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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
麗しき牡丹耽々と試む
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美少女が男の名前を間違って覚えるのは可愛いんだよ

「すみません、シーラがまた勝手に」

「いつもの事だからな、気にしていないさ」



 後ろから来た赤髪が、ルビアに会うなり謝罪していた。

 その事で、シーラはむすっとしながら話に割り込む。



「なんだよ俺を厄介者みたいに」

「実際そう」

「うぐっ」



 シーラは犬獣人の女の子に突っ込まれてショックを受けている。

 さっきまで強気だったのだが、身内には弱いんだな。



 それはさて置き。目の前にいるこの赤髪が俺と同じ転生者らしい。ユーリ曰く念話が聞こえるのだとか。本当に転生者だとしたら調停者という仕事の同僚な可能性が高い。こういう場合って挨拶とかした方が良いのかな。



(いえ、本当に同じ調停者の方とは限りませんし、暫くは様子を見た方がよろしいかと思います)

(だよな)

(因みに相手は幼馴染系の活発美少女っぽい声だったぞ)

(チッッッッッ)

(うお……すっげえ舌打ち)



 別にセピアに不満を抱いている訳ではないが、なんかムカつくな。

 赤髪にガン飛ばしていると、俺に気づいたようでルビアに説明を求めている。



「えっと、この子は?」 

「この子はハナと言う。黒い魔物の目撃者だ」

「なんか凄い睨まれてるんだけど……」



 そりゃ睨むよ。ハーレムパーティな上に美人な神様(暫定)を侍らせてるんだから。

 ふうっと息を吐き、自分を落ち着かせる。いかんいかん、いついかなる時でも美少女でなければな。



「初めまして。美少女のハナちゃんです。よろしくお願いしますね。えーと」

「え? ……ああ、ダイナだ。よろしくな、ハナ」



 ルビアが変な顔で見ているが気にしない事にする。美少女の二面性に突っ込むのは無粋なんだ。



「自分で美少女って言ったぞこいつ」

「シーラ、こんな小さな子に突っかかっちゃダメ」

「いや突っかかってる訳じゃ――」



 と、改めて俺の顔を見たシーラが、言葉を止めてじっと俺の顔を見つめている。



「どうしたんですか?」

「いや、こいつカルミアに似て――」



 どうしたんだ。つーか顔ちけーよ。こんなに近いとキスしちゃうぞ。

 目を瞑って唇をとがらせると、シーラが凄い勢いで下がった。



「うおおおっ!? 何してんだお前!?」

「え? 接吻するのかと思いまして」

「するわけねえだろ!! なんだコイツは!!」



 そんな離れなくても良いじゃない。随分と初心ウブなヤツだ。美少女だからってそんな近くで見つめるのが悪い。



「だってそんな綺麗なお姉さんに見つめられたら照れちゃいます」

「いきなり唇突き出すような奴が何言ってんだ」

「話が逸れてる。早くしないとルマリが大変」



 そうだったな、クールで強そうな見た目とは裏腹に反応が可愛いヤツだから揶揄うのが楽しくてつい脱線してしまった。



「おっとそうだった、お話はまた今度だ。ダイナ達は私と一緒に討伐に付いて来てもらうぞ」

「わかりました。ルマリへ向かうんですか?」

「いや、まずはレクスの出現地へ向かう。元凶がいる筈だからな、そいつを見つける為にリナリアも持ってくる」

「道具扱い……」



 副ギルドマスターの威厳は何処に行ったのか。まぁなんかこいつ偉いらしいからそれも仕方ないのか。



「で、ハナには出現した場所まで案内してもらう。そこからはリナリアに上手くやって貰おう」

「ハナも来るんですか? 流石に危険だと思うんですが」

「大丈夫だ、ハナには魔獣がいるからな」

「魔獣? ……ああ、さっきの。ハナが飼い主だったのか」



 ダイナの言葉に、ユーリはこくりと頷いて俺の隣に座る。どうでもいいけどなんでお前喋らねえんだよ。



(オイラ分かったんだ)

(何が)

(喋らない方が……女の子の受けが良い!)



 クソどうでもいい理由だったので無視して話を進める。



「自衛は出来ますが、やっぱり魔物は怖いです。だから守ってくださいね? タイヤくん!」

「……もしかして俺の名前の事を言ってるのか?」

「……違うんですか?」

「俺はダイナだよ!」

「大丈夫です! タイヤくんも格好良いですよ!」

「語感しか似て無いだろ!!」



 知ってるよ。でもな? 美少女が男の名前を間違って覚えるのは可愛いんだよ仕方ねえだろ。



「私はガーベラ。ガーベラだから。ちゃんと覚えてね」

「オクナ!! オクナです!!」

「はい、よろしくお願いしますガーベラさん、オクナさん」



 間違えられるのが嫌なのか名前を連呼してくる。

 女の子はちゃんと覚えるよ。嫌われたくないからね。

 シーラちゃんは名乗ってくれないらしい。残念。



「賑やかで結構だが、出発したら真面目にやってくれよ?」

「俺はディゼノの奴らと話してくるぞ」

「ネオ、頼んだぞ。王都と違って敵の規模は小さいが、気を抜くなよ?」

「分かってるよ」



 それから直ぐに、討伐に向かう面子が揃う。

 ルビア、リナリア、六曜の面々、俺とユーリが討伐組。俺は途中で離脱してルマリへ向かっても良いらしい。ルビア曰く、レクスの群れだけじゃ無いと踏んでいる。なので、その元凶とやらを探し討伐するのがこのチームだそうだ。

 なんでそんな事分かるの? と聞いたら経験則だって言われた。こいつも見た目以上の年齢なのかもしれない。

 その当てが外れたら外れたで、レクスの群れを殲滅して回るそうだ。


 ジナとヨルア、それからケイカ、スノー、リアム、アルス、ロメリアと他にもいる比較的若いメンツがルマリへ向かう。

 黒い魔物という事で慎重に、本当なら若い奴らは防衛に回したかったのだが、強い要望だったという事で容認したらしい。

 ケイカやリアムは家の事もあるしな、仕方ないだろう。あいつら普通に強いし大丈夫だろ、ジナもいるしな。


 ネオ王子含め、残りはディゼノの防衛に残る。でも、仕事は無いかもな、とルビアは言う。

 例え群れが数グループ来たとしてもそれを追っ払うのは衛兵の仕事だ。冒険者は不測の事態に備えておけとの事だ。

 もっとルマリに送った方が良いのではとの声もあったが、街の規模を考えるとこれが最善。仮に王都を襲った大きな魔物が来たら持ちこたえられないと、これでも最低限で残しているとの事だ。


 そんなにヤバかったんか、その大きい魔物とやらは。今回はそんな大事になって欲しくないが。いや、既にレクスの群れが暴れてる時点で割と大事か。



「おい、なんでハナまで連れてくんだ」



 と言っているのはジナ。俺が討伐へ向かうのが不安なようだ。ノイモントでの出来事を思えば当然だろう。



「心配すんなよ。私もリナリアもいるし、六曜だって頼りになるぞ」

「コイツは一般人だぞ?」

「仕方ないだろ、案内できるのがハナしかいないんだから。迅速に被害を抑えるには必要なんだ」

「ハナ、お前さんはそれでいいのか?」



 ジナが俺に聞いてくるので、安心させるために笑顔で答えた。



「うん、良いよ。連れて行くだけだし。案内が終わったらルマリへ向かう」

「そんな事言ってまた無茶しねえか?」

「そんな事ない……たぶん」

「……いいか、絶対無理するなよ。ルビアなんて無視してさっさと戻ってこい」

「酷い言い草だ。ちゃんと守ってやるって」



 無視とまでは言わないが、終わり次第すぐにルマリへ戻るつもりだ。俺は守られる美少女ポジションが好きだからね。

 ケイカ達は準備をしているので、ギルドからまだ出てこない。急いでるとはいえ最低限必要な物もあるのだろう。ジナ達も後数分でここを出るそうだ。

 と、話している内にリナリアの準備が終わったようだ。



「よし、準備は出来たな。私は浮遊球フアルで、ハナは精霊がいるし……シーラ」



 それフアルっていうのか。俺にはユーリがいるとはいえ、少し興味がある。どうやって浮いているのだろうか。



「急かすなよ。おいハナ、少し下がってろ。後、ぎゃーぎゃーわめくなよ」

「え?」



 シーラは息を大きく吸うと、力を入れる様に大地を踏みしめる。周りに黒い霧が立ち込めて、シーラを包む様に膨れ上がっていく。これはまさか、変化か?


 霧の中から大きな羽が生える。霧を払うかのように羽ばたかせると、その全身が露わになった。

 黒い龍。サイズはリコリス程か、しかし鋭い爪に刺々しい尻尾は幻獣よりも攻撃的な印象を受ける。

 まさかシーラも魔物だったとは。少し驚いたが、リコリスと言う前例のおかげで腰を抜かす程驚くという事は無かった。



「――おー、以前に比べてちっこくなったな」

「うるさい、噛み千切るぞ」



 前はもっと大きかったのか。こんな厳つい見た目でデカかったら流石にチビるぞ。



「シーラ、乗って良いか?」

「ああ」



 ダイナ達がシーラの上へ乗る。なるほど、これなら直ぐに行けるな。こいつらだけ走るのかと思ってたけど流石に無いか。

 六曜のメンツがシーラに乗った後、リナリアも乗ろうとしていたが……



「お前は駄目だ」

「なんでさ!」

「3人が限界だ。重さじゃないぞ、スペース的な問題だ」

「えー!? 誰か飛べないのかい!?」

「飛べるわけ無いだろ……」



 リナリアは乗りたかったのに……としょんぼりしている。



「ハナ、その精霊にリナリアを乗っけられるか?」

「え? どうだろ。ユーリ、行ける?」



 ユーリはこくりと頷いた。面倒くせえから喋れや。



(ダメダメ、オイラのかっこかわいい神獣イメージが崩れる)

(神獣って柄じゃ無いだろ。お前のイメージが崩れた所で何も起きないから安心して崩れろ)



 と言っても、どう乗せるんだ? と思ったらユーリがリナリアを蔦で拾いあげ、俺の後ろへ座らせた。

 おお……何がとは言わないが結構デカい……ナイスだユーリ。



「お邪魔します。ハナちゃん、大丈夫かい?」

「はい、平気です。蔦をしっかり握って下さいね」

「ああ、思ってたよりも安定感があるね。これなら魔法も撃てそうだ」



 リナリアは片腕を回してやる気に溢れている。折角髪飾り返したんだから役立ってほしい物だ。



「よし、出発するぞ。ハナ、案内をよろしくな」

「わかりました。ユーリ、行こう」



 俺達は、レクスの出現地へ向けて出発する。セントレアやリコリスがいるから大丈夫だろうと頭では思ってはいる物の、やはりどこか焦りを感じてしまう。

 いかんな。こういう時、結局一番ピンチに陥るのは俺なのだ。俺は間違いを繰り返さない男、いや美少女なのだ。いつも以上に気合を入れる事にする。



「ハナちゃん、大丈夫かい?」

「え? ああ、はい。大丈夫です」

「そんな気負わなくても大丈夫さ。私、こう見えても結構やるんだよ? 大船に乗ったつもりでいなさい!」



 普段の扱いから少し不安なのだが……まぁ、魔導なんちゃらのルビアが太鼓判をすんだから大丈夫だろう。

 そんなリナリアの乳を背中で堪能しながらルマリへ向かっていると、正面にレクスの群れを発見する。先程俺が避けた群れだろう。時間からして、さっきよりもディゼノの方へ寄っているな。



「あれか。確かに黒いな」

「ぐむむ……ん、あのレクス、一回り大きい」

「ガーベラ、あんまり体をズラすな。落ちるぞ」



 観察していく間にも、俺たちは群れへと接近していく。



「リナリア」

「全部やって良いの?」

「まだいるだろうしな。それに、多少原形が保っていれば良い」



 ルビアが怖い事言っている。なんだ原形保ってれば良いって。もうちょっと穏やかにやれないのか。



「じゃあ行くよ~~」



 間延びしたような声で、リナリアが魔法を行使する。

 一瞬何かしたのか? と思ったが、恐ろしい事にレクスの群れが一瞬で消えた。

 いや、消えたという表現は誤っている。地が、大きなトラバサミの様に割れてレクスの群れを食い潰した。



「おいバカ、あれじゃサンプルが取れないだろ」

「今は急いでるんだからいいでしょ!! 遊びじゃないんだよ!!」

「リナリアに正論言われた……」



 今のは土魔法か。セントレアも使っていたが、規模がまるで違う。正に大魔法と言うに相応しい威力と範囲だ。今のだけでリナリアの見る目が変わってしまった。

 先程レクスの群れがいた場所へ辿り着く。大きく鋭利な岩石がレクスをスパイクして……うん! 見なかった事にしよ。グロいわ。



「仕方ない、このまま急ぐぞ」

「ハナちゃん、平気かい?」

「大丈夫ですよ、ジナさんも似たようなことしてましたし」



 魔物を討伐するところは何回か見てるからな。この程度ではへこたれないのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ユーリの女子受け意識への反応が辛辣で笑った [一言] キャラが増えてきたので登場人物紹介があると嬉しいです
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