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ナメコとモヤシ

 放課後になると、雫は昇降口へは向かわず、反対方向へ向かった。生也はその後を付いて行くことにした。

 たどり着いた先は、昨日と同じ第二音楽室。生也は昨日と同じように少し開いたドアから中をのぞいた。中には、当然ながら雫しかいない。

 雫は、荷物を机の上に置くと、ピアノの蓋を開けた。そして、Cの音を出し、音にあわせてハミングをすると、歌い始めた。その歌声は、雫という名のとおり葉からこぼれ落ちるような一滴の雫のように繊細で儚いものだったが、水面に落ちたときにまわりを震わせるように、生也にも何かが響いてきた。

 生也は無意識のうちに室内へ入って行った。

 雫は生也の存在に気づき、歌うのをやめた。

 「あの……勝手に入ってすみません!!」

 昨日と同じように雫は出て行きそうになったので、生也が腕を掴んで、そうさせなかった。

 「……。」

 「……。」

 お互い、何も言わず見つめ合うだけだった。

 長い沈黙の後、生也が沈黙を破った。

 「……自己紹介ゲーム、やろっか。」

 「え?」

 雫は生也の言ってる意味が分からなかったが、生也はそのまま話をすすめた。

 「俺の質問に答えてね。まず、名前は?」

 「え? 森雫……です。」

 「俺は、鬼城生也。よろしくね。誕生日は?」

 「7月12日。」

 「俺、5月15日。血液型は? A型でしょ?」

 「うん、A型。」

 「やっぱりね。俺はO型。じゃあ、趣味は?」

 「クラシック聞くこと。」

 「見た目どおりだね。俺の趣味は、女の子と遊ぶこと。」

 「……。」

 「お嬢様には刺激強すぎた? あ!! 好きな食べ物は?」

 「モヤシ、かな。」

 「モヤシ? 田舎くせー、お嬢様なのに。」

 「鬼城くんは何が好きなの?」

 「俺はナメコ。ナメコってか、ナメコの味噌汁。」

 「ふーん。」

 「なんだよ。」

 「ナメコなんて好きな人にモヤシをバカにされたくないよ。」

 「雫ちゃん、おもしろーい。生まれたのはどこ?」

 「埼玉。両親は純粋な日本人だよ。」

 「そっか。俺は大阪生まれ。2歳までしかいなかったから、全然大阪弁話せないけど。」

 「そうなんだぁ。私からも質問していい?」

 「お!! いいよ。」

 「何で髪の毛銀色なの?」

 「おしゃれだよ。金髪はありきたりだから、あえての銀。」

 「へー。」

 「雫ちゃん、アド教えてよ。」

 「私、ケータイ持ってないよ。」

 「何で!? 持ちなよ。メールしよう。」

 「メールなんて必要ないよ。こうやって直接話してる方が楽しいじゃん。ね?」

 「え?」

 このとき、生也は胸の奥がキューンとした気がした。しかし、この気持ちが何なのかさえ気づかずにいた。


 この日以来、生也と雫は毎日放課後になるとこの音楽室に来てお互いの事を話した。たまに、雫が歌うのを生也が聞いていることもあった。

 生也は、自分にここまで興味を持ってくれる雫の存在が嬉しくてたまらなかった。他の生徒は自分を見た目で判断して、近づいてくることさえなかったが、雫はそんなことはしなかった。それが生也は素直に嬉しかった。

 雫も、転入してきたばかりの自分に優しく接してくれる生也が嬉しかった。

 お互い、隣にいて当たり前の存在になってきていた。毎日が楽しくて新鮮だった。

 だが、こんな日々はいつまでも続くことはないのだった。

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