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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
金木犀と春風の闇
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色々台無しですね

2018/11/04 会話表示修正、会話内容修正

 俺はレイという少年に連れられて、村を目指して森の中を歩いている。

 日は段々と暮れ、もうすぐ夕方へと差し掛かってくる頃だ。時間はどういう基準なのか知らんが。

 レイはしょっちゅうこの森に入るらしく、道を覚えているらしい。ここらの魔物も何とか1人で退治できるようだ。

 まだ小さいのに凄いな。最初見た時は頼り無さそうだったが成程、人は見た目で判断してはいかんな。



「魔物と言ってもスライムしかいないけどね。後は野うさぎとか野生動物しかいないよ」

「他に何か出くわしたことあるのか?」

「無いよ。まだ村の外はここしか来ちゃダメだって爺ちゃんに言われてるんだ」



 下位ランクのスライムなら10歳くらいの子供でも訓練さえきちんとしてれば大丈夫らしい。俺死にかけたんですけどね……。

 レイは爺さんに言われてここで薬草を採取しつつ、スライムで経験を積んでいるらしい。



「薬草なんて何に使うんだ?」

「僕の家は薬屋なんだ。爺ちゃんが薬師で色々な薬を作れるんだよ。特殊な物は冒険者さんにお願いするんだけど、簡単に取れる薬草は僕で採っているのさ」

「なるほど、子供なのに働き者だなレイは」

「ハナちゃんも子供じゃないか」

 


 普通の子供ではない、美少女だ。まだ子供のお前にはわからんだろうがな。

 だがなるほど、薬屋か。何処と無くレイから苦い香りがすると思ったらそういう事か。



「ハナちゃんは何も持ってないけど、どうやってここまで来たの? 食べ物とかどうやってやりくりしたの?」



 確かに何も持たずにどうやって来たんでしょうね……。俺が一番知りたいが。



(何とか繋いで下さいハナ様)

(へいへい)



 セピアよ、こういう時こそお前のサポートが必要なのでは無いのか。



「そうだな。例えばスライムを倒して食べたりとか」

「スライムって食べれるの!? 爺ちゃんが体に悪いから食べちゃダメって」

「……」



 ちょっとちょっとセピア?

 


(いやいや、問題ありませんよ? きっとその場で食べる人がいないだけで、持ち帰って食べる頃には腐り始めているのでしょう)

(本当か? 後で腹痛くなったりしないか?)

(大丈夫です。私を信じて下さい)



 そこまで言うなら信じよう。死にはしないようだしな。



「まぁ少し食べる分には問題ない。それよりも、レイは剣を使えるのか?」

「うん、まだ全然扱えてないけどね。将来は冒険者になって各国を旅したいんだ!」



 おお、異世界の王道だな。冒険者になって旅か……。

 俺はごめんだが。あ、でも温泉とか旅行は行きたい。浴衣姿の俺はさぞ可愛いんだろうな。



「そっか、でもまだ若いんだから無理すんなよ」

「だからハナちゃんも……あ、そろそろ着くよ」



 段々と木々が少なくなってきた。道も歩きやすい。

 前方に小さな柵が見えてくる。やっと人気ひとけが出てきたか。少し安心。



「ここが僕達の村だよ。小さな村だけど門はあるんだ。門の方まで周っていこう」



 俺とレイは柵に沿って歩いて行く。

 こじんまりとしているが、ボロいってわけじゃないな。そこそこ整備されているようで、俺が予想してたよりも不衛生では無さそうだ。

 なんとなく異世界の村って言うと木造のボロい家が何件か立っててガリガリの農民が鍬持って畑を耕してるイメージだからな。



(ハナ様、さすがにそれは偏見ですよ)

(それくらいで考えてたほうがもしそうだった時のショックが少ないだろ?)



 自分の外見の事以外だったらある程度は我慢できるしな。

 それからしばらく歩き、俺達は門の前へとたどり着いた。



「お、お帰りレイ。ちゃんと薬草は採れたかい?」

「シェクターさん、ただいま。うん、爺ちゃんが困らないくらいには採れたよ」



 門番らしい男がレイに挨拶をする。

 一応門番はいるんだな。と言う事は、賊とかそう言う輩もいるわけだ。物騒だねぇ。



「おや、その後ろにいる子は?」

「この子は――」



 お、来たか。さっきは失敗したからな。今度は外さないぞ。

 俺はフードを取ってシェクターと言う男を見る。



「初めまして、私はハナって言います! 旅をしていた所にレイくんと出会って、一緒にこの村へ寄らせて貰おうと思って来ました。よろしくお願いしますね、おじさま!」



 美少女特有のはにかみを忘れず、可愛く、流暢に自己紹介をこなす。

 やっぱりおっさんが女の子に一番呼ばれて嬉しいのは『おじさま』だよな。ハナ君、良い自己紹介をしているね!

 シェクターという男は、同じく笑顔で返答する。



「はっはっは、おじさまだなんて初めて言われたよ。俺はシェクター。この村の衛兵で、今は門番をしている。と言ってもただ立っているだけで通行証や手形は必要ないがね! よろしく、ハナお嬢ちゃん」



 おしっ、掴みはバッチリだ。やっぱイケるな俺。

 どんな相手にも笑顔を振りまいて幸せそうに話す美少女……。かわいいかよ。



「じゃあシェクターさん。僕たちはこれで」

「ああ、ダズさんによろしくな」

「はい!」



 俺とレイは門をくぐる。それでいいのか門番。どう見ても俺怪しいと思うのだが。



(ハナ様、小さい村なんかはこんなものです。場所によっては厳しいチェックが入る所もありますので、注意してくださいね)

(あいよ、もし行くことがあれば気をつける)



 まだ何処にいるかもわからんしなぁ。レイもまだまだがきんちょだから分からないことも多いだろうし。

 レイのお爺さんなら何か知ってるかもだな。ともあれ、まずはレイの家に向かうぞ。



 村の中は最初感じたどおり整備されており、小さいながらもいろんな店が並んでいる。

 すげー、マジの武器屋だ。後で見てみたいな。

 あ、服屋だ。あそこは絶対よらないとな。

 うお、重装備のおっさんがいる! あれこそ冒険者って感じだな!



「ぷっ、あはは」

「ん?」



 レイが急に笑いだした。どうしたんだろうか。



「どうしたレイ。何かあったか?」

「いや、ハナちゃんが目をキラキラさせながらキョロキョロしてるからつい」



 そんなにキラキラさせてたか? 普通に見て回ってただけなのだが。

 いやまて。目をキラキラさせながら楽しげに街道を歩く美少女……良い、尊いッ!



(色々台無しですね)

(セピア、お前だんだん容赦なくなってきたな)



 最初はあんなに俺をフォローしてくれたのに。悲しいなぁ。

 そこから数分歩き、俺達は目的の場所へとたどり着く。



「お、薬屋。じゃあここが」

「うん、僕の家だよ」



 他の店よりも少し大きいか? 2階建てになっているようで上にも窓がついており、店の前から既に結構な薬臭がする。

 レイは扉を開けて、中に入っていく。俺もその後ろに続いて中に入る。



「爺ちゃん、ただいまー! 薬草採ってきたよ!」



 レイがそう言うと、奥から歩いてくる音がしてくる。

 そして、身長高めな白髪の爺さんが出てきた。この人がレイの爺さんか。



「おつかれさん。レイ、いつもすまんのう!」

「いいよ、良い訓練になるしね!」

「そうかそうか、張り切りすぎて余り無理せんようにな」

「うん!」



 妙にはきはきした爺さんだ。見た目よりずっと若々しい。

 仲が良いみたいだな。俺はあんまり親族とは仲良くなかったから少し羨ましいぞ。



「で、そろそろ儚い系の少女にばったり出会って国ぐるみの大事件に巻き込まれ、壮大な物語になるような事はなかったかの?」

「もう! そんな事あるわけ無いっていつも言ってるだろ!」



 ……なんだこの爺さん。いきなりメタい事言いだしたぞ。

 孫が国ぐるみの大事件に巻き込まれて良いのかよ。つーかなんだ儚い系の少女って。

 そんな事を考えていると、爺さんが俺の方を向いてくる。



「え? マジ? 本当に少女に出会っちゃったの? 爺ちゃん冗談は好きだけどガチサプライズに弱いんじゃが……」

「この子はハナちゃんっていうんだ。森で迷ってたらしくて、ここまで案内したんだよ」



 レイのスルースキルを見る辺りしょっちゅうこんな事やってんだろうな。

 確かにちょっと曰く付きの美少女であるが。おっと、ちゃんと挨拶しなきゃな。



「初めましてお爺様。私はハナと申します。こういったお店にはあまり立ち寄ったことが無いのでとても新鮮です!」

「ほほ、ハナちゃんか。さっきの話は気にするな、ただの爺さんと孫のコミュニケーションじゃ。興味があるなら好きなだけ見ていくといいぞい!」

「はい! ありがとうございます、お爺様」



 せっかくだから見ていこうかと思う。ある程度この世界の事も知っとかんといかんし。

 それにそろそろ日が暮れる。金も無いし……金どころかこのローブ一枚に靴だけ履いた露出狂状態だしな。

 あわよくば泊めてもらうという寸法だ。少し変な爺さんだが、悪者ではないだろ。たぶん……。



(セピア、見れば大体わかるか?)

(はい、わからないことがあれば聞いて下さい)

(ん、わかった)



 レイの奴は薬草を倉庫に保管すると奥へ走っていってしまった。元気な奴だ。

 俺は店を回ろうと店頭の方へ向かうと、いきなり見慣れない物を発見する。



「これはまさか」

「それはポーションじゃな。なんじゃ、見たことが無いのか?」

「はい、孤立した村からの出なもので薬屋さんにこうして置いてあるのは初めて見ました」



 マジか、ポーションなんて本当にあるんだ。

 薄い青色の液体が、デカい土鍋の様な入れ物に入っている。

 俺の印象だとフラスコとかに入ってるイメージだったが。



(透明な容器はこの世界だと重宝されていますからね。基本は複数の入れ物を使い回している様です)

(飲みきって格好良くバリーンと割るのはダメなのか)

(少なくとも並の冒険者にそんな余裕は無いです)



 ガラスは希少なのね。その割にこの店はガラス窓がついてたけど。



(で、このポーションは体力を回復するのか?)

(はい、このポーションであれば多少の疲れと傷ならばすぐに治ります)

(すげー、これいっぱい持っていけば死なないんじゃね?)

(いえ、あんまり飲み続けて体内に蓄積すると効果が薄くなってきます。消化しきれなくなると戻してしまいますし)



 そこまで楽じゃないか。残念。

 確かに飲み過ぎたら腹がたぽたぽになるわな。



(ですので、出来るだけポーションは少量で高性能の物を持ち歩いたほうが良いでしょう)

(そこは懐と相談ということか)

(はい、後は自身の魔力を回復するポーションもあります。どちらを優先するかはその人次第ですが)



 回数制限が決められてるなら難しいな。出来れば回復薬いっぱい持っていきたいけど魔力が尽きたら回復した所でダメそうだし。

 ま、俺は冒険しないしそうそう酷い状況にはならないだろうが。


 俺は棚に目を移す。いろいろな丸薬や粉薬が紙に包んで置いてある。

 文字は……読めねえ。しばらくセピアの世話になるか。



「左からオムバ、サルビ……どちらも薬草をすり潰して粉末にしたものでな。腹痛や喉の痛みによく効くのう。気になる物があれば聞くと良いぞ、ほほ」

「あ、すみません……その、文字が読めなくて」

「気にするでない、その歳じゃ読める子の方が少ないぞい」



 そうなのか。10歳くらいって小4くらいだと思ったが。



(この世界の教育水準はアンバランスです。地方によってはまともに学習が出来ない場所もあります)

(成程な。じゃあ堂々と読めないって言っても大丈夫か)

(はい、追々学習していけば問題ありません)



 それから俺は爺さんに薬の効能を色々教えてもらった。

 因みに美容に良いものはなかった。チッ、やはり薬屋にはないか。日本の薬屋が色々置いて便利すぎるだけなんだよな。



「なんかめっちゃ不満そうじゃのう……」

「あら、そんな事ありませんよ? 親切に教えて頂きとっても嬉しかったです! ありがとう、お爺様♪」

「気にするでないぞい、ほほ」



 いいな、お爺様って言い方。すげー美少女っぽくて。なんでも許される気がするわ。

 ふふ、今後も美少女っぽい振る舞い方は研究しないとな。

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