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 閑話 「父の手」

 ~~ソフィア視点~~


 暇だわ……それとも退屈なのかしら……。


 まあどっちでも良いけど、そんなどうでも良い事言っちゃう位やる気が出ない日が続くわ……。


 そう、ヴィンス達がチコレットへ引っ越してからと言うもの何をやっても満たされない。


「ソフィア姐さ~ん!!」

「…………」


「姐御~~!!」

「…………」


「ちょ、待って下さいよ~!!姐さ~ん!!」

「……っるさい!!!」


「「「ひぃいぃぃぃい…!!!」」」


 ああもう!!イライラするわ!!


「ちょ、どうしたんスか?!ねぇ!姐さんったら!!」

「うるっさいわね!誰が姐さんよ!!いい加減その呼び方やめろって言ってるでしょ!!って言うか何でであんた等ついてくるのよ!」


 人攫いから助けてやって以来ガスラン達になつかれて困るわ。


「だってぇ、あの日から僕らはソフィア団親衛隊となり、こうして姐さんのお供をさせてもらってるんスよぉ」

「そもそもそのソフィア団って何?!」

「ソフィア団と言えばこの辺じゃ泣く子も黙る最強軍団じゃないスか!」

「何が最強軍団よ!そんなの作った覚えないし親衛隊とかって意味分かんないんだけど!!」


 そう、なつかれるだけでも迷惑なのに勝手にソフィア団とかって訳の分かんないチームを作ってるし。


「それはだって、あの日僕らの為に命張ってくれたから僕ら姉さんの親衛隊として……」

「だからアンタ達の為に命なんか張るわけ無いでしょ!」


 勘違いって言うか、自分達に都合の良い方へ勝手に解釈するあたりストーカー要素満載ね。


「そうやって照れを隠して矢面に立つ男気に僕ら憧れてんスよ…()っだ!!!」


 いい加減訳の分からない事言ってるからつい手が出てしまう。


「誰が男よ!!」

「「「す、すんませんっした!!」」」


 こうやって公衆の面前で男が3人も私に頭下げていると本当にこいつらが舎弟みたいに見えちゃうじゃない……!


「いいから、もう私に付き纏わないでくれない?」


 ホント一人にして欲しいわ…。


「そんなつれないこと言わないで下さいよ……で、姐御、今日はどこの奴等をシメに行くんスか?」

「シメになんか行かないわよ!人聞き悪い事言わないで!」


「またぁ、そんな事言ってぇ、毎日ここらじゃ札付きの悪共を叩きのめしてるじゃないっスか!」

「叩きのめしてるって……私は別に喧嘩売りまわっている訳じゃなくって悪さしている大人を見つけて成敗がてら実践稽古してるのよ」


 そう、今やその辺の子供はもとより大人にでも負けない。


 ヴィンスと約束したサンクルーズ魔法学校に入学するのはもちろん、ヴィンスにあった時に私の方が強くなっていないと格好がつかないじゃない。


 ヴィンスは魔術に長けているだけじゃなく(そら)魔術も使えて気転もきく、剣術だってきっと腕を挙げてくるの違いない。


 お父様は優秀って評判の家庭教師を雇ってくれるけど正直デュークさんの足元にも及ばない。

 下手すれば私の方が強かったりする。


 となれば稽古や机上の空論では学べない何でもありのストリートファイト(実戦)で腕を上げる方が手っ取り早い。


 さあ、悪党共出てらっしゃい!


 何処にいるの?隠れても必ず見つけ出してキッタンギッタンにしてやんだから!!



 っ!?


「随分と鼻息の荒いお嬢さんね」


 いきなり私の前に女の人が立ちはだかる。


「……誰?」


 その女の人は背が高く完全に見上げる格好の私からは顔を確かめようにも、ちょうど逆光と重なり思わず手をかざして顰める。


「あなたでしょ?最近ここらの荒くれ者どもをシメ上げてる女の子って言うのは?」

「……だったら何?」


 目が徐々に慣れてきて相手の姿形が分かってきた。


 その女性は肌が褐色で髪の毛は金、身長は高くスタイルも良い。


 スタイルの良さを誇示するが如くピッチピチの革で出来ているのであろう下着の様な服を着てる。

 黒いマントを羽織り、銀で出来た長い杖には真っ赤な石が乗っている。


 何より特徴的なのは長く先が尖った耳だ。


「ダークエルフ…?」

「そうよ」


 杖を持ったまま腕を組んで私を見下ろしながら答えるダークエルフ。


「ダークエルフが私に何か用?」

「ええ、あなたに用があるの」


 組んだ腕を解き杖を半回転させ長い杖の赤い石が付いた方で私を指す。

 ダークエルフって事は腕は立つのでしょうね、って言う事は誰かに雇われて仕返しか何かか、単純にケンカ売られているのかしら。


「ふん、その用とやらはここで聞いた方が良いかしら?それとも静か~な所で誰にも邪魔されない方が良いかしら?」


 私は目の前に突き付けらた邪魔臭い石を手で静かに払いながら睨みをきかせてダークエルフに問う。


「どっちでも私は構わないわよ」


 ダークエルフは再び腕を組みなおし興味なさげな表情でそっぽを向いて答える。


「…ふん!着いて来て」


 私は露骨にイラ立ちをあらわにして踵を返す。


「ふふ……」


 ダークエルフが私に何の用があるのか知らないけどここじゃ目立つから場所を移動する。


「ガスラン、何でアンタ達まで着いて来てるのよ」

「だって姐御の戦いだろ?応援位しなきゃ」

「何、応援って……それが邪魔だっていうのよ」


 どこまでついて来る気かしらガスラン達、正直何かあった時にはこの間の冒険者崩れの時みたいに足手纏いでしかないんだけど……。


「あらあら随分仲が良いのね、子供はやっぱりそうじゃなくっちゃね」

「ふん!余計なお世話よ、大体にしてこいつ等とは仲良しでもなんでもないわ」


 私は歩きながら後ろを振り向き冷やかしてくるダークエルフを睨みつけながら言う。


「ふふふ、悪ぶっちゃって。可愛いとこあるわね」

「ふん、言ってなさい、すぐに痛い目に遭わせてやるんだから」

「ふふふふ」


 ダークエルフは変わらず腕を組んだまま微笑している。



「ここら辺で良いかしら」

「ええ、構わないわよ」


 私とダークエルフは適度に距離を保って向かい合っている。


「で、私に何の用?」

「ん~、何だか最近悪党相手にいい気になってる女の子がいるって聞いてね、会いに来たの」


 ダークエルフは腕を組んだままだが杖を持っていない左指で毛先をくるくるといじり私とは目も合わせない。


 その態度に私のイライラは募る。


「会ってどうするの?」

「それって言葉で諭した方が良い?それともご自慢の腕っ節とやらで聞いてみる?」


 そう言うとダークエルフはチラリと私を見た。


「あははは!良いわね、あなた!なかなか話が早くて助かるわ!!」

「お褒め頂きありがとう。さあどこからでもどうぞ」


 ダークエルフは毛先をいじくっていた左手でかかってこいと挑発してくる。


「ガスラン!アンタ達下がってなさい!!」


 私は待ってましたとばかりにガスラン達を遠くにやり戦闘モードに入る!


「「「は、はいっぃぃい!!」」」


 ヴィンス、デュークさん仕込の一足飛びで一気に間合いを詰める!


「はっ!!」


 デュークさんから貰った木剣を横払いに抜く!!


「ん~相手の実力も分からないのに一足飛びで飛び込んじゃダメよ」

「がっ!!」


 もう少しで私の間合いに入る寸での所で相手の長い杖の柄で額を突かれた!


 自身の勢いとカウンターの反動で後ろに吹っ飛ぶ。


 転げ回りながらも相手の位置を確認する!


 動いていない…?


「くっ!!」


 何とか回転を止め立ち上がる。


「「姐さん!!」」


 ガスラン達が悲鳴ににも似た声をあげる、ったく情けない声出すんじゃないわよ。


 ダークエルフはと言うと相変わらず長い髪の毛先をくるくると指先で絡め毛先ばっか見て私の事なんか見ちゃいない。


「そうやって余裕かましてなさい!はっ!!」


 無詠唱で|火弾(ファイヤボール)を射出する!!


「完全無詠唱で魔術が射出できるのは驚いたけど、はっ!とか言って攻撃するのを教えちゃ無詠唱の意味が台無しね」


 ダークエルフは慌てる事無く、毛先をクルクルと回しながら|火弾(ファイヤボール)を見る事も無く杖で払う。


「ふん!!それはご丁寧にどうも!!」


 今度は黙って火弾(ファイヤーボール)を放つ!!


「そう、そういう風にいちいち掛け声出さないで射出するの」


 さっきの火弾(ファイヤボール)の倍の大きさの火弾(ファイヤボール)を射出だ、その分スピードは若干落ちるけどね。


「…………」


 今度はちらりと火弾(ファイヤボール)を確認してダークエルフが先ほどと同じ様に杖で払う。


 が、払った火弾(ファイヤボール)の下半分は払えたが上半分はそのままの勢いでダークエルフに向かう!


「かかったわね!!」


 火弾を二つ同時にくっつけて射出して一つに見せていたのよ!


「惜しいわね、だけどスピードがあからさまに落ちたのが何かあるって教えていた様なものね」


 ダークエルフは慌てる事無く且つ素早く杖を縦回転させ残った火弾(ファイヤボール)も払った。


「ちっ!!」


 私は再度一足飛びに間合いを詰める!


「………」


 ダークエルフは冷めた目で私の動きを観察している。


 っ!?


 杖が動いた!今だっ!!

 私は着地し無詠唱で魔術発動する。


 ダークエルフの足元を土魔術で盛り上げる!


「………」


 ダークエルフも流石にバランスを崩しようやく癇に障る髪の毛をクルクルといじるのを止めた。

 前のめりにバランスを崩す様に土を盛り上げる。


「ここよ!!」


 土魔術で上空へ持ち上げられる格好になったダークエルフの顔目がけ火複数弾(ファイヤボールズ)を無詠唱で射出する!!


「だから、ここよとか言わないの」


 っ!?


 ダークエルフは私が仕掛けた土壁(アースウォール)からバク転して壁の後ろに飛び降りた!


 私の火複数弾(ファイヤボールズ)が空しく空へ飛んでいく。


 と次の瞬間!私の足元が沈む!!


 っ!?


 更に沈んだ足が次の瞬間固まる!!


 動けない!!


 土壁(アースウォール)の上部からダークエルフの杖が見える!!


 やばい!!何か来る!!


 杖に集中しなきゃ!!


 と思い杖に集中し上を見上げていると土壁(アースウォール)の中心から火弾(ファイヤボール)が飛び出してきた!!


「杖はフェイク?!くっ!!」


 足が動かない私は堪らず腕をクロスさせ防御するがダメージは大きい!!


 腕が火傷した! 


 更に追い討ちをかける様にさっきの火弾(ファイヤーボール)で砕け散った土壁(アースウォール)の破片が遅れて動けない私に飛んで来る!!


 私は火傷した手で飛んでくる石や岩から身を守るほか(すべ)が無い!!


 痛い…!!


 何とか痛みに耐え土砂をやり過ごし土煙の向こうにダークエルフを探す。


 いない!?


「後ろよ」


 っ!?


 何とか後ろを振り向くとダークエルフは何事も無かったかの様に、飽きもせず再び毛先をいじってる。


「何なのよ!さっさとトドメでもさせば!!」

「自分からトドメさせとか言わないの、その気なればいちいち後ろだなんて教えないでトドメをさせたんだから」


 何のつもり?トドメも刺さずに講釈ばかりたれてるけど。


「随分余裕かましてるじゃない」

「だからそういう会話は良いの、相手が余裕をかましていると思ったらそこに漬け込むの」


「くっ!!」


 苦し紛れに足を固定され自由が利かない体勢のまま後ろ向きの不自然な格好で火弾(ファイヤボール)を放つ!


「だからぁそんな無理な姿勢でいくら完全無詠唱とは言え無闇に打っても当たらないわよ、まずは自分の足元に土魔術と水魔術を使って脱出して体勢を整えなさい」

「…………」


「そして脱出と同時に中級治癒魔術(ミッドヒーリング)で負傷した腕を治す」

「…………」


 さっきから本当に何なの?殺るなら殺れば良いじゃない。


「さて、あえて聞くけど次は私の攻撃で良いのよね?お嬢ちゃん」


 っ!?


 気が付けば私の顎にダークエルフの杖先の赤い石が突きつけられている。


 ダークエルフの顔も文字通り目と鼻の先だ。


 いつの間に距離詰めたの?


「ふふふふ」


「…………」


 汗が頬を伝わり顎からその赤い石に落ちる。

 赤い石は熱を蓄えているのか落ちた汗が一瞬で蒸発する。

 ダメだ殺られる…。


「ふふ、分かった?」

「……な、何がよ…?」


 私は何を言っているのかまったく理解気出来ずにいるとダークエルフは静かに杖を外し後ろを向く。


「……………」


「…何で攻撃しないのかしら?」


 私がしようとした質問を逆にダークエルフが私にしてきた。


「私が余裕をかまして相手(あなた)へ攻撃しないで背を向けたのよ、無詠唱で発動できるあなたなら絶好のチャンスじゃない?」

「……あなたが本気で私に攻撃していたら今頃私は死んでるはず、でもあなたは攻撃しなかった、なら敵じゃないんじゃないかと思って…」


「ふふふふ、そこまで考えていたなら今攻撃しなかった事はまあ良しとするわ」


 そういうとダークエルフは振り向き私と向き合う。


「…………」


 何なの?スゴく綺麗だけどスゴい威圧感…。


「ふふふ、もうそんなに構えなくても良いわよ」


 変わらず余裕ぶった、いえ実際余裕があるんだろうけどそういうのと違う?


 優雅というか憂いた感じなの?


 分かるのはその目に殺意は無い事かしら?


「あ、あの……あなたは一体……?」

「私はアステリア、ダークエルフの魔術師で貴女の家庭教師よ」

「か、家庭教師!?」


「そう、今からよ、宜しくねソフィーちゃん」

「ええ?!聞いてないけど!?」

「あら、そうなの?でも貴女のお父様ケリーからどうしてもと頼まれたから来たのよ」


 っ!?


「お父様の事、ケリーって呼ぶの?」

「ええ、昔っからケリーはケリーよ」


「もしかしてアステリアさんも冒険者?」

「ええ、正確には元、だけどね」


 憂いを含む目で微笑みながらアステリアさんは答える、相変わらずくるくると毛先を回しながら。



「アステリア、どうだい?娘は」


 背後からの声に振り向けばお父様がいた。


「お父様…!!」


「そうね、貴方の言う通り素質はあるみたいね、いいわ貴方の頼みでこの歳でこれだけの才能があるなら引き受けるわ」

「それは良かった、恥ずかしながらとんだお転婆娘でね、並大抵の家庭教師じゃ務まらなくて困っていたんだ」


 私を間に挟みお父様とダークエルフのアステリアさんで話を進めている。


「それなら貴方が直々に教えてあげれば良かったんじゃない?」

「そう出来ればそうしたいのだが何しろ立場が立場だけに日がな一日、娘につきっきりって訳にもいかないだろ?」


「確かに領主様が仕事もしないで娘につきっきりじゃあ領民は納得出来ないわね」

「それに前任はあのデュークだ、それなりの実力者じゃなきゃ娘も納得できないだろうからな」


 会話の内容は理解できるけど話し方が大人同士の会話って感じに気後れする。


「あ、あのお父様?」

「そういう訳だソフィー、今日からはアステリアが魔術を教えてくれる、これで憂さ晴らしの様な荒んだ毎日からは抜け出してくれるな」

「っ!?う、憂さ晴らしの荒んだって……わ、私はそんな……」


 稽古だ何だって自分では言いながらも父親に言われると後ろめたさを感じてしどろもどろになっているのが分かる。


「違うか?ヴィンス達がチコレットに()ってからというもの、お前はヴィンスやデューク達との毎日が無くなり毎日を退屈にしか感じられ無くなって以来、正義と訓練と言い訳に荒れた毎日を送っていなかったか?」


「た、確かにそうですけど、でもヴィンスとサンクルーズ魔法学校に入学する為に強くなるって言う約束を果たすのに日々訓練を続けていただけで……」


 そうよ、強くなる為に私なりに考えた訓練方法をしていただけで荒んでいた訳じゃない。


「その訓練って言うのは強くなる為に毎日何処かで喧嘩する事を言っているのか?」

「そ、そうです。で、でも喧嘩と言っても悪い事をしている者を成敗していただけで、い、言ってみれば街の治安を守る事にもなり一石二鳥で誰にも迷惑を掛けていません」


 何故だろう?お父様に自分がしてきた事を言葉にされると感じる後ろめたさは。


「誰にも迷惑をかけていない?」

「はい!感謝こそされ迷惑などかけていません」


 これは確かよ、自信持って言える。


「……どうやら私は自分の娘でさえ分かってあげていられなかった様だ……」


 本気で肩を落としている様子のお父様……。


「な!?お父様がそんな、落ち込む事では無いかと思います」


 何?何でお父様が落ち込む必要があるの?


「ちょっといいかしら?」

「アステリア……?」


 急にアステリアさんが入ってきて頭を抱えていたお父様が顔上げアステリアさんを見る。


 っ!?


「…………」


 先程と同じ様にあっという間の事に反応出来ない私の顎にアステリアさんの杖が突きつけられている。


「だからさっき分かった?って聞いたでしょ?」

「な、何の事……?」


「自分の無力さよ」

「……そ、それが何なの?今、か、関係ないでしょ?!」


 くっ…何だって言うのよさっきから、大人達は。


「分からない?貴女は今、誰にも迷惑かけていないって言ったわよね?本当に?」

「だ、だって実際誰かに迷惑かけた?」


 迷惑なんてかけない、感謝こそされ迷惑なんて…。


「じゃあ貴女が言う悪党どもって何?どこまでが成敗に値して、どこまでだったら見逃すの?」

「そ、それは…じょ、常識的に見て…」

「常識って?貴女の常識?それとも世間の常識?」


「それは……私が思うに、一般的に見て……」

「つまり貴女の独断と偏見でって事よね?それってただの私刑じゃない?」


 何なの?何だって言いたいのよ……私が悪いって言いたいの……?


「じゃ、じゃあ悪事を見逃せばいいの?」

「そうは言ってないわ、その悪さなり罪なりはまだ7歳の子供が裁くんじゃなく然るべきところへ届けるべきしゃない?」


「…………」


「今はたまたま貴女の言う悪党どもが後ろめたくて名乗り出ないかも知れないけど貴女の判決は常に正しい?常に相手に怪我をさせるべき処罰が必要だったの?」


「だって…アイツらだって暴力を振るったりしてたし」


 怪我を()()()()()かって言われると何だか自信がなくなる言い方だけど……。


「証拠は?貴女が常に暴力を振るうべきと判決したに値する証拠は?」


「そ、そんなの……な、無いわ……」


「じゃあ仮に貴女が言うところの悪党が領主相手に訴えたら?貴女が白だとしても相手が訴えた以上、領主の立場としては完全な白色にはならないわ、ましてや日毎に領主の娘は良くも悪くも暴力を働いているって言うのは周知の事実だし」


「………」


「次に私と貴女の力の差、貴女は今までたまたま貴女より強い相手に出会わなかった、それとも弱い奴だけ相手にしてたのかしら?」


「そ、そんな事は無いわ、私は相手が強かろうと見逃したりしない」


 そうよ!私は決して相手を見て見逃したり戦ったりなんかしていない。


「なら尚更ね、たまたま怪我しなかった、もっと言えばたまたま死ななかった」


「………」


「実際私が貴女に声を掛けただけで貴女は喧嘩ありきだったわよね?私が悪とも正義ともわからないのに。それとも私がダークエルフだから喧嘩ありきだったのかしら?」


「そ、それは……」


「つまり貴女の正義なんかそんな程度なの、その程度で実際私に攻撃して来たでしょ?」


「………」


「そして私が本当に悪党、もしくは貴女に恨みを持つ者の刺客だったら?貴女今頃この世にいないわよ?それでも誰にも迷惑かからない?」


「………」


「最後にもう一つ、あなたヴィンスって子とお互い強くなってサンクルーズ魔法学校に入るって約束を果たす為に強くなるって事らしいけど、その約束を果たす為に悪党どもを叩きのめしてるの?だとしたらヴィンスって子もいい迷惑じゃないかしら?」


「うっ……そ、それは…」


 何も言い返せない…。


 自分の情けなさに涙が溢れでる。


 私は満たされない毎日を正義やヴィンスを盾に暴れまわっていただけだった…。


 そんな事にすら気づかず暴れ回って自分の強さに酔って退屈な日々から逃げてただけだ…。


 何が誰にも迷惑かけて無いよ、何が感謝こそされよ!


 私はただのバカだ!


 私こそ悪だ!!


「ごめんなさいケリー、言い過ぎちゃったみたいね」

「いや、よく言ってくれた。本来ならもっと早く私が言わなければならない事なのにな」


「ひっ…く…ひっく…お、おとうさま…わ、わたし…私……ご、ごめんなさい……うっ…うっ」


 自分の馬鹿さ加減に涙が止まらない……。


 自分の馬鹿さ加減に後ろめたくて顔を上げてお父様の顔を見る事も出来ない。


 っ!?


 私の頭に手が乗せられた。


 泣きじゃくる私は顔を上げて確認する事は出来ないけど確認なんかしなくても分かる…。


 お父様だ…。


 小さい時から私を慰めてくれる時も褒めてくれる時も庇ってくれる時も…許してくれる時も乗せてくれる暖かく優しいそして強いお父様の手だ…。


「ソフィー……もう分かったな……」


 ………お父様…


「お父様……おどおざまぁぁ!!わ、わたし…ご、ごめんなざぁあい……!ごめんなさぁあい……」

「許すよ…ソフィーなら分かってくれると信じているからね、そしてソフィーも私を許してくれるかい?」


「ゆるすってなに〜?わだじがおどうざまのなにをゆるすの〜」

「こんなにもソフィーが悔やむ程になるまで気付いてやれなかった事、そして父親として教えてあげられなかった事だ」


「そんなのぉ……そんなのゆるすもなにもぉ……うわぁぁあん…!!わるいのはぜんぶわたしじゃな〜い…!!」

「ソフィー…」


 泣きじゃくる私を強く優しく抱きしめてくれた。


 ああ……お父様の匂いだ……。


 泣きじゃくって鼻水だらだらだけど分かるお父様の匂い。

 暖かくて安心できる大好きな場所……。


「おどおざまぁ…!!おどおざまぁ…!!うわぁぁあん!!」

「ソフィー…」


 こんなに大声で泣きじゃくったのいつ以来だろうなんて考えながらお父様の胸で心行くまで泣いた。


「あ、あねごぉ…」

「ねぇさん…」


 ガスラン達にこんな泣きじゃくってるトコ見られて恥ずかしい気もするけど関係ない、今はお父様に甘えてしまおう。


「「「ソフィア姐さぁぁぁん!!」」」


 っ!?


「んがっ!?」

「ぎゃ!?」

「どわっ!?」


 ガスラン達が何を感極まったかのか私とお父様に向かってくるのを感じとった私は当然無詠唱で奴らの目の前に土壁(アースウォール)を出現させてやった。


「ま、貴方達しかたないわね、今は邪魔しちゃダメよ」


「ア、アステリアの親分…僕達に治癒魔術(ヒーリング)を…」

「誰が親分よ、ったく仕方ないわね」

「さ、さーせん……!」


「うわぁスッゲー!アステリア親分の治癒魔術(ヒーリング)、パねぇ効き!」


「いいから大人しくしてなさい」

「「「はいぃ!!」」」



 こうしてアステリアが私の家庭教師になってくれ私が街で喧嘩をする事もなくなった。


 代わりにガスラン警備隊なる自警団が発足したが彼等は腕っぷしはさっぱりだから自ら悪党どもを罰する事は無く、パトロールをし困っている人がいれば助け、悪事を見つければ直ちに騎士職に通報する様になった。


 ちょっと前までは階級意識が強く騎士職を見下していたのが嘘の様に自分達から騎士の人達と仲良くしてもらっている。


 これが始まりでやがて貴族と騎士、全ての領民が階級差別が無く平等な領土シュミットとなる日が来るのだけどそれはまだ先の話。

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