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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
麗しき牡丹耽々と試む
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やっちまった

 硬すぎんだろアイツ。どんだけ防御力に極振りしてんねん。

 しかも普通に攻撃力もあるし。レギュレーション違反だぞ。



(レギュレーション違反ではありませんが、あそこまでの攻撃を受けて無傷なのは妙ですね)

(クソゲーすぎる)



 ぶるぶると体を震わせて泥を飛ばしている。泥だらけで判り辛かったが、やはり傷一つ無い様だ。



「あれでダメージ一つ無いとなると、ただ頑丈なだけじゃなさそうだな」

「効いてないと言うより、防がれてると見た方が良いかもねぇ」



 渾身の一撃が効いていないにも関わらず、冷静に分析をしている。

 リナリアはごそごそと鞄を漁り、小さい容器を二つ取り出す。



「ホラ、オクナちゃん。あの狼が動かないうちに。これ、かなり高性能なヤツだぜ」

「すみません、後で必ずお返しします」

「いーよいーよ。ほら、急いで」



 あれはポーションか。流石に、考えなしにぶっ放している訳じゃなさそうだな。

 グイっと飲み干し、リナリアは再び立ち上がる。




「さ、第二ラウンドだ」

「何スカしてんだ。お前の魔法、牽制にもなってねえぞ。後ろで大人しくしとけよ」

「はは、何言ってるんだい。これからさこれから。ほら、来たよ!」

「分かってンだよッ!!」



 大黒狼が再び襲い掛かる。

 なんでここまでタフなのか。以前アウレアが使った薬を服用しているのか? でも、アウレアみたいに超回復してる訳でもなさそうだしなぁ。

 悠長に考えている暇はないのだが、むやみに前へ出ても邪魔になるだけだしどうしたら……。


 焦りつつも、俺なりに打開策を考えていると不意に声が聞こえた。



『ま……べ……』



 小さく、囁くような声だがはっきりと聞こえる。か細いが、どこかのんびりとした女性の声だ。

 ダイナ達でもなく、その辺に生えてる植物の声でもない。どこから聞こえているのか分からないが、誰かが呟いている様に聞こえる。



『わぁ、危なかったべさ。もっかえて嘔吐えずいたら一大事だべ……ちゃっちゃとこやっちまうべ』



 なんか妙に訛ってるな……何言ってるか分からん。



(おいユーリ。なんか変な女の声が聞こえないか?)

(うん。オイラも気になってた。植物達じゃなさそうだし、有り得るとしたら――)



 ユーリはあの大きな狼を見る。

 おいおい、まさかあの狼がくっちゃべってるって言うんじゃなかろうな。



(いや、流石にあのレクスが喋ってる訳じゃないと思うよ)

(なんだよ、勘違いさせるような事しやがって)

(でもよう。声の大元、恐らくはあそこからなんだよな)



 今もシーラやダイナと死闘を繰り広げている大黒狼。誰か乗ってるって訳でも無いし、いくら巨大だからと言って隠れられる様な場所も無いが……。



(うん? いや待て。確かに人間は乗せられんだろうが……もう少し小さければイケるんじゃないか?)

(お、何々? 何か閃いちゃった?)

(閃いたというか、思い至ったというか)



 何て事は無い、あの狼に別の何かが潜んでいるかもって思っただけだ。

 それが弱点になる、かどうかは分からんが――引き吊り出してみてもいいかもしれんな。

 だが、さっきも見た通りどこにも隠れられる場所は無いな。すげーちっこい奴で毛皮に紛れてるとか? でもさっき特大の魔法思いっきり食らってたしな。ダメージが無いとしても衝撃でぶっ飛んでそうだ。



(ぐむむ……)

(ハナ、早くしないとジリ貧だぞ? ハナならすっげー奇策をどーんって出してくれるだろ?)

(まぁまてユーリ。俺のスペシャルなおつむでも時間が掛かる)



 前を見れば、ダイナがすいすいっと避けながら攻撃を加えている。余裕そうに見えるが、一回でもミスれば噛み砕かれるよなあれ。良くあんな俊敏に動けるな。

 危なそうな所はシーラがカバーしている。どうやら手癖が悪いらしく、隙あらばストレートを放ちレクスにぶち当てているが、やはりビクともしない。


 やはり狼が喋ってるんじゃ……と思い始めた時、またもあの声が聞こえる。

 


『ひぃぃぃぃぃ!! おっかねえだよ!! おらなしゃますにゃぁ!! うわっ! 腹っ! 腹だけは狙わねえでけろ!!』



 やたら怯えているが……聞き逃せない事を聞いたぞ。どうやら腹はよろしくないらしい。

 もしかしてこいつ――



「よし、行くぞユーリ」

「え?」

「あのデカブツに一発入れる」

「は?」

「は? じゃないが」

「無理無理無理!! 流石のオイラでも死ぬってあれは!」

「大丈夫だよ。全部避けて攻撃当てればいいだけだろ」

「感覚派特有のクソアドバイス!!」



 ユーリめ、駄々を捏ねよって。折角こいつの言う通り奇策をどーんと出してやったのに。



「落ち着け。別に死にに行けって言ってる訳じゃないんだから」

「似たようなもんだろ!」

「違う違う、あのデカブツの腹に一発気持ち良いの入れるだけだよ。いけるいける」

「龍ですら手こずってるのにオイラが出来る訳ないじゃん?」

「いやいや、大精霊であるお前なら出来る。お前は偉大な精霊だ」

「褒め方が雑すぎる! 大体、オイラじゃなくてあの黒龍に頼めばいいじゃん!」



 確かにそうだが。仕方ない、リナリアに相談するか。



「ユーリ、リナリアさんの所まで行ってくれ」

「それならいいけど、まだレクスがいるんだからしっかり捕まっとけよ?」

「おう、頼むぞ」



 ユーリは頷くと、リナリアの方へと向かう。

 ガーベラと共に黒いレクスの対応をしているが、あの大黒狼よりは余裕がありそうだ。



「リナリアさん、少し良いですか」

「んっ! 良くないけどっ! 良いよっ! なんだいっ?」



 リナリアが腕を振るう度に、バシッと音が鳴りレクスが跳ねる。目に見えない、風の鞭とでも言うべきか。そんな小技まであるとは。



「ユーリが、あの大きなレクスから声が聞こえたって言ってるんですよ」

「そうそう、いやーんぽんぽんは殴らないで~って言ってたぞ」

「ぽんぽん?」



 いやそんな風には言ってない。



「お腹ですよ。お腹が弱点なのかもしれません」

「確かに、さっきシーラが一発入れていたのが一番効いていたかもしれないね」

「うん、今は、なんでも試してみるべき」

「そうだね。おーいシーラ! 聞こえてたかい!?」



 リナリアが声を上げると、シーラが手を上げて返答する。



「おう!! 腹だな!!」

「え? 何だ?」

「ダイナ、あいつの腹を狙うぞ。あの大精霊が弱点を見つけた」

「腹? さっきぶん殴って無かったか?」

「多分足りなかったんだろ。まぁ嘘だったら後で精霊をどついてやるだけだ」



 遠くで、シーラとダイナが話している。どうやらユーリがどつかれるらしい。良かった、ユーリが言っていた事にしておいて。



「うっし、じゃあさっきと同じ要領で――」

「いや、次は俺がやるよ」



 そう言うと、ダイナの動きが変化する。

 先程まで距離を取り、常に受け流す構えであった。しかし今は――



「うおいっ!? お前、一回でも咬みつかれたら死ぬぞ!!?」

「だな。シーラ、フォローしてくれ!」

「あー! わかったわかった! 絶対当たんなよ!?」



 ダイナは敵の攻撃をすんでの所で躱し続ける。見ていてめっちゃハラハラするな。

 シーラが焦りつつも地に降り立ち、手足を地に付ける。体が少し震えたと思えば、シーラの口から黒炎の玉が吐き出された。



「グウウッ!!」



 大黒狼が その黒炎を振り払おうと巨大な尾を振った。直ぐに、大きな爆音が響く。

 尾に直撃はしたものの、やはり傷一つ無い様だ。しかし、既にダイナは大黒狼の懐へ入っていた。



「行くぞッ!!」



 ダイナが剣を構える。その巨大な体躯を眼前に、独特な構えを取った。



「――【アンキロビイト】!!」


 

 振り子打法の様に剣を振り上げる。

 大黒狼はそのまま受ける選択をした。先程の黒炎に比べれば、大したことは無いと判断したのだろう。しかし――



「歯ァ食いしばれッ!!」

「グギィッ!!?」



 まるで鉄球が勢い良く突き抜けたかのように、大黒狼の体が跳ねた。

 剣ではなく、鈍器で思い切り叩くような衝撃。鈍い、重い音をさせたダイナの一撃は、大黒狼の腹へクリーンヒットした。



「ガフッ!!」

「おっと!!」



 倒れる前に、ダイナは後ろに跳躍して回避する。

 先程の魔法に比べ、今回は明らかに効いている。手応えを感じたダイナは、気を抜きはせずとも、光明が見えたと息を漏らす。



「よし、気持ち良いくらい決まったな」

「バカ、油断すんな。さっさと追撃するぞ」

「そうだな……!?」



 と、ダイナがさらに攻撃を加えようとした所で、大黒狼に異変が起こる。

 グルグルと喉を鳴らし、苦しそうに震えていた。



(すげープルプル震えてんな。さっきの腹ドーン! が効いてるのか?)

(いやぁ、アレは多分)



 ユーリが言い終える前に、大黒狼が立ち上がる。

 が、足を震えさせ、いきなり前を向いたと思いきや――



「オゲェェェェェェェェ」

『ぎょぴぃっ!!?』



 大黒狼が盛大に何かを吐き出した。

 あれは、人か? 少し黒っぽい肌、目は赤く染まっているが――



「あれは……?」

「――なるほどねぇ。寄生型の魔物か」



 リナリアは納得したように頷く。



「寄生型?」

「ああやって強力な魔物の内側に入り、意のままに操るのさ。虫型が多いんだけどあれは違うね」

「……アルラウネ」



 ガーベラが答える。

 アルラウネ。前世の世界知識だと……植物のモンスターだよな。

 なるほどあれがそうか。黒っぽいとは言え、確かに女の子みたいな見た目だな。レクスの胃液まみれできったねぇけど。



『あ゛あ゛あ゛あ゛!! もー! 派手にくらつけっちゃねぇ! 苦労して入ったってのに、もげちまったべ! こんが、あるじ殿に叱られるべよ!』



 アルラウネ――らしき魔物が、ぷんすこ怒っている。

 さっき聞こえた声と一緒だ。やはり、こいつの声だったか。



「おいダイナ離れろ!! 寄生型の魔物は人間にも寄生するんだよ!!」

「あ、ああ!」



 シーラの声を聞き、ダイナは直ぐに後ろへと下がった。 

 こわ……まじか。人にも寄生するのかよ。

 あいつすげー怒ってるしヤバいんじゃね? このメンツなら、まず俺みたいな美少女狙ってくるだろ。俺ならそうするし。 

 俺が戦々恐々としていると、リナリアが近づいてくる。




「ハナちゃん、アレには絶対に近づかないで。あれも恐らく黒い魔物と同じ変異種だ」

「リナリアさん、あの魔物、めっちゃ怒ってますよ。あるじに叱られるって」

「……え?」

「……ん? どうしました?」 



 リナリアもガーベラも、オクナも呆けた様に俺を見ている。レクスがいるんだからそんなぼーっとしないで欲しい。

 なんでそんな見つめるのよ。俺、何か悪い事言った?

 妙な空気で慌てている俺に、ガーベラが話しかける。




「ハナ、アルラウネがなんて言ってたか分かる?」

「え? キレながら折角苦労して入ったのに好き放題殴って吐き出させやがって、主に叱られるだろって」

「……やっぱりねぇ」


 

 リナリアはどこか複雑そうな表情で俺を見ている。

 何が何だかさっぱりわからん。と、いうのが伝わったのか、リナリアは俺に向けて告げた。



「アルラウネの言語はね――エルフにしか聞き取れないのさ」

「……マジ?」

「マジ」



 ……やっちまった。

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