ライバル
中に入ってきたのは、一人の男子生徒だった。
「伴奏者をお探しなら、俺が……」
「てめー、人の話盗み聞きとは良い度胸してんじゃねーか!!」
生也は男子生徒のむなぐらを掴み、怒鳴り散らした。
「やめなよ、鬼城くん!!」
「ちっ。」
生也は軽く舌打ちして、男子から手を放した。
「あの、失礼ですけどお名前は?」
「大山光って言います。」
大山光とは、生也たちと同じ高校2年生で成績優秀な男子だ。しかも、幼い頃からピアノをやっていて、数々のコンクールで優勝している。見た目は黒ブチ眼鏡をかけていて一見地味そうなのだが、眼鏡の下は超絶美少年だという噂が女子の中で流れている。
「ごめんなさい。私、転入してきたばかりでまだみなさんのこと分からなくて。大山くんは、ピアノ弾けるんですか?」
「少しなら。ソロの人の伴奏はやったことないけど、お困りならお手伝いしますよ。」
「それなら是非!! 得意な曲は?」
「ショパンの『別れの曲』かな。」
「ショパン!? 私も好き。大山くん、初見はできる?」
「できるよ。」
雫は、いつも歌っている曲の楽譜を光に渡した。
光は噂の腕前でピアノを弾き始めた。
美しく響きわたるピアノの音色に、雫の歌声が加わった。
雫の歌声と光のピアノは見事に一つの音楽を奏でていた。
「……。」
生也はただただ何も言わず、二人の音楽を聞いていた。
思わぬ光の出現を機に、生也は少しずつ胸の奥にある感情に気づいていくのだった。