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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
麗しき牡丹耽々と試む
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悪の女幹部か……フフッそんな美少女も悪くないか……

 白に近い金色の毛並みをした獅子が、少女を乗せ草原を駆ける。

 日を浴びて輝く獅子、他に類を見ない美しき少女を乗せて駆ける姿は、正に絵画の様な美しさであった。



(オアアアアアアアアアッ!! サッムッ!! 風がくっそ冷てェ!!)

(流石にこればっかりはどうにもならないよ。スピード落とす?)

(それはダメだ。何、バイクでかっ飛ばしてると思えばなんてことは無い。このまま飛ばせ!)

(バイクって何?)



 そんな美しさも俺の犠牲を以て成り立っている。

 時速100㎞はいってるだろ。髪が鬱陶しいのでパパっと纏めたが、それはそれで耳が露出して凍る!!

 しかし、これなら直ぐディゼノに着く。びゅんびゅん飛ばすぜ。



(ハナ、前方からさっきの黒いのが)

(マジか、突っ切れるか?)

(たぶん行けるけど、落ちるなよ?)

(え?)



 直後、ユーリが更に加速する。風圧で顎がグアッと上がった。ヤバい、速すぎる。

 早すぎてちゃんと前を見れないが、一瞬で黒い魔物……レクスの目の前まで到達する。



(お、おいユー……)

(飛ぶぞー)

「おふっ!!?」



 飛び掛かるレクスを振り払うように、蔦をバネにして前方へ飛翔する。

 きっちり蔦が俺を掴んでいるので落ちる事は無いが、めっちゃ風圧が凄い。ジェットコースターみたいだ。

 一瞬でレクスを振り切り、勢いよく着地を決める。



「よっと!」

「きゃんっ!」



 着地の衝撃が凄まじい。だが、なんとか意識を保てた。10歳の美少女にはキツいアトラクションであったな。

 後ろを振り返れば、かなりの距離を飛んだようだ。レクスが見えない。



(よ、よ、よ、よくやったぞユーリ。褒めてやる)

(大丈夫か? オイラ道分からないんだから気絶すんなよ?)

(へ、平気だ。このまままっすぐ行きゃ着くよ)



 こうして20分程走るとディゼノの門が見えてきた。どんだけ速いねん、予想以上だぞ。

 さてさて、門の様子は……うん、この間行った時と変わらんな。魔物は来てない様だ。さっきのがこっちまでついてきたら混乱するかもだ。

 相変わらず人が並んでいる。早く伝えないと。


 門へ近づくと辺りから小さい悲鳴があがる。魔物が来たのか!? と思ったがそうじゃなく、ユーリを見て悲鳴をあげているようだ。そりゃそうですよね。

 ちゃちゃっと守衛に声かけて中に入ろう。緊急事態だし順番抜かししても怒られないよな。



「すいませーん、ちょっと急ぎなんですけどー!」

「ん? 誰だ……って、ジナさんの子か。悪いけどよっぽどの貴族でもなければ融通は出来ないんだ、ちゃんと並んで――」

「ルマリのセントレア兵長から緊急報告です」

「何?」



 ルマリ、ディゼノ間草原にて黒い魔物が出現し、セントレアが交戦中。居合わせた俺がディゼノへ通達するように言われた事を告げる。

 急いで冒険者ギルドに行かねばならないと言うと、守衛は迅速な対応をしてくれた。



「こちらの衛兵長には私から伝えておこう。君は急いでギルドに伝達してくれ」

「はい、ありがとうございます!」



 以前出会った事のある人で良かった。ユーリもいるから初対面なら色々聞かれるだろうしな。

 後、俺はジナの子ではない。急いでるからスルーしたけど。


 門を抜けると歩いてる人達が一様に俺を、いや、ユーリを見る。だが、門から入ってきたのでそこまで騒がれてはいない。

 そういえば、首輪は付けたんだけど鬣で全然見えねえんだよな。意味あったかこれ? ……ま、まぁ、腕輪も付けてるし大丈夫だろ。

 おっと、そんな事を考えてる暇はない。早くギルドへ向かおう。

 うーん、人が多いからユーリで突っ走るのはまずいかな。



(屋根を伝う様に向かうのはどうでしょうか)

(……こいつの重さで屋根が壊れないか?)

(ルマリの様な小屋ならともかく、石造りですので問題は無い……と思います)



 セピアは相変わらず自信無さげだな! でも、一番手っ取り早いか。騒音苦情が出そうだけど。緊急事態だから許してほしい。



(じゃあ上から行こう。ユーリ、聞こえてたろ。上から行くぞ)

(おうよ、方向は?)

(あっちだな。スピードは落とせよ、勢いで建物に突っ込んだらヤバいし)

(そんなヘマしねーよ)



 まるで猫の様に、ぴょいっと壁から近場の建物へ上る。そういやライオンってあの図体でも木登りもするんだっけか。高所でもどっしりとした安定感がある。

 急いで俺たちは冒険者ギルドへ向かう。道を使わず直線で向かっているのですぐ着くな。


 と、思った矢先に前方に違和感を感じる。ユーリも気づいたようだ。

 これは――魔法か? 幾つもの光の玉が俺らに向かって飛んでくる。あれは当たって良い物じゃなさそうだな。

 街中に魔物がいる? 訳無いよなぁ。さっき見た通りみんな平然としてるし。




「んお? なんだ?」

「ユーリ、一旦ストップ。――ボタン」

「んー?」



 光には闇、これはゲームなら鉄板だよね! という事でボタンの闇魔法を頼る。

 魔法らしき光の玉が近づいてくる。 



「あの光を消してやれ」

「うい」



 最近覚え始めた言葉で拙く返事をすると、ふるふると震えて魔法を行使する。

 屋根の上なので遮蔽物が無く影が少ない……だが、ユーリの影から小さめの腕が幾つも飛び出してきた。


 その腕が、光の玉を受け止める様に立ちはだかる。腕とぶつかった光は、吸収されるように消えて無くなる。



「お、おお。お前こんな事も出来たのか。流石だぞボタン」

「きゅう」



 撫で回して褒めてやりたい所だが、街中で攻撃されたっぽいからな。警戒はしとかんと。

 でも。ギルドの方角から飛んできたな。冒険者の誰かがユーリの事を勘違いして攻撃してきたか?


 と思い至った所で新たに前方が光りだす。

 あれは……槍か? それが勢いよくこっちに――



「ってあっぶゥゥゥゥイ!!!」

「何事ォ!?」



 間一髪でユーリが避けた。光の槍が、上向きに弧を描いて空の彼方へと飛んで行った。



「だぁーっもうっ!!! さっきから何なんだ鬱陶しいっ!!」

「落ち着けってハナ。ほら、あっちの屋根の上に人がいるっぽいぞ」



 ユーリが蔦でチョイチョイと指し示す先には、確かに人が立って……いや、浮いてんな。なんか浮いてる玉に座っている。

 良く見れば小さい女の子。ケイカよりも少し濃い桃色の髪が印象的である。服装は洒落たローブで、見るからに『魔法使い』って感じがする。

 俺が言うのもなんだけどまたか女の子か。セントレアもそうだが俺の『可愛くて戦える美少女』枠が被るからやめてほしいんだが。

 その女の子が腕を組みながらこちらを見ている。ん? なんかこっちに寄ってきたぞ。



「お前良いな!! まさか闇魔法で返されるとは思わなかったぞ! 黒い魔物を作るだけじゃないみたいだな!」

「え?」

「ありゃその魔獣の魔法か? 良いね、面白そうだ」



 いきなり訳の分からない事を言われた。何者だ? 黒い魔物を作るってなんだ。もしかしてさっきの魔物の事知ってんのか?

 玉に乗った少女……玉少女が、じっとユーリを見ている。



「しかし、いきなりそんな魔獣をけしかけて来るなんて穏やかじゃないな。次の実験体はそれか?」



 嗾けたつもりは無いんだが。で、実験体ってなんだ。誰かと勘違いしてる?

 それにえらい好戦的だ。何も確認せずに魔法ぶっ放してる時点でアカン奴な気がする。話が通じれば良いのだが。

 俺は玉少女に聞いてみる。



「あのー……ちょっと良いっすか?」

「なんだ? 大人しく投降する気になったか?」

「いや、アンタの言っている事が何一つ理解できんのだが。実験体だのなんだの何の話だ」

「?」



 目の前の女の子は首を傾げている。

 頭の横をトントン指で叩いて、何かを考えているようだ。そして何かに思い至ったのか、口を開く。



「もしかして、黒き凶鳥(ネローチェ)ではない?」

「あ? 誰だそいつ」

「人じゃない、組織だ」

「なんじゃそのデザートみてーな名前の組織は」

(ええ~、オイラは格好良いと思うけどなぁ)

(そうでしょうか……)



 格好良さはどうでもよいのだ、それよりも、どうやら悪い組織の一員と勘違いされてしまっていたようだ。悪の女幹部か……フフッそんな美少女も悪くないか……。

 と、いかんいかん、いつもの発作が出てしまった。



「でもその魔獣は――」

「ああ、俺は魔物使いだからな。従魔だよ従魔。ちゃーんと冒険者ギルドで許可貰ってるぜ」

「……マジか」

「マジマジ、何だったらギルドマスターのねーちゃんにオイラの事聞いてみそ」

「しかもそいつ喋るのか……」



 何故かユーリがどや顔になっている。そもそもユーリは精霊なんだがな。

 玉少女はやっちまったと言う顔でぺちぺちと頭を手で叩いている。



「すまん!! お前らから変な魔力を感じたから勘違いした!!」



 玉少女が頭を下げる。変な魔力って失礼な奴だな。もうちょっと言い方あるじゃん?

 言いたい事は山ほどあるが、ルマリが心配なので文句は心の中で収めつつ、話を切り上げようとする。




「おう、急いでるからもういいか? 早く冒険者ギルドに行かないと」

「なんだ、ギルドに用があるのか?」

「ああ、緊急事態なんだよ。ルマリ方面にある草原で黒い魔物が沢山出てきたんだ。セントレア……兵長が今対応していてな」



 そう言った直後、玉少女は驚きの表情になる。

 なんだ、黒い魔物がどうこう言ってたから知ってるのかと思ったが。



「何!? 何故それを早く言わない!」

「そっちが先に邪魔したんじゃろがい!!」

「さっさとギルドへ向かうぞ! 行くぞ小っちゃいの!」

「オメーもチビだろが!!」

「まぁまぁまぁ、早く行こうぜ。ルマリがヤバいかもしれないんだから」



 少女が乗っている玉が動き出し、ぴゅーんと冒険者ギルドへ一直線に向かって行った。

 全く、躾がなってないガキだ。

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