好き
生也は女の子の家に行ったものの、ぼーっと雫のことを考えていた。
「生ちゃん!! せっかく久しぶりに会えたのに、何でぼーっとしてるの?」
「あ? わりー。」
「もしかして、他に女でもできたの?」
このとき生也は最初からお前以外にも女なんているよと思ったが、口にはしなかった。
「そんなことあるわけねーだろ。」
「ほんとに?」
「あぁ。」
「それならいいけど。忙しいって言ってたけど、バイトでも始めたの?」
「バイト? そんなだるいことするわけねーだろ。」
「じゃあ、何が忙しかったの?」
「別に何でもねーよ。」
「何で教えてくれないの?」
「お前には関係ねーだろ。」
「何でそんなに怒るのよ!!」
「お前がしつこいからだろ。」
「生ちゃん、何か変だよ。」
「そんなことねーよ!!」
生也はそのまま家を飛び出した。
「くそっ。」
こんなときでも、頭の中は雫の事でいっぱいだった。
「雫ちゃん……。」
このとき生也はやっと自分の雫に対する気持ちに気づくことができた。他の女の子では絶対に分からないあの会話の楽しさ、一緒にいて安心する感覚、あの笑顔を誰にも見せたくなかった。そしてなにより、雫は誰よりも自分のことを理解してくれていた。そのこで自分を変えてくれていたことに気づいた。
「俺、雫ちゃんが好きなんだな。」
今まで真面目な恋愛をしたことがなかった生也は、初めて本気で人を好きになった。
生也は無意識のうちに学校に戻り、音楽室の前に立っていた。一刻も早く、自分の思いを雫に伝えたかった。
「雫ちゃん!!」
生也はそう言いながら、扉を開けた。
「……。」
「お前。」
中にいたのは、雫ではなく光だった。
「雫ちゃんは?」
「森さんなら帰りましたよ。」
「……それならここに用はない。じゃっ。」
生也が教室を出ようとしたときだった。
「鬼城、森さんは俺と付き合うことになったんだ。」
「は?」
「だから、俺の雫に近づかないでくれ。」
「……。」
「そうゆうことだから、先に失礼するよ。」
光は教室を出て行った。
残された生也はただ立ち尽くすことで精一杯だった。