第三話 「冒険者一家」
転生して何気に、いや完全に楽しみにしていた剣術。
初日から、と言うか一振りもしないまま剣を取り上げられ俺の愛剣は木剣と言う名の”枝”になってしまった……。
そんな少し落胆した気持ちでブルーノと剣術の稽古をした後、家族で朝食を取りブルーノは仕事へと出かけた。
記憶喪失、と言う事になっている俺は遠慮なく父親の仕事について母親のクラリスに質問する事が出来る。
聞くと父親のブルーノは騎士としてこの街で働いていて、まぁ騎士と言うと何だかエリート戦士的な響きだがその内容は街をパトロールし、街の保全活動が主な職務だと言う。
要は前世で言うと警察官みたいな立場らしい。
が、前世の警察官と違う点は街の保全活動の1つに魔物狩りがある点だ!
魔物狩り…つまりそれは魔物がいると言う事だ!
魔法がある時点で期待はしていたが、やはりこの世界には魔物がいるのだ。
ん〜にわかには信じがたいが、魔法はこの身をもって体験したからな。
魔物がいても何ら不思議ではない。
それにしても魔物かぁ、不謹慎ながら見てみたい気がはやる。やっぱモ◯ハンに出てきそうな感じなんだろうか?
それに魔法も治癒魔術しか見た事ないけど攻撃魔法や守護魔法、それに召喚魔術ともあったりするんだろうか?
あ、匿名希望の少女が俺の魂をこの世界にスカウトに来たアレは召喚魔術の類なんだろうか?
そんな事を考えていると正直ワクワクしてくる!
だってそうだろう。
前世ではよく『何か面白い事ないかなぁ?』ってボヤいてたりしたけど、この世界で起こる事つまり剣術だったり魔術、魔物狩りが実際にある上に前世と違って身体能力も高そうなこの体!
そりゃあワクワクしない訳がない。
ワクワクしないどころか早く剣術や魔術を習いたくてウズウズする。
何なら自主練とかするかな。
この体なら独学でも結構いいとこまで行くんじゃね?
何て1人ニヤニヤと感慨に浸っていたら来客の様だ。
母親のクラリスが対応しに行くと聞いた事ある声が聞こえてきた。
「よう!ヴィンス!体の方は大丈夫か?」
デュークさんだ。
「デュークさん、おはようございます。おかげ様で体調は絶好調です!今にも体が勝手に動き出しそうな位です!」
「そうか。そりゃ良かった!なら早速稽古始めるか!」
爽やかな笑顔で当たり前の様に誘ってくれる。
「え?稽古?ですか?」
「そうだ稽古だ。ああ、そうか記憶喪失になっちまったからな、名前を覚えてもらった時に言っておけば良かったが、俺はお前の家庭教師なんだよ」
そうなの?
俺はクラリスの方を見る。
クラリスはにこやかな笑顔でうなづいている。
俺はてっきりブルーノが父子鷹で稽古つけているのかと思っていたが違うのか。
なるほど、デュークさんは俺の家庭教師だったのか。
だから家の人達とも親しげだったのか。
いや、俺はまさかと思いながらももしかしてクラリスとゲスな関係なんじゃあ…なんて勘ぐっていたが、どうやらゲスなのは俺だった様だ。
とは言え、1家庭教師の立場にしては仲良すぎじゃない?
これもデュークさんの人柄?
「まぁ、そう言う事だから改めて宜しくな!」
「あ、はい!こちらこそ宜しくお願いします」
俺は前世のジャパニーズ文化OJIGIであいさつする。
「おう、この天才デュークに任せておけば最高の魔法剣士にしてやるから大船に乗った気でいろ!」
「え?でも、確か治癒系魔術は中級治癒魔術までしか使えないんでしたよね?」
「ぐっ……そ、それはアレだ…何だその…ひ、人には得意不得意があってだな…俺はどちらかと言うと前衛に立つタイプだから、アレだ…なぁ?クラリス?」
困った様子のデュークさんはクラリスに助け舟を求める。
「くすっ。そうね、デュークは昔から治癒系魔術は得意じゃなかったね。何回治癒魔術かけてあげたか分からないわ」
「だ、だけどそんかわし俺のおかげで何回もピンチを回避出来ただろ?!」
完全にクラリスの方が大人だし、デュークさんはどこか子供っぽい感じがするな。
「ええ、確かに。デュークの鼻の良さはピカイチだもんね」
「ふふん、分かっていればいい」
褒められて気持ちよくなった様子のデュークさん。
にしても仲良いよな、2人は古い知り合いなのかな?って言うか今の話から察するにクラリスも冒険者だったって事?
「あ、あの…2人は昔からの知り合いなんですか?」
「あはははは、やだヴィンス!知り合いじゃなっくってデュークは私の弟よ」
「え?!そうなんですか?で?デュークさんとは姉弟で母様も冒険者だったんですか?」
「ええ、お母さんもブルーノとデュークとつるんで冒険者パーティを組んでいたのよ」
「へぇ、そうだったんですか!?」
ブルーノとデュークさんはそうだと思ってたけどクラリスまで冒険者だったとは意外だ。
「後もう1人ケリーってのがいて4人でパーティを組んでいてな、俺が斥候役でブルーノとケリーが攻撃役、んでクラリスが守護及び攻撃魔法を使う後衛だったんだぜ」
「へぇ、そうだったんですか」
となると我が家は冒険者一家って訳か。
「イーグルクローってぇ名のパーティでな、なかなか名は通ったパーティだったんだぞ」
「で、今は?そのイーグルクローは解散したんですか?」
「ケリーが引退しちまってって言うか引退させられてって言うか、まあそんなこんなで俺たちは解散したんだけどな」
「そうなんですか」
何だか歯切れが悪いし奥が深そうだな…?もしかして袂を分かったとか微妙な感じそうだな。
ここは深追いしない方が良さそうだ。
「まぁそう言うこった。それよりぼちぼち稽古でも始めるとするか!」
「はい!お願いします!」
切り替え早いなデュークさんは、それが親しみやすいところなんだろうな。
「おし!クラリスの高度治癒魔術で怪我の方は大丈夫だろうから、早速行くか!」
「はい!」
自主練しようかと思っていたところにデュークさんと言う専属家庭教師が来るとはラッキー!ようし、色々学ぶぞ!!
「デューク、回復はしているとは言え怪我した次の日だし髪の色が変わったりして本調子か分からないんだからあまり無理させないでね」
「分かってるよ」
「本当に分かってるのかしら?あなた昔からすぐ調子に乗るタイプだから心配で言ってるんだからね」
「だから分かってるって、俺ももういい大人なんだからいつまでも子供扱いすんなって」
クラリスからしたら俺は子供だから当然として完全にデュークさんも子供扱いだな、つーかデュークさんも子供扱いされているって言う自覚はあるんだな。
~
庭に出て向かい合う俺とデュークさん。
腰に手を当て胸を張る姿はさっきまでの弟キャラとは打って変わって冒険者としての貫禄みたいのを感じる。
「ようし、ヴィンス。まず稽古を始める前に聞いておきたいんだが、前までやっていた剣術や魔術は綺麗さっぱり忘れちまったか?」
「はい。すみません、綺麗さっぱり何1つ覚えていません…」
「いや、謝る事ぁ無い。今回の事は事故だった訳だし、それに……」
「それに…?」
何やら言葉を選んでいるのか言いづらそうな感じがするな。
「何つーか、その……アレだ……前も大してって言うか、ほとんど剣術も魔術も覚えていた訳じゃなかったからな、まぁ今一度初心に戻るのも悪くねぇだろ」
「はい!宜しくお願いします!」
ああ、そう言う事か、全然気にするとこじゃないのにさっきお姉ちゃんであるクラリスに馬鹿にされたからか気を使ったってとこか。
それにしても前の俺は本当に体動かす事が好きじゃなかった感じだな。
「ところでさっきから気になってんだが…何で稽古だってのに木の枝なんか持ってんだ?剣はどうした?」
「…これが僕の剣です」
俺はデュークさんに突き出す様に枝を見せる。
「剣??剣つーか…これって…ただの木の枝じゃねーか…」
「いえ、父様曰く木剣です」
言ってる俺も枝だと思う……。
「はあ?どういう事だ?」
「いや…実は………」
俺は朝練でのブルーノとのやり取りを説明した。
「あーはっはっは!ひぃひぃ…」
「笑い過ぎでしょ、デュークさん…」
人に不幸は蜜なのか、ツボに入ったらしく笑い転げているけど俺としては剣を取り上げられ少し、いや結構ガッカリしてんスけど……。
「あははは…い、いや、悪ぃ…別にヴィンスの事笑ったんじゃなくブルーノの奴だよ、相変わらずだなって思ってよ」
「まぁ父様の言う事も一理あるので仕方ないです」
俺は木剣と思い込める様に枝を眺めながらある意味自分に言い聞かせる様に答えた。
「まあ、その何だ?ちゃんとやってりゃブルーノのヤツだってすぐ返してくれんだろ」
「はい!頑張ります!」
「よし!んじゃ始めるぞ」
デュークさんはそう言うと剣をくるりと一回転させ片手で構える。格好良い、俺も真似したい!いや、だけどそんな事言っているとまたブルーノのナックルパンチが飛んできそうだ。
「お願いします!!」
「ん?随分変わった構えだな?ブルーノの奴そんな構え教えたのか?」
「いえ、そうではないんですけど、ちょっと試してみたくて」
俺は木剣を左の腰にやり左手で軽く抑える。右手をクロスする形で木剣の柄を持ち腰を落とす俺の構えを見てデュークさんは不思議そうしている。
もちろんブルーノに教わった訳じゃないが実践的な事としてみたいのとデュークさんから一本取りたいから抜刀術で挑んでみる事にした。
もちろん、やった事などないけど抜刀術の方が普通に振るより剣速が早いって聞いた事があるからだ。
でもあれって刀を鞘に走らせるから早くなるんだっけ?
ま、いいや、とりあえずやるのはタダだしやってみよ。
「まあ、何事もチャレンジするのは良い事だ、んじゃ、その試したい事とやらでかかってこい」
「はい……いきます」
そう言って俺は足に力を集中させる。
「おう、どっからで…も!?」
デュークさんの返事と共に俺は突っ込んだ!!
驚くデュークさんの顔を確認した次の瞬間!!
………俺は空を見ていた。
ん?何だ?
何が起きた?
デュークさんにやられた?
体は?どこが痛い?
いや、どこも痛くない。
なら何が??
慌てて俺は立ち上がりデュークさんの方を見て構える。
デュークさんはと言うと俺に背を向けた格好のままゆっくり俺の方へ振り向き、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
「…ヴィンス、お前……今のは何だ?」
「えーとぉ…」
何だっけ?
確か抜刀する構えから一足飛びに間合を詰めて…間合に入ったとこで木剣を横払いに振り抜いた。
振り抜いたところを……デュークさんの剣でブロックされたんだった!
で、剣と剣とがぶつかった衝撃で弾かれて転がったんだ!
だから気付いた時には仰向けに倒れて空見てたんのか!
自分で自分のスピードについていけなかったのか…!
「油断していたが何てスピードだよ…」
「自分でも訳が分かっていませんでした…」
「何とかブロックしたが…かなり焦ったぜ…」
「力不足でした…」
お世辞じゃなさそうだけどある意味不意打ちの様なもんだったからな……。
「いや、たまたまブロックが間にあったのと体重差で何とか凌いだが…同じ体格、同じ武器だったら完全に殺られてたぜ」
「いえ、完全に実力不足でした」
生兵法は怪我の元とはよく言ったものだ。
まさに今のがいい例だ…。
それにしても恐るべき身体能力の高さだなこの体………剣術未経験の俺が猿真似でやってみようとしただけでこのレベルまで出来るなんて……運動神経が良いとかそんなレベルじゃないぞ?
これって…やっぱチート能力なのかな……?
「まあ、今のは追い追いブラッシュアップしていけばかなり有効な技になるだろうがお前には先ずやるべき事はある!」
「はい。やはり基礎からですね」
そうだ、危ない危ない…!!ついチートとか選民意識が働きやすいがこの世界のレベルが分からない以上、謙虚に学ばなければ身を亡ぼすの明白だ。
「ああ、そういう事だ、よし次は上段に構えてかかって来い!」
「はい!やあーー!!」
デュークさんの剣は両刃の剣だから抜き身にしてしまうと俺も木剣が真っ二つになってしまうので鞘に収めたまま俺の攻撃を受ける。
木剣と金属製の鞘がぶつかる音が響く。
連続攻撃でデュークさんに打ち込むがことごとく捌かれる。
「ちょ、ちょちょ、待て!ヴィンス!!」
「…はい?」
俺は夢中で打ち込んでいたが待てと言うので攻撃を止め立ち止まる。
「お前…こんなに力あったっけ?」
「…どうでしょう…あったんじゃないですかね…?」
他人事っぽく答えてしまうがそういう風にしか答えられないよな。
「じゃあ、前は何かしら訳があって力をセーブしてたのか?」
「えーと…どうなんでしょう…?」
あり得るな、俺は身を持ってこの体に身体能力の高さは知ったけど何しろ前の体の持ち主は目立ちたくなかったみたいだし。
まあ俺も出る杭にはなりたくない派だけど。
「ああ、そりゃそうだよな、記憶喪失になってんだから前の事情なんか覚えてないわな、いずれにしてもこのままその打撃を鞘で受け続けたら俺の鞘がベッコベコに凹んで剣が抜けなくなっちまうぜ」
「すいません…」
「いや、せっかくヴィンスが覚醒したんだ、その芽を摘むのは勿体無い。よし!そしたら俺も同じ木剣を持つとしよう」
そういうとデュークさんは庭の中で1番大きな木の枝向け手のひらを向ける。
これわ!もしやっ!?
「雷矢!!」
デュークさんの手のひらから長さ30cm程の稲妻が射出され木の枝の根元に命中し枝が弾け飛んで落ちた!!
おぉう!!雷属性魔術!!
スゲーーー!!
俺も雷出して〜〜〜!!
デュークさんは折った枝を拾い何回か枝を握ったりしながら感触を確かめている。
何だか持つ人が持てば枝も木剣に見えてくるな。
「ようし、それじゃあ稽古再開だ」
「はい」
木剣をクルクルクルクル回しながら歩いてくる、デュークさんはああやって剣をクルクル回すのが癖なのかな?かっけーな。
「次は俺から行くぞ?」
「え?」
クルクルと回していた剣をピタッと止め片手で持ち腰を落とす。
「そら!」
「っ!?」
慌ててデュークさんの太刀を受ける。
力加減してくれているのだろうけど重い…!!
力で叶わなければ?
スピードだ!
が、流石デュークさん俺のスピードは分かっているみたいで簡単には俺の間合にはさせてくれない。
なら俺も打って出るしかない!
~
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「よし…。今日の剣術稽古はこれ位にするか…」
「ありがとうございました…」
完全に昼下がりと言った時間帯になっている、朝からやっているから何時間打ち合いをしていたのだろう?
「ああ、治癒魔術」
「ありがとうございます」
体力が戻った。
「俺の魔量も大分減ったな、治癒魔術だけこんなに使ったのは初めてだぜ」
打たれては治癒魔術を掛けてもらって傷を治し、同時に体力を回復させると言った感じでずっと実戦稽古をしていたのだ。
傷はすぐ治るが打たれた時は、そりゃ痛い。
痛いなんてモンじゃない!
痛いなんてモンじゃないが学ぶ楽しさがそれを上回り苦に感じず稽古を楽しめた。
前世なら痛い目にあうのが怖くて喧嘩もロクにした事無かったけど、いや、痛い目にあうと思うだけで膝が笑っていたっけ。
傷を治して貰えるという安心感が大きかったのは事実だけど痛いのも充実感が上回ると不思議と立ち向かえた。
いや、それより強くなっていくのが分かると尚更次から次へと痛みすら受けられる様になっていた。
これがいわゆるアドレナリンの分泌を感じるという事なんだろうか?
まあ、何にしても充実感に満たされている!
「しっかし、折ったなぁ」
「ほとんど枝が残ってませんね……」
そこいら中に折れた木剣が転がっている。
その数は10や20じゃきかない。
庭の木も枝が折りに折られ上の方の細い枝以外は無い。
「こりゃあクラリスに怒られんな…」
「ですね……」
~
その後、2人でクラリスに謝りに行ったがクラリスは俺がそんな激しい稽古するなんて信じられないと言っていたが庭の惨状を目の当たりにした途端、クラリスは激怒し文字通り雷を落としたのは言うまでもあるまい…。
そして2度と庭での稽古は禁止となってしまった。
しばらくして夕方になるとブルーノが帰宅した。
「……帰ったぞ」
「お帰りなさい!」
「ねぇあなた!お庭見た?」
俺はお帰りなさいとあいさつしたがクラリスはそれより何よりよっぽど庭の件で怒っているらしい。
「……ああ」
「ああって、あなた…それだけ?」
拍子抜けしたのはクラリスだけじゃない俺もデュークさんも怒られる覚悟をしていただけに拍子抜けだ。
「あ、いや、その何だ、デュークとヴィンスか?庭荒らしたのは?」
「すまねぇブルーノ…」
「ごめんなさい、父様」
「あなたからもビシッと言ってやって!」
「ん、あ、ああ……だが、その前にちょっと、話がある…」
「………………」
「………………」
「なぁに?改まって」
ブルーノの様子がおかしい。
何やら覇気が無いと言うか、まるで何か親に隠し事をしている子供の様にさえ見える。
「……すまん!!」
え?何?何いきなり謝ってんの??




