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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
我が道進む百合水仙
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転覆させようかなと

「この体こそ、最後の魔王の姿さ。未来永劫、二度と魔王は現れない」



 ルコはそう断言する。その様子を、カルミアは胡散臭そうに見ていた。



「まぁそれは良いんだけど」

「良くない良くない。もっとあるだろう? どういう理屈で魔王となったとかどうやって因果を断ち切ったとか」

「そんなの興味ないからねぇ。僕……いや、僕達は君の趣味の為に来たわけじゃないから」



 体こそ魔王だが、中身はルコである事を認識し、軽口を叩き徐々にいつもの調子を取り戻していく。



「そうですかぁ? 私は興味あるけどなぁ、ルコさんの体」



 先程ヴィルポート伯の後ろについていた幼い女の子、クーヤマーヤが茶化す様にルコへと言った。



「そうだろうそうだろう。これを語るにはまず魔王による魔人服従の因果性から――」

「止めときなよ。また話が脱線するだろう?」

「そうですねぇ。じゃ、後で伺いますね」

「……そうかい」



 がっくりと肩を落とし、ルコはリブラコアへと視線を移す。



「ともあれ、少なくとも私は君の敵じゃないよ。くれぐれも、君自慢のパンチを私へ打ち込まない様に。普通に痛いからね」

「魔王の体はそんなヤワじゃねえだろ」

「私の心がね、痛むんだ」

「はぁ……もういいわ。早く本題に入れ」

「辛辣だねぇ、ブラブラくんは」

「リブラコアだ。張り倒すぞクソガキ」



 早くも脱線していると、モルセラは心の中で突っ込みつつ、改めてルコの容姿を見る。

 確かに細いとまではいかないまでも、華奢な身体つきである事は間違いない。本当に魔王並みの実力があるのだろうか?

 ルコが入ってきた時も、いまいちピンとこなかったモルセラは、不可思議に思いながら見ていた。

 そのルコが、一つ咳払いをして口を開く。



「では、本題に移ろうか。話は二つあってね、まず一つ目は『アポロス』の件だ」



 そう言って、ルコは白衣のポケットから黒い丸薬を取り出した。

 黒真珠の様に妖しく光る丸薬を見せつける様に指に持ち、話を続ける。



「こいつの実験を度々していたのは皆さんご存じだと思うけど。先日、ようやっと望んでいた効果が表れてね」

「あのセンス0なデカブツの事かい?」

「違う違う。そこのピースコールにね、ディゼノとルマリを襲撃して貰ったんだ」

「……軽いノリでとんでもねえ事言いやがるな」

「はは、それこそ今更だろう。ピースコール、君の友を見せてくれないかな?」



 ピースコールは頷くと、肩に乗せていたヴェガとラスラを手に乗せる。



「このアルラウネ達は素晴らしいよ。1体で龍とも渡り合える」

「龍だと?」

「そう。少し前までは可愛らしい通常のアルラウネだったんだけどね。『アポロス』が完全に魔核へ馴染んで、今やS級魔物クラスさ」

『そうだべ。おら達が一番早く新植生魔物種になったべさ』



 胸を張ってぴいぴいと鳴いているヴェガ。



「へぇぇ、そのおチビさんがそんなに強くなっちゃったんですか。凄いですねぇ『アポロス』って」

「しかし、ただ魔物を強くするなんて。それぐらいの物ならその丸薬でなくても他に沢山あるでしょう」



 素直に驚くクーヤマーヤとは対照的に、サントリナはアポロスを軽んじる様にルコへと言った。



「チッチッチ……甘いんだなぁ、サントリナ。勿論ただの強化剤じゃないさ」

「では、他にも何か効果が?」

「効果と言うより……作り変える、と言った方が正しいね。彼女達はもはや別の生き物だ。言ってただろう? 新植生魔物種だと」

「いや、私はアルラウネの言葉が分かりませんので」



 困惑しつつも、サントリナはアルラウネを見る。

 以前王都に現れた巨大な黒い魔物。あれとは似ても似つかない。



「ゆくゆくは、これを人へ投与する。やがて、全ての人類に『アポロス』化してもらうつもりさ」

「これ、飲むのかよ……」

「そう心配しなくても良い。必ず副作用の無い完成品を渡すと約束しよう」



 ルコはその黒い丸薬を仕舞いこんだ。合わせる様に、ピースコールも一礼して下がる。



「全人類にねぇ。一体何百年かけるつもりだい? 流石にそこまで付き合えないけど」

「私もそこまで時間を掛ける気は無いさ。ちゃんと考えてある。でもまずは、下地から整えないとね。その為に君達を呼んだのだから」



 それが二つ目の話さ、とルコはにこやかに言った。



「ストレチア王国をね。転覆させようかなと」

「……」

「はは。ストレチア王国騎士長の前で言うのは迂闊だったかな」



 迂闊とは微塵も思っていない様な柔かな態度であった。

 この国の騎士や、国内の領主がいるにも関わらず。国への反逆を口にしても面罵めんばする者は誰一人としていなかった。

 


「おいおい、もっと驚こうよ。椅子をガタッてさせてさ」

「迂闊も何も、前々から言ってた事だからねぇ」

「やっとか、って感じです」

「……全くだな」

「早く話を進めて下さい」



 ほぼ全員からブーイングを受け、渋々と言った感じでルコは話を続ける。



「ハイハイ、じゃあ話を進めますよ。今度は、本気で王都を襲撃するよ」

「この人数で……か? 自殺行為だろ」

「そんな訳無いだろう。黒い魔物の失敗作を各地に撒いて、王都の方は自信作を持っていく。本気で潰しに行くよ。機能不全にするつもりでね」

「王都を潰すのは良いのですが、それに何の意味があるのですか?」

「一番言っちゃいけない奴が言いやがったな……」



 サントリナが騎士らしからぬ言葉を放ち、リブラコアが困惑している。



「意味か。厄介な敵相手に先手を打つ、と言うのもあるけど。私がもう耐えられないのさ。君もそうだろう? サントリナ」

「……」

「でも、焦っては駄目だ。まだ時間がいる。かと言って、悠長に待つつもりもない」



 ルコは目を細める。少しの沈黙が流れ、ルコが口を開く。



「決行は半年後。半年後に、あの国は終わる」

「これまた急だねぇ。僕の家もあるんだよ? あそこ」

「それまでに引っ越しを済ませておいてくれ」

「面倒だなぁ」



 面倒なのは私だと、モルセラは心の中で愚痴を吐いた。

 ある程度厄介な事が起こるというのは想像していたが、その想像の遥か上を行っていた。

 国家転覆……歴史書に書いてある様な出来事を、まさか自分が関与するとは思わなかった。

 そう言う事は演劇の中だけで結構だと、モルセラは嘆息する。



「それまでは、事を起こさないで欲しい。特にアウレア」

「はぁ? なんで私なのよ」

「なんで私なのか心の耳で聞いてくれ。ピースコールも、キュールシャックとビーラカウィムにはきつく、これでもかと言うほどきつく言っておいてくれ」 

「承知しました」



 ルコはそう言うと、空いた椅子へと座る。


 

「詳細は後日、ピースコールに伝えさせよう。君達も忙しいだろうし、これ以上拘束するのは問題だろう」

「これ、集まる意味あったか?」

「顔合わせだよ、顔合わせ。当日集まって誰だこいつ? じゃカッコつかないだろう?」

「その割に、顔を合わせられないシャイな子が一人いるみたいだけどねぇ」



 カルミアの視線の先には、死霊術師が首を竦めている。



「事情があってね。彼女の素性は内緒にしておきたいんだ」

「女なんだねぇ」

「今のは無し。ともかく、彼の事は気にしないでくれ」

「アンタ、もう少し隠す努力したらどうなの?」



 ルコは笑って誤魔化しつつ、逃げる様にヴィルポート伯へと話しかける。



「シヴァ。そろそろ解散しようか。誰かお客さんは来ていたかな?」

「数名、不届き者がいたようですな。全てキュールシャック殿が始末しましたが」

「それだけ?」

「ええ、まぁ今日に限らず、ここ最近は、火龍の件で探りを入れてくる者は多いですが。今日此処へ来た者は運が無かったですね」

「そう、じゃあ問題無いね。皆、大手振るって正面から帰ると良い」

「別に何がいようと正面から堂々と帰るけどな」



 リブラコアはそう言うと、いち早く立ち上がり、部屋の外へと出る。

 他の者も、次々に退出し、残るはカルミアとモルセラ、そしてピースコールだけとなった。



「全く、呼び出した割に中身のない話だったねぇ」

「集まる事に意味があるのさ。ちゃんと来てくれて嬉しかったよ」

「男に言われても気色悪いだけだよ」



 カルミアの言葉を、ルコは笑って聞き流す。



「じゃ、僕も帰るかなぁ」

「もう帰るのかい? 君は暇だろう? 久々に会ったのだから、少しくらい茶でも飲みながら話そうよ」

「そこの狐が熱烈見てくるからねぇ。それにシヴァの奴、お話したいなんて言っときながら僕をほったらかしにするし」

「人の所為にするんじゃねえよガキが」

「相変わらず礼節に欠く獣だねぇ」



 その言葉を放った直後、数本のナイフがカルミア目掛けて放たれる。その全てを、モルセラは全て叩き落とした。



「チッ、邪魔臭い女」

「おお、凄いナイフ捌きだ。アウレアの攻撃をこんな簡単に叩き伏せるなんて、良い従者を持ったね、カルミア」

「だろう? 自慢の従者さ」

「……ありがとうございます」

「フン、運が良かっただけよ」



 自慢の、というならもう少し労わって欲しい。

 叶わぬ願いを心に収めつつ、モルセラは一礼する。



「じゃ、穴だらけにならないうちに帰ろうか。行くよモルセラ」

「畏まりました」



 こうして、カルミアとモルセラも立ち去り、部屋にはルコとアウレア、ピースコールが残った。



 椅子に深く座り、感慨無量といった面持ちでルコは口を開く。



「やっと始められるんだ。長かったなぁ」

「……そうね」

「焦るな、とは言ったけど。いざ動くとなると、そわそわしてしまうよ」

「落ち着きなさいよ、みっともない」



 アウレアはルコの近くによると、背中から抱き着く様に顔を近づける。



「君にこんな早く『アポロス』を服用させるつもりは無かった」

「自分で選んだのよ。気にしないで」

「ノイモントから帰ってきた後、ずっと思い悩んでいるだろう? 気にもするさ」



 ルコがアウレアの手を握ると、アウレアもそれを握り返す。



「アイツの顔が、頭から離れないの」

「君を、怪我させた子かい?」

「偉そうに説教して、決別の邪魔をして……鬱陶しい小娘。今度こそ殺してやるわ」

「……」



 ルコは、何も言わない。



「ピースコール。アンタ、リコリスとそのガキに会ったんだってね」

「……ええ。そうですね」

「ルマリ……だっけ? そこに行けばアイツに――」

「それはダメだ、アウレア」



 ルコはぐっと手を握ると、アウレアへと言葉を重ねる。



「今はまだ、君が動くべき時ではない」

「でも――」

「調整が必要だ。『アポロス』はまだ完璧じゃない。今はなんともなくても、魔力を使い続けたらどうなるか、私でも分からないんだ」

「……わかったわよ」



 アウレアは、渋々とルコの言葉に頷き、顔を寄せた。

 その様子を、ヴェガはじっと見つめている。



『姉さま、くわねの? 今は栄養をつけねえとあの子供に復讐出来ねえべさ』

『ラスラはまだ、色気より食い気だべにゃあ』

『どういう事だべ?』

『気にしねえでけろ』



 再び、力を付けるべく食事を続けるヴェガ。




 黒い魔物に、国を見限った者達。そして人類の進化という大それた計画を立て、自身の体すら犠牲にして研究を重ねる男、ルコ。

 ストレチア王国に、脅威が迫ろうとしていた。 

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