側にいることは
そのころ生也は、珍しく女の子に会わず一人で町をポツポツと歩いていた。
「……。」
ケータイを取り出し、誰か女の子に電話でもかけようかとアドレス帳を開いた。そこにはたくさんの女の子の名前が表示されている。
「まき、みほ、あかね……」
表示されている名前をブツブツと言っているが、誰が誰だか分からなかった。
「雫ちゃんぐらいだな、名前と顔が分かるのは。」
不甲斐ない自分が急におかしく感じた。
「これで、いいのか?」
生也は、ある場所へと向かった。
向かった場所は、来ないと決めていた音楽室。中からは、珍しく雫の歌声だけが聞こえる。
生也はゆっくりと扉を開けて、中に入った。
雫は、少し震える声で歌っていた。
「Star lontan da colei che si brama e d'amor il piu mesto dolor!」
「……。」
「……一人になりたいって言ったじゃない。」
雫はゆっくり振り返り、生也に気づいた。
「鬼城くん……。」
「今の歌、初めて聞いた。」
生也は優しく言った。
「Star vicinoって曲だよ。2番だけどね。」
「スタルヴィチーノ? 意味は?」
「『側にいることは』だよ。歌詞の意味はね、『恋焦がれる人から離れていることは一番辛い愛の苦しみだ』」
雫は涙しながら言った。
「雫ちゃん……。」
「鬼城くん!!」
雫は生也に抱きついた。生也も雫を力強く抱きしめた。雫は生也の胸の中で泣いている。
「……俺、雫ちゃんが大山と付き合っててもいい。自分の気持ち伝えるよ。好きだよ、雫ちゃん。」
「……私、大山くんと付き合ってなんかないよ。だって、だって、私は鬼城くんが好きだから。」
「……大山のやろう。」
「鬼城くん、大山くんのことはもういいじゃない。こうやって、鬼城くんと話せるようになったから満足だよ。」
「……そうだね。雫ちゃん、俺の彼女になる?」
「……うん。」
「じゃあ、今付き合ってる女全部片さねーと。」
「……うん。」
「でも俺、ピアノ弾けないよ?」
「そんなのいい。」
「ピアノなんてなくても、雫ちゃんの歌は世界一だもんな。」
「私、ナメコの味噌汁作れるように頑張る。」
「ありがとう。」
「これで、1番が歌える。」
「ん?」
雫は生也から離れて、ピアノでCの音をだした。そして、軽くハミングしてから歌い始めた。
「Star vicino al che s'ama e il piu vago diletto d'amor!」
雫は生也を見つめ、歌詞の意味を言った。
「愛する人の側にいることは一番素晴らしい愛の喜びだ。」
「……雫。」
生也は雫を抱きしめた。
「幸せにする。」
「ありがとう……大好き。」
「俺も。」
二人は人生最大の幸福の瞬間を存分に味わった。
sempre fedele ti voglio amar
――私はいつも変わらぬ心で、あなたを愛していたい
BY,Sebben crudele
おわり
下手くそですみませんでした。
読んでくださった方、ありがとうございました。
これで終わりですので、感想をいただけたら幸いです。