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第四十一話 「救出の条件」

 龍神ヴァンキッシュ。


 ソフィー、カーラちゃんから受け売りだが二つ名を堕神とも裏切りの神とも呼ばれている存在。

 そして魔族王子パナメーラの親を殺した(かたき)らしい。


「でも、見た目は完全に人族の少年でしたよね?」

「恐らく変化の魔術を使って上手く化けていたのだろう」


「あ!だからずっと目をつぶっていたのね!瞳の奥の赤い揺らぎで変化がバレない様にする為に!」


 確かブルーノもデュークも俺が生まれ変わった時、目をのぞき込んで赤い揺らぎがないか変化の線を疑ってたもんな。


「僕も何か雰囲気が入学手続きの時と違うなって違和感を感じていたのですが、もしかして途中で入れ替わったって事ですかね?」

「ヴィンスと同じ様に森に入ったところで襲われたのか、もともとグルだったのかは分からないがどちらにしても森で入れ替わったのだろうな」


「確かヴィンス様、竜人族に襲われたって言ってましたわよね?あ!!竜人族なら龍神を崇拝していても不思議じゃありませんわね!」


 カーラちゃんが言った竜人族と龍神の接点で全てが繋がった気がした。


「あの少年?って言うか龍神?と同行していた試験官は?!」

「試験中に魔物に襲われて行方不明になったって言ってましたわ」

「でもその情報源も龍神が化けた少年の報告だから真相は怪しいわね」


「何でソフィーとカーラちゃんはその事知ってるんです?」

「私たちがヴィンスより先に校長室に行ってたじゃない?その時、その話してたからよ」

「それで別の先生たちを捜索に出すとも言ってたましたわ」


「ふん、と言う事は龍神(やつ)が試験官と受験生の2人を消したか、その試験官もグルだったかと見て良いだろうな」

「……………」


 パナメーラの言葉に皆、言葉を失う。


「パナメーラ、さっきステファン試験官に『やはり貴様も敵だったか』って言ってたなかった?あれってどういう意味?」


 思い出したようにソフィーがパナメーラに聞く。


「ああ、ヴィンスに帯同していたあの試験官はヴィンスが竜人族に襲われている時も姿を消していたし、俺様とヴィンスが戦った直後に出来過ぎな位のタイミングで竜人族がヴィンスのもとに現れたからな、誰か手引きした者がいると考えるのが普通だろう」


「確かに!パナメーラと戦ったその日の夜にステファン試験官がいなくなって、誰もいるはずのない森の中でステファン試験が誰かと話をしていたんです!その時は幽霊が怖いからポエム読んでいたとかちょっとよく分かんない事言ってましたけど、その翌日です!竜人族が僕のとこに来たのは!」


 あの竜人族の苦しいスカウト活動は俺の(そら)魔術を知ったステファン試験官が竜人族と連絡を取りあって俺を仲間にいれようとしていたからか!


「ステファン試験官は龍神と竜人族と裏で手を組んでいた、それからあの少年本人は殺され帯同した試験官も殺された、もしくはグルだったって事?」

「そう見るのが妥当だろうな」


「おい!!お前達、何があった!!」


 俺たちの話がまとまったところで駆け付けた教師の一人が聞いてきた。

 まさかこの教師も龍神の手先じゃないだろうな……?


「何やら爆発らしき騒ぎだった気がしたが……?」


 別の教師も聞いてくる。


 それに受験生やら生徒やらも集まってきたからここは龍神の手は回っていない一般人と見て大丈夫だろう。


「実は……………」


 カーラちゃんはともかく、パナメーラやソフィーに事情説明させると事態がややこしくなりそうな気がしたから俺が代表して皆に事情説明した。


 話の途中で事態を重く見た教師たちが生徒たちを校舎へ戻し、俺たちは校長室へ行き詳細を説明する運びとなった。



 ~


 校長室には校長、教頭、それから幹部であろう教師数人に俺、ソフィー、カーラちゃん、そしてパナメーラがいる。


「龍神ですか……」


 そう言ったのは校長先生だ。


「でも何故、龍神がウチの生徒として紛れ込もうとしたのでしょうか?」


 疑問を呈するのは教頭先生だ。


「分かりません。ですが今、真っ先にやらねばならない事はトーマス試験官の捜索に出たサンビー先生の部隊に事態を知らせて撤退させる事でしょう」


「で、ですが校長……今の話が本当だとしたら相手は龍神ですよ?龍神相手に別の捜索隊を出すのは二次被害にもなりかねませんよ」


「分かっています、しかしこのままサンビー先生たちを見殺すわけにもいかないでしょう?」


「そ、それはそうですが……た、例えば希望的観測になりますが、もししたら龍神はもうこの地にはおらず、竜人族も引き上げていればサンビー先生たちも徒労には終わりますが無事帰還する事も……」


「確かにその可能性もありますが、人の命を楽観的に運任せとはいかないでしょう…?」


「し、しかし、かと言ってその様な地に誰かを送り込むのも同じ事かと……」


「…………………」


教頭先生の言う事は後ろ向きなのかもしれないけど正論で現実的だ、それが分かっているからこそ校長先生も言葉に詰まるのだろう。


「ふふふふ、それなら私たちに任せて」


「っ!?な!?何を言っている」


 勇ましく割り込むのはソフィー、驚くのは教頭先生だ。


「そうだ、俺様たちであれば例え相手が龍神だろうと何だろうと負けはしないぞ」

「パナメーラ!」


 勇ましい二人に教師たちが驚くが俺も二人に同意だ。


「もちろん私たちも行きますわよね、ヴィンス様?」

「ええ、もちろん!」


 カーラちゃんも同意している。


「皆さん、申し出はありがたいですが皆さんは大切な我が校の生徒です。そんな危険な任務に生徒をあたらせる訳にはいきません」


 校長先生が止めるのは当然だよな。


「ふはははは!サトリアーニと言ったな校長よ」

「ちょ、パナメーラ!」


 パナメーラの俺様節はどうやら立場は関係ないらしく慌てて俺が制する。


「いいのですよヴィンス君、彼は魔族の王子、社会的立場は上ですからね」

「いや、そういう問題ではないかと……」


「俺様たちは既に龍神(やつ)と一戦交えたし因縁がある、それにヴィンスは竜人族とも戦っているしな」

「え、いや竜人族と戦ったのは俺じゃなくってパナメーラじゃ……」


 確かに戦おうかな?とは思ったけども。


「それに何より龍神(やつ)は俺様の親の(かたき)でもある、それをみすみす見逃したくはない」


「だから行かせろと…?」

「ああ、そうだ」


 パナメーラと校長先生の視線が交錯する。


「…………分かりました、貴方の実力は本物でしょうし、親の仇(それ)を持ち出されては我々に止める権利はないかも知れません、それに貴方の事だから止めるなら学園を辞めて行くと言うでしょうしね」

「分かってくれて礼を言うぞサトリアーニ校長」


「とは言えあなた一人で行かせるのはいくら何でも危険すぎますから帯同する人員を備えますよ」

「人員なら私達がいるからもう良くない?」


ソフィーが不思議そうな顔で意見する。


「皆さんはパナメーラ君の様な事情は無いでしょう、それに実力も特待生クラスとは言え実戦での実力はまだ未知、故に行かせる訳にはいきません」


校長先生は即答だ。


「事態は急を要するのではないのか?」

「そ、そうですね、至急冒険者ギルドへ依頼をかけましょう」


パナメーラの疑問に教頭先生が答える。


「俺様と一緒に行くのはここにいるヴィンスとソフィー、カーラ以外考えられないが?」


「ええ、僕たちもそう思います」

「私達4人いれば危険なんかないわ」

「すぐにでも出発できますわよ」


「駄目です。先ほども言ったように試験に受かる力と実戦は全くもって別物です、いくら魔術、剣術が優れていてもその場その場対応できる力が必要となる、それが今回は最悪龍神相手になろうかと言うのです」


校長先生の言う事はもっともだ、もっともだが違うんだよな………この際だから(そら)魔術の事もみんなの事も言っちゃおうかな?

いや、いつかは言うにしても時期尚早か?もしかしてこの中に龍神の手先が紛れ込んでいるとも限らないし。

でも龍神には俺の宙魔術はバレてるんだよな?

だったら関係ないか?


でも、ソフィーとカーラちゃんの力は知られていない?

いや試験中にその力は帯同した試験官が見て知っているのか?


う~ん……どうしたものか?


やっぱもう少し理論的に説明説得して解き口説く方が良いか………。


「俺様が空間魔術なら、ヴィンスは(そら)魔術、ソフィは死神属性の魔術使い、カーラは規格外の力を持つ者(アウトスタンダー)だ、これ以上の実力者を時間をかけてでも揃えられるか?」


「な!?なんと!?」


あらやだ、パナメーラさんったらあっさりバラすのね。


「い、いや、どれもこれも寓話的な話ですぞ?にわかには信じられない話ではありませんか、校長!」


否定するのは教頭先生だがそうですよね?そりゃそうだ。


「その話が本当なら確かにそれ以上の力を持つ者を集めるのは至難の業でしょう、ならば証明して見せて頂けますか?」


「いいだろう、はっ!」

「ぅおっ!?」


パナメーラのヤツ、いきなり俺に向けて火弾(ファイヤーボール)をぶっ放しやがった!


「こ、これはっ!?」

「火弾が浮いたままで落ちない!?」

「ま、まさか(そら)魔術なんて本当に存在した…のか?」


教師の面々が驚いている。


「ヴィンス、俺様の火弾(ファイヤーボール)を返してもらおうか」

「はいよ」


ドンっと音を立てて火弾(ファイヤーボール)がパナメーラの下へ飛ぶ。まぁ音速位の速度か?


「っ!?」

「な、何だ今のは……!?」

「浮いていた火弾(ファイヤーボール)が急加速どころか最高速度で打ち返されたぞ!?」

「そ、それもそうだが、パナメーラの手のひらに吸い込まれたのは…??あ、あれが空間魔術か?!」


一気に校長室がざわつく。


「次はこれだ、ソフィー!!」


「っ!?」

「な、ななな、なんと!?」

「し、信じられん……!!」


パナメーラが火槍(ファイヤーランサー)を10本程束ねてソフィーに向け射出したのだが、そのすべてがソフィーの目の前で氷と化しそれは燃え盛る炎の揺らぎそのままで一瞬にして凍らせたのだ。


次に瞬間、凍った火槍(ファイヤーランサー)は落下し砕け散った。


「最後にカーラよ、そら!」

「きゃ!?お、重い……ですね…な、何ですか?!この物体は……」


カーラちゃんをもってしてもふらつかせる物体ってなんだ?

見た目は10Cm四方の黒い石みたいだが……。


「カーラは言う程の力ではない様だが……」

「確かに他の二人に比べると見劣りしますな」


教師たちが不安そうと言うか拍子抜けと言った表情でカーラちゃんを見て批評している。


「ふん、カーラ、それを誰かに渡してやれと言いたいところだが校舎が突き抜けるだろうからやめておいてやろう」


パナメーラが言うんだから実際とてつもない代物なんだろうな。


「それではカーラよ、そこの窓から校庭に投げ捨ててみろ」


パナメーラに促されカーラちゃんが窓際に移動しその物体を外に投げ捨てる。


ズーーーーーーンッと重い音と共に校舎が揺れる。


教師たちと一緒に外を確認する。


すると投げ捨てられた物体を中心にクレーター状に校庭の地面が沈みその中心は確認できない程に地面深くへ潜った様だ。


「な、な、な、なんだ……こ、これは……!?」

「こ、これ程までに地面をえぐる物体とは……?!」


教師たちは窓から身を乗り出し目を見開き驚愕しているが、俺もアレが何か気になる。


「あれはこの世界で一番の重い質量をもつ魔石クアイフだ」


「ま、魔石クアイフだと?!伝説上のアイテムじゃないか?!」

「持ち上げる事など不可能と言われている魔石」

「そ、それを一人で持ち、投げ捨てた?!」


「俺様でも空間魔術を使って出したから渡せたが持ち上げる事は不可能だ」


パナメーラは出来ないと言っているのだが何故か偉そうだ。


「どうだ?サトリアーニ校長よ、我らの力は分かってもらえたかな?」


「わ、分かりました、で、ですがやはり大切な生徒をその様な危険地帯に送り込むのは………」


校長先生は立場的に今、ものすごく葛藤しているのだろうな。

仲間を助けたい気持ちと生徒を守りたい気持ちと。


そうだ!!


「あのぉ…宜しいでしょうか?」

「ん?何ですか?ヴィンス君」


「先生方の気持ちは分かりました、分かりましたので我々から提案があります」

「提案…と言うと…?」


校長先生は何を言い出すのかと不思議そうな顔だ。


「僕たち退学します」


「な、何ですと…??」


教頭先生が思わず割って入る。


「それは退学するから勝手にさせろ、という意味ですか?ヴィンス君」


校長先生は冷静に分析するが少し違う。


「いえ、パナメーラなのですが実は特待生クラス希望していたのですが間違って一般クラスに入ってしまいまして……」

「ぬ?ヴィンス?」


何を言い出すのかとパナメーラは意外そうな顔をしている。


「で、再試験を行って頂けないかとのお願いです」


「つまり合格は辞退するから、より難度の高い試験を、つまりは龍神、もしくは竜人族が潜むやもしれぬ森に入りサンビー先生たちを救出する事を合格条件に全員を特待生クラスに入学させろと、そういう事ですか?」

「ええ、その通りです。そうすれば先生たちは生徒である僕たちに気を使う事なくサンビー先生隊の救出に向かわせられる、僕たちは全員揃って同じクラスになれるいかがでしょうか?」


「ヴィンス君、生徒であるから守ると言うのは確かにあります。しかし生徒でないから子供たちを危険地帯に向かわせて良いという倫理はありません」


「確かに見た目は全員子供でしょう、しかしながら力だけを冷静に見て下さい。この4人の力をもってすれば一番救出できて且つ全員が無事生還する可能性が高いと思いませんか?」


俺と校長先生の視線が交錯する。


「こ、校長、ここはヴィンス君の提案を受け入れるのが全員にとって得策かと………」


教頭先生が校長先生の背中を押してくれる。


「…………………」


考え込む校長先生。


「校長先生、僕たちは救出に向かいたいと言う気持ちと人が殺された事を放っておけない事態、それに何よりパナメーラの親の仇を取ると言う気持ちを放っておけないと言う気持ちでお願いしています」

「………………」


顎に手をやり真剣な眼差しで俺を見る校長先生。


「その為に僕たちはあまり公にしたくない力を証明もしました」

「……確かにそうですね、その力を証明して見せろと言ったのは私でしたね、分かりました、非常に心苦しいですが皆さんに託すしかありません、お願いできますか?」


「もちろんです」


俺は胸に手をやり頭を下げ引き受ける。


「当然よね!」

「ええ、早速行きましょう!」


「ふはははは、サトリアーニ校長よ、我らに任せておけば何も心配いらぬ、この俺様の命に代えてでも全員を無事に帰らせると約束しよう」


ソフィー、カーラちゃんもやる気満々だしパナメーラにいたっては腕を組み胸を張り偉そうで気持ちよさそうだ。


「それは許しません」

「な、何?!」


校長先生の思いがけぬ言葉に胸を張っていたパナメーラが体勢を崩す。


「パナメーラ君の命の代えてなど許さないと言ったのです、全員が無事に帰らないと特待生クラスへの入学が認められませんからね、全員無事の帰還が絶対条件です」

「ふん、分かった、全員無事に戻ってくると約束しよう」


「私たちからも宜しくお願いします」

「お願いします!」

「お願いします!!」


教頭先生以下、教師全員が俺たちに頭を下げお願いしてくる。

俺とソフィー、カーラちゃんはそこまでされると逆にこっちが申し訳ない気持ちになり顔を見合わせるがこの男は違った。


「ふはははは、わーっはっはっはっはぁ!!いいだろう!!お前たちの望み、このパナメーラが叶えてやるぞ!!はーっはっはっはっは!!!」


パナメーラはこれ以上ない位に気持ちいいんだろうな……。

そんなパナメーラを分かっていても若干ひいてる俺たちがいる。


さて、気を取り直して救出に向かわなけりゃな……。

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