。宝珠の森の魔族みたいに、縄張り争いをしているなら理解できるけど、こんな平和な雰囲気なのに、上下関係なんて、どうでもいいじゃない。
「わっ、かわいい!」
案内された店は、ぽっこりとしたキノコのような外観の店だった。色合いも、水色や淡いピンクで、すっごくかわいい。
「アニスちゃん、ピクシーの店は、どこもこんな雰囲気です。あっ、色は違うかな」
「へぇ、キノコみたいでかわいいね。妖精さんのお家みたい」
「ピクシーは、妖精の一種ですからね」
えっ、そうなんだ。知らなかった。
サクラは、目をキラキラさせてる。ふふっ、ワクワクが伝わってくるようだわ。
店に入ると、中には耳の長いお姉さんがいた。エルフ族ね。初めて見たけど、長い耳がピンと立ってるんだ。ウサギのイメージだったけど、全然違って、すっごく綺麗な人。
「いらっしゃいませ」
彼女は、店の外に立っている保安官をチラッと見て、私達を警戒したみたい。なるほど、案内はそういう効果もあるのね。この客は危険だというメーセージ。
「この子に合うピクシーの服がほしいんです」
オルガくんがそう言って、サクラをお姉さんの方に向かせた。サクラは、ニコニコ、ワクワクしている。
そのキラッキラした表情に、お姉さんは少し警戒を解いたみたいね。
「お嬢さんは、人化をしているということでしょうか? えっと、種族は……あれ? すみません、私の能力が低くてサーチが上手くできないので、教えていただけますか?」




