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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
麗しき牡丹耽々と試む
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緊急クエスト開始だ

「せれあ」

「セントレアでし。セントレア」

「せれん」

「ワハハハ、ボタンはまだ三文字以上喋れないからな、仕方ないって」

「えさ」

「オイラは餌じゃねえよ!!」



 あの後、セントレアの終わりでし~と言う気の抜けた声で模擬戦を終えた。

 セントレアと実際にやり合ってみた感想は……俺、結構やれるんじゃね? この一週間ユーリに乗りながらの行動はしていたけど、戦うのは初めてだ。これだけ動ければ上出来だろう。

 


「どうよセントレア。中々やるもんだろ」

「想像以上に。ユーリくんより貴方の方が厄介かもしれないでしな。けど、一度見たら次は対策出来てしまうでし」



 初見殺しだからなぁ。多分次やったらボッコボコにされる。



「そういえば、魔法使えるんだな」

「ドワーフは土魔法を持つものが多いでし。血統に感謝でしな」

「いいな。今度ユーリに教えてやってくれよ」

「ユーリくんも扱えるのでしか? 少しの時間でいいなら作るでしよ」

「お、マジか。さっきの地面をドーンって叩いてボーンって爆発するヤツやりたい!」



 語彙力。確かに分かりやすいけども。

 なんにせよ、ユーリが強くなるのは良い事だ。俺は極力戦いたくないからな。



「うあ゛ぁ゛~……つっかれた。リコリス、膝~~」

「たわけ、こんな所で寝るな。そもそもお主、一歩も動いてないじゃろ」

「ったく、労いの言葉一つないのかよ」



 ぽふっとリコリスに寄っかかると、そのまま体重を預ける。

 見た目可愛い姉ちゃんの癖に幻獣らしくやたら力はあるんだよな。普通なら筋肉が主張してくるもんだが。全く、都合の良い体だぜ。



「すまぬな。我は物を教えるのが下手であるからの。しかし、相変わらず優柔不断なのは見て取れる」

「そうか? 結構テキパキしてたと思うんだが」

「いいや、攻める時は兎も角、守る時が危うい。必要なのは相手を良く見る事じゃな。動きは見えておるのじゃろう?」

「ジナさんにも言われたが……そうは言ってもなぁ」



 トレント、アウレアとの戦いで知った。俺、めっちゃ動体視力が良い。前世じゃあんなんまず見えないし、新しい体をもらった時にきっと特典として付けてくれたのだ。隠しチートと言う奴だな。

 あれだけ速いセントレアの動きもしっかりと見えた。どうやらヤ〇チャ視点とは無縁らしい。

 だが、見えた所で動けなければ意味が無い。守り……守りねぇ。ボタンに任せればいいや。

 丁度、ボタンが俺の元へとやってきた。



「はなー」

「良くやったボタン。褒めてやるぞ」

「んー」



 ジャンプしてきたボタンを受け止め、撫で回してやる。

 ボタンはふるふると震え、体を擦り付けている。一応、喜びの表現である。



「ハナ、一ついいでしか?」



 一休みと言って地面に座り込んでいたセントレアが立ち上がり、声をかけてくる。



「何よ」

「あのナイフを動かしてるスキル……」

「ノーコメント」

「じゃあスライムがなんで喋ってるのか……」

「一つって言っただろ」

「もうっ! 真面目に答えるでし!!」

「いたたっ、殴るな殴るな」



 セントレアが子供みたいに肩をポカポカと叩いてくる。言えないんだから仕方ないだろ。

 イルヴィラは何をやって……ニヤニヤしながらこっち見るのやめてもらえます?



「ハナ! ハナ! オイラどうだった!?」

「おふっ!? そうがっつくな。お前もめっちゃ役に立ったぞ」



 顔を擦り付けてくるユーリの顎を撫でてやる。鬣に隠れているが、ちゃんと首輪もついている。動きに違和感も無い様でなによりだ。

 結構激しく動いてたから毛がぼさぼさしてんな。帰ったらブラッシングしてやろう。

 ボタンはボタンで、撫でるのを中断した途端に腹をどついてくる。嫉妬深い奴だ。



「で、どうだ? セントレア的に、俺は何か問題あるか?」

「ナイフを遠隔操作出来る時点でかーなり問題アリアリでしが……まっ、ハナなら問題無しとして、国への報告はしないでし。面倒だし」

「こいつ衛兵として本当に大丈夫か。クビにした方が良いんじゃないか?」

「ほんにのう」

「折角黙っておいてあげるって言ってるのになんて言い草でしか!!」



 ぎゃいぎゃい騒いでいるセントレアの横で肩を竦める俺とリコリス。

 これでは見た目通りの駄々っ子である。20代後半がやってると痛いだけだが。



「さあて、それじゃあ二回戦と行くでしな」

「もうかよ。全然休んでないじゃん」

「長い休憩は不要。衛兵長は忙しいのでし。リコリス殿、準備はよろしいでしか?」

「ム、まぁ、問題は無いが」

「忙しい?」



 ユーリの悪意無い疑問を聞かなかった事にしつつ、セントレアはリコリスと向かい合う。







































「さて、幻獣の力、どれ程の物か――」



 セントレアが話している途中で、言葉を止める。

 先程までの様子とは違い、射抜くような鋭い眼光で草原を見遣る。

 それと同じく、リコリスも組んでいた腕を下げ、前へと出る。



「フム。何か、おるな」

「……イルヴィラ」



 セントレアが呼びかけると、イルヴィラは槍を差し出した。純白の鎧に似つかわしくない赤黒い大槍を受け取ると、槍を前へ突き出す様に両手で構える。

 二人の様子からして、俺ら以外に何かいるらしい。俺にはなんもわからんのだが。

 ユーリはと言うと、んー……と唸りながら何かに耳を傾けている。辺りの植物共が何か言ってるのかもしれない。



「どうしたユーリ。トイレか?」

「ちげーよ! 周りの植物がザワついてるんだ。何かに怖がってる」

「怖がってる?」



 俺が聞いた直後、幾つもの唸り声が草原に響いた。

 この鳴き声。以前に聞いた事がある。ノイモントへ向かった時に遭遇した、狼型の魔物『レクス』の遠吠えだ。

 しかし、この付近に出没するとは聞いていない。はぐれが偶々こちらに来たのならともかく、声を聴く限り一匹や二匹ではない。

 嫌な予感がするな。スライムが大量発生した時や、アウレアに襲われた時と一緒の感覚。

 ボタンが何も言わず、いつでも俺を守れるようにと服の中へと潜り込む。全くいつもながら頼もしいスラちゃんである。



「魔物が来る。ユーリ、次のは遊びじゃねえぞ」

「おおっ、ついに生魔物が見れるのか!!」



 雰囲気なんてお構いなしに、陽気な声で答えるユーリ。危機感と言う物が無いのかこいつは。植物ですら恐れを抱いているのに。



「ハナさん、ユーリ殿。私の傍から離れない様に」



 イルヴィラが剣の柄を握り、いつ魔物が出ても対処出来る構えを取る。

 以前、俺が攫われた時に大分自分を責めている様で、普段以上に鍛えているとハリスから聞いている。そんな気合入れんでも良いのになと思うが、俺の方がお気楽過ぎるのかもしれないと口にはしていない。



「ユーリがいるし、私も戦えますから大丈夫ですよ」

「さっきまで激しく動いていたのだから、無理をしては駄目よ。……でも、いざという時はお願いね」



 さっきまでセントレアとやりあっていたので戦力になるのは分かっているが、幼い子に戦わせるのは心が痛む。と、そんな気持ちが表情から伺える。



(ハナ様、下位の魔物であるレクスだからと言って油断は禁物です。いつでも迎撃出来る状態にして下さい)

(わっ、なんだセピアかびっくりした。喋るなら最初に言えよ)

(そんな無茶な! とにかく、以前みたく誘拐されないようにしてください)

(へーきへーき、今回はオイラがいるからな)



 以前リコリスに連れ去られた時の事か。確かにアレは迂闊だった。この場所は見晴らしが良いから流石に気付くだろうけど……自分の身は自分で守ろう。


 辺りで草をブチブチ毟る様な音が聞こえる。草が抉れるくらいの脚力で走っているのかもしれない。

 その音が、ピタリと止む。冷え冷えとした空気が辺りを包む。


 そんな空気を切り裂くように、草むらから黒狼が一斉に飛び出してきた。

 唸り声をあげながら、何匹もの黒いレクスがセントレアを襲う。



「シッ!!」



 セントレアの槍がレクスを貫く。何も抵抗も働いていないかの様に、するりとレクスを貫いた。

 それを一瞬で引き抜き、槍の柄で2匹のレクスを叩き潰す。わずか数秒で、セントレアの鎧が赤黒い血に染まっていた。



「黒い魔物……! まさか今、この場で現れるとは」

「数が多いのう。これは、ルマリやディゼノにも被害が行くやも知れぬな」

「ここで油を売っている場合ではないでしな。速攻で行くでしよ」

「心得た」



 そう言うと、リコリスの体が大きく、毛深くなっていく。幻獣形態だ。久々に見たな。

 見る見るうちに大きな化け狐へと変貌する。



「実際に見ると中々厳ついでしな」

「群れを相手にする時はこっちの方が手っ取り早いからのう。では、ゆくぞ」



 一歩、一歩とリコリスが歩みを進める。その度に、地が凍り付いていく。

 その異様な光景もお構いなしに、黒いレクスはリコリスへと牙を剝いた。



「ガアァァァァァァァ!!!」



 腹に響くようなどぎつい声を上げて、レクスを思い切り踏みつける。

 抵抗など与えないと言うように、一瞬で凍り付き、ガシャリと崩れる音を立てて命を散らす。

 2匹、3匹と犠牲が増えるにつれて、レクスは様子を見る様に周りを囲みだす。



「面倒でしな」

「フム、これだけの群れじゃ。統率する個体がおるはずじゃが」

「今のところは姿を見せない――か」



 二人は何十匹ものレクスに囲まれながらも、冷静に状況を分析する。

 ……待てや。こんな一杯いるの!? 流石に想定外なんですけど!?



「気を抜くなッ!!」



 リコリスの一喝と同時に、レクスが俺の元へと飛翔する。前に見たレクスよりずっと速い。

 しかし、こっちも前とは違う。



「うるせえ、自分の方に集中しやがれ!! おい、ユーリ!!」

「あいよー!」



 リコリスへ乱暴に返答しつつ、ユーリへと指示をする。

 勢いよく伸びた蔦を、レクスへと絡ませる。もがき抵抗を試みるレクスだが、硬く太い蔦をどうすることも出来ず、バタバタと足を動かしている。



「高く飛ばしてやれ」

「ほいさっさ」



 無様にもがいていたレクスが空高く放り投げられる。地面にたたきつけられたレクスは、体を強打して身動きが取れないようだ。

 ユーリの力ならそのまま蔦で体を引き裂いて……なんて事も出来てしまうだろうが、グロいので却下。俺の服が汚れるといけないしな。

 ブンブンと掴んでは投げ、蔦を振り払えばレクスが吹っ飛んでいくユーリの近くで、イルヴィラは堅実に、確実にレクスを倒し続けている。



「ハナさん、大丈夫!?」

「はい、まぁ自分は何もしてないですけどね」

「これだけの魔物、どこにいたんだよ!? 流石に誰か気づくだろ!!」



 ユーリの言う通り、これは異常な数だ。これだけの数が移動してればここに来る前に絶対気づく筈。

 それに、普通のレクスと違いこいつらは『黒い魔物』である。誰かが意図的にこの群れを放したのは間違いないだろう。



「想像よりも厄介な事になりそうでし。一刻も早くルマリとディゼノに連絡を入れなければ」

「ウム、丁度良い。我が主、聞こえておるか」

「おーん? なんだ?」



 唐突に呼ばれて、少し気の抜けた返事をしてしまう。



「お主、ちょいとディゼノまで行って現状を伝えい」

「あ? 何ご主人様パシッてんだよ。お前が行けよ」

「この状況で我が抜けれると思うか?」



 尻尾で振り払いレクスを相手取るリコリス。優勢ではあったが、セントレアの事が気がかりの様だ。

 しかし、セントレアは何の気負いもせずに言った。

 


「抜けていいでしよ」

「ム、しかしのう」

「イルヴィラ。ルマリに戻ってこの事をアーキスに伝える様に。門は閉じておくでし。シェクターに暫く見張らせるでしな」

「しかし兵長」

「ここで間引いておかないと被害が出る。この程度なら一人でも問題無い。何より、ルマリには戦力が私達しかいないから心配でし」



 聞く耳持たないと言わんばかりにまくし立てる。確かに老人と子供しかおらんからなぁ。ケイカやリアムはディゼノにいるだろうし。

 レイの奴、ちゃんとルマリの中にいてくれれば良いんだが。あいつ、すぐ厄介事に首出すからなぁ。……ううむ、心配になってきたぞ。

 俺が考え事をしている間に、セントレアが方針を決めていた。



「ハナとリコリス殿はディゼノへ。イルヴィラはルマリへ向かうでし。イルヴィラ、レクスは相手にするな。お前ならこの程度、群れで襲われようとも引き離せるでし」

「はい、急ぎ副兵長の元へ向かいます」

「ハナも良いでしね?」

「あ? 勝手に話を進めるな」



 レクスを捌いているユーリの上で、気だるそうに答える。



「リコリス。お前もルマリに行け」 

「何?」

「過剰戦力だろ。こっちはディゼノに着いちまえば後はどうにでもなる。ルマリは違うだろ?」

「小僧が心配か?」

「……あいつは関係ないだろ」



 こんな時に揶揄いやがって。幻獣の口元がぐいーっと上がる。笑ってるんだろうけど怖いわ。



「良い。そこの衛兵、ルマリへ向かうぞ。じゃが、我は村の外で待機する」

「それが良いでし。貴方がいれば安心でしな」

「しかし、それではハナさんが」

「平気だって、オイラが指一本触れさせねーよ!」



 イルヴィラが懸念をしていたが、それをユーリが自信満々に宣言し遮る。

 まぁ、こいつ全力出すとそこそこ速いし逃げ切れるだろ。馬車で2時間掛からないんだからチョッパヤで行けば30分もかからん。



「話は纏まったな。では行くぞ、衛兵」

「え? ちょ!?」



 いつの間にか近づいてきていたリコリスが、イルヴィラを尻尾で拘束する。あれ気持ち良いんだけど乗り心地最悪なんだよな。ズレ落ちそうで怖いし。



「主よ。お主は恐怖心いう物がすっぽりと抜けておる。いざという時も普段通り動けるのは良いが、恐怖から来る危機感が皆無なお主は、相手の力量が測れぬからの。くれぐれも、一人で魔物と対峙しようとするなよ?」

「こんな時まで説教かぁ? 心配すんな。さっさと行ってこい」

「やれやれ。……これが終わったら褒美をやる。絶対に無理をするなよ」



 俺の返事を待たずに、リコリスはレクスを群れを割く様に駆ける。

 尻尾から叫び声が聞こえる。かわいそうに……。


 リコリスと言う恐怖の対象が居なくなった為、レクスが攻めに転じる。

 しかし、先程以上に鋭く速い槍撃がレクスの胴体に風穴を開ける。



「じゃ、俺も行くわ。ギルドに言えば良いんだよな」

「冒険者ギルドに言えば自ずと衛兵にも伝わるでし」

「死ぬなよ。寝覚めが悪くなるからな」

「この程度では死なないでし。でも、速めにディゼノへ伝えてくれると私が疲れないで済むでし」



 にかっと笑って、セントレアはレクスの群れへと突っ込んだ。リコリスは俺に恐怖心が無いなんて言いやがったが、あそこに突っ込んでいくような奴の方がよっぽどだろう。

 無理をしている様には見えないが……万が一って事もあるし、急ぐか。

 


「緊急クエスト開始だ。行くぞユーリ、悪魔のZより速い事を証明してやれ」

「悪魔? そんな魔物もいるのか?」



 いないで欲しいと切実に思いながら、俺達はディゼノへ向けて出発した。

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