だからこそ美少女を磨かねばならないのだ
「くっそ疲れた」
「お疲れ様です。ゆっくり休んで下サイ」
あの後、俺はルマリへ戻り家に直行。レイと爺さんが無事な事を確認する。
ジナやケイカ達は、虫の如く沸いていたレクスを処理していたようで後始末で時間が掛かっていたようだ。
現在、家でケイカにデカいレクスの事や魔族の事を説明していたのだ。
「ジナさんは?」
「ディゼノのギルドへ向かいましたよ。魔族が出て来ててんやわんやらしいです」
「ケイカも行かんでいいのか?」
「上位の冒険者だけを集めているそうなので」
魔族か。あのねーちゃんしか覚えてないや。……すまんあの意味不明な赤いのも覚えている。魔族って個性派揃いなのだろうか。
何が目的だったのか、そもそも魔族とは何なのかと言うのは知らないが、その辺は冒険者共が上手くやってくれるだろ。俺はそういうのに首を突っ込む気はない。
まぁ、それよりも。さっきから気になっている事がある。
「チッ、レクス狩りだけじゃ物足りねえよ。俺もそっち側に行けばよかった」
「何言ってるんですか。魔族なんて私たちの手に負えないですよ」
「もう暫くレクスは見たくないワ……」
何故かアルス、ロメリアの鬼兄妹が家に居座っている。
リアムは妹の安否を確認すべく家にいち早く帰ったらしい。まぁ、ルマリまでレクスが来てないそうだから大丈夫だろうけど。
一応スノーも付き添いで行ったそうだ。良かった、こっちに来たらうるさすぎて大変だった。
「ケイカちゃん……なんか狭いワ」
「俺の台詞だよ。なんでいるんだよ」
「今日はもう依頼を受けられないし、お酒を飲む気分でもないし、折角なので遊びに来たのよ……」
「俺がくつろげないだろ」
「まぁまぁ、良いじゃないですか。本当なら大量に出来上がった死体の後処理で忙しい所を、ルマリの護衛という事で付いて来てもらったんですから」
こいつら死体の後始末したくないだけな気がするな。アルスなんて寝っ転がってるし。
そんなアルスが、俺に話しかけてきた。
「で、だ。ハナ。聞きたい事があるんだが」
「ん? なんだよ」
「魔族ってのが強いのは分かった。この国のトップと張り合うってんだから相当強いんだろ。で、お前はどうなんだ? 強いのか?」
「どうみてもか弱い美少女だろ。初対面なのに図々しい奴だな」
「お前に言われたくねえよ……そもそも黒い魔物をぶっ飛ばすような奴が弱いわけ無いだろ」
どこかワクワクした面持ちで俺を見ている。
ぐお……こいつ、面倒な事考えてそうだな。セントレアみたいに戦いを仕掛けてきそうで嫌だ。
……そういえば、セントレアは何処に行ったんだ。
「なあ、セントレア兵長ってどうしたんだ?」
「あいつは魔族とやり合って負傷。現在は治療を受けている」
「ああ……ああ?」
一瞬当たり前の様に返事をしてしまったが、横を見るといつの間にかルビアが座っている。
「なんでいるのお前」
「良いだろいても」
「良くねえだろ。お前も冒険者ギルドへ行った方がいいんじゃないのか?」
「私は冒険者では無く騎士だからな」
騎士ならもっとダメだろと思うのだが、どうせ話を聞かなそうだから切り上げる。
それよりも、セントレアだ。怪我したのかアイツ。
「セントレアは大丈夫なのか?」
「あいつ、見た目に反して頑丈だから1日寝れば問題ないさ。勝手に一人で魔族のもとへ向かったのはよろしくないが」
魔族とバトっていたようだ。そういやねーちゃんと赤いのの他にもう一人いたな。
「ルビア様も魔族と戦ったんですよね?」
「ああ、他の奴もあの赤い騎士と同じ様な強さを持っているなら面倒な事になってくるな」
「既に面倒臭い状態なのにな」
「はは、ジナから聞いたよ。随分とトラブルに愛されているって」
本当に、愛されているな。良く五体満足で生きてるわ。
「ああそうだ。あの精霊はどうした?」
「ユーリか? 今爺さんに診せてるよ。アルラウネから毒を受けてな。まあ、戦いが終わる頃には既に大丈夫そうだったけど」
「そうか、彼には色々と話を聞きたかったんだが」
「生まれたばかりだからなんも知らねえぞアイツ」
「そうなのか? てっきり何千年をも生きた大精霊だと」
そんな大それたものじゃないのだが。その辺はジナから聞いていなかったようだ。
「彼もそうだが、君にも話を聞きたくてな。後日、この村の駐屯所に」
「いやでーす」
「来てくれ。精霊やあのスライムも連れてな。今回の件もある。お礼も渡さねば」
「いっやでーす」
「ならないからな。ギルドとは別に、私からも受け取って欲しいんだ」
「人の話を聞きなさい!」
必死の抵抗も、笑ってごまかされる。もうさ、お決まりパターンなんだよ。こういうのからすげー面倒事に絡まれるってハナちゃん知ってるんだ。
「いけば良いじゃないですか。ルビア様からお呼ばれするなんて光栄な事ですよ。私は魔導元帥って立場はどういうものか良く分からないですけど」
「私も良く分からないのよ……凄いの?」
「そりゃ凄いだろ。意味は分からないけど」
「お前らな……」
若い子達は知らないらしい。ここ最近は平和だったそうだから、王様の名前くらい覚えておけば良いだろうと言う認識なのかもしれない。
「お前たちが騎士なら、徹底的にしごいてやるところだったのに残念だ。どうだ、冒険者から転職すると言うのは。口添えしてやるぞ」
「騎士はガチガチで堅苦しそうなイメージだからパス」
「私もなのよ……元々傭兵が面倒だったからこっちに来たのよ……」
「ルマリの騎士はともかく、王都だと傲慢なのが多そうです」
「はあ!? お前らもそう言う事言うのか! 戦争が無いから戦力を縮小しろだの武器のグレードを下げろだの言われて結構肩身狭いんだぞ!」
一応コイツ魔導騎士とやらのトップだよな? 良いのかそんなボロクソ言って。
後お前も国の内部事情言っちゃダメだろ。一応国外秘だろそういうのは。
「という訳だ。ハナ、待ってるぞ」
「お前もセントレアもそうだが、なんでそんな暇なの? 普通そんな自由に動けないだろ。実は騎士じゃなくてその辺のジャリガキだったりしない?」
「自由なんかじゃないぞ。お前が思ってるより事態が深刻って事だ。まぁ、流石に王子は戻るけどな。私は少しばかり残る口実が出来たぞ。あと、ジャリガキ言うな」
口実とか言ってる時点で深刻(笑)なのだが。くそ、折角これから悠々自適な美少女生活を満喫しようと思っていたのにままならんな。
「仕方ねーな。行ってやるか」
「びっくりするくらい上から目線だな……ここでは良いが、公の場では気を付けろよ?」
「もう耳タコだよその台詞は」
「耳にタコが出来るくらい言われてるのに直す気が無いんじゃねえか」
呆れた様子で、アルスは横から口を出す。
俺は誠実な人には誠実に返すのだ。アーキスとかな。コイツらが戯けた事を言ってくるからいけないのだ。
(そういう所からトラブルが来るのですよ。気を付けましょう)
(ごめんなさい、今回特に影が薄かったセピアさん)
(だからそういう所……)
俺なりの愛情だよ、と心の中で言いながらセピアをあしらう。
そうだ、セピアと言えば、ダイナからも話を聞かねばならん。恐らく俺と同じ転生者だからな。むしろ調停者的にはそっち優先だろう。
上手くいけば仕事押し付けられそうだしな。これは最優先事項だ。
……いや、最優先事項は美少女を磨くことだ。うんうん、それを忘れたら俺じゃないな。
そろそろ温かくなってきたから服も新調したいし。今までを考えるともっと丈夫な方が良いかな。ツバキおばさんに相談しよう。
半袖だと腕の呪いが目立つからな。その辺をクリアできるコーディネートにしなければ。
俺は目の前で話しているケイカ達をよそに、自分の世界に没入していく。
本当はこれからの事を考えなければならないのだろう。また黒い魔物と出会い、魔族まで現れた。
しかし、しかしだ。だからこそ美少女を磨かねばならないのだ。これはいわば試練である。
「はな、はな」
「ん? なんだ?」
「めし、たべる」
以前より少し喋れるようになったボタンが、いつもの様に食事の催促をする。
うむ、今回のMVPだしな。飯の時間はまだだが、何か作ってやるか。
「いいぞ。何が食べたい? 肉か?」
「たまごやき」
「意外な注文。卵あったかな」
「んふ」
ボタンは頭の上でぐにぐにと伸び縮みしている。
こいつは変わらんな。変わらんけど、順調に成長している。
うむ、俺も負けていられんな。これで変化して美少女になってみろ。俺が見た目美少女なだけのいらない子になってしまう。ボタンの主人として相応しいくらいの強さと美しさを兼ね備えねばならぬ。
嬉しそうにきゅうきゅう鳴いているボタンをあやしつつ、改めて決意するハナちゃんなのでした。
3章終了です。ここまで読んで頂きありがとうございます。




