第三十五話 「鬼畜」
「よし決めた!俺様も魔法学校に入るぞ!」
ただでさえ思わぬ訪問者が思わぬ登場の仕方で驚いていたところに更なる思いもよらぬ発言に皆が驚きどよめく。
「ちょちょちょ、パ、パナメーラさん!?何を言い出してんスか!?」
「何って、そのままだ。俺様も魔法学校に入学すると言う事だ」
「な、何で今更!?魔族王子で最年少冒険者……!?あっ!!」
そうだ!最年少記録は俺の5歳になっちゃったんだった…!
「その記録は貴様が破っただろう」
「そ、それはたまたま僕が5歳で受験してたまたま受かっただけで実力からしたらパナメーラさんの方がよっぽど…」
「ふん、よせ、白々しい……まあ何れにしても貴様達と学園生活なるもの送ってみるのも面白そうだと思ったから入学してみる気になった、それだけだ」
「い、いやぁ……僕らなんかだと格下過ぎて話にならないかと………」
「何だ貴様、まるで俺様を避けている様だな、俺様がいたら邪魔か?」
「いえ!!滅相もない…!邪魔どころか光栄だなぁと思って……ね、ねえ、みなさん……?」
俺一人で解決できないぞ…。みんなフォロー頼むぞ……。
「そうね、魔族王子と席を並べられるなんて普通に生活してたら考えられないものね」
「はい!地元に戻った時、街の人たち全員に、いえ、これから関わる人全員に自慢できますわ」
ナイッスゥ!いいぞ二人とも!!
「む!?そ、そうか?」
キタキタいつものパナメーラが。
「確かに魔族の王子と学友になるなんて聞いた事ないしな」
「客観的に見ても光栄な事かも知れないわね」
大人の2人にそう言われると確かにすごい事かも知れないって気になってくる。
と言うか実際すごい事なんだろう。
「ふ、ふ、ふ、はっはっはっは!!そうかそうか!そんなに光栄か!なっはっはっは!!うむうむ、苦しゅうない」
腕を組んだままだが顔は天を仰ぐ格好で高らかに笑うパナメーラ、相当気持ち良さそうだな……。
「そうしたらパナメーラよ、受験の受付済ませないと締め切られちまうぞ?」
デュークさんがパナメーラに教える。
「うむ。それでは受付をしてくるか」
「分かる?いくら魔族王子とはいえ受験の受付なんかした事ないでしょう、一緒に行こうか?」
アステリアさんが親切を申し出る。
「ダークエルフよ、アステリアと言ったな、申し出はありがたいが俺様を子供扱いするなよ?受付くらい1人で出来るわ」
「そ、そう?ま、確かに難しいものじゃないし魔族王子なら受験資格としては問題ないだろうから大丈夫ね」
「それでは皆の者、また後ほどな」
すっかり気分が良くなったパナメーラは軽くてをあげ颯爽と受付に向かった。
何か1人で歩いて受験の受付に向かう魔族の王子って絵はすごくシュールだな……。
「しかし今日は思わぬ出来事が一気に押し寄せすぎだな……」
「……同感です」
何だか今朝起きてここまで来るだけで一気に疲れたな。
「じゃあ、僕達は特待生コースの試験案内会場に行きます」
「あ、ああ、頑張れよ、色んな意味で…な」
「は、はい、頑張ります」
俺、ソフィー、カーラちゃんはデュークさん、アステリアさんと別れ別室へと向かった。
~
その後、別室で特待生クラスを希望する者には今年の受験課題が言い渡され、ここからは1人で課題をクリアする為、バラバラになり完全に単独行動となる。
気になるのはパナメーラだ。
と言うのも受験課題の説明に姿を見せなかった。
やはり気が変わって受験なんかやめたのか?それとも受付に間に合わず受験できなかったのか?はたまた魔族王子と言うだけあって受験は免除されたか?
いずれにしてもそれを確かめる術は今の俺にはない、それに人のことを気かけるより先ずは自分の事だ。
~
と言う訳で俺は今、入試課題に挑むべくサンクルーズ郊外の森へと来ている。
全員で一緒に取り組まない様、試験時間は時間差で開始されるしその課題はどこでクリアできるかフィールドを教えてくれる訳でもないから完全に単独行動となる。
しかし完全に一人かと言うとそうではない。
監視役がマンツーマンで付く。
当然不正防止の意味合いが強いがいざという時は護衛役にもなってくれる。
そりゃそうだろう、貴族云云かんぬんもあるだろうけど受験生が死んでしまってはいくらなんでもマズいからな。
実力不足で挑む方が多いだろうからこうした監視が付くのは当然の対応だ。
だが、監視役が護衛役になって護ってくれた時点で失格になる。
瀕死の状態で治癒魔術をかけられるのはグレーみたいな事も言っていた。
本来倒せなきゃマズい相手に瀕死じゃアウトだし、もともと勝ち目がない、もしくは薄い相手に瀕死の状態になりながらも勝てればそれはセーフだ。
と言う訳で俺の少し後ろを監視役の教師?なのかな、が付いてきてくれている。
原則口をきく事は無いと言っていた。
情が入ると公平じゃなくなるからだ。
あくまで監視と言うか試験官として同行していると言った感じで距離を置いている。
ソフィーにカーラちゃんはどうしたかな?
俺と同じ森に入っているのか、別のルートを行っているのか気になるな。
気になると言えばパナメーラもそうだ。
ヤツなら簡単にクリアしちゃうんだろうな。
さて、それより課題である魔草ツダとやらは何処にあるんだ?
考えても仕方ないがこれが前世ならネット検索である程度の方向性を立てて行動できたのにと思ってしまう。
ただヒントは教えてくれたからそこから紐解くしかない。
ヒント1:寒い気候を好む
ヒント2:青い花を咲かせる
ヒント3:爆発に注意
う~ん…どういう事だろう…?
まとめると寒いところに咲いて爆発する青い花、っていう事か?
よく分からん…。
とりあえず寒い気候って言うから北に向かってなんとなく森に入ったが果たして合っているのか?
今頃後ろの試験官の人は全然違ぇよバ~カとか思ってるのかな?
そんな事を考えながら森を歩く事2~3時間経っただろうか?
少し休むか。
「しかしこうして毎回合っているかどうか分からない受験生について1週間以上も付いて歩くのもたいへんですね」
「……………」
少し離れた所に座る試験官にダメもとで話しかけるがやはり口はきいてくれない。
だよね。
俺は何となく前を見てぼんやりする。
「こんな所にいたか」
え?口をきいてくれるの?
少し不思議に思い試験官の方を見る。
「な、何だ貴様は!?」
試験官も驚き剣に手をかけ振り返える。
「俺様は貴様呼ばわりされるのは好きじゃない、俺様が貴様呼ばわりするのはクセだがな」
「パナメーラ!さん…?」
試験官の背後に腕を組んだパナメーラが立っていた。
声の主はパナメーラさんか。
「おい!受験生同士が絡むのは禁止されているのだぞ!今すぐ立ち去れ!!」
試験官は立ち上がりパナメーラに対し注意勧告する。
「貴様に用は無い、俺様が用あるのはヴィンス、貴様だ」
「ぼ、僕…ッスか?」
だよね?完全に俺を追いかけてきたってシチュエーションだもんね。
「おい、いくら魔族の王子とは言え不正は許さんぞ?」
「うるさいぞ貴様さっきから。俺様は試験やら不正やらに興味は無い、興味があるのはヴィンスだと言っているだろう」
腕を組んだまま、まるで緊張感は無いパナメーラ。
「試験官さん、どうやらパナメーラさんは僕に手助けしたり協力をしに来た訳ではなさそうですし少し話を聞いた方が結果早く終わるのでは?」
このままでは埒が明かなさそうだからな。
「そういう事だ、黙って見ていれば終わる、まぁ直ぐ終わるかどうかはヴィンス次第だがな」
えぇ?どう言う事?嫌な予感しかしませんけど…。
「………いいだろう、試験に関する話をした時点で2人とも失格だからな?」
しぶしぶとは言え納得した試験官、つーかいざとなったら助けてくださいよ試験官さん!!
「ふん、だから俺様に試験など関係ないと言っているだろう、第一俺様には課題も試験も無かったぞ」
え!?そうなの?やっぱ魔族王子ともなると試験免除なんだ?うらやましい!!
「でぇ?パナメーラさん、一体全体このあっしに何の様でござんしょ?」
何の話か怖いがさっさと終わらせないと先に進めないからな。
「うむ、ヴィンス、貴様この俺様と戦え」
「は???え??な、なな、何ですと??」
目が点とはこの事だ、完全に今の俺は目が点になっている。
「おい!パナメーラ!貴様何を言っている?喧嘩なら後にしろ!」
そりゃそうだよな、そうっスよ!もっと言ってやってください試験官様!
いや、後でも嫌だけど…。
「だからうるさいぞ貴様、貴様に貴様呼ばわりされる筋合いは無いわ」
見た目は完全に俺と変わらない子供のパナメーラが大人に対し高圧的な態度がシュールだな。
「おい、魔族の王子だと思って下手に出てりゃ大きく出やがっていい加減にしろよ?」
ヤバい!いや…ヤバいのか?試験官がだいぶ頭に来ている様だが…。
「ふん、そんなに気に入らないなら下手に出る必要などないぞ?先ず貴様から戦ってやっても俺様は構わないんだぞ?」
「くっ…!!」
試験官の剣にかける手に力が入る。
入るが堪えた様だ。
「ふん、貴様もある程度は腕が立つみたいだな?そこで剣を抜かなかったのは賢明だぞ?抜いていたら俺様も引っ込みがつかなくなるからな」
「………………」
試験官は剣に手をかけたままだ、と言うより固まってるのか?
「相手の力量が分かると言うのは強さだ、相手の力が分かれば生き残る確率は上がる、生き残る奴が強いと言う事だからな」
おお…何だかパナメーラが言うと説得力があるな、子供なのに。
「パナメーラさん!!」
「何だヴィンス?」
「自分もパナメーラさんには到底敵いません!!」
そう言う事なら俺もさっさと白旗を上げてしまおう。
うん、無駄に痛い目に合うのヤだもんね!
プライド??はっ!そんなんクソくらえだっつーの。
さ、そういう訳で早々にお引き取りをパナメーラさん。
「ふざけているのか?」
「いえ!大真面目です!!」
本音だ、マジで。
「相手の強さが分かるのは強さだと言った」
「へぇ!!おっしゃってました!だから僕はパナメーラさんには敵わないと分かります!」
だから俺の負けだって言ってるじゃん!
「俺様が相手の強さを分からないと思うか?」
「へ?そ、それは…分かりそうですね……って、分かるんだったら僕なんか相手にならないのも分かるんじゃ…?」
「お、おい…パナメーラ…このヴィンスはお前に匹敵する力だと言う事か…?」
試験官が割って入ってくるが、どうせ入るなら質問するんじゃなくって止めに入れよ…!
「ああ、そうだ、さあヴィンスよ、かかって来い」
パナメーラさんは組んだ腕を解き右手をクイクイをして俺を挑発する。
「いやいやいや、ちょ、ちょ、ちょっと待って下さいって!おかしいでしょ?!僕に戦う意思が無いのに何で戦う方向に進んでるんスか!?」
「何でって…貴様、自分の力がどれ位か知りたくないのか?」
「全っ然!興味ないッス!!」
本当は興味なくは無いけどそれを知る為に命の危険に晒す必要は無いでしょ??
つーか、そんな興味だけで命張れるのは強い奴と戦う事に喜びを感じる戦闘民族だけでしょ?
「俺はなヴィンス、生まれてまだ49年しか生きていないが全力で戦った事が無いんだ」
え??つーか子供だと思っていたけど49年も生きてんの??魔族ってアレか?!長命種族で人族より年の取り方が遅いって事か?!
「貴様は違うか?全力で戦った事はあるか?何かを隠してるのは分かっているが、その隠した手を見せてくれればお互い全力の力が知れるんじゃないかと思うのだが……」
うっ…何故分かる?きっと宙魔術の事言ってんだろう…確かに宙魔術を使った全力で戦った事は無いけどさ…。
「か、買いかぶり過ぎじゃないッスか…?僕の全力なんてたかが知れてると思いますよ…」
「貴様が何を隠してるか知らんが、お前が応えてくれるなら俺様も手の内を見せてやろう」
「いやいや、ぼ、僕は別にパナメーラさんの隠し玉を知りたい訳じゃ無いですし…」
何で?どうして戦おうとする!?正義に生きるとは決めて転生したけど、俺は出る杭にならず目立たず騒がずが俺のモットーだぞ?意味のない戦いを好む狂戦士じゃねーっつーの…。
「ふん、だろうな?貴様ならそう言うと思ってた」
「あ、ありがとうございますぅ!!分かってくださいましたか?!」
ん?何か今までとパナメーラの眼が違う??
何だ!?何だか嫌な予感がするぞ?!
何だ??この警鐘を鳴らされる感じは!?
「おい、試験官!!ここから見る事は他言無用だぞ?もし喋ってみろ、必ず貴様を殺しに行くからな?」
「ひっ……!!ひぃぃい……わ、分かった……いえ…わ、分かりました……」
パナメーラが試験官を見ると試験官は失禁でもするんじゃないかと言う位に怯えた。
俺でも分かるアステリアさんと同じ加護を今までは張っていたのを解いたんだ。
つまり畏怖を全開にしたんだ。
畏怖の加護を解いたパナメーラが俺を見る。
「うっ………」
何だ??こ、怖い……怖い…これがパナメーラ??う、嘘だろ……さっまでのふざけた感じは何だったんだ……。
怖いのに……怖いのに目が…目が離せない…。
これが魔族王子の本性なの…か…。
つーか、こ、こんな…バ、バケモノとま、まともに戦える奴なんて…い、いないだろ……。
「どうした?まさか貴様もこれしきの事で怖気づいたか?」
こ、これしきって……今までで味わった事のない恐怖だぞ……。
転生して初めてビビッて膝が笑ってる……。
「ふん、まさか貴様の言う通り俺の買いかぶりだったとはな……貴様にはガッカリしたぞ」
な、何とでも言、言え……そんな挑発されても……い、命あってのモノダネだ…
「だが、安心しろ、こんな事になると想定もしておいた」
「………?」
パナメーラが畏怖を前面に出しながら不敵な笑みを浮かべる。
っ!?
「そ、そんな……!?う、嘘…だろ…?」
「その質問はどっちだ?俺様の空間魔術の事か?それとも……」
奴の手の内はどうやら空間魔術らしいが、そんな事はどうでもいい…。
そんな事より何もない所からいきなり出現させその手に握られているモノだ。
「……………」
「万が一貴様が怖気づいた時の為に準備しておいたんだが……どうやら効果てきめんみたいだな?」
ニヤリと、そして獰猛な笑みを浮かべパナメーラが手を上げ俺にそれを見せつける。
「ソフィー!!!!」
「ああ、そうだ、貴様の幼馴染とやらの女だ」
奴の手にぶら下げられているのはソフィーの生首だ。
ソフィーの髪の毛を握りまるで狩りでもしてきて得た獲物を自慢するが如く見せつける。
何だ?何なんだ??この感情は??
怒り??怒りで気を失いそうだ…??
今まで感じた事も無い感情だ…。
「くくく、安心しろ、その感情を遠慮なく爆発させられるぞ?ほらこれで完璧だろ?」
そう言うと今度は左手に新たな生首を出した。
「カーラちゃん!!!!」
「二人とも呑気に森を散歩していたからな簡単だったぜ?もっとも呑気じゃなくても簡単だったろうがな」
獰猛とか何とかそんな格好いいものじゃない!ただの鬼畜だ!!この野郎は!!
「うぉおおおぉぉぉお!!!!」
恐怖とか怒りとかじゃない!!俺の中で何かがキレた!!!
「ふん、やっとその気になったか、手がかかるヤロウだったな」
パナメーラはゴミでも捨てるように二人の首を投げ捨てる。
「パナメーラァアァァァァァ!!!!」
俺はこの時、前世を含めても生まれて初めてキレた。




