第九話 「第7属性」
「イメージで魔術を操るヴィンスなら…ひょっとして…」
デュークさんが目を見開いてゆっくりと俺を見る。
「ひょっとしたらひょっとして、ヴィンスなら出来るかも知れねーな!」
「そ、そうっスかね…?」
「ああ、可能性は高いと思うぞ」
デュークさんの目が何やらキラキラしてる…。
「そ、そうだとしたら…どうしたら良いです?」
「第7属性の宙は重力を無視する魔術と言う事は分かったと思うが、宙魔術には2種類あると考えられているんだ」
「はあ…」
「一つは曲げる、もう一つは浮かせるだ。一般論で言われているのは浮かせるより曲げるの方が難易度は低いと言われているが、まあしょせん誰も出来た事が無いから何となくそんな気がすると言ったレベルだがな」
「何となく分かる気がします。浮かせるは離れている物体に対し無重力空間を創る事で、変化は自分で射出した魔術を上下左右に曲げる事ですよね?だったら曲げる方が出来そうな感じはします」
「まぁだいたいそんな感じだが、変化にはスピードの変化もあるな。だがヴィンスの言う通りまずは曲げる事にチャレンジしてみた方が出来る可能性はあると思う。誰しもが必ず一度は射出した魔術を右か左に曲げる事にチャレンジしてみるしな」
「それじゃあ僕も曲げる事にチャレンジしてみます」
「ああ。ヴィンスは風や土属性の方が得意みたいだがチャレンジするなら火属性が先ずはお勧めだな。風属性は風だから曲がった曲がらなかったが分かりづらいし、土や水属性より火属性の方が質量的にも軽いから、もし出来るなら火属性の方が成功率は高いだろうからな」
「分かりました。そしたら先ずは火弾を発動させて、次に曲がれ〜って念を送ればいいですか?」
「まぁ、誰も成功した事無いからそのやり方が合っているのか分からないが、皆そういう風にチャレンジするな」
「それじゃあ僕もそのやり方でやってみます」
「ああ、やってみな」
「それじゃあ行きます…」
なるべく小さくなるべく遅くのイメージで、だな。
ソフィーも訓練を中断して見ている。
「火弾…」
まぁ、ぶっちゃけ術名は言わなくても発動するのだが、気持ち的に弱々しく術名を言いながら俺は火弾を射出した。
イメージ通りゆらゆらと弱々しく射出された火弾は念を送る間も無くすぐに失速し落ちた。
「ヴィンス、気持ちは分かるが弱々しい火弾じゃ今みたいに宙を試すヒマないぞ?大きさは小さくスピードは並で射出してみな」
「はい。そうですね」
よし…次はデュークさんの言う通りなるべく小さくして、スピードは並、と言うか飛距離を伸ばすイメージで発動させてみよう。
「火弾」
俺の右手のひらから小さめの火弾が射出され一直線に飛んでいく。
「今だ!ヴィンス、曲げてみろ!」
「はあぁあ!!!」
俺は両手のひらを自分が射出した火弾向け翳すと同時に奇声じみた掛け声と共に右に曲がれと念を送る!!
「「「っ!?」」」
その場にいた3人が3人とも息を飲んだ。
「今……曲がらなかった…?」
最初に口にしたのはソフィーだった。
「あ、ああ…右に少し曲がったな…」
デュークさんも曲がったのを確認したみたいだ。
「今…右に曲がれと念じました」
そう、俺は確かに右に曲がれと念じた。
「ま、まさか…!?ホントに宙なんてあるの…??」
「い、いや…信じられないが、実際右に僅かだが曲がったよな…」
2人共信じられないと言った感想と表情だ。
俺だってそうだ。
「も、もう1回やってみます…次は左に曲げてみます」
「そ、そうね。火属性だし風に吹かれて曲がったって言う可能性だってあるし…」
「よし、それじゃあヴィンス、やってみてくれ」
「行きます…火弾」
先程と同じ様に小さめの火弾が射出された。
「はあぁあ!!!」
やはり先程と同じ様な奇声じみた掛け声と共に今度は左に曲がれと念じる。
すると今度は明らかに左に火弾が曲がった。
「し、師匠…い、今のは完全に左に曲がりましたよね…?」
左に軌道を変え木に炸裂した火弾を指差しソフィーがデュークさんに尋ねる。
「あ、ああ…今のは完全に左に曲がったな…」
デュークさんも唖然と言った感じだ。
「これって…成功って言うのか、発見って言うのか…何ですかね…?」
2人に確認する様に俺は聞いてみる。
「……………………」
完全に言葉を失うデュークさん。
「成功だし、発見でしょ!?ね、師匠!?」
「あ、ああ…そうだな…いや…なんて言うか…はは…こりゃあ驚いたな…」
こういう時、女の子の方が現実を受け入れられると言うか素直と言うか。
いや、デュークさんの方がスキルが高く知識がある分、信じられないのだろう。
俺?俺はと言うと驚きも戸惑いも、増してや得意げになる程の自惚れがある訳でも無く、正直なところ現実味がなく何と無く上の空と言うか他人事みたいに見ていたと言ったところだ。
「ねぇヴィンス!他にどんな事が出来る?」
「え?あ、ああ。じゃあデュークさんが言っていたスピードの変化にチャレンジしてみましょうか?いいですか?デュークさん」
「あ、ああ、もちろんだ」
「火弾」
俺は三たび小さめの火弾を射出し、その火弾に対し更に加速させたり逆に減速させたりしてみた。
「すごーい!何だか火弾そのものが生きているみたーい!」
「ふはは…はは。確かにすごいな!ヴィンス!!」
その後、全ての属性魔術で第7属性の宙を使ってみたが全てで使えた。
全ての属性魔術で縦に横に左右に、また左に行ってから右に、等の複合技も出来る事も判明した。
言うなれば〝自在〟と言える。
ただ全てが順調では無かった。
「大丈夫か?ヴィンス!?」
「はぁ、はぁ、はぁ…」
何だか途轍もない疲労感が全身を襲う。
「さすがに魔力切れの様だな…少し休めばある程度回復するが、魔力切れは治癒魔術じゃ治せないな」
これが魔力切れか…何だか全身の血が抜かれたみたいだ…。
自分の体が何倍にも重く感じる。
重く感じると言うか重力が100倍になったみたいと言う方が妥当か?
力も全然入らないし、指先1つ動かせない。
「途中で気付いてやれなくて悪かったが今はとりあえず休め、後で目が覚めたら話をしよう」
俺は返事する事も出来ないまま意識が遠のいて行くのだけ感じそのまま落ちた。
~
「う…ん……」
目が醒めると俺は自分のベッドの上にいた。
初めは何処だ?と思ったが、少し冷静になり俺の部屋のベッドの上だと気付いた。
何せこの世界に転生して4度目、いやこの部屋で起きるのは3回目だが流石にまだ慣れない。
ベッドから降り居間に行こうとするが、まだ少しふらつく。
何とか居間に行けばクラリスが俺に気付き声を掛けてくれた。
「あ!ヴィンス」
「お、ヴィンス起きたか?」
デュークさんもいた。
「はい、お騒がせしました」
俺は何と無くバツが悪い気がした。
「なぁに、魔力切れなんかよくある事だ、気にすんな」
デュークさんがいつもの調子であっけらかんと言う。
「話は聞いたぞヴィンス、何だかスゲェ魔術に目覚めたってな」
ブルーノも当然話を聞いたみたいだ。
「あ、いえ父様。自分でも何だか訳が分からないまま魔術が出来てしまったって言う感じです」
「へ!謙遜すんなってヴィンス」
「ちょっとデューク、あんたが気がきかないせいでヴィンスが魔力切れで倒れたのによく言うわね」
「仕方ねーだろ?クラリス、俺だって初めて宙見たんだからよ、そりゃあヴィンスには悪りぃ事したって思ってるさ」
「いや、デュークは昔っから調子に乗ると周りが見えないタイプだったからな」
「調子に乗るのと今回のヴィンスの魔力切れになるのが気付いてやれなかったのは違ぇだろ!?ま、いずれにしてもヴィンス、気付いてやれなくって済まなかった、これは俺が悪かった」
「そんな!?やめて下さいよ、デュークさんは何も悪くなんかないですよ、僕こそが調子に乗ってた張本人なんですから」
「子供は調子に乗るものよ、それを子供と一緒になって調子に乗ってたデュークに非があるって事よ」
「ぐ……」
相変わらずデュークさんは姉のクラリスには頭が上がらない。
「いや、ホントに僕自身のせいです!何より魔力切れと言う経験が出来たと今にして思えば良かったです、次からは魔力切れになる前に気付こうと思えますから」
「そうだぜ、ヴィンスの言う通りだ。何せ魔力切れ近くまでやって魔量を増やすってのが冒険者の鍛え方だろうが」
「ヴィンスは冒険者じゃねーし、まだ子供だ」
「ぐ……」
今度はブルーノに突っ込まれるデュークさん。
「い、いえ。確かに僕はまだ子供ですが冒険者みたいに鍛えて強くなりたいです」
「「「…………………」」」
ブルーノ、クラリス、そしてデュークさんまでが口を開けたまま呆然と俺を見ている。
「な、何か…僕…おかしな事言いました…?」
何だか変な空気になっちゃったな…。
「あ、いや…おかしな事は言ってねーが、ちょっとビックリしちまっただけだ、な、なぁ姉ちゃん?」
「そ、そうね。おかしくは無いしむしろ嬉しい驚きね」
「まさかヴィンスから強くなりたいなんて台詞が聞けるとは思ってもいなかったからな。だがよくよく考えれば確かに金髪になってからと言うもの訓練も楽そうにやってるしな」
フォローと言うか事情説明してくれると言うかデュークさんとクラリスが早口で言う。
「あ、そ、そう言う意味でしたか、はい!今の僕は剣術も魔術も楽しいです!」
「ふふ、頼もしいわヴィンス」
母親らしい温かな笑みを浮かべるクラリス。
「良かったな、ブルーノ!って、あれ?ブルーノ?お前泣いてんの?」
「バ、バ、バカ野郎!!な、何で俺が泣くんだ!?ああ?」
慌てて目を拭うブルーノ。
「や、だって目ぇ潤んでんじゃん!なぁ?クラリス」
いたずらな笑みを浮かべるデュークさん。
「ホント!まぁそれだけブルーノにして見たら息子が強くなりたいって言ってくれたのが嬉しかったんでしょ?」
「そうか、そうか!確かに!その気持ち分かるぜブルーノ、って痛ってーな!!何しやがんだ!?ブルーノテメー!!」
冷やかそうとブルーノの肩に手をまわしたところでデュークさんの脳天へ拳が振り落とされた。
「ウルセー!!オメーが俺をバカにするからだろ!」
拳を握りしめたままのブルーノ。
「バカになんかしてねーじゃねーか!良かったなっつっただけだろ!?」
脳天を抑えるデュークさん。
「いいや、完全に俺をバカにしてた」
「仮にそうだとして、気に入らねーから殴るって教育的にどうなんだ?ああ?」
「へ!テメーの口から教育的なんて言葉が出るか?」
「何だと?テメー」
「こらこらあなた達2人共よ、ヴィンスの前で見っともないと思わない訳?」
「「ぐ……」」
いつもの事とばかりにクラリスがブレイクに入る。
「あ、えっと…そ、それよりソフィーは?」
俺はソフィーの姿が見えない事に気付く。
「ああ、いつも帰りはお迎えが来て帰るんだ。今日はヴィンスが目ぇ覚ますまでいるって言ってたがお迎えの人達に説得されて今さっき帰ったぜ」
「そうですか」
そう言いながら外を見れば完全に夜になっていた。
「んじゃ、ヴィンスも起きた事だし俺もぼちぼち帰るぜ?」
「何だよ、もう遅せーから泊まってきゃいいじゃねーか」
「ブルーノのこう言ってるし泊まってけば?」
「ん〜じゃあそうすっか?」
「おう。そうしろ、そう言う事だから酒、頼むわクラリス」
「はいはい、そう言うと思った」
そんなやり取りを聞いていた俺は波へ〇さんとのり〇けさんを思い出し何だか暖かくも懐かしい感傷に浸った。
「で?ヴィンス、俺にも今日の魔術の話、聞かせてくれよ」
「あ、はい。父様、今日はデュークさんに……」
それから俺は食事を取りながら、大人は酒を飲みながら剣術と魔術の話を、更にはブルーノ達の冒険者だった頃の冒険譚を聞かせてもらいながら夜は更けていったのだった。
〜翌朝〜
午前中は自宅謹慎で時間を持て余しているブルーノ中心に剣術を学び、午後はデュークさん中心に魔術を学んだ。
剣術ならデュークさんよりブルーノ。
魔術はクラリスより劣ると聞いていたがブルーノよりデュークさんの方が優れている。
「ねぇ父様、デュークさん。今日はソフィー来ませんでしたね」
「ああ、そうだな。デューク、何か聞いてるか?」
「いや、何も聞いてないな」
「ソフィーは別に毎日来るって訳じゃあ無いんですか?」
「ん〜まぁ毎日ってわけじゃないが、ほぼ毎日来てるな」
「お?何だヴィンス、やっぱソフィーちゃん来ないと寂しいか?」
デュークさんか冷やかす様に聞いてくる。
「はい。やっぱりソフィーが来ないと寂しいですね」
「おぉ?ヴィンスはソフィーちゃんにほの字かぁ?」
「アホか、デューク。ヴィンスは単純に友達が来なくて寂しいっつってるだけだろ」
そうだデューク、そう言う事だ。
「何だよブルーノ、お前だってソフィーちゃんみたいな子が自分の息子の彼女だったら嬉しいだろうよ?」
「そりゃソフィーちゃんは出来た子だ。嬉しいに決まってるが友達でいてくれるだけでも俺ぁ十分嬉しいぜ」
「けっ。素直じゃねーな」
「明日はソフィー来ますかね?」
「どうだろな、多分来るとは思うがな。まぁ、ソフィーちゃんはあれでいて貴族だし学校にも行ってるから忙しかったりするから分かんねーけどな」
「学校ですか?」
この世界にも学校があるのか。
「ああ。大体貴族の子は7歳位から学校に行くんだ」
「貴族以外は行かないんですか?」
「貴族以外は行かないって事は無いが、大抵は行かないな」
「何でです?」
「まぁ第1に金がかかる。それから高い金払ってまで行っても何ていうか差別社会って言うのかな?要は貴族連中が偉ぶるし教師も教師で大事な貴族様の子供を優先するからえこひいきもある。要は払うもんに対して得るものが少ないってのが最たる理由じゃねーかな」
ふ~ん…そういうものなのか…。
「何だ、ヴィンス。お前学校に興味あるのか?」
ブルーノが聞いてくる。
「ええ。きちんと学べる場があるならこの世界の事をきちんと学びたいとは思います」
「やめとけぇヴィンス。学校なんざ行っても腹立つだけで得られるもんなんか無いぞ?」
デュークさんは吐き捨てる様に言うが何か嫌な思い出でもあるのだろうか?
「父様もデュークさんと同じ意見ですか?」
「まぁ基本的には同じだな。ただ俺達がきちんと学ばなかった分、お前にはきちんと学ばしてやりたいって気持ちもあるな」
「おいおいブルーノ、学校なんかで何をきちんと学べるってんだ?剣術だって魔術だって俺らから学んだ方がよっぽど身につくってもんだぜ。ソフィーちゃんだってそう言ってるじゃねーかよ」
確かにソフィーも貴族専属教師よりデュークさんの方がよっぽど身につくって言ってたな。
「って言う事は2人とも学校には行ってないんですか?」
「いいや、行ったぜ。行ったが2人とも1年足らずで辞めた口だ」
「何でです?やっぱり差別が気に入らなくて?」
「まぁ結論から言うならそうだな。どうにも差別が我慢ならなくて結局は貴族らとケンカして辞めさせられたってオチだかな」
「父様も?」
「ん?あ、ああ…」
デュークさんが貴族なんかクソくらいって感じに言うのに対しブルーノはバツが悪そうに答える。
やっぱり子供手前ケンカして辞めさせられたって言うのはバツが悪く感じているのだろう。
「それでも父様は僕に学校に行かせてきちんと学ばせたいって言うのですからやはり学校には学校でしか学べない事があるんですか?」
「学校でしか学べない何かって言われると困るが、学があって困る事は無いだろうし自分らが投げ出した先に何か学べる事があったかと思うと後悔もあるって言うのが理由かもな」
「先に何かなんかねーっての!学校で歴史やら算術やら学んで魔物に勝てるか?それよりこうして俺らに実践的に剣術や魔術を学んだ方がよっぽどこの世界で生き抜ける術を得られるってもんだぜ」
「まぁそれも一理あるがな」
確信して物事を言うデュークさんに確信が無いまま物事を言うブルーノが言いくるめられ様にして論議は終わった。
確かに騎士や冒険者の子供ならよっぽど実戦経験豊富な2人に学んだ方が生きていく上で役に立つ事は間違い無い。
実際、手に職だろうし将来的にも食い扶持に困る事も無いだろうし大袈裟に言うのならば家族だって危険から守れる。
誰かお抱えの強者を雇って身の安全を守れる立場にいる貴族ならまだしも、今の身分でデュークさんが言う様に算術やら歴史やらを学んでもある程度の強さを身につけなければこの世界で生きていくには苦労する事の方が多いだろう。
だが異世界から来た俺にしてみればやはり歴史も学びたいし友達づくりやらの異世界キャンパスを謳歌したい気持ちもある。
まぁ今は剣術と魔術を学ぶのが目下の使命であり目的だ。
学校は視野に入れつつ今やるべき事をするとしよう。
〜翌日〜
今日もソフィーは来なかった。
「ソフィーどうかしたんでしょうか?病気とか何かじゃなければ良いですが……」
「病気は無いだろ、スレーター家だぞ?お抱え魔術士が高度治癒魔術で大抵の病気は治せるぜ」
「そうですよね」
そうだ、ここは魔術が使える異世界なんだから病気なら治癒魔術で治せるな。
「きっとソフィーちゃんの嫌いな貴族業務か学校の行事か何かで忙しいんじゃねーか?」
「ですかね」
~
翌日も更にその翌日もソフィーは来なかった。
そろそろマジでソフィーの身に何かあったんじゃないかと心配になったきた4日目の午後、ソフィーは現われた。
顔に大きな傷を作って……。




