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第十八話 「輩の父と氷の娘」

「おうランス、ご苦労さん」


 チコレット領主ニコラウス・オズバンドは雰囲気と貫禄、つーか威圧感?溢れる山賊の親分か!?


「そんで、そっちが騎士のブルーノ・ギャレットか?」

「はっ!ニコラウス様!シュミット領主クリストファー・カルヴァート様よりここチコレットでの騎士職を拝命し参りました」

「ふん、ずいぶん堅苦しい挨拶だな、まあ俺の立場がそうさせてんのか」


 これからの上司に緊張してるのか、ニコラウス様の雰囲気に緊張してるのか、確かにブルーノらしからぬ固い挨拶だ。

 いや、普通はこうなんだろうけどさ。


 そんな挨拶を受けニコラウス様は頭をボリボリと掻いている。


「ニコラウス様、こちらが我妻クラリスに息子ヴィンス、そして義弟デューク・スレーターでございます、以後お見知りおきの程、よろしくお願い申し上げます」


 ブルーノは騎士流の挨拶作法で胸に右手を当て顔を上げたまま頭を少し下げる。


「分かった分かった、だからその堅苦しいの止めろっつーんだよ、俺ぁそーゆーのが本当に苦手なんだよ」


 ニコラウスは右膝に左足を乗せ胡坐をかく様な格好で肘掛にもたれ右手をひらひらと払う。


「ニコラウス様、いつも申しておりますが領主なのですから、もう少し品のある姿勢にて謁見下さいませんと威厳が保てません」

「けっ、何が威厳だ、品のある姿勢じゃねーと威厳がねーならそんなもん魔物にでも喰わせちまえ」

「ニコラウス様…」


 ランスさんはやれやれと言った感じだ、しかしニコラウス様はなかなか破天荒な領主様だな。


「そんじゃニコラウス様よ、このブルーノってのはこう見えて緊張しいだから俺が質問しても良いかい?」


「……デュークとか言ったな、お前は随分生意気だな」

「気に入らないんならアンタの苦手な堅苦しい喋り方も出来るけど?」


 不機嫌そうに見下ろすニコラウス様とニヤついた表情でデュークさん。


「気に入らねーとは言ってねぇ、生意気そうだと言ったんだ」


 ニコラウス様は左ひじをひじ掛けに乗せ頬づえをつく格好でデュークさんを見る。


「おい、デューク!お前いくらなんでも少しは気を使えよ」


 ランスさんが突っ込む。


「だってニコラウス様が止めろって言ってんだからいいじゃねーか」

「だからってお前…」


「いいんだランス、俺ぁ小難しい言葉遣いする奴よりかぁ、こう言うヤツの方がよっぽど信用できる」

「分かってんじゃんかニコラウス様」


 デュークの失礼極まりない砕けた姿勢が気に入ったのかニコラウス様は先ほどまでひらひらとさせていた右手で顎鬚をなでながら口角を上げ機嫌良さそうに見える。


「で?何だ質問ってのは?」

「いや、大した事じゃねーんだけどブルーノは騎士職で良いんだろ?って言うかそれしか出来ねーけど」

「ああ、もちろん騎士職だ、まさかその風貌で俺の秘書でもやりてーってか?」


「風貌であんたに言われちゃおしまいだな」


 見た目気にしいのブルーノがカチっと来たようだ。


「ふん、ブルーノとやらお前も本性現しやがったな?」


 ニコラウス様はニヤリをするが何て言うか……悪人面だ。


「かっかっかっか!!」

「ふっふっふっふ!!」

「あっはっはっは!!」


 ……何かが彼らの中で通じたんだろう……

 むさ苦しい輩同士が高らかに笑い声を上げている。


 その姿を俺は若干ひき、ランスさんはやれやれといった感じで頭を抱え、クラリスは流石にこうした光景は慣れっこの様でどこ吹く風といった感じだ。


「おい!!!」


 突如ニコラウス様、いやもう面倒くさいからニコラウスにしよう、そのニコラウスが野太い声をあげる。


「はっ」


 すぐさま部下の人が駆け寄ってくる。


「宴だ!宴の準備をしろ!!」

「ははっ!!」


 突如ニコラウスが部下の人に宴の準備を指示した。


「気に入ったぞお前ら、今日はお前らを歓迎してやるから覚悟しろよ、わっはっはっは!!」

「いいねぇ、長旅で酒の一杯も飲んでねーから五臓六腑に染み渡りそうだぜぇ」


 デュークさんは舌なめずりをして喜んでいる。


「ランスも入れよ、こういうのは付き合うもんだぞ」


 ブルーノがランスさんを誘う。


「いえ、私はまだ勤務中ですので…」

「何だランス、さっきっから親しげだがこいつ等と知り合いか?」


「ランスとは冒険者時代に知り合ってな、結構助けてやったんだぜ」


 デュークさんは得意げだ。


「そうかそうか、お前ら冒険者崩れだったか?」

「崩れじゃねーよ、上がりだ」

「同じだ!」

「ちげーねーや!!」


「かっかっかっか!!」

「ふっふっふっふ!!」

「あっはっはっは!!」


 輩どもがすっかり意気投合している。


「まあ良い、ランス今日はブルーノ達の歓迎会だ、もう仕事は切り上げてお前も参加しろ、現場には言っておく」

「は、はぁ…」


「つー訳でランス、こいつ等を奥の宴会場へと連れてきてくれ」

「はっ!」


 そう言うとニコラウスは出てくる時のダルそうな足取りとは違い、機嫌良さそうに颯爽と踵を返し奥へ戻って行った。


「なかなか面白い領主で良かったなブルーノ」

「ああ、いかにも役人って感じより良いな」


 デュークさんとブルーノは清々しい表情だ。


「まったく、あなた達には肝を冷やしましたよ」

「ランス、こんなんで肝冷やしてたらいくつ肝があっても足りないわよ」


 クラリスはランスさんに微笑みながらアドバイス?と言うか助言をする。


「僕はようやく慣れましたけど、やっぱこれ位図太くないとこの世界生き残れないのかと最近思います」

「はぁ、この先が思いやられるよ…ヴィンス君、君はこう言う大人にならないでくれよ」


 大きく溜息をつき若干疲れた表情で俺に言うランスさん。


「努力します…」


 としか言いようがないな。


「それじゃご案内します、こちらへどうぞ」


 ランスさんに案内され謁見の間を後にして広い廊下を進む。

 少し進んだ所でひときわ豪華な両開きの扉があり、どうやらここが宴会の間らしい。


 ランスさんがエスコートする形で宴会の間に入場すれば煌びやかな装飾に彩られたテーブルや椅子が整然と並べられてあり、行った事は無いが社交界とかってこんな感じなだろうなぁと少し萎縮する自分がいる。


「何だか随分豪勢な宴会場だな」

「ああ、貴族特有の雰囲気だよな」


「いや、あなた達はこの宴会の間ではありません。さ、奥へ」


 尻込みする俺たちにランスさんは違うと言い奥へ進む。


 ?


 俺達は顔を見合わせる。


「宴会の間ってここじゃねーのか?」


 デュークが疑問を口にする。


「ええ、ここは社交の間であなた方は宴会場へ連れて来いと命じられましたのでここではありません」


 よく分からないがランスさんの後に続く。


 広く豪華な部屋の奥にマントルピース、実際に火を焚く部分は無く飾りとしてだけの暖炉がありそこの前に集められた。


 ランスさんがマントルピースの上部中央にある花の飾りを押す。


 すると暖炉の火を焚く部分、ここは飾りなので壁なのだがその壁が開き暖炉が小さいトンネルとなり奥へと続く穴が出現した。


「少し狭いので頭上に気を付けてお進み下さい」


 言われるがまま入って行くとその先にあったのは豪華な宴会の間に比べると少し、いや、結構狭いが部屋だった。


「おお、これはスゲーな」

「ああ、さっきみたいな豪華絢爛な宴会会場は良くあるが、こりゃ逆にスゲーぜ」

「確か、昔遠い東の国にこんな作りの建物がある国あったわよね」


 その部屋は12畳程だろうか、あえて狭くしたのであろうこの部屋は中世ヨーロッパ風のこの異世界には似付かわしく無いOZASHIKIスタイルだ。


 地面より一段高くなった床、前世で言うところの小上がりには畳では無いものの草で編まれた敷物が敷かれ真ん中は一段くり抜かれておりいわゆるHORIGOTATUスタイルだで壁には動物っぽい魔物の頭の剥製やら武器やらが飾られ、外を望める窓際には提灯の様なランプが吊るされていて日本人の俺にはひどく落ち着く雰囲気だ。


「着座してお待ち頂きますが、ここでは靴はお脱ぎになるのが作法ですので皆様お願いします」

「おお、分かった」


 デュークは真っ先に靴を脱ぎお座敷へ上がり着座する。


 懐かしい雰囲気に俺も続き、クラリス、ブルーノと着座すると領主ニコラウスもその大柄な体を縮こまらせ穴から出てきた。


「お、ニコラウスさん、早ぇーな、領主ってのはそんなに飲み会に来れる位ヒマだっけか?」

「ふん、テメーらみてーな奴ら待たせたら後で何言われるか分かったもんじゃねーからな」


 何だかんだ言っているが要は早く飲みたいだけだろうと思ったが、それはここにいる皆んなが分かっている事だ。


「ようし、駆けつけ3杯と行くか!」

「お、いいねぇ」


「おう酒頼むわ、樽ごとで良いぞ、コップは適当な数でツマミも適当に持ってきてくれ、ランスお前も突っ立てないでさっさと座れ」


 ニコラウスは楽しくて仕方がないと言った感じで使用人?料理人に指示する。


「ようし、乾杯だ!!」


「「「おう、かんパァ〜い!!」」」


 何だか急転直下に歓迎会が始まりあっという間に親睦は深まった。



「へぇ〜、それじゃあニコラウスの旦那は元々は木こりだったのか?」

「ああ、今じゃこんなよく分からない立場になっちまったがな」


「だけど何だって木こりから領主なんかになったんだ?」

「色々あんだが要するに仲間と家族の為、かな?」

「何だそりゃ?」


「木こりってのは山ん中で木を伐採するのが仕事には違ぇーねーんだけどよ、お前達も知っての通りただ木を切るだけじゃとても魔物が闊歩しやがる山や森ん中で生きれる訳がねぇーからよ、まあ腕っぷしもそれなりに必要になってくるんだが」


「おう、木こりってのは下手な冒険者なんかよりよっぽど腕が立つからな」


 デュークさんも木こりの腕っぷしの強さに一目置いているのか。


「まあそんなんでこの一帯じゃあ、それなりに所帯もデカくなり名前も売れたんだがよ、そうなったらそうなったで色々あってな」


「どう言う事だよ?腕っぷしの強さで名前が響きゃ木こり業もそうだろうけど冒険者のガイドに商人の護衛と商売うなぎ登りでウハウハじゃねーか」


 片膝を立て酒を飲みながらデュークさんが疑問を投げかける。


「確かに仕事は順調だったがな所帯がデカくなり過ぎた、俺と一緒に働いてくれる奴らぁ皆家族みてーなもんだ、そうなるとつまり養っていかなきゃならねー」


「んじゃ、やっぱ商売繁盛で結構じゃねーか」


「そうなんだが、ただ稼げば良いって事に気が付かされたんだよ」


「どういう事だ?」


 酒で顔を赤くしたブルーノがあたりめみたいな乾物をかじりながら聞く。


「ある日、俺の部下が魔物に殺られちまってな、まあ当の本人は覚悟って言うもんがあったんだが残された家族は?そりゃあ木こりの家族だ、それなりに覚悟はしていたんだろうが実際そんな不幸が自分たちの身にいきなり降りかかれば?やっぱり受け入れられないだろうよ、だって朝出るまでは元気だったんだぜ?それが何の前触れも無くいなくなる……」


「……………」


「またある時はベテランの親方が年でな、もう仕事は体力的に厳しくなったんだが、じゃあ引退した後は?木こりって職業だ、魔物が闊歩する環境での仕事だ、年っつったって普通の職業より引退する年齢は若い。逆に言えば引退した後の生活の方が長いかも知れねー」


「確かに命張った仕事だもんな」


 誰もが神妙な面持ちになって聞いている。


「まあ言えばキリが無ぇが、要はただ親分だ何だって威張ってるだけじゃ家族の生活を守ってやれねーって気づいた。そんな時だ、この国のパウエル王からこの森一帯を含むこの地域を領土として認定すると話が持ち掛けられた」


「で、親分の旦那が領主に?」


 ブルーノと同じく酒で赤くなったデュークさんも真顔だ。


「ああ、別に俺ぁ領主になんかなりたくてここで頑張ってた訳じゃねーが、領土として認められれば資金が年度毎に保障される、そうすりゃここで頑張ってくれている皆の生活が保障されるし働いてくれるヤツとその家族まで最後まで面倒がみてやれる、そう考えた俺は領主になる事を引き受けて今に至るって事だ」


「なるほどね、どうりで貴族らしからぬ振る舞いな訳だ」

「で、街になれば木こり以外の職業を持つ者や様々な人種が集まってきて更に街として発展しちまったって訳よ」


「まあ、それには旦那の人柄もあるんだろうけどな」

「けっ、俺の人柄なんざ関係ねーって言うより普通俺みてーの嫌だろ?」


「さあな、でも街が発展したのは分かるヤツには分かるって証拠じゃねーか?」


 そう言ってブルーノはコップに入った酒を一気にあおる。


「俺は旦那の事ぁ好きだぜ」


 冷やかすようにデュークさんが言う。


「けっ、テメーみてーな冒険者崩れに言われたって嬉しくも何ともねーな!」

「はっ、素直じゃねーな」


 嬉しそうな笑みでデュークさんが更に冷やかす。


「俺もここチコレットに来れて良かったと思うぜ、ニコラウスよ」


 ブルーノは真顔で、だけど優しい目でニコラウスに言う。


「けっ、テメーまでその面でよく言うぜ」


「私も貴族って苦手なのよね、まあシュミットにしてもチコレットにしても命の重みを知ってる領主だから二人は別だけど」

「…ブルーノの奥さんに言われるのは嬉しいな」


 ニコラウスの輩顔がほころぶ。


「僕もニコラウスさんが父様達みたいな人で良かった思っています」

「小僧……」


「あ!旦那泣いてる?!」


 デュークさんがブルーノに突っ込むみたいに覗き込みながらおちょくる。


「な、泣くか!ばかやろう!!」


 慌てて目元をぬぐうニコラウス。


「いや、泣いてんじゃん!!」

「テメー!!誰が泣くんだよ!!」


 逆ギレと言うか照れ隠しと言うには剛腕過ぎる右ストレートが音を立ててデュークさんに向かう!


「ぅお!!あっぶねーーーな!!」

「何避けてやがんだコラァ!!」


「やっぱブルーノと似てやがんな、すぐ手が出るとかよ!!」


 ブルーノで免疫があるデュークさんは予期していた様だ。


「ニコラウス様!落ち着いて下さい!!」

「どけっ!!ランス!!」

「がっ…!!」


 ニコラウスを落ち着かせようとしたランスさんの顎に振りほどいたニコラウスの肘がモロに入った!


「ああ!!ランスさん!?」


 白目をむいて仰向けに倒れるランスさん!


「おお!ランス?!」

「大丈夫か!?」


 油断していたであろうランスさんは白目をむいているのを見て焦る輩ども!


「あ、いや…その…何だ……ランス?わ、悪い…」


中級治癒魔術(ミッドヒーリング)!」


 クラリスはこうした騒ぎに慣れているからか冷静に治癒魔術を施す。


「ぱっ…!!はぁはぁはぁ…」


「良かった、大丈夫ですか?ランスさん」

「あ、ああ、大丈夫だヴィンス君、な、何、良くある事だからね」


「よくあんのかよ?ランス、俺と同じだな!」

「おぉ…デューク…お前もか」


 口より先に手が出る相棒?を持つ者同士、酒も手伝ってか硬く手を握り合う。


「ん?」


「どうした?ヴィンス?」

「あの()は?」


 部屋の入り口である穴んとこに一人の幼女が膝を抱え座ってこっちを見ている。


「おお!カーラ、お前もこっち来なさい」


 ニコラウスにカーラと呼ばれたその幼女は薄緑色の髪を前髪ぱっつんでツインテールにし眼の色もグリーンで黒いゴスっぽい服装だ。


「はい、お父様」


「お?旦那の娘さんか?」

「カーラ、ご挨拶なさい」


「皆様はじめまして、カーラ・オズバンドです」


 カーラと名乗るその少女は子供ながらに凛とした立ち姿なのが印象的だ。


「はじめましてカーラちゃん、今日からお父さんのとこでお世話になるブルーノ・ギャレットだ、で、妻のクラリスに息子のヴィンス、そんでそっちのが義弟のデュークだ」


 ブルーノが挨拶をして俺たちを紹介する。


「カーラちゃん、宜しくね」

「ヴィンスです、どうぞ宜しくお願いします」

「よろしくな!カーラちゃん、デュークって呼んでくれよ」


「こちらこそ宜しくお願いします」


 綺麗な姿勢のまま優雅に頭を下げる。

 ん~何だろ?ソフィーもそうだったけどやっぱり領主の娘ともなると親のしつけが良いのか子供ながらに雰囲気あるよな。


「何かお父さんとは違って出来た娘さんだねぇ」

「っせーぞデューク、余計なお世話だ」


 デュークさんに毒を吐きながら酒を煽るニコラウス。


「カーラちゃんはおいくつ?」

「5歳です」

「あら?じゃあヴィンスと一緒じゃない?良かったわねヴィンス、お友達になってもらいなさい」


 タメなんだ?なんて思ってボケっとしてたら急にクラリスに振られ一瞬ドキッとした。


「は、はい、あ、どうもヴィ、ヴィンスです、どうぞ宜しく」


 かぁ!!また俺はソフィーの時と言い何でこんなガキんちょに緊張してんだ?!


「うふ。ヴィンス様、よろしくのご挨拶は先ほども頂きましたわ」


 小指を軽く唇の添えクスっと微笑むカーラちゃん、何だろうまたドキッとしちゃう。


「あ、そ、そうでしたね、あははは……」


 くそう、完全に下じゃねーか俺!


「カーラはな、自慢の娘で親バカかも知んねーが頭もよいし、何より剣術が得意でな」


 先程空けたコップに手酌で酒を注ぎながらニコラウスがそう言うが嬉しそうなのか照れ隠しなのかよく分からない微妙な表情に見える。


「ほう、どちらかと言うと魔術師っぽいかと思ったが?」


 ブルーノが意外といった表情で言うが俺もそう思った。


「お恥ずかしい話ですが私、魔術は苦手ですの」


 口元を手で隠す様にしながら軽く微笑んでいるようにも見えるカーラちゃん。


「んじゃあ、ヴィンスと同じ年だし一緒に魔術でも習うかい?」


「まあ!それは嬉しいですわ」


 デュークさんの提案に両手を顔の前で合わせパッと花が咲くような笑顔の見せる。

 本当にこのニコラウスの娘か??


「じゃあ今度一緒に稽古しようか?いいか?旦那」

「ああ、カーラがその気なら是非とも頼むぜデューク」


「私、何度か魔術の家庭教師さんに付いて貰ったことあるのですがどうも覚えが悪くて」

「なぁに、このデューク様に任せておきゃ大丈夫だぜ」

「うふふふ、宜しくお願い致しますデューク様、ヴィンス様」


「あ、ええ、こ、こちらこそどうぞ宜しく、あっ!」

「3回目のどうぞ宜しくですわね、口癖なのかしらヴィンス様」


「あ、いやぁ…ははは…」


 確かに緊張した時の口癖なのかも知れない、だってさぁ前世でも女子免疫低かったのにこの世界の女子と言うか女の人って大人も子供も揃いも揃って美女なんだよ?仕方なくない??


「何をぶつぶつ言ってらっしゃるの?ヴィンス様」

「え、あ、いや…その…」

「うふふふ、本当にヴィンス様は愉快な方ですわ、良いお友達になれそう…」


 ホントに5歳なのか??その妖艶な雰囲気は!?


「何だ?ヴィンス、照れてんのか?」

「そ、そんなんじゃないですよ!デュークさん!」


 言ってて顔が赤くなっているのが自分でも分かる。


「かっかっか、良いじゃねーかヴィンス若いって事はよ!」

「若いって事で何が良いんですか?!デュークさん」

「俺から言わせるか?この色男」


 デュークさんときたら完全に俺を冷かして楽しんでやがる!


「だからそんなんじゃないですって、ねえ、カーラちゃん?」


 俺一人では不利だと思いカーラちゃんにパスを送ってみる。


「いえ、私も若くて良かったと思いますわよ」


 なぬ?!スルーパス!?


「お!聞いたか?ヴィンスこりゃ脈ありじゃねーか?ソフィーちゃんに言っちゃおうかなぁ?」

「デュークさん!!いい加減怒りますよ…!」


「ソフィーちゃんって…?」


 人差し指を口元に持っていきながら首を傾げるカーラちゃん。


「あ、ヴィンスの幼馴染でなシュミット家の令嬢でヴィンスの許婚だ」

「ちょ、デュークさん!あれは弾みみたいなもんで真意は分からないでしょ!?」


 俺はデュークさんの口を塞ごうとしたりそれから逃れようとデュークさんが躱したりとドタバタ劇になっている。



「…許婚」


「カーラ様?」


 腕を組んだ姿勢で右手の人差し指を口元にやり一点を見つめたままのカーラちゃんにランスさんが声を掛けた。


「…え?あ、ああ、ランス様、どうか致しました?」


 ランスさんの声で我に戻ったと言った感じでカーラちゃんは組んだ腕を解く。


「いえ、カーラ様こそ」

「わ、私?私がどうかしました?そ、そう!何だか急に眠くなってきましたわ、わ、私そろそろ休みますわ、それでは皆様ごきげんよう」


 初めの凛とした印象は真逆なイメージのカーラちゃんに一同戸惑うがカーラちゃんはいそいそとその場を後にする。


「あ?あ、ああ、カーラちゃんおやすみ」

「おやすみなさいカーラちゃん」

「おう、また明日なカーラちゃん」


「ま、また明日、ど、どうぞ宜しく」


 あっ!またどうぞ宜しくが出ちゃった!


「…失礼致します」


 あれ?何かさっきまでと違う…?

 チラッとこっちを見てカーラちゃんは部屋を後にした。



「ありゃ、もしかしてヴィンスの事まんざらじゃないかも知れねーぞ?」


 デュークさんはカーラちゃんが去って行った方向を見つめたまま腕を組んだポーズで片手で顎をさすりながら冷やかす。


「やめて下さいよ、デュークさん」

「ヴィンスの言う通りだデューク、あんまりからかうもんじゃねーぞ、なぁニコラウス?」


 ブルーノがニコラウスに気を使ったのか親のニコラウスに振る。


「いや、俺は良いんだがな、もしデュークの言ってる事がまったくの見当違いじゃなきゃ良いが…ちょっとな」

「何だよちょっとってよ、旦那、親ばかとしてのヤキモチか?」

「そんなんじゃねーがな、ああ見えてカーラは感情的になりやすいとこがあってな」

「へぇ~そうは見えねーがな」


 確かに!!

 最後部屋を出て行く時にチラッと俺の方を見て目が合った瞬間、背筋が凍る様な気はした。


 でも、まさかね、こんな俺にヤキモチだなんて…ないない!!




「ヴィンス様……か……」


 部屋を出て自室へ向かう廊下で一人カーラが呟く。

 氷の様な目つきと声で。


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