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な、中の人ですか?

 

 なんて幸先がいいんだ。ネトゲのフレの助言で監視員を受けてみた俺は、運よく受かることが出来てしかも、話しやすい仲間もいる上に、綺麗なお姉様までもがいるではありませんか。


 美術館。それははっきり言って、未知の領域。大げさではない……確か、学校に通ってた時に授業か何かの一環で来たことがある気がするが、その程度である。つまり、何も覚えていない。

 新人として同時に入ったのは俺を含めて、数十人だった。初日こそは見学を兼ねての流れだったが、さすがにこの日からは、マナーとかそういう研修で正直、帰りたい。


 見れば見る程、絵画はよく分からないシロモノだ。ぶっちゃけ、興味が無いと言ってはいけない。少なくとも、ここに朝から行列を作ってまで観に来たい来館者がいるのは紛れも無い事実だ。俺一人がどうのこうの言っても事実は変わらない。


 研修は、専用の人間がみっちりと教えるらしい。しかもむさ苦……いや、ダンディーなオッサンが指導してくださる。ただでさえ部屋が暑いのに、オッサンの熱血な指導が室温を上げているのは気のせいか。


「で、君たちはお客様に直に接して、姿勢よく……」


 だるい。早く、現場に行きたい。ああ、睡魔が……俺の意識は次第に落ちて行く……と、追い出されてしまうらしいので踏ん張った。


「ふあ~~眠い。やっと終わった。マジでだるい」


「はは、ゆきは素直だな。確かにあのオッサン、話が無駄に長かったな。しかも後半は個人的な主観と、旅行のススメを話してたしな。よほど普段は話し相手がいないんだろうな」


「おお、リンダ君じゃないか!」


「ハヤシダ、な。まぁいいけどよ。それで、昼どする?」


「確か地下にコンビニが併設されてるんだったな。行く?」


「だな。じゃ、行こう」


 俺がこのバイト先を決めた理由の一つにコンビニが近くにあるということにあった。自炊でもいいけど、慣れないうちは休憩室でメシを食いにくい。ただでさえ、男は少ない。女性と仲良くなりたいのが本音だが、だからといって、その中でメシを食べる度胸は俺には無い。


「リンダ君は小食か」


「ん? これか? カロリー取れればいいからな。手も汚したくないし。ゆきはがっつり派か」


「昼こそ至福! 腹が膨れてナンボだ。その代わり、夜は小食だ」


「それはいいね。健康的かも」


「てかさ、さっきの店員さんに彼氏いると思うか?」


「いるだろ」


「がーん!?」


「ゆきって、そんなに飢えてんの? 確か監視員にいるベテランのお姉さんに萌えたんじゃ?」


「うむ! 綺麗なお姉さん、大好き。仲良くなって、付き合いたいデス」


「じゃあ、浮気はダメだろ。明日からシフト確定するし、その人に嫌でも会えるだろ? コンビニの店員に惚れてる場合じゃないぞマジで」


 な、なんて真意だ。リンダ君は鋭いな。浮気は違うと思うし、惚れるのは自由だと思うんだけどな。


「そ、そうですね。気を付けますヨ。リンダ君の支えに期待してますヨ」


「キモイ言い方やめろや。とにかく、ゆきとシフトがかぶるか分からないけど、一緒になったら退屈しのぎよろしくな」


「おk」


「あ、そうそう、ゆきが惚れた人以外にも何人かいるぜ? 綺麗なお姉さん。その人たちも候補に?」


「いえす。綺麗なお姉さん好きです。一人が駄目なら、次々とアタックします。イイデスカ?」


「上手く行くことを願うよ。それが0%でもね」


「おいぃ!」


 どうやら、林田改め、リンダ君は綺麗なお姉さんサーチスキルが高いようだ。ということは、彼を味方に取り入れて正解だと言える。


 俺はこの期間が決まっている美術館のバイトで彼女と呼べる人をゲットしたい。そして、きちんと俺の言葉で告白をしたい。明日からが楽しみだ!


「ヌルラさん、おひさ~! で、早速お聞きしたいことがございまして」


「は? 何いきなり……またリアルのことならフレ切るよ?」


「ま、まままままって、それだけはマジで許してくだせえ!!」


「……で? 何」


 俺は美術館のバイトが決まり、さらに以前オススメされた監視員になれたことも伝えてみた。


「ウソっ!? マジなのソレ? どこの美術館?」


「全面ガラス張りで綺麗な造りです」


「……ふ、ふーん? そうなんだ」


「あら? もしかしてヌルラさん……」


「急用出来たから落ちるね。おつ!」


「あっ!」


 な、何だったんだろ? まさかとは思うが会ったとかじゃないよな? リアルを知らないけど、同じ場所にいるとかか? はっはっは……だとしても、分からないしなぁ。


 ヌルラさんもカンシインか。ま、まさか!? あのクールビューティーなお姉さまがヌルラさんだとでもいうのだろうか? 


 ないな……ないない。そんな上手すぎる世の中はあり得ないな。例えそうだったとしたら、ゲームの中の人の態度も違ってくるはずだしな。特に気することなく俺もゲームを落ちた。


「おはよう、リンダ君!」


「おぅ。んで、どうするつもりか決めたのか? ゆきは美術館で彼女を作るんだろ? それも綺麗なお姉さん限定で」


「うむ。よくぞ聞いてくれた。そこで相談があるんだけど、中の人の情報を教えて下さい!」


「は? 中の人?」


「綺麗なお姉さんの情報を入手シテクレマセンカ? 俺にとってはレアなんだよ~だから、知りたいんです! 頼むよ、リンダ様」


「よく分からんけど、ゆきが気になってるクールビューティーを調査してくれってことでFA?」


「いぇあ!」


 ふ。これぞ人海戦術。使える者は使わせてもらう。それだけ俺は必死なんだ。だって、クールビューティーですよ? 彼女に出来たら俺スゲー! になるし、ゲームもきっと楽しくなる。


 リンダ君のサーチスキルは想像以上に高いと信じている。そして朝礼後とうとう、俺のシフトが責任者から手渡された。名前を見ても誰が誰なのかがさっぱり分からなかったが、いよいよ俺の恋愛話がスタートする! はずだ。恋がしたくて決めた仕事だ。


 よく分からないローテンション表をガン見しながら、俺は展示室のポスト……決められた監視場所に勢いよく向かうことにした。まずはクールな俺をクールな女性達に印象をつけなければ。


 朝礼を終えて、展示室の決められたポジションに向かう俺。それぞれで30分単位で一つずつ隣のポジションにずれていくシステムらしいから、もし隣にクールビューティーだったら俺はどうすればいいんだろうか。


「どうもしないと思いますけど? あなたはここじゃなくて、Fです。そっちへ早く向かって立ってなさい」


「へっ? 心の中を読めたりするんですか?」


「……あなたの顔に書いてあったのでそれに答えただけですけど」


「で、ですよねぇ。はは……あ、Fですね。すみません、向かいます!」


「声出さないで! 早く行って」


 こっわ~~~~~何だ、何あの氷の様な冷たさは! だが、あれこそクールビューティー! そしてやはり綺麗でいらっしゃった。あぁ、お近づきになりたい。あれは今は流行っていないツンデレ……いや、ツンツンツンというやつか?


 おっと、仕事をしなければ。開館時間まではみなさん、静かに立っていらっしゃる。隣のポジションと言っても、近すぎる人もいれば隣じゃねえだろ! って距離の人もいる。


 よりにもよって、いや、いいけど俺の真隣はハードなクールビューティー様と、少し離れた所に立ってらっしゃる方も、お美しい女性が黙って立っていた。


 当然だが、研修を受けただけでは今まで観に来たことも無い絵画なんて、説明出来ねえぜ! 威張ることじゃないが……だからこその連絡網として、各自でトランシーバーを渡されているわけだが。


 こんなのに頼らずに隣のポジションの方々に助けを求めてはいかんのか? なんて思っていたが甘くは無かった。開館と同時にどこのイベントだよっ! って一人ツッコミを入れたくなるくらい、客が押し寄せてきたからだ。


「すみません、こちらの絵画の年代は?」


「えっ? えーと、こちらのパネルをご覧いただければ……」


「人だかりで見えないからあなたに聞いているんですけど? 分からないの? 館の人でしょ、あなた」


「も、申し訳ございません……今すぐお調べ――って、あれ?」


 怒りまくっていたおばさんはすでにどこかへ行ってしまった。うう、これは思ったよりもハードだ。それも普通のおばさんに怒られるとは……これは心が折れるぞ。そんなことを思いながら下を向いていたら、隣のクールビューティー様が、俺に声をかけてきた。こ、これは!? まさか?

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