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生い立ち

 今日もいつものように、生也と雫は音楽室で話していた。

 「雫ちゃんのお父さんて何の仕事してんの?」

 「指揮者だよ。」

 「指揮者って、指揮者?」

 「うん、指揮者。だから、世界中飛び回ってるの。イタリアに住んでる時も、お父さんは他の国に行ってたりしたんだよ。」

 「すげー。本当にお嬢様なんだね。お母さんは何かしてんの?」

 「バイオリニストだよ。お父さんが指揮したオーケストラのコンマスだったの。」

 「コンマスって?」

 「コンサートマスターって言ってね、第一ヴァイオリンの首席奏者のことなの。全体の演奏をとりまとめたり、指揮者と協力して演奏を作り上げるみたいな役目かな。」

 「すごいね〜。だから、雫ちゃんも音楽やってるんだね。」

 「うーん……お父さんもお母さんも音楽をやらせるつもりじゃなかったらしいんだけど、育った環境が音楽で溢れてたからね。音楽はなくちゃダメかな。」

 「そっかぁ。かっこいいね。」

 「鬼城くんは、音楽聞くの?」

 「あんまり聞かないかな。流行の曲ぐらいは聞くけど。」

 「ふーん、音楽は心を癒してくれる効果もあるんだよ。」

 「へー。雫ちゃんが歌ってくれるから、癒されてるよ。」

 「はは。ありがとう。鬼城くんのご両親は何してらっしゃるの?」

 「ご両親てか、父親しかいないんだ。大工やってる、飲んだくれの親父だよ。」

 「ごめんなさい、変なこと聞いて。」

 「慣れっこだから平気だよ。まだ大阪にいたとき、お袋は男がいたみたいでこっちに来るってなったときにあっちに残ったんだよ。もうどんな顔だったかも覚えてねーな。それから親父は、働きには行くけど家に帰ってくると飲んでばっかりでさ。俺がグレたくなるのも分かるだろ? こんなんだから、友達もいねーし、学校に何しに来てんのかわかんねーよな。」

 「……私は、鬼城くんの一番の友達?」

 「そうだね。」

 「鬼城くんも私の一番の友達だよ。」

 「ありがと。」

 そのまま二人はお互いを見つめた。急に恥ずかしくなったのか、雫は顔を反らしてしまった。

 「……あのさ、ずっと聞こうと思ってたんだけど、雫ちゃんの歌ってる歌って何語なの?」

 「イタリア語だよ。あっちにいたとき、隣に住んでたお姉さんが毎日歌ってたの。だから、教えてもらっちゃった。」

 「そうなんだぁ。どうりで聞いたことのない言葉だよな。」

 「イタリア歌曲は歌いやすいんだよ。それでね、そのお姉さんの彼氏さんが伴奏弾いてたの。そうゆうのが憧れなんだぁ。」

 「俺が弾いてあげよっか?」

 「え? 鬼城くん、ピアノ弾けるの?」

 「雫ちゃんのために練習するよ。」

 「何人の女の子に同じこと言ってんのかな〜?」

 「はは。雫ちゃんには通用しないか。」

 「残念でした。」

 そのとき、音楽室の扉が開いた。

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