13、高級スーパーで目立つ二人
店内に入ると、やっぱり普通にスーパーだった。
私は、なんだか懐かしさを感じた。あ、そっか。この世界には、こんな何もかも売っている店はないからだ。
前世では、私が引っ越したばかりの駅ビルには、こんな感じの高級スーパーがあったっけ。店内をぐるぐる見て回るのは、海外旅行気分で楽しかったな。結局、スイーツを買っただけ。いろいろ買ってみたかったのに、私は死んじゃったんだ。
あっ、やばい。また怒りが沸いてきた。スゥハァスゥハァ。気分を上げていこう、うん。
この店は、大天使様の信徒が経営してるってオルガくんが言ってたよね。この店の雰囲気からして、きっと元日本人の転生者ね。
「あの、アニスちゃん、ぼく……」
「うん? あっ、姿を戻さなきゃね。忘れてた」
「いえ、このままで大丈夫です。でも、すごく見られるのが、なんだか落ち着かなくて」
そういえば、確かに、客がチラチラとこちらを見ている。私も見られているけど、オルガくんも見られてる。なぜ? ふぅん、やっぱり聞こえちゃうか、心の声。
「私の服が見られてるのもあるけど、オルガくんがカッコいいって」
「えっ? ぼく、どんな感じになってるんですか」
「うーん、顔はなぜか、少しアブ兄に似てるかな? オルガくんだとわかるんだけど。服は着ていたものをそのまま大きくしただけだから、ハーフパンツっぽくなっちゃったね。幻惑魔法で、闇属性はわからなくなってるよ」
「あー、アブサンは、ぼくに少し似ていると思ってたから……ただの成長魔法みたいな感じですか? でも、ぼくは、かっこよくないですけど」
「うーん、どうかな? あそこの扉に、姿が映るんじゃない?」
オルガくんは、銀色の扉へと走っていった。姿は私と同じ15歳くらいに変わっても、中身は5歳児のままね。
彼は、銀色の扉に映った自分の姿を、念入りに確認している。そんな様子を通りすがりの買い物客は、チラチラと見ていた。ちょっと変な子かも。
「あの、お客様、どうなさいました?」
銀色の扉から出てきた店員さんに急に声をかけられ、オルガくんは、言葉を失っていた。ふふっ、思考停止ね。ほんと、不意打ちには弱いんだから。
私は、あたふたするオルガくんに近寄り、店員さんに声をかけた。
「こんにちは。あの、この店の店長さんにお会いしたいんです。彼に頼んだら緊張しちゃって、扉の中に入れないみたいで」
オルガくんは、ぽかんとしていた。だが、私と目が合うと頭を下げた。
「アニスちゃん、ごめんなさい」
彼の必死な様子に、店員さんは微笑んだ。
「あら、彼女にいいとこを見せようとしたのかしら。ふふっ。お客様、店長にはどのようなご用件でしょうか。クレーム等でしたら、まず私がお話を聞かせていただきたいのですが」
「クレームじゃないの。この店の店長さんは、私と同郷だったんじゃないかと思って。店内の雰囲気が懐かしく感じたの」
「まぁ、お客様も、どこかからの転生者なのですね。私もなんですよ。店長はどうかわからないですが、オーナーは転生者です。オーナーの予定を確認して参ります。少しお待ちください」
「じゃあ、店内をぶらぶらしていてもいい?」
「ええ、もちろんです。私が責任を持ってお客様をお探しします」
そういうと、店員さんは銀色の扉の中へと引っ込んだ。
「アニスちゃん、あの……」
「とりあえず、店内をぶらぶらしようよ」
「はい」
オルガくんは落ち込んでいる。また泣きそうになってる。その姿で泣かれたら、別れ話でもしているみたいじゃない。ふぅ、お世話が大変。
「オルガくん、姿を見てどうだった?」
「は、はいっ。ぼくなんだけど、ぼくじゃないみたいでした」
「じゃあ、元に戻すね」
私が手を向けると、オルガくんは慌ててそれを制した。
「ちょっと待ってください。もう少しこのままでいたいです」
「うん? 気に入ったの?」
「はい、なんだか不思議なんです。ぼくの理想的な顔というか、ダークさがなくて、爽やかでいい感じです」
「じゃあ、そのままで買い物しよっか。他の人に見られるのはいいの?」
「あまりよくないですけど、こんなにイケメンなら、見られるのは仕方ないというか……」
うーん、なんだかよくわからないけど、オルガくんは気に入ったから見られてもいいってことかな?
「じゃあ、いろいろ見て回ろうよ。そうだ、オルガくんに甘い物を買ってもらえるんだっけ」
「はいっ、お任せください。あ、いえ、もともとはアニスちゃんのお金だし」
「違うよ。オルガくんのお金だよー。ふふっ、お菓子いっぱい買ってもらおうっと」
私がそう言うと、オルガくんは、パァ〜っと笑顔になった。その姿でそんな風に笑うと、破壊力がある。5歳児だとわかっているけど、ちょっとドキッとしちゃったじゃない。
私達は、スーパーの中をぷらぷらした。通路にあった買い物カゴを取ると、オルガくんが持ってくれた。
買い物カゴは、よくあるスーパーのよりも小さめだった。そうよね、駅ビルにあった高級スーパーって、買い物カゴが小さかった。そこまで再現してあるってすごい。
「わっ! この列、全部見たことないお菓子だよ。オルガくん、見てみて、これなんて、食堂で使えそうじゃない?」
私はテンションが上がっていた。でも、それ以上にオルガくんのテンションが上がっているのがわかった。食べたいっていう心の声がもれている。
「アニスちゃん、こっちのチョコレートとか、どうですか」
「わっ、かわいい! 一粒がすっごく小さいねー」
私がかわいいと言うと、オルガくんは満足そうな顔をした。彼が一番テンションが上がるものは、ケーキなのかな。生クリームが好きみたい。ケーキが並ぶショーケースに釘づけになってる。
「ケーキは、作れるよ。私、前世で子供の頃、よく作ってたんだ。材料を買って作ってみたくなってきたよ〜」
「じゃあ、材料を買いましょう。食堂でパンケーキはメニューにあるから、クリームの材料が必要です」
「飾り付けのフルーツも必要よねー」
「はいっ」
私達は、次々と買い物カゴに放り込んでいった。
「まぁ、たくさんのお買い物ありがとうございます」
後ろから、さっきの店員さんが声をかけてきた。
「よく見つけられましたね。あちこちウロウロしていたのに」
「お二人は、人目を引きますから、すぐに見つかりましたよ」
(見られてるもんね、確かに)




