第四話 「プロファイリング」
~~ブルーノ視点~~
ヴィンスの髪の毛が金色になって帰ってきた。
それも見事なまでに金と言った輝かしい金色だ。
ヴィンス自身も銀髪はコンプレックスだったし、元々内気な性格な上に物心ついてからはコンプレックスがその性格に輪を掛けてより引っ込み思案になった。
正直何でウチの子の髪の色だけ違うんだ?と、親としては失格かも知れないが俺自身もコンプレックスに思った事は……正直あった。
通常人族の髪の色は金か茶色だ、明るい暗いの差はあれど茶色が基本だ、中には赤髪と呼ばれる赤みがかった明るい茶色があるがいずれにしても茶を基本とした色が一般的な髪の色だ。
魔族の中には青や緑、赤、黄色などもいるが銀は無い。
それ位に銀髪は珍しい。
まあ、黒もあると言えばあるがあれは例外だ。
デュークによると、橋から落ちてるところを発見した時には金髪だったって話だがそんな事あるか?
にわかに…と言うより全くもって信じがたい話だ。
俺ははじめ何かの薬剤みたいので髪の毛を染めたのかと思ったが、あの感じは天然の色だ。
ならば次に考えられるのはヴィンスじゃない何者かが化けているのか?
実際、冒険者をしていた頃には数々の不思議な体験をしてきたが、中には幻影を見せる魔物や変化して人を騙す魔物なんかもいた。
その線で疑ってみた俺はヴィンスの目を覗き込んで確認したが、魔物の変化や幻影の類に見られる瞳の奥にある赤い魔力の揺らめきは無かった。
それに化けるにしてもわざわざ髪の色を金にする必要は無いしな。
それじゃあ、何故髪の毛が金髪になって、その上喋り方まで変わったんだ?
たまに精神的ショックで白髪になるとか聞いた事があるが、そういう事なのか?
仮にそうだとして喋り方や雰囲気は?
どう説明する?
記憶が無くなったから性格が変わる?
そうなのか?
有り得なくも無さそうだが……分からない。
ただ一つ言えるのは俺の息子であるヴィンス本人には違い無い。
これだけは言い切れる。
性格が変わったのは否めないが、それでも愛する我が子に変わりは無い。
俺は自分の不器用を傘に愛情表現を示すのが苦手だが誰よりもヴィンスを愛している。
コンプレックスに思ってしまう事があったにしても銀髪だろうと金髪だろうとその愛情に変わりはない。
そしてもう一つ気になるのは橋から落ちたヴィンスを発見して助けを呼んだのがガスラン君達だって言うトコだ。
ガスラン君達と言えば貴族なのをいい事にやりたい放題のワガママ坊っちゃん達だ。
実際、ヴィンスの髪の毛の色をバカにしたりイジメとも取れる言動がある事は俺も承知している。
子供のケンカなら親である俺がしゃしゃり出る必要は無い。
怪我をして帰って来ようがケンカなら構わない。
だがケンカでは無くイジメなら話は別だ。
それが心身ともに傷つける行為や命の危険に関わる様な事なら尚更だ。
まあ、今の段階ではそれがあったかどうかはまだ分からないが。
先入観で人を疑うのは良く無い事だし、増してや現状では息子を助けてくれた命の恩人であるガスラン君達を疑うのは失礼極まりないのは承知だが、これが事故では無く事件だったとするならば皆が不幸になるだけだ。
確かめてみて事故だったなら事故で次に起きない様、糧にして活かせば良い。
だが今はまだ真相は分かっていない。
いや、ガスラン君たちが言ってる事が真相なのかも知れない。
ただ俺は何か釈然としない、何か引っかかるのだ。
その為には先ずは現場に行ってみる必要がある。
そう思った俺はあーだこーだと考えながら歩き、気づけば今こうしてヴィンスが落ちたと言う橋にいる。
ヴィンスが落ちたと思われる場所に立ち、手摺の綱に手をかけ谷底を覗き込む。
高さは20mはあるであろう橋の上から谷底を覗き込めば谷を抜ける風が顔を撫でる。
「この高さから落ちた、か…」
勿論試してみる気にはならない。
とてもじゃないが助かる気がしない、高い確率と言うか絶対に大怪我をするだろうし下手すりゃ死ぬだろう。
しかし何で橋から落ちた?
綱に寄りかかったとでも言うのか?
何で?
ヴィンスが何か自分の持ち物を落としてとっさに谷底を覗き込む形になって寄りかかった?
いや、可能性としては低いな。
少なくともあいつは手ぶらで出掛けたはずだし手ぶらで帰ってきた。
こうして谷底をよく見てみても誰かが何か落としたと思われる物は落ちてない。
橋板に不具合があってよろけたはずみに寄りかかった?
それも無いな。
今こうして大人の俺が立っているが何とも無い。
「ん?」
橋板を確かめる為に足下を見てみれば本来あるはずの無い跡がある事に気付いた。
手形だ。
足跡なら分かるが何故手形が?
俺は自分の手を重ねてみる。
明らかに小さい。
子供の手だ。
それも両手の跡が沢山ある。
逆立ちでもしたか?
こんな場所で?
何故?
もう一度橋を戻り、袂に立ち橋を眺める。
親バカかも知れないが、俺はヴィンスの身体能力について実は相当なものだと思っている。
あいつはああいう内気な性格だから目立たない様に身体能力を隠しているが、”元”とは言え冒険者であり、何より親である俺には分かっている。
もしかしたら俺しか気付いていないかも知れないが実はヴィンスは相当な力を秘めていると俺は思っている。
それを確信したのは今朝の稽古の時だ。
性格が変わったあいつはその身体能力の高さを隠す事無く発揮していたのを見て確信した。
だとするなら橋の上で逆立ちする事自体は可能かも知れない。
だがそれをする理由が分からない。
俺は考えながら橋を見ていると橋の袂に小さな足跡がある事に気付いた。
その足跡は橋の方、つまり谷側に向っている。
それは橋を支える左右両側の柱の根本付近にあり、両側とも足がずれる様な形跡を残し、さも踏ん張った様な跡になっている。
しかも微妙にズレている事から何か左右に振られるものを掴んでバランスをとりながら踏ん張った?
…………ふむ。
どうやら誰かが橋の上で逆立ちをして誰かが橋の手摺の綱を掴み橋を揺らしたって事か。
で、橋の上で逆立ちしていた誰かはバランスを崩し橋から落ちた。
橋の上で逆立ちしていた誰かって言うのは間違いなくヴィンスだ。
じゃあ橋を揺らしたのは?
ガスラン君達?
確かに足跡は子供の足跡だ。
しかもガスラン君達はヴィンスを日頃からバカにしたりイジメとも取れる言動をしている。
だからと言ってもガスラン君たちが橋を揺らしたという確証にはならない。
ガスラン君達を連れて来て足跡の上に立たせて確かめる?
いや、現実的じゃあ無い。
土の上の足跡だ、やがて消えるし、こんなの知らないと消されればそれまでだ。
仮に橋の上で逆立ちしたのがヴィンスでガスラン君達が橋を揺らしたからとしてもヴィンスが記憶喪失である以上は子供同士の遊びでヴィンスが勝手にやったと言われれば処罰も犯人も無い。
ふむ、困った。
疑わしきは罰せずだしな。
疑わしいだけで処罰は当然下せる訳ない。
どうにかして真実を知る術は無いだろうか。
「ん?」
思案にふけっていると視線を感じた。
後ろの森の茂みに隠れてこっちを見ている子供がいる。
あれは確か…チャド君とルロイ君だ。
ガスラン一派の子達だ。
ちょうどいい。何か知っているからこそ此処に来たのだろう。
彼らに聞いてみるとしよう。
俺が気付いている事に彼らは気付いていないだろう。
俺は無反動で反転する。
俺といきなり目と目があってチャド君とルロイ君は驚いてフリーズした。
人間予想外の事にいきなり遭遇すれば固まる。
ましてや子供なら効果てき面だ。
「チャド君とルロイ君じゃないか」
そう呼びかけながら子供達の方へ駆け寄っている俺に子供達はますます驚き口をパクパクさせている。
あまりにビックリして失禁でもしなければいいが。
「あ…あ……」
2人は逃げる事も話す事も出来ない位に驚いているな。
「どうしたんだい?チャド君にルロイ君」
「いや…あ…っと…これは…」
必死に言葉を選んでいるのだろう。
「………………」
あえて俺からは口を開かない。
言い訳にしろ何にしろ自分の言葉で説明させるのが取り調べの基本だし優位に話が進められる。
この嫌な沈黙が圧になるはずだしな。
「えっと………こ、こんにちはブブ、ブルーノさん…」
「ああ、こんにちはチャド君。こんなトコでどうした?何やら声も震えているみたいだが?」
子供は分かりやすい。
「そ、そそんなこ、事な、無いよ…」
「そうか?ならいいが、もう一度聞くよ?こんなトコでどうした?チャド君」
あえて名指しにしてみるがどう反応する?
「えっと…その……アレだよ……さ、散歩だよ…!」
「こんな所をかい?」
「そ、そうだよ!わ、悪いか?」
「悪くないさ。で?橋は渡るかい?だとすれば気を付けて渡る事だ、何しろウチのヴィンスが橋のちょうど真ん中あたりで橋から落ちたみたいだからな」
「「っ!?」」
チャド君とルロイ君は目を見開き顔と顔を見合わせる。
ふむ。どうやらヴィンスが橋の真ん中辺りから落ちた事は知っている様だな。
「まさかとは思うけど橋で逆立ちなんかしちゃダメだぞ?バランス崩したら橋から落ちちゃうからな、ヴィンスみたいに」
「「っ!?」」
子供は分かりやすい。目を白黒させて口をパクパクとさせて絵に書いた様に狼狽している。
この様子だとガスラン君達がたまたま橋を通りかかって谷底に落ちているヴィンスを発見した、という線は消えたな。
と言う事はガスラン君たちとヴィンスが一緒に遊んでいて調子に乗ったヴィンスが逆立ちして落ちたか、それともガスラン君達にやらされたかのどちらかだな。
もっとも前者は考えにくいがな。
「えっと…あ…っと…ぼぼ僕達、もう、か、か、帰る…!」
「そうか?なら橋の袂に残ってる足跡消していった方が良い。君達に要らぬ疑いを掛けられたら大変だからな」
「「っ!?」」
2人とも冷や汗か脂汗か分からないが一気に汗だくになる。
「私は橋の真ん中に残っているヴィンスがした逆立ちの跡を消してからいくよ、誰かが真似したらいけないからな」
「「っ!?はぁ…はぁ…はぁ…」」
冷や汗は止まらず呼吸も早くなってきている、早く話した方が身のためだぞ?
「なぁ、チャド君、ルロイ君。私に何か言った方がいい事は無いか?」
「「…………………」」
チャド君とルロイ君は顔は上げられず目だけを上目遣いにして私を見る、何か言いたげだ。
「ん?何だい?」
「…………ヴィ、ヴィンスはきおくそうしつ治ったの?」
口を開いたのはルロイ君の方だった。
「いや、ヴィンスは記憶喪失のままだよ」
流石に嘘は良く無い。
記憶喪失が治って本人から顛末を聞いたと言えば簡単だが、それじゃあ良く無い。
「じゃ、じゃあ何でヴィンスが橋の上で逆立ちした事や僕達が橋を揺らした事知っているんだよ!」
「誰もチャド君達が橋を揺らしたなんて言ってないが…」
「っ!?」
やっぱりな……。
「チャド君、ルロイ君、私は何も君達を同じ目に合わせてやるとかヴィンスの復讐をしてやろうなんて気は無いんだ。ただヴィンスが記憶喪失になって髪の毛の色が変わった理由を知りたいだけなんだ」
「……で、でも本当の事言ったら刑務所で一生暮らすんでしょ?」
そんな事は無いから全て吐けと言いたいが短絡的な誘導は無責任だ。
「そうだな。自分が犯した罪は自分で償わなければならない。分かるな?分かっているから言いたく無いんだろう?違うかい?」
「「う、うん…」」
「チャド君にルロイ君は本当は優しい子のはずだ。何故なら後ろめたい気持ちがあったから又ここに来たんだ違うか?」
「「………………」」
2人は不安そうな顔でいる、そりゃそうだろうな、子供相手に意地悪する気はないが反省させたいのは本音だ。
ここらで本題に入るか。
「今回の事は本来なら君達がした罪を償う為には刑務所行きなのかも知れない。ただな、私は正直に話してくれるなら今回は許してあげようと思っている。だがもし、嘘を貫き通すつもりなら覚悟した方がいい」
「………き、騎士のクセに、ぼ、僕達貴族をどうにか出来ると、お、思ってるのか!?うっ……!?」
俺は少しばかり殺気を込め2人を見つめた。
大人が子供に対し威圧して黙らせるのは文字通り大人げないが、こっちが子供とは言え貴族さま相手に歯に衣着せて言っているだけでも疲れると言うのに、本当にこの差別階級には吐き気がする。
たまたま生まれた家が貴族だっただけのくせして子供にまで歪んだ選民意識を植え付けるこの差別階級はどうにかならないだろうか。
「いいかいチャド君、私は家族の為なら相手が貴族だろうと王族だろうと引かない覚悟がある。
だがさっきも言ったが私の望みは真実を知りたいという事だ。
幸いにも今回ヴィンスは無事だったし、私が真実を知りたいと言う望みを叶えてくれるなら例え加害者だろうと私は感謝こそすれ復讐はしないと誓おう」
「で、でも…僕達が言ったって分かったら今度は僕達がイジメられちゃうよ…」
ここに来てまだ保身を考えるか、親に似たんだろうな。
「決してチャド君とルロイ君が言ったなんて言わない。男の約束だ」
「ぜ、絶対…?」
「絶対チャド君とルロイ君が教えてくれたと言わないと約束する」
「わ、分かったよ………じ、実は………」
~
チャド君とルロイ君は代わる代わる今回のヴィンスが橋から落ちた顛末を話してくれた。
・ガスラン君とチャド君とルロイ君の3人でヴィンスをからかった事。
・騎士のクセに勇気が無いと煽って度胸試しに橋の上で逆立ちさせた事。
・私や私の家を馬鹿にしたらヴィンスがムキになって逆立ちをした事。
・ガスラン君がヴィンスの逆立ちを見て逆上してチャド君とルロイ君に橋を揺さぶらせた事。
・揺さぶらなければ今度はチャド君とルロイ君をイジメるとガスラン君が脅した事。
・橋を揺らした結果、ヴィンスがバランスを崩し橋から落ちた事。
・ガスラン君が罪を全てチャド君とルロイ君に擦り付けようとした事。
・罪の擦りつけ合いをしていたら谷底が光ってヴィンスの髪が金髪になっていた事。
・生きていると分かり慌てて大人を呼びに行き自分達はたまたま通りかかって発見したと嘘をついた事。
・デュークら3人の大人が来てヴィンスを救出した事。
・ガスラン君はヴィンスが記憶喪失になっているのをいい事に命の恩人として恩を着せた事。
・記憶喪失が治ったら真っ先にガスラン君の所に来る様に釘を刺した事。
まあ、子供とはいえ2人の証言だし大方本当だろう。
現場証拠とも一致するしな。
「チャド君、ルロイ君、全部話してくれてありがとう。約束通り私は君達を許すし、君達が話してくれたなんて事は誰にも言わない」
「「うっ…うっ…うっ…」」
2人は話の途中からこうして嗚咽を漏らし泣いている、まだ子供だから嫌味な貴族とは言え純粋さが残っているのだろう。
「分かったか?罪を犯すと言う事は誰も得をしないんだ。橋から落ちたヴィンスは痛かっただろうし、記憶も失った。君達にしても罪を犯した罪悪感とバレるんじゃないかと言う不安で気が休まらないどころか精神的にも参っただろう?」
「「う、うん……ひっ…ひっ…」」
「もう悪い事しないな?」
「うん…し、しないよ…ひっ…ひ…うぅ…」
「僕もしない…うぅ…ひっ…ひ…」
2人とも両手で目をこすり泣きじゃくっているのは反省の証だろう、この気持ちを忘れず大人になってほしいし祈っているが、どうだろうな……。
「よし、じゃあこれでチャド君とルロイ君への御説教は終わりだ。
私はこれから現場に残った痕跡を元にガスラン君の所に聴取しに行くが君達が話してくれたとは絶対に言わない、あくまで現場に残った痕跡を元に行くだけだから安心していい、さあ街の手前まで送っていくから帰ろう」
「「う、うん…」」
~
道が石畳みに変わるあたりでチャド君とルロイ君を見送った。
俺と一緒にいるところを誰かに見られでもして2人が俺にチクったと思われたら約束を破ったのと変わらないからな。
2人はチラチラと俺の方を見ながら街へと帰って行った。
さて、それじゃあ主犯のガスラン君のトコに行くとするか。




