不幸の下に生まれた健気な美少女っぽさ
201811/04 会話表示修正
レイが戻ってきた。まだ元気が有り余ってるな。何も走らなくても良いんじゃないか?
「爺ちゃん、薬草置いてきたよー!」
「これこれ、もう少し落ち着かんか」
レイは忙しなく動いている。
森で出会ったときより大分アクティブだな。本来はこっちが素なのだろうか。
爺さんは、レイを落ち着かせながら外を見て口を開く。
「そろそろ飯の時間じゃのう。どうじゃ、ハナちゃんも一緒に食べていくかい?」
「うん、せっかく来たんだからそうしようよ!」
「マジ? じゃなくて本当ですか!? 是非ご一緒させて下さい!」
よーし良しいい流れだ! このまま外に出てたら一夜は我慢する所だった!
出来ればあの喉越し最悪なスライムは避けたい。
「そんじゃ、用意するかの。レイ、手伝っとくれ」
「うん、わかった! ハナちゃんは奥の部屋で休んでてよ!」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
異世界の料理か。そこまで貧しくも無いようだし、少し期待してしまう。
なにせ薬屋だしな。体にいいもんを出してきそうだ。
俺はレイに連れられて奥の部屋へと入っていく。
店の奥は小さいお座敷の様になっている。自分としては狭い方が落ち着くから割と好みだ。
さすがに畳はないが、木造になっており妙に懐かしい香りがする。
俺は座布団の上に座り、二人を待つ。すると、セピアが俺に話しかけてきた。
(ハナ様。ご自身の事は何処までお話になるつもりで?)
(うーん、難しいよな。全部隠すってのも怪しいし……武器すら持ってない奴が旅してるってのもな)
今だけでなく、今後の事もあって考えておかねばならない事だ。面倒だが、もっと面倒な事になりかねないからな。
(では、土魔法を扱えるという体でいきましょう)
(土魔法?)
(魔糸を使って小石など飛ばし、土魔法としてこじつければなんとか説明がつきます。魔糸は細く可視は困難ですし、人形遣い自体稀少ですからね、バレることもそう無いでしょう)
土魔法なら比較的メジャーなので問題ないという。というか小石も飛ばせるのか。もはや人形関係ない気がするが……。
この世界のことはまだまだ初心者なのでセピアの言う事を信じる他無い。
(まずはこの世界のことを詳しく聞きたい所ですね)
(ん、つかお前知らんの?)
(はい、私に伝えられたのはハナ様のスペックと基本的な世界の理のみ。前から補助神となられている先輩方はある程度知ってるかもしれませんが、私は新米なので細かい所まではわかりません。特に世界情勢なんかは頻繁に変わりますからね)
(新米とかあるのかよ……)
この世界のシステムがわからん……まぁ考えても仕方ないか。
神様っつーのもそんな万能じゃないのかね。世界情勢くらいなら自分で調べられるし良いけどな。
そして、俺とセピアは今後の為に自身の情報を作っていく。
私の名前はハナ。物心ついた時からお婆さんと一緒に暮らしていたのだけど、そのお婆さんも病気で亡くなってしまったの。
村も孤立して存続していくのがやっと。私を育てる余裕も無いと半ば強制的に村から追い出されて……。
自分が何処にいるかもわからないまま歩いて歩いて。時には自分が着ている服すらも食費に変えてここまでやってきたの。
行く宛もない、一体どうしたらと途方にくれていた所に偶然レイくんと出会ったの。
レイくんは素性も知らない私に優しくしてくれたわ。家まで連れてきてくれて、食事まで頂いた。そんな優しいレイくんの為に、私も何か役に立ちたいの。
お願い! 私をこの家で働かせて! 店番でも薬草採取でも何でもやります!
(と、こんな流れで行こうかと思うんだがどうだ? 不幸の下に生まれた健気な美少女っぽさをひねりなく、前面に押し出してみました)
(それは良いんですが、ここにしばらく滞在するのですか?)
それは良いんですがって……。セピア、まだ1日も立ってないのに俺の扱いがどんどんぞんざいに……。
(おう、まぁ適当に。安全で飯も食わせてもらえるし寝床もある。スキルの練習もここなら安心して出来るし森に行って練習しても良い。子供はダメだって言ってたが爺さんに言えばなんとかなるだろ)
(そうですね。ここら一帯の位置や情勢も詳しく知りたいですし、拠点は欲しかったので、丁度良かったです)
(おし、じゃあその方向で話を進めよう)
完璧な作戦だ。これで落ちない人間は人間じゃねえ!
まずはここで居候になりつつ、地盤を固めていくのだ。俺の美少女生活の第一歩を踏み出す。
その為に、まずは爺さんを説得せねば。俺は気合を入れて、今か今かと爺さんたちを待つのだった。
「ハナちゃん、料理が出来たよ。今から持ってくるね」
「お? 結構早いな」
割と早くレイが戻ってきた。実は魔法とかでサクサク作れたりとか? それなら人並みしか出来ない俺でも凝った料理とか作れるかもしれん。
そういえば料理器具とかってあるのだろうか。ガスコンロとかあるかな。
見たところ水道は流れているようだし、俺が予想しているよりも不便さは無いな。
レイが木のトレーを持って此方へと向かってくる。
「はい、お待たせ!」
ことんと俺の前にトレーが置かれる。さてさて、一体どんな物が……
「……ん?」
俺の前に出てきたのは、小さい皿の上にポツポツと置いてある丸っこい豆の様なものと、少量の草をそのままぶち込んだ様な謎のスープだ。
少なっ、鳩のエサかなにか? 俺はレイに恐る恐る聞く。
「えっと、料理って言うのはこれの事?」
「うん! 僕と爺ちゃんで作ったんだよ」
これ料理じゃないと思うぞ少年。
もしかして一粒食べると凄い満腹感を感じる凄い豆とか? それにしたって物悲しいよ見た目が。
(セピア、この世界はもしかして肉を食べてはいけないとかそういう世界の制約的なのがあるわけ?)
(いえ、そんな制約は無いです。お爺さんに話を聞いてみては如何でしょうか? 色々事情があるのかもしれません)
そうだな。訳も聞かずにどうこう言うのは良くない。まずは爺さんの話を聞いてみるか。
レイが3人分の料理? を持ってくると、爺さんも出てきてゆっくりと腰を下ろす。
「どっこいせ……ほほ、待たせてしまってすまんのう。何せ料理はそこまで得意では無くてのう」
「そう……なんですね。大丈夫です。美味しそうなお豆さんですね」
得意では無いというか皿に盛り付けただけというか……。
俺と爺さんが話していると、レイもその隣へと座る。
お腹を空かせているようで、座ると直ぐに箸を持って爺さんへ話しかける。
「爺ちゃん、早く食べようよ」
「ほほ、じゃあ頂くとするかの」
「うん、それじゃあいただきまーす」
机の上には箸が置かれている。箸で豆を摘んで食べるのか。豆つかみゲームみたい。
その箸で二人はひょいと豆を摘んで食べ始めている。
「ハナちゃん、食べないの?」
「あ、はい、いただきます」
俺は箸で豆を摘む。くそっ取りづれえ!
なんとか摘め、俺はそれを口の中に一粒入れた。
もぐもぐ……むぐむぐ……うーん、豆。何か違った、特殊な味がするのかと思ったが、普通に豆。
特に腹が膨れた様な感覚もなし。じゃあこの草スープに何かあるのか? 俺は草スープに口をつける。
……無味。謎の草ももしゃもしゃ食べてみるが、ちょっと苦いくらいで特筆すべき点は無い。特に変わったことと言えば草スープから草が入ったお湯スープに格下げしたくらいか。
仕方ないので、俺は爺さんに聞いてみる。
「お爺様。この豆や草は何か特別な物なのですか?」
「いや? 豆は普通に売ってるものじゃし、この草も食べれるものをお湯で着けただけじゃよ?」
「え?」
普通の豆かよ! なんでこんな質素なんだよ!
まさかそれほどまでに金が無いのか? 他の所に比べて家もでかいし服も決して貧相なもんじゃなかったんだがな。
後は……物の流通が疑わしいか。
「この村ってお肉や魚は流通していないのですか?」
「いや、肉屋も魚屋もあるぞい。なるほど、豆しか無いから不安になったかのう?」
「あっ、いえそういうつもりでは……」
「ほほ、そうなるもの仕方ないぞい。少し事情があってな、肉や魚は使えないんじゃ」
事情……一体なんだろうか。
もしやこの村全体で何か事件が起こってるとか? 嫌だなぁ、絶対そういうのに巻き込まれるやつじゃんこれ。
俺は不安になりつつも、爺さんの話に耳を傾けた。