15、アニス、食堂の外装を変える
高級スーパーのオーナー、呟きの神リンは、ジッと私の顔を見ていた。何かを探っているのかもしれないけど、彼女に私の頭の中は覗けないよ。
「そうね、また、ここに買い物に来るね、リンちゃん」
私がそう返事をすると、彼女は上目遣いで嬉しそうに笑った。うん、かなり病んでるけど、かまってちゃんだけど、悪い子ではなさそう。でも、ちょっと苦手だけど。
彼女は、私と話しながら、チラチラとオルガくんを見ていた。オルガくんは、今は変身魔法と幻惑魔法で、私と同じ歳くらいの、爽やかなイケメンに変わっている。
オルガくんは、姿は変わっても中身は5歳児だ。チラチラ見られることが、気持ち悪いみたい。
そっか、オルガくんのこの姿って、ちょっとアイドルっぽいかも。華やかなスターというよりは、身近な、地下アイドルのような親しみやすさがある。
リンさんが、ボーっとオルガくんを眺めている姿を見て、私はひらめいた。うん、そうしよう、うん。
私達は、スーパーを出てすぐ、オルガくんの転移魔法で、食堂に戻ってきた。
「オルガくん、急に転移魔法を使いたいって、何か急ぎ?」
「いえ、さっきの人が後をつけさせようとしたから、気持ち悪くて。ぼく、転移魔法は得意なので、痕跡は残してないです」
「そう、ちょっと変わった子だったよね。でも、この店は知ってるみたいだったけど」
私がそう言うと、オルガくんはハッとした顔をした。と、同時にゲンナリしている。そんなに苦手なのかな。
私達が店に入ると、皆が驚いた顔をした。
私の服かなとも思ったけど、違うよね。きっと、オルガくんが15歳くらいの姿だからだ。
「オルガくん、変身魔法、解くね」
「えー、もう少しこのままでいたいです」
「そんなに気に入ったの?」
「はい。それにこの姿だと、悪ガキに絡まれないと思いますし」
オットーさんが、慌てた様子で近寄ってきた。
「アニスさん、これはいったい?」
「服を買ったの。かわいいでしょ」
オルガくんは、魔法袋から、買った荷物をテーブルに出していた。かなりの量ね。やはり欲張りすぎた。
「はい、服はよくお似合いです。人間に流行りの服ですね。あの、オルガはいったい……もしかして、力を失ったのですか」
何を心配してるんだろう? と考えると、オットーさんの頭の中も見えてしまった。闇属性が隠れているから、誰かにチカラを奪われたって心配してるんだ。
私は、オルガくんにかけていた魔法を解いた。
「スーパーに潜入できるか挑戦してみたの。うまくいったのよ。ねー、オルガくん、楽しかったね」
元の姿に戻って、オルガくんは残念そうにしながらも、頷いた。
「アニスさんの魔法でしたか。驚きました」
「私が一緒にいて、誰かにチカラを奪われるなんてことは、ありえないよ。敵意を向けられると、私、すごくイライラするの。殺したくなっちゃう」
「えっ、あ、はぁ」
オットーさんが、少し怯えたのがわかった。オルガくんがすぐに泣きそうになるのは、父親に似たのね。
「街歩きして、いろいろひらめいたよ。店の改装しなくっちゃ。業者は……うーん、私、自分でできそう。改装してもいいかな」
「はい、この店は、アニスさんの店ですからご自由にどうぞ。メニューなども、ご提案いただければ取り入れます」
「よかった。まず、外装から変えようかな。あ、荷物、邪魔になっちゃうね。それをまず部屋に持っていこっか」
「アニスちゃん、ぼくが運んでおきます。スーパーで買ったものは、厨房でいいですか」
「うん、助かるよ。改装が終わったら、ケーキを作ろうかな」
そう返事をすると、オルガくんはパァ〜っと笑顔になった。なるほど、ケーキで釣れば、泣いていても笑うかも。
私は、店の外に出た。どうすれば外装を変えることができるかは、やはり知っているみたい。シトラスさんが私に与えた知識や能力って、もしかして万能なのかも。
看板は、確かに『ひまわり食堂』と書いてある。ひまわりって感じが全然しない。看板が地味すぎるんだ。それに、広い店の外壁は、地味な土壁だし、窓も小さい。だから、店の中も暗いのね。
(よし! 決めた)
厨房のある右側は食堂で、左側にカフェスペースを作ろう。路地で会った魔王の息子や闘神みたいなおじさんがくる食堂と、雑貨屋出会ったロリータ服の女性や服屋のお姉さんが居心地の良いカフェにしよう。
うーん、入り口は一つのままでいっか。店の中も、時間帯で分けようかな。ご飯の時間は食堂を広くして、それ以外はカフェを広くする。
私は頭の中でイメージしたものを放つように、手を広げた。ブワッと強い魔力が集まり、建物を包み込んだ。
(なかなかいい感じ)
右側は、真っ白な壁にした。そしてその白いキャンバスに、ひまわり畑の絵を描いた。前世で、学生の頃に旅先で見たひまわり畑のイメージを、かわいい水彩画のように描いたのだ。
左側は、下半分の壁は、木の板を貼り付けてウッドデッキっぽくした。上半分はすべてガラス張りにした。もちろん強化ガラス。外からは、店の中がまる見えね。かわいいレースカーテンを買いに行こうかな。
看板は、木の板に変え、下手かわいい字で『ひまわり食堂』と書いた。うん、完璧ね。
店内に戻ると、左側が急に外が見えて、みんなが驚いていた。店内は何も変えていないけど、夕方の日差しで、少し明るくなった。夜はきっと、逆に、店内の様子が外からまる見えね。
(うーん、カフェスペースは、また明日かな)
お客さんは少ないけど、左側にも右側にもチラホラと座っている。さすがに、いま店内は変えられないよね。
私は厨房に入って、ケーキのスポンジ作りを始めた。計量しなくてもわかっちゃうみたい。すんごい便利ね。しかも、仕事が速い。無駄に能力を使ってる感じ。
オーブンに入れたところで、オルガくんが厨房に戻ってきた。なかなかのタイミングね。
「オルガくん、ケーキが焼けるまでに、カーテンとテーブルクロスを買いに行きたいんだけど」
「はい、ご案内します」
「あ、オットーさん。オーブン、お願いしますね。焼けたら冷まさなきゃいけないから、型から皿に出しておいてもらえると嬉しいな」
「かしこまりました。アニスさん、ケーキ作りに、倍速魔法を使ってたのですか」
「うーん、かもしれない。カーテン買ってくるねー」
「はい、いってらっしゃい」
外に出ると、オルガくんが、外装を見て固まっていた。
(うん? ダメだったのかな)




