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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
我が道進む百合水仙
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これで俺の夢にまた一歩近づいたな

 ディゼノ、ルマリ襲撃から三日後。あの日から、衛兵がきっちり村の警備を固め、ディゼノと連携を取り黒い魔物の調査及び捜索をしている様だ。

 アーキスも忙しそうにしていた。ルビアがここに滞在しているのも原因だろう。あんなんでも騎士のトップらしいからな。



「んん……くふわぁぁぁぁ……」

(おはようございますハナ様)

(おはようセピア。日がポカポカして良い朝だな)

(もう、お昼前ですけどね)

(いつもの事いつもの事)



 それはそれとして俺はこの数日、家でゆっくり休んでいた。今日も熟睡である。ぐぐーっと布団の上で伸びをする。

 最近、トラブルのスパンがどんどん早まっている気がするからな。のんびりできる時は出来る限りのんびりするのだ。

 さて、下に降りてご機嫌な朝食(昼食)を取るか。起き上がろうとして、ふと横を見る。



「……は?」

(……え?)



 俺とセピアが、同時に声をあげる。俺が寝ていた隣に……見知らぬ美少女が眠っていた。全裸で。

 いや、急展開が過ぎる。トラブルのスパンが早まってるって言ったが、いくら何でも早すぎる。


 褐色の肌に、美しい黒髪が日に当てられてキラキラと光る様に主張している。正直、俺と同レベルの美少女と言っていい。滅茶苦茶可愛いぞ。

 年齢は俺と同じくらいだろうか……背は俺より少し低い。警戒心など最初から持ち合わせていないかの様に、気持ちよさそうな表情で寝ている。


 以前、起きたら可愛い女の子が添い寝しててくれねえかな~~なんて思った事が無い事も無いが、実際起こるとビビって思考停止するのな。そりゃそうだ、いきなり他人が隣に居たら怖えよ。



(……セピア、説明)

(わ、私にも何が何だか。昨日ハナ様が就寝なされる前は、確かに誰もいませんでした)

(どっから沸いてきやがったんだ。窓か? でもここ二階だしなぁ)



 それに、侵入者なんてジナなりリコリスなりが感づいて飛んでくる筈だが。

 ん、そうだ。侵入者と言えば――



「ぐおおおお……ぐおおおお……」

「おい起きろけだもの」

「おぶっ!?」



 デカいイビキをかいて寝ていたユーリに枕を投げて、ご機嫌な起床を促した。

 


「いたた……なにすんだよ!」

「気持ち良く寝ていやがって。そんなんだから侵入を許すんだ」

「何のことだよまったく……ふわぁぁぁぁぁ」



 先日獅子の様な姿の精霊になった元植物のユーリが、大きな口を更に大きく開けて大あくびをする。



「これだよこれ。誰だか知らんが俺の隣でフル・フロンタルがぐーすかぴーだ。心臓に悪いわ」

「んお? 何言ってんだよハナ。こいつならいつも一緒に寝てるだろ」

「はあ?」



 何言っとるんだこいつは。こんな黒髪美少女に見覚えは無いぞ。

 ……はっ、もしかして俺は別の世界線に来てしまったのか。はたまた、記憶を改竄されてしまったのか!?



(落ち着いて下さい。それは有り得ませんよ。私が保証します)

(……そうだよな。やっぱユーリが寝ぼけた事言ってるだけだよな)

「いやいやいや!? ちゃんと起きてるから!!  オイラの話をちゃんと聞きなさい!!」



 念話を【侵入者クラッキング】で盗聴してぎゃいぎゃいと騒ぐユーリ。

 その騒ぎの所為か、黒髪の少女がむくりと起き出した。その後、じっと俺を見つめている。

 ふむ。やはり中々の美少女……というより、俺に似ている? 1日1回は自分の姿をチェックしているので見慣れている顔であった。



「はな」

「!」



 その、どことなくたどたどしい呼び方。可愛らしい声には聞き覚えがある。



「お前、ボタン……か?」

「……ん」



 こくりと頷いて、俺に抱き着いてくる。



「な? 言ったろ?」

「びっくりしすぎて言葉が出てこない」

(私もです。まさか、ここまで早く【変化】が昇華するとは)



 普段から【変化】を練習しているのは知っていた。というかさせてた。

 しかし、先日まで腕の一本が限界だったはずだ。いきなりここまで精巧に、人の姿を模すなんておかしい。

 思い当たるとすれば……あれか。ヴェガから取り出したあの魔核か。やたらヤバそうなアイテムだったしな。あれがボタンの成長を促したのかも。有り得ない話ではない。


 しかし、これをどう説明した物か。……また適当に誤魔化すしかないな。魔核をつまみ食いしたのがバレると面倒だ。

 俺は抱き着いてくるボタンの頭を撫でてやる。おお、マジでサラサラだ。こんなところまできっちり変化できるとは。素晴らしいな。



「おなかすいた」

「腹ねーだろお前。だけど、俺もご機嫌な朝食を取りに行く所だったからな」

「ん、いく」



 とてとてと部屋を出ようとするボタンを、がしっと掴む。



「マテ。全裸で家を徘徊するな。……せめて何か着せないとな」

(元の姿に戻せば良いのでは?)

「折角美少女になったのに勿体無いだろ。ボタン、普段その姿を維持出来るか?」

「ん」



 どうやら行けるようだ。黒いぼた餅に戻してひた隠しにしても良いが……折角可愛くなったんだから見てもらいたい。その為に練習させてたからな。

 何かイイ感じの服はなかったかな~っと。お、そういやツバキおばさんのとこで買ったワンピースがあったな。

 まだ寒いから使ってなかったけど、寒暖を感じないボタンなら問題無いだろ。



「よしボタン。これを進呈しよう。光栄に思え」

「こーえー」



 どこぞの社名みたいな発音で喜ぶボタン。そして、そのまま停止。

 ……そうか。服の着方からか。



「はい、ばんざーい」

「ばんざーい」



 手を挙げさせ、ちゃちゃっと服を着せる。

 服の前側にボタンが付いている物だが、面倒なので上からずぼっと着せた。



「これで良し。ボタン、普段は必ずそれを着る事。間違っても絶対往来で脱ぐなよ。振りじゃないからな」

「ん」

「良し。これで万事滞りなくオッケー丸だ」

「いやいや、これじゃ元に戻れないだろ。いざって時どうすんだよ」



 ユーリの癖に最もな事を口にする。

 確かにこれでは戦闘し辛いか? と思った矢先、ボタンがふるっと震えると、元の姿に戻る。



「ありゃ? 服は何処へ消えた?」

「……ん」



 ボタンが再び人の姿に変化すると、きっちり俺が着せたワンピースを着用している。

 どうやら体の一部として定着している様だ。クソ便利だなスライム。いや、俺の従魔だからこそなせる技か。流石俺だな。



「素晴らしいぞボタン。今後もしっかり俺を守ってくれよ」

「うん」

「でも、これだと服の下に忍べなくね?」

「でぇじょうぶだ。いざって時は、元に姿に戻らせて以前と同じような陣形で行く」



 遠方から矢が飛んできたり魔物が特攻してきたり、戦闘中は一切気が抜けないからな。



「よし、飯だ飯。行くぞユーリ」

「いくぞゆーり」

「おおっ! ついにボタンがオイラの名前を……!」

(恐らくですが、ハナ様の言葉を真似ているだけで覚えてはいないかと……)



 朝から騒がしくなったが、非常に気分のいい朝となった。

 にしし、これで俺の夢にまた一歩近づいたな。次は美少女としての在り方をきっちり教え込まねば。


































「……」

「……」

「美味いかボタン」

「うまい」

「そうか、良かったなレイ。美味いってよ」

「……」



 あの後そのまま下に降りて朝食を頂くも、何故か皆、無言のままボタンを見続けている。一体何かあったのだろうか。



「はい、あーん」

「あー……ん、うまい」

「はうう、もうっサイ高です。可愛すぎますぅ」

「はやく、にく」



 唯一マイペースに悶えているのは犀人の少女、ケイカだ。ひたすらボタンに肉を食べさせている。

 自分の食べる肉を全てボタンに与える勢いだ。




「ハナ」

「なんだ婆さん」

「説明せよ。全部。全て。余すことなく」



 リコリスが頭を抱えている。まさかの三段活用だ。余程困惑しているらしい。

 それとなく普段通り行けば誰も違和感を感じないと思ったが駄目だったか。何故かケイカは動じてないけど。ボタンが喋った時は驚いてたのにな。



「じゃあ紹介します。美少女に【変化】したボタンちゃんです」

「ん」

「皆さん仲良くしてあげて下さいね」

「にく」



 ぱちぱちぱちーっとケイカだけ拍手で迎えてくれる。



「そやつがボタンである事は分かっておる。何故そうなった」

「俺に聞かれてもな。朝起きたら横で寝てたんだよ」

「僕、頭が付いて行かないよ……この間喋り出したばかりなのに」

「ほほ、孫が増えた様で爺ちゃんは嬉しいぞい」



 それぞれが別の反応をする中、ボタンはひたすら肉を所望している。



「我が人の姿になるまで5~6年……程は掛かったがの。それを半年足らずで為すとは」

「まぁ、俺の従魔だしな」

「なんでハナさんが威張ってるんですか」



 主人だし美少女なんだから当然だろう。

 しかし、リコリスで数年掛かるとなると本当はもっとかかるのかもしれない。【変化】自体出来る奴少なそうだけど。



「けいか、あー」

「んなっ!!」

「ついにケイカさんの名前も覚えたんだ」

「……ふへへ、はい、あーん」



 名前を呼ばれたケイカが、だらしないにやけ顔になりながらボタンを餌付けしている。



「ケイカ、お主もしっかり食事を摂れ。今日も調査に駆り出されるのであろう?」

「少しくらいなら大丈夫ですよ!」

「ならぬ。その油断が命取りになるのじゃ。ボタンも調子に乗って食いつくでない」

「ばあば」

「うぐっ!?」



 ボタンにじっと見つめられ、リコリスがたじろぐ。

 ぐお……『ばあば』か。その手があったわ。幼さを醸し出し美少女っぽさを演出するに素晴らしい呼び方だ。

 ボタンの奴、どこで知ったかは知らんがそれが素で出てくるとは……コイツ出来る。



「じゃあ爺さんは?」

「じいじ」

「よし、じゃあレイは?」

「れい」

「オイラは?」

「めし」

「おかしいだろ!!」



 完璧だな。逐一覚えさせなければと思っていたが、問題なさそうだ。何故かユーリだけは覚えられない様だが。



「何故だ……納得いかねえ」

「まだボタンは生まれてから半年も経っていないというではないか。そう急かすでない」

「オイラもそんなもんだぞ」



 お前は生まれからして特別なんだよ。絶対知らねえだろって言葉まで知ってるしな。



「今日は衛兵共の拠点へ向かうのであろう? ボタンはどうするのじゃ」

「流石に元に戻ってもらうかな。説明するの面倒だし」

「イルヴィラさんとか多分卒倒するよね……」



 ルマリ襲撃からばたばたと立て込んでいたようだが、昨日ルビアが直接乗り込んできた。

 今回の事だけでなく、黒いトレントとアウレアの件も聞きたいんだと。面倒だな。この間冒険者ギルドで説明したばかりじゃないか。

 リコリスがその話を切り出すと、爺さんが口を挟んでくる。



「そうじゃ。ついでに薬も届けてくれぬかのう」

「この間、渡してませんでしたか?」

「セントレア兵長に処方する物じゃな。何、なんて事はない、ただの痛み止めじゃよ」



 そういや怪我してたな。あの長射程の矢を正面から受けたらしい。怪我で済むのもおかしい話だが。



「リコリス、お前もあの矢、食らってたよな。大丈夫か?」

「掠り傷一つないわ。気にするな」



 幻獣は硬いな。乳はこんなに柔らかそうなのにな。



「じゃあ朝ごはん食べたら行きますので、店頭に置いて貰っていいですか?」

「うむ、よろしく頼むぞい」

「朝ごはん?」

「朝ごはんだよ文句ある?」



 俺はご機嫌な朝食を満喫し、ルビアのいる駐屯所へ向かうのだった。

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