ここは何処じゃい!
全く進んでいない。
「よっしゃ!オッサン、見てみろよ!これで良い感じだろぉ!?」
晴れた陽気の下、一軒の家の前でそんな声が上がる。
声を上げたのは『石田関太』 ”元”宇栄工業二年生にして機械科所属。
赤み罹った短髪を無造作に掻き上げた様な髪型と猟犬の様な目付き。
荒事が好きな困った性格と大型の自動二輪、要するにバイクをこよなく愛す彼は宇栄の特攻隊長と恐れられる彼は筒状になった紙の様なものを手に家の戸を叩いていた。
「昨日より上手く描けたんだって!上手い奴にも手伝ってもらったしよ!なあ!オラッ!開けろ!オラ!」
中々姿を現さない目的の人物に軽くフラストレーションでも溜まっていっているのか戸を叩く手は ノック から 殴打 になり始める。
「寝てんじゃあねぇぞクゾジジィ!!なんだ俺の前にお迎えでも来たのかオラァ!!」
殴打から前蹴り、タックルと悪化し終ぞに助走をつけた飛び蹴りを見舞おうと戸から離れる石田。
「ぜってー壊す、壊して叩き起こしてやる・・・・ぶっ殺してやんぞオラァァ!」
白昼堂々殺害予告を喚き散し戸へと加速、地を蹴り飛び上がる高さは自らの頭程。
石田の70キロ後半全体重と加速が合わさった必殺の威力を持つ両足による飛び蹴り、要するにドロップキックが戸を蹴り破らんとするその時・・・
バン!と勢いよく戸が開き小柄な壮年の男が出てくる。
「五月蠅いわぁ!何を・・・・?」
「あっ・・・」
一瞬にして事の顛末を予測する石田とそれを見上げる小柄の壮年。
石田の放ったドロップキックは幸運にもその打点の高さゆえ壮年の頭上で空を切る、彼の蹴りで被害を受けた物、人は居ないのであった・・・・問題はその後である。
この蹴りは両足で蹴りつける性質上空中で寝そべるような体制になる。
通常であればインパクトの衝撃を生かし多少は体制を立て直して着地できるのだが、今回は小柄な男と目標物であった物の不在により空振りに終わっている。
この後はとても簡単に予想が出来てしまう・・・・小柄な男への自由落下だ。
「おおおおおお!?」
「ふざけるんじゃねえぞ!?」
戸惑いながらも横向きに受け身の体制を取る石田と、自らを守らんと腕を上げ、驚きに仰け反った男の行動が見事に噛み合ったのがいけなかった。
石田の肘はボディープレスの要領で見事に男の腹に突き刺さり仰け反り、頭を守ろうと顔面に腕を挙げた行動は石田の脇腹に腕をめり込ませる結末となってしまった。
「「っ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」」
時刻は昼に差し掛かろうかとする頃、陽気な日の光が活気に満ちた人々を照らす平和な日常。
鉄を叩く音と大きな笑い声が街を包み、時々喧嘩と頑固な言い争いの絶えないこの場所は『フェイゼン王国』宇栄高校の荒くれ達が転移し暮らすドワーフ達の国。
「いでぇええ・・・・」
「・・・ぐぉおお・・この・・馬鹿・・・・」
この物語は、平和と停滞の世界に送り込まれたヤンキー達の日常を切り取ったものである。
ここから異世界の人々とヤンキーたちの物語を断片的に切り取っていければと思っています。