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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
麗しき牡丹耽々と試む
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美少女的にネコババは良くないからね

「酷いよマリー、いきなり拳骨食らわせるなんて……」

「貴様が大声を出すからだ」



 リナリアはたんこぶを擦りながら椅子へと座る。いきなり大声だすもんだから下の冒険者たちが何事かと駆けつけてしまい大混乱だった。

 事情を説明しなんとか落ち着いたが、リナリアはキツめの折檻を食らったようだ。



「で! で! で! その髪飾り!!」

「わっ!? なんですか急に」

「全然堪えてないのう」



 リナリアは前のめりになって俺へと近づいてくる。暑苦しい奴だ。

 どうやら俺が付けてる髪飾りに用があるらしい。



「それなんだけどね、私が落とした魔装具にそっくり……というか瓜二つなんだ。それ、もしかしてどこかで拾ったんじゃないかい?」

「あ! そういえばそんな事ありましたね」

「酷いよケイカ~~未だに探してたんだからねぇ?」

「ノイモントでの出来事が濃すぎてすっかり忘れてました」



 どうやら、この髪飾りの持ち主だったらしい。確かに拾った場所から近くはあるが……まさか副ギルドマスターの所持品だったとは。

 参ったな、昨日この髪飾りの有用性が分かったばかりなのに。なんとか誤魔化せないかな。



「いえ、自分で買ったヤツです」

「たわけ」

「あいたっ!? 何すんだ!!」

「嘘を付くな。拾い物だと言っておったろうに」

「サラッと嘘付くなお前」



 リコリスとジナから咎められる。クソ、両隣をキープされてるから下手な事言えんぞ。



「冗談ですよ冗談。確かにこれは拾い物です。リナリアさんのだったんですね」

「やっぱり! 出来れば返してくれると嬉しいなぁ。その分お礼はするからさぁ」

「……どうしても?」



 俺はうるうると目を潤ませてジッとリナリアを見つめる。

 上目遣いのウル目落とし。俺がこの半年で会得した必殺技だ。男だろうが女だろうがこの世で一番の美少女である俺に見つめられたら、誰だってたじろいでしまうだろう。

 案の定、リナリアは少し困った顔をしている。



「ハナさん、人の物なんですから返さないとダメですよ?」

「そうだぞハナ。人の物盗ったらドロボーだぞ。ネコババ美少女だぞ」

「貴様、今私を見て言ったか?」

「言ってねーですよ!! この人怖い!!」



 獣人がいる時は物の言い方に気を付けないとな……というか、ネコババのババはそういう意味じゃないけどな。

 しかしよりにもよってユーリに叱られるとは思わなかった。うーん、このままゴネても仕方ないので、大人しく返すか。

 というか言われるまでもなく返すつもりだったよ、うん。美少女的にネコババは良くないからね。



「ぐっ……うう……あうう……そうですよね……いえ、私が勝手に使ってたのが悪いんです……はい、これ……」

「ありがとう。ごめんね、お礼は必ずするから」

「めっちゃ未練たらたらじゃねえか」

「だって……これ付けるだけで魔力が冴え渡るから……魔法の調子も良いし……」

「え?」



 俺がそういうと、リナリアは驚きの声を上げる。なんだ? なんか変な事言ったか?

 さっきまでゆるゆるだった顔が、妙に強張っている。



「これを付けて何か変わったのかい?」

「はい。魔力が増えた様に感じました。後、魔力を動かすのがスムーズになったり。魔装具って言ってましたよね? これだけ分かりやすく能力が上がるなら凄い高そうですよね、これ」

「え? でもそれって――」

「ケイカちゃん、ストップ」



 ケイカが何か言おうとしていた所を、リナリアが遮った。先程強張っていた顔が、更に嶮しくなる。

 横を見れば、ケイカも難しい顔をしていた。

 ジナも異常に気付いたのか、リナリアへと話しかける。



「どうしたんだ? 能天気なお前がそんな顔するなんてよ。まさか、曰くつきの魔装具なのか?」

「いや、そんなんじゃないんだ。うん……そう、なんでもないさ。後、能天気は余計だよ!」

「何でもないなら良いがな。ハナ、ちゃんと報酬はガッポリ貰っとけよ? それ、結構高そうだからよ」

「おい、そろそろ本題に入りたいんだが」



 空気が緩くなったところで、マリーが割って入る。忙しそうな人なので、あんまり時間はルーズに使えないのだろう。



「ごめんごめん、邪魔するつもりは無かったんだ。そうだ、お茶持ってくるから先に始めてていいよ!」



 そう言ってリナリアはどたどたと降りていく。騒がしい人だ。

 マリーは申し訳なさそうな表情をして俺に話す。



「……すまんな」

「いえ、大丈夫です。元気な人ですね」

「ああ、リナリアが自分で言っていた通りだが、彼女はエルフなんだ。閉鎖的な種族ではあるんだが……アイツは少し変わっていてな。好奇心が強く遠慮が無い。気に障る事があったらハナも遠慮せず叱ってやってくれ」



 やっぱエルフか。閉鎖的な種族なんだな。確かに今まで一度も見た事なかった。みんながみんな、あんな美形なんだろうか。

 それから、話は本題へと移った。ケイカの幽霊事件から始まって、ノイモントで死にかけた所までざっくりと話す。

 ケイカの素性はある程度知っている様だ。ギルドに登録する際に、ケイカ自ら説明したらしい。


 一通り話し終えた俺は、リナリアが持ってきたお茶を少し啜る。

 温かくてホッとする。ほうじ茶の様な香りだ。これ欲しいわ。



「――そうか、幻獣アウレアに死霊術師……。ジナから聞いていたが、看過出来んな」

「なんで逃がしちゃったのさジナ」

「無茶言うな! 俺一人でヴィルポートの主を相手しただけでも褒めて欲しいくらいだぜ」

「逆になんで一人で相手できるのさ……」



 あの骨竜の事か。あれだけデカいのに怯まず立ち向かえるジナはやはり特別なんだろう。……そういや、さっきから言ってるヴィルポートの主ってどういう意味だろう?

 疑問を持った俺は、ヴィルポートについて聞いてみる事にした。



「あの、ヴィルポートって何なんです?」

「ヴィルポートと言う町があるんだが、その付近に住み着いている龍がいたんだ。それが、ヴィルポートの主と呼ばれる火龍だ」

「火龍の加護を受けた町、とも呼ばれていてね。ドワーフ達が住み着いて鍛冶職が盛んだったんだけど……今は大変だろうね」



 なるほど、予想はしてたけど地名なのね。で、そこに住み着いてた龍がヴィルポートの主と。

 リコリスと似た様なもんか。しかし、それが殺された上に死霊術師に使われてるとはいたたまれない。

 リナリアの言葉に、マリーが返す。



「そうだな。聞けば、ジナ達が遭遇する以前から姿を消していたそうだ。周辺貴族からチクチクと言われている領主も大変だろう」

「あの性格じゃたいして堪えてないだろうがな。しかし、ヴィルポートの主がいなくなったのはまずいかもしれないぞ。あの辺の魔物は火龍が統括していただろう。やれ調査だのなんだの言って、下手に刺激すれば魔物が暴れかねん」



 それくらい強大な存在だったのだろう。それを倒すくらい死霊術師も強かったとなると、思ってたより深刻な状態なのかもしれない。



「ジナの懸念通り、近々王都からの視察が入るそうだ。それどころか、ヴィルポートの主が討伐されたと聞いて所縁のある冒険者や教会の者達もこぞって来るらしい」

「てんやわんやだねぇ。マリーも行くの?」

「ああ、冒険者ギルドの本部からも煩く言われていてな。近々向かうつもりだ」

「別に近場って訳でもないのにねぇ。なんで態々マリーを指名するんだか」

「さてな。今に始まった事じゃないし、私がいなくても貴様がいればギルドは回るだろう」

「仕事が増えるんだよ~~私だってのんびりと旅行とかしたいんだから」



 緊急事態だと言うのに、リナリアはのんびりとしている。他人事、と言うのは言い過ぎだが楽観的な性格の様だ。

 その話を聞いて、ケイカはジナに尋ねた。



「ジナさんも行くんですか?」

「行かん行かん。暫くはディゼノにいるさ。レイやハナもいるしな」

「こんな時世じゃおちおち遠くにお出かけも出来ないねぇ。ジナ、丁度良いからそろそろギルドの職員になったら?」

「俺はまだ現役だよ。それに、堅苦しそうで俺にゃ向かんさ」

「またまたぁ、意外と面倒見良いんだから絶対相性ばっちりだって。子供もいるんだし、無茶しない方が良いよ~」



 ジナの身を案じてか、それとも茶化したいだけなのか、リナリアはジナへ揶揄うように言った。

 今まで大人しくしていたリコリスが、口を開く。



「少しよいか?」

「なんだ?」

「アウレアの件じゃが。我に任せてくれぬか? 出来れば、我の手で――」

「あー、なんだ、それはやめとけリコリス。いくら親子間の問題と言っても事が事だ。ギルドとしても一個人に任せる訳にはいかんだろ」

「ム、しかしのう」

「情報くらいは寄越してやれるがな。だが、勝手な行動は避けて欲しい所だ。衛兵とも提携しなければならない案件だからな。せめてギルドに一報入れてくれ。極力融通してやる」

「……すまぬな」



 リコリスは頭を下げて、礼を言う。

 アウレアも相当怪我してたからな、すぐ直るとはいえ暫くは表に出てこないだろう。

 しかし、こいつめ、まだアウレアを殺そうなんて思ってるとは。あんな可愛い子を殺すなんて世界の損失だろう。後で説得しなければ。

 俺が見つめていたのに気が付いたのか、リコリスは俺を撫でてくる。



「……心配せんでも、すぐ飛び出すような真似はせぬよ」

「んな心配してないわ。でも、何かする時はちゃんと言ってくれよ?」

「分かっておる」



 最初に出会った時より余裕があるのか、心なしか顔がゆるーくなってる気がするな。

 今なら多少ボディタッチもイケる気がするんだけど、また手を捻られてもかなわんのでそれはやめておく。



「んで、お話終わり? オイラもう飽きちゃったぞ」

「コラコラ、遊びじゃないんですよ」

「いや、もう大丈夫だ。貴様が危険で無い事は来た時から分かっていたが、一応話は聞かないといけないからな。ただ、あまりはしゃぎ過ぎて迷惑をかけるなよ?」

「分かってる分かってる。オイラ、スペシャルな精霊様だからね。人に迷惑かけないよ」



 ユーリは大きな欠伸をすると、スクッと立ち上がって猫伸びをする。

 本当に分かってるのだろうか。気性が荒い訳じゃないから手は掛からないが、力加減が分かってないフシがあるからそこだけが心配だ。



「もういい時間だねぇ。今日はおひらきかな」

「貴様はまだ仕事が残っているがな」

「そんな事言わないで、今日くらい早めにアガろうよ~~」

「ダメだ、先ほどの話を纏めておいて貰わねばな」



 ブーブー言っているリナリアを先頭に、階段を降りていく。

 先程に比べて大分人が減っている。もう夕方だもんな。依頼を終えて帰るのが大半だろう。

 入口まで戻ると、マリーが口を開く。



「ハナ、今日はすまなかったな。明日からはのんびりと過ごしてくれ」

「は、はい。ありがとうございました。マリーさんも無理しないで下さいね?」

「ああ、いつも以上にそこの大男をこき使わせて貰うさ」

「勘弁してくれ……」



 予想よりも優しかったので精神的疲れは無かったけど、それでも結構な時間話してたからな。家でぐーたらしたい。

 ユーリの首輪も買えたし、レイと爺さんへのお土産も買ったし、買い忘れはないよな?

 と、頭の中で確かめていると、リナリアが俺に話しかけてくる。



「ハナちゃん、ちょっといいかな?」

「はい? 何ですか?」



 俺が聞いた途端、いきなりむぎゅっと抱きしめられた。

 ……おお、良い弾力。結構なスタイルをお持ちだ。だが、いきなりなんだと言うのか。

 すぐに離れ、頭をぽんぽんと撫でられる。



「フフ、ごめんね。あんまり美少女だからつい可愛がってあげたくなってしまったよ」

「そ、そうですか。別にいつでも可愛がって頂いて良いですよ?」

「アハハ、じゃ、お仕事が落ち着いたらルマリにお邪魔しようかなぁ。この魔装具を見つけてくれたお礼もしなきゃだし、ね」



 冗談だったのに、ウチにお邪魔する宣言をしてきた。ま、リナリアなら美人だし愛嬌もあって可愛いから大歓迎だけど。ケイカもぜひ来て下サイとはしゃいでいる。



「じゃ、また今度ね、ハナちゃん」

「はい、ではまた」

「オイラもオイラも」

「はいはい、ユーリくんもまたね」

「おう!」



 最後まで騒がしかったが、なんとかディゼノでの一日を終えた。

 気負いすぎだったかな、二人とも普通に良い人だった。しかし、リナリアの行動は何か引っかかる。髪飾り返した時もそうだし……あ、そうだ。髪飾り返したから頭が寂しくなってしまった。新しいの買わないと。

 また近いうちにディゼノに来ようかな。リコリスいれば二人でも問題なさそうだし。服も欲しいしな、今度はゆっくりと店をめぐろう。

 家に着く頃にはリナリアの事が頭から抜け落ち、新しい装いをどうしようかという考えにシフトしていた。


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