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いまさら魚といわれても

(※あらすじで、冗談がすぎましたが、内容はもう全然 米澤先生の作品ともうほんとに一ミリも関係ないのです。もう全然です。全然)



「俺が故郷に居た頃には、よく食卓に焼き魚や刺身が並んだな。ただ、俺は魚が大嫌いでさ。なのに俺の生まれたところが、小さな漁村で、さらには親父が、腕の立つ漁師だった。だから、よくケンカしたな。親父は、俺に漁師の後を継がせたかったらしいが、俺は絶対に継ぎたくなんてなかった。だって大嫌いな魚を釣りづづけるなんて、面白いと思えないだろ。それに俺はもっと人の役に立てて、お金が儲かる仕事がしたかったのさ。魚釣って、人の役に立てて、金が儲かるっていうなら、俺も考えるがね。実際は全然そうじゃない。漁業なんてのは衰退していく一方さ。なあに、親父だって、俺に継がせたかったってのは、でかい借金で買った漁船が人の手に移るのが惜しいだけだろう」



今は、自身が代表を務めるコンサルの会社の仕事で、海外へと向かう機内の中だ。

隣に座る無表情の若い女は、最近俺の会社に入った新入社員だ。

綺麗な女だが、全然愛想が無い。

面接でも【何かこの会社に入ってしたいことがあるか】と聞くと、



「魚釣りがしたい」



と冗談みたいなことを言った。

うちの会社の就活生向けの標語が「どでかい魚を釣り上げたいなら、沖合に出ろ。そのための船を貸してやる」というものだったから、それを曲解……いや素直に受け止めたらしかった。

俺は、それを面白がって採用してやった。


因みに、この標語ってのは俺が考えた奴だ。よく親父が言ってたようなことから、インスパイアされて生み出した。


退屈な機内なので、彼女に話し相手になってもらおうとしたが、彼女のリアクションが薄く、喋っていても気分が高揚しない。

沈黙の時間が長くなって、俺はそのまま寝たふりをしてやろうと思っていると、彼女が口を開いた。



「私、昔、食卓に並んだ焼き鯖を川に逃がしてあげたことがあるんです」

「へ?」



俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。

女は俺の方へは向かず、自分の膝の辺りに視線を置いて話しを続ける。



「なんか突然思っちゃったんです。だって子供の時なんてそういうことよくあるじゃないですか?”このお魚さん可哀想だな”って。もう死んでるから逃がしてあげても関係ないなんて思わくて、自分がいいことをしてるって思いだったんです」

「子供らしいエピソードではあるが」

「そうでしょう?でも、この話には続きがあって。川に逃がした鯖が息を吹き返したんです」

「はぁ?」



俺はまたしても素っ頓狂な声を上げてしまった。

想像よりも幾分か大きな声が出たらしく、周囲から自重しろという目線が送られる。

俺は誰に向けるでもなく、頭を下げた。

女は続ける。



「それだけでも驚きなのに、鯖は口をパクパクさせると喋り始めたんです。”お嬢さん、ありがとう。おかげで息を吹き返したよ、と。代わりといってはなんだが、君が幸せな人生を送れるように魔法をかけてあげよう” 鯖はそう言いました」

「鯖がそう言ったの?」

「はい、鯖がそう言いました」



俺は、真面目に話す彼女の話についていくことが出来なかった。

与太話としては面白いかもしれないが、本気で言っているなら頭がお花畑だ。

女は続ける。



「でも、鯖は続けてこう言いました。”だけど、1つだけ約束してほしい。もう二度と魚は食べないと誓ってくれ。私は人間に食べられてしまう同胞たちが気の毒でならないんだ。だって人間は他にも食べるものが沢山あるのに、我々を沢山消費する。消費されるならまだいいが、時には、誰にも買われず腐って棄てられてしまうものもいる。だから、私はお嬢ちゃんのような優しい人間に希望を託したい。もし、お嬢ちゃんまでも魚を今後食べるというなら、我々は人間に希望を持つことを捨てよう”そう言いました」



話が壮大になってきた。

一体、誰がこんな子を会社に採用したんだ。

俺か。



「フィッシュ、オア、ビーフ?」



CAが俺たちに機内食の選択を迫った。

俺は、ビーフと答える。



「フィッシュ、プリーズ」



横に座る彼女がそう言ったのを聞いて、俺は耳を疑った。

いやいや、さっきまでの話と矛盾してるじゃないか。



「社長。私ね、今までの人生けっこう幸せだったと思うんですよ。でもね、あの鯖のおかげでそうなってるかなんて分からないじゃないですか。それに、けっこう幸せだったといっても、彼氏に振られたこともあれば、宝くじを買っても全然当たらないなんてことが、しょっちゅうな訳です。しかもですよ、私、もう16年間もお魚を食べてないんです。これは不幸です。事情を説明しても誰も信じてくれないし、私お魚ってめちゃくちゃ好きなんですよ。それなのに人類の為だと思って我慢してるんです。もう、うんざりです。だから食べます」



そう語る彼女は、なんと目に涙を浮かべていた。

どうやら、少なくとも彼女の中ではこの話が真実であるらしい。

俺は、何と声をかけるべきか言いあぐねていたが、とにかく泣き止ませようと、元気づける言葉をかけた。



「まあ、16年も我慢したなら、もう十分だろ。それに、その鯖の寿命は6-7年と聞いたことがある。流石に、もうその鯖は死んでるんじゃないかな?それに生きていたとしても”ああ、今更、そんな話ですか。あんな適当に言ったことをよく覚えていましたね”と鯖に笑われるかもしれないぞ。うん、だから食え。これは社長命令だ」



俺がそういうと、最初はキョトンとした表情で俺を見ていたが、次の瞬間にはあどけない笑顔を見せた。

俺は、少しドキリとしてしまう。ギャップ萌えという奴だろう。



「では、いただきます」



そう言った彼女の持つフォークは震えていた。震えたフォークを魚に突き刺す。

そして、そのまま一口に魚の切り身を口の中に放り込んだ。

彼女はそれを、目を閉じてゆっくりと噛み締めている。

こんなに旨そうに食うとは……魚嫌いな俺だが、フィッシュでもよかったなと思わされる。



「どうだ、上手いか?」

「はい、社長。最高です」



彼女がそう言ったのがキッカケだったかは分からないが、轟音と強い衝撃。

視界が斜めに曲がった。

何か強い力が俺たちの乗る航空機の横へぶつかったかと思われる。


そして、俺たちの乗る航空機は海上へと墜落した……




*******




「4番艇!出航準備を急げ!遅れてるぞ!」


俺は怒鳴り声をあげる。



あの日航空機が墜落したが、俺と彼女は何とか生き延びることが出来た。

ほとんど生存者がいなかった事故なのに、彼女と俺だけが何故だか近くの島の浜辺に、無傷で打ち捨てられていた。

彼女は、”きっとあの鯖が最後の情けを私にかけてくれたに違いありません。多分社長はみっともなく私にしがみついてたから、そのオマケでしょう”と言っていた。



そこから、世界は大変だった。

この世のすべての海洋生物が【巨大化】してしまったのである。


10~1000倍の大きさになってしまった海洋生物たちが、様々な被害を人類に与えたことは言うまでもない。

さらにはその海洋生物たちの能力までもが、何倍もの力になっているのだ。

俺たちの航空機を墜落させたのは、トビウオだった。

全長が35m。そのジャンプ力は25000ft上空の航空機にも届いた。

恐ろしい世界になってしまった。



俺は、コンサルタントの会社を畳み、新たに【サカナツリ】と言う名前の会社を設立した。

この会社の目的は名前通り。”魚を釣って、お客さんに売る”とてもシンプルだ。

巨大魚は一匹仕留めれば何百~何千食といった食料になる。

今の世界でこれほど必要とされ、金になる仕事が他にないのだから仕方がない。



俺は今となっては故郷の漁師達や、元の会社の社員達を雇って、海原に船を浮かべる毎日だ。

その中には、親父も居て、偉そうに社長の俺に対して船の操舵の指示やら、漁船の進行の指示を出してくる。

しかし、親父がどことなく楽しそうにしているのは何故だろうか。

自分の子供が漁師になってくれたのが、口には出さずとも嬉しいのかもな。

ただ、この仕事を漁師と呼べるかは甚だ疑問ではあるが。



船には自衛隊や在日米軍から買い上げた機関銃やら、ミサイルやらが積んである。

巨大な魚たちとの闘いは毎度、死闘の連続なのだ。



「社長、これも積んでいっていいですか?」



そう後ろから声を掛けてきたのは彼女だ。

にっこりと楽しそうに笑いながら、ロケットランチャ―を肩に載せている。

すっかり表情豊かな女性となってしまった



「好きにしていいよ」



そう言うと、”やったー”と嬉しそうな声を上げた。



「それにしても君は、楽しそうだね」

「ええ、最初の方は私の責任でこうなったと凹んでいましたが。まあ、今更うじうじ考えても仕方ないですし、憎き魚どもをコテンパンに出来ますし、毎日魚は食べられるし。全然悪くないです。どっちかというと今の方が幸せですよ……それよりも、社長はあんまり楽しそうじゃないですね」

「うーん、だってねぇ」



俺の人生は海から離れたくて仕方がない。あの魚を獲るだけ仕事はしたくない。そういう思いで今まで生きてきたのだ。だから、今更……




「今更、魚と言われてもな……」












いまさら魚といわれても -終-

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