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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
麗しき牡丹耽々と試む
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赤狂いの騎士

「お、おお……不安定だな」

「おい、本当に大丈夫かダイナ」

「……多分」



 龍状態のシーラに掴まりながら、剣を構えるダイナ。あれで力が入れられるのだろうか。



「スピードは落とすな。目的地を変更して、このまま一気にリールイ森林まで駆け抜けるぞ。この速度なら直ぐに辿り着ける」



 ルビアは更に速度を上げて前進する。

 誰が攻撃してるんだか分からんが、余計な事しやがって。仕事の時間が長引くだろ。ハナちゃんはいつだって定時間退社を心がけているのに。



「魔法と言うより、スキルっぽいよねぇ、あの矢。こんな遠距離から正確に狙うスキルなんて聞いた事ないけど」

「スキルであんな滅茶苦茶な軌道が出来るんですか?」

「うん、剣技なんかも一振りでハチャメチャな事してる人はいるからねぇ。ジナとか」

「あー……そうですね」



 あれはどこまでが自力でどこまでがスキルか分からないけどな。アーキスみたいに剣ビーム飛ばすとかなら分かりやすいのだが。

 ともあれ、あの矢は発射してる奴の体力が尽きるまで止まない。魔法なら数発で済むが、矢はどうだろうな。俺なら数発射るだけでリタイアする自信あるけど。


 皆が森を注視し、次の光を待つ。しかし、あれから矢は放たれず、邪魔される事なく目的地へと近づいていく。

 どうしたんだ。さっきのでガス欠か? やたら硬い矢だったし、本数に限りがあるとか?



「焦らされてるみたいで嫌だな」

「ああ、この射手は絶対性格悪いぞ」

「近づいてしまえばこっちの物だ。射程に入った瞬間大魔法ぶち込んでやる」

「それは周りも巻き込むからやめよう!」



 そんな大規模な魔法なのか。リナリアが焦りながらルビアを宥めている。



「この調子では、他も黒いレクスだけとは考えにくいな。ジナにルマリを任せて正解かもしれん」

「やっぱりルビアさんが言ってた例の……えーと、なんでしたっけ」

黒き凶鳥(ネローチェ)だ」

「そのネロが関係していると?」

「略すなよ!! ちゃんと話し合いの末決めた名前だぞ! 国家指定だぞ国家指定!!」



 しょうもない会議してんなよ……呼び名なんて適当で良いだろうに。

 と、口に出すのは憚れたが、シーラがまんまそれを口に出してしまう。



「そんなくだらない会議してんじゃねえよ。お前ら暇なのか?」

「なんだと!! 名前ってのは重要なんだぞ!! じゃあ何か、お前は『黒い魔物の組織』って言うのか!! 長いだろ!! 噛むぞ!!」

「まぁまぁ落ち着いて。またいつ矢が飛んでくるか分からないんだからさぁ」



 と、言った傍から光が――いや、違う。あれは、別の光だ。

 紅色の光がこちらへ一直線に向かってくる。



「新手か」



 言葉を紡いだと同時に、ルビアから魔法が放たれる。白き光の槍が、紅色へ向けて一直線に飛来する。

 そのまま光が衝突し、辺りに耳鳴じめいの様な響く音が広がる。



「何でしょうか……今の赤い光は」

「矢じゃねえのか?」

「いや、違うな。薄らと見えたが、あれは人だった」

「人? なんで赤く光ってんだよ。つか、いきなり魔法ぶっ放して良かったのか? 関係無い奴だったらどうするんだよ」

「魔物が跋扈して矢がビュンビュン飛んでる中、この辺をほっつき歩いてる一般人なんかいないだろ。それに――あいつ、ピンピンしてるみたいだぞ」



 紅色の光が、俺達の目の前に現れる。

 全身、どこまでも赤い鎧を身に着けた騎士。頭もヘルムで覆われているので、人相は分からない。

 大剣とはいかないまでも、大き目の片手剣を帯剣している。それも、真っ赤。全てが赤尽くしの騎士である。目に悪い。



「おい」



 目の前の赤い騎士が、俺達に声を掛けてきた。声からして、男だな。それも若い。いや、この世界は声や見た目くらいじゃ年齢は図れないか。

 その赤い騎士は、続けざまに語る。



「ストレチア王国軍魔導元帥。『光輝』のルビア・コロラータだな?」

「私を知ってるのか」

「知らぬ方が少なかろう」

「知ってて喧嘩売ってきてんなら大したもんだ」



 おお、異世界に着て初めてお約束なやりとりに遭遇したぞ。それよりも、ルビアの『光輝』ってお前大層な二つ名だな。



「……黒い魔物の大量発生はお前の仕業だな?」

「正確に言うなら、私ではなく同士の所業だが。まぁ、概ね間違っていない」

「随分と素直に答えるんだな。ご丁寧に仲間がいる事も教えてくれるとは」

「いずれ分かる事だ」



 赤騎士は言葉を止めると、俺達の方を見る。目は見えないが、見澄ます様に鋭くヘルムの奥が光る。



「『黒龍』に『塵芥じんかい』。他、冒険者が数名。その獅子は――精霊か。珍しい」

「その名前言わないでくれるかい? あんまり好きじゃないんだ」



 塵芥って穏やかじゃない言葉だなぁ。さっきの魔法見たら納得だけど。ちりあくたも残らないって奴だ。

 リナリアは不快そうに赤騎士へと抗議している。だが、赤騎士は意にも介さず話を続ける。



「中々の戦力だ。これから魔王退治にでも行くつもりか?」

「残念だが、ここにいる奴はどいつもこいつも勇者って柄じゃないんだ」

「それは残念だ。私がここに来た理由は――」



 ゆっくりと、剣を抜いた。鞘から発する抜刀音が、まるで剣が笑っているかの如く鋭く響く。



「戦い。それだけだ」

「この人数相手を一人でか? 少し舐めすぎだろテメェ」

「いいやまさか。流石にこの戦力、私では力不足だ。よって、1対1の決闘を所望する」

「ああん? やっぱ舐めてんだろ。それが許される状況だと思ってんのか?」



 赤い鎧がカタカタと震えている。シーラに煽られて怒っている……訳では無さそうだ。



「良い。黒龍よ。貴様は良いな。良い龍だ」

「何だいきなり気色ワリィ……」

「故に、残念だ。何故黒色なのだ? 火龍のごとく紅く在れば良いものを……惜しい。実に惜しいのだ、貴様は。他もそうだ、『光輝』も、『塵芥』も、犬人も精霊もそこの可憐な少女もッッ!! 何故紅くないのだッ!!」

「ええ……なんだコイツ」



 シーラが青い顔をして引いている。龍なのにドンびいているのが分かるくらい引いている。ユーリも小声でこいつヤダ……と引いている。



「しかし――そこな少年」

「……え?」



 今の流れで嫌な予感がしていたのか、シーラの陰に隠れていたダイナが呼ばれビクリとする。



「その美しい赤髪。所々に輝く足跡の様な紅き装飾。フフ、素晴らしい。素晴らしいぞ赤髪の少年」

「は、はあ」

「赤は良い。戦場を昂らせ彩るはげしい色だ。赤き耽美に囚われてしまった兵共が、戦場を更に赤く染めるのだ。貴様の赤髪は、戦の神より賜った強者の証である」

「……」

「そんな混じり気の無い程紅く染まった君の髪に心を奪われた。私と共に――」



 と、全て言わせたらダメな発言を言い切る前にルビアが光の槍で遮った。

 赤騎士はその槍を、剣で軽々と弾く。ジナもそうだったが、なんで剣で魔法を弾けるんだ。



「何を見せられてるんだ……いい加減にしろ。お前の奇行に付き合う暇はない」

「無粋な真似を……白い槍で無粋な真似を……」



 白は関係ないだろ……というツッコミをする気すら起きないのか、ルビアは更に魔法を重ねて撃つ。



「【光牢】」

「む?」



 光の檻が、赤騎士を取り囲む様に現れる。



「殺しはしない。だが、そのご自慢の赤い鎧ごとボコボコにしてお縄を頂戴するぞ。リナリア」

「はいはい、土と風どっちが良い?」

「全部使え」

「おっけー」



 リナリアはユーリから飛び降りると、そのまま囚われている赤騎士に手を向ける。

 ルビアも同時に、杖を向ける。



「赤狂いの騎士。何故こんな事をしでかしたかは知らんが――後でじっくり聞いてやるからな」

「少し本気でやるよ。死なないでね」



 大きく息を吸った後、リナリアの周りから土が盛り上がる。幾つもの土柱が立ち、一斉に【光牢】に囚われた赤騎士へと向かう。 

 更に、その隙間を埋める様に光の剣が無数に現れ、赤騎士に襲い掛かる。埋めつくすかのような魔法の弾幕に、俺は呆気にとられた。

 いや、死ぬだろ。流石にジナでも無理だろこれは。現実離れしすぎて逆に冷静になったわ。見ろ、ダイナが白目向いて……いや、アレは男に告白されてショックなだけだったわ。



「凄い。一方的。これじゃまるで、処刑」

「あの、大丈夫ですかダイナ」

「なんで俺の血は赤いんだろう」

「赤色に対しての嫌悪感が深刻だな」



 その猛攻が数十秒ほど続いている。もはや、【光牢】の中がどうなっているかもわからない。

 あれだけの攻撃を浴びせているのに、ルビアとリナリアは浮かない顔をしている。



「おい、リナリア」

「うん、わかってるよ。まるで手応えを感じない」



 二人は攻撃を止める。土が散乱し、至る所で土煙が上がっている。

 これだけ攻撃したのにも関わらず、中にいる赤騎士は無傷。鎧に汚れすらついていなかった。



「素晴らしい。これほどの魔力、世界中探してもそう簡単には見つかるまい」

「チッ、随分余裕じゃないか。あのインチキ矢と言い、どうなってるんだか」

「矢? ……ああ、彼の歓迎も受けていたのか。確かにインチキと言っていいな、アレは」

「お前も大概だよ」



 面倒そうに、ルビアは浮遊球の上に立ち上がる。コキコキと肩を鳴らし、杖を構える。



「いいぞ。私が決闘を受けてやる」

「ほう?」

「おい、何勝手に決めてんだテメェ。一気に倒した方が良いだろうが。何なら俺が今から――」

「倒せるか? 今のが無傷だったんだぞ?」

「……」



 あれは防いだというより、魔法が通じていない。全部弾かれているのか、はたまたすり抜けているのか。何にせよ、絡繰りが分からない以上、こっちが全員で掛かっても時間ばかりが掛かる。

 そうしている間に、赤騎士の仲間が何をするか分からない。ルビアは、ここで時間稼ぎをされるよりは、自分一人が引き受けて後を任せた方が良いと踏んだ。



「リナリア、この後はお前に任せるぞ。あいつを抑えるのは私しか出来なそうだ。お前は1対1向かないし、黒龍じゃ言葉巧みに誘導されて手玉に取られるだろう。ダイナは目が死んでるし。ハナは――」



 俺の方を見てきたので全力で×と手でジェスチャーする。

 あんな変態野郎の相手とかごめんだ。というか、強すぎ。【人形遣い】みたいな小手先で戦う俺じゃ話にならん。

 ルビアはそんな俺を見て、わかっていると言う風に笑うと、リナリアへと向き直る。



「勝手に話を進めて……ヤバそうなら逃げなよ?」

「ああ、逃走は私の得意分野だからな。それにさっきの事象、なんとなく見当はついている。問題ないさ」

「そう。じゃ、頼むね」



 まるで友達に用事を頼むかの如く気楽な返事をすると、リナリアは再び俺の後ろへと戻ってきた。



「ハナちゃん、ダイナくん、急ごうか。後はルビア様が上手くやってくれる。私達はアイツの仲間を探そう」

「でも、何処へ向かうんです? あの矢もまたいつ飛んでくるかわからないですし……」



 ダイナの言う通り、俺らが動けるとしても何処へ向かえばいいのか見当がつかない。



「そうだねぇ。当初の目的通り、まずはハナちゃん達が黒い魔物と出会った場所まで行こう」

「行った所でどうにかなるのかよ?」

「行けばわかるよ。さぁさ、そうと決まれば迅速に行動! ほら、行くよ!」



 リナリアの陽気さに呆れつつも、俺達はこの場を離れる。

 赤騎士はそんな俺達に興味を示す事無く、ルビアと対峙した。

























「さぁ、これで二人きりだ。お前が望む通りになったぞ? 赤狂い」



 ルビアは挑発的に言うと、杖で肩を叩く。



「……」

「どうした? 今更怖気づいたか? さっきはあんなに流暢に話していたのにな」



 カタカタと鎧が鳴る。

 先程、シーラと話していた時と同じだ。、どうやら、気分が高揚しているらしい。

 震えが止み、赤騎士は口を開いた。



「どうやら、私は勘違いしていたようだ」

「何?」



 何の事かは分からないが、碌な事では無いだろうと早々に判断する。

 真面目なのかふざけているのか分からない。しかし、実力は本物だ。ネオやジナとも引けを取らないと、先程の戦闘で理解した。

 気を抜かない。いつでも魔法が撃てる状態だ。



「私は、先程貴様を赤くないと言った」

「……」

「しかし、それは十全たる赤ではないと言うだけ話である」



 駄目だ、何を言っているか分からない。今すぐ魔法をぶっ放したくなる衝動をグッと抑え、赤騎士の話を聞く。



「私は気づいたのだ。貴様の桃色の髪、それもまた赤と言って良いのではないかと」

「良くない良くない」

「否、良いのだ。貴様は認められぬだけなのだ。自身が戦場を彩色する血濡れた赤だという事を」



 会話が成立しない……狂人である。騎士の中にもどこかおかしい……もとい、個性的な者はいるが、これほどではない。

 そもそもこんなの騎士になる前に不採用である。と言うか、私が落とす。



「その桃色の髪は、貴様の決意の揺らぎを表しているのだ」

「んなわけないだろ……どんな体質だよ」

「よって。私が、この魔人『ビーラカウィム』が、貴様を目覚めさせてくれる――ッ!!」



 距離にして30メートルほど。そこまで離れた場所から、赤騎士ことビーラカウィムが、一気にルビアへと詰め寄る。



「お前――魔族かッ!!」



 ルビアの前にキューブ形状の発光体が幾つも現れる。そのキューブが、ビーラカウィムの進路を隔てる様に襲い掛かった。

 ビーラカウィムがキューブを斬るべく一閃した途端――勢い良く破裂した。

 続けて、一つ、二つと連鎖するようにキューブが破裂し、衝撃が重なる。普通であれば、生身の人間がこれだけの衝撃に耐えられる筈も無い。意識が飛びそうになる程の衝撃と、鼓膜がおかしくなる程の破裂音が、ビーラカウィムを襲う。

 しかし、その衝撃などまるで意に介していないかの様に、ビーラカウィムは平然としていた。



「厄介な術だな。必ず見破ってやる」

「術ではない。紅き信念の前には魔法など無力に過ぎぬ、と言うだけの話だ」

「いちいち突っ込んでたらキリが無いな……」



 相手の攻撃を食らった訳じゃないのに、精神力がガリガリ削られるルビアであった。

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