俺が言えるのは自分が最高の美少女だって事くらいだぞ
「ふぃ~~、美味かった。量も丁度良かったわ」
「そうですね、では、お待ちかねのデザートと行きましょう!」
「え? まだ食うの?」
そう言うと、ケイカに何言ってるの? みたいな目で見られた。いや、女の子だから甘い物食べたい気持ちは分かるが。
「当然なのよ……むしろメインディッシュはここからなのよ……」
「ロメリアさん結構食べてたみたいだけど大丈夫なんです? そんで酒とか飲んでて味とか分かるんです?」
「問題無いワ。女の子には二つの胃袋と二つの舌があるのよ……」
「化け物かな?」
人見知りなのに慣れてくるとめっちゃ冗談言うなこの娘。ケイカが、いつもの事なので気にしないで下サイとメニューを見ながら言ってくる。
デザートか。俺は良いかな……しいて言うなら水がもう一杯欲しい。でも、水もお金取られるのよね。いや、無料で飲めた前の世界が贅沢過ぎたかもしれん。
「じゃあ私はこのプリンがいいのよ」
「良いですね、私もそれで」
「ム、ビャカの蜜漬けもあるのか。これが良いかのう」
「きゅっ、ちゅう」
皆ノリノリで頼んでいくな。そういうの見てると微笑ましい……いやまて、俺はあの中に入りたいからこうして飯屋に来たんだ。これじゃ保護者のおっさんだ。
「ハナさんは何にするんです?」
「え? じゃあ……お茶貰える?」
「……」
皆してそんな顔すんなよ。良いじゃないお茶くらい。甘い物より渋いお茶が好きな美少女だっているんですよ。
結局、ワッフルみたいな柔らかいパン生地のデザートを注文した。後お茶。
「で、この後はどうするよ?」
「どうするよ? ではない。冒険者ギルドへ向かうぞ」
「ちぇっ、覚えてやがったか」
「そんなに行きたくないんですか?」
ケイカが心配そうに聞いてきた。あんまりごねるから、変に勘繰られてしまったか。
「いんや、面倒なだけだよ。そんな心配するなって」
「その、何かギルドに嫌な思い出とか……」
「無い無い、冒険者ギルドに行った事すらないし。大丈夫だよ」
俺はケイカの頭をぽんぽんと撫でる。これじゃどっちが年上か分からんではないか。中身は俺の方が上なんだけどさ。
「安心せいケイカ。主は図太いからのう、過去に何かあってもなんとも思っておらぬさ」
「お? 何? 喧嘩売ってる? 超繊細なハート持ってる美少女にそんな事言っていいのか? この場でギャン泣きして冒険者ギルドに幻獣討伐依頼出すぞ?」
「これだからのう……嫌な思いをした所で、その場で発散するに決まっておるわ」
リコリスは呆れた様に言って、ひょいとビャカを口に入れる。
この獣め……俺はすかさず手をリコリスの乳へと近づける。少しお仕置きが必要だああああい痛たたたた!!!! 指が千切れるぅぁぁぁ!!!
「とっても仲が良いのよ……」
「ハナさん、女の子なんですからそんな汚い言葉を使ってはいけませんよ?」
そんな事言ってないで助けてくれ!! このままじゃ俺の繊細な指が芸術になる!!
「やっぱりここのプリンはとろっとろで甘いですねぇ~」
「きゅう」
「無視かてめえらァァァ!!!」
「だって心配するなって……」
「そういう意味じゃねェェェェェェ!!」
「これ、周りに迷惑がかかる。声を抑えぬか」
追い詰められた山賊みたいな声を出しながらお昼のデザートタイムが過ぎていく。周りの人の視線が妙に生温かかった。こいつめ……絶対いつか揉みしだいてやる。
食事が終わり、俺たちは店を離れる。
「いたた……まだ痛むわ。リコリスのバカ」
「だからやり過ぎたって謝っておるじゃろ」
「いーや、誠意が足りん。帰ったら一緒にお風呂入ってくれないと明日以降も拗ねる」
「二言目にはセクハラ発言ですからね、そういう所ですよ」
ケイカがジト目で俺を睨んでいる。そんな穴が開くほど見つめるなよ、照れるだろ。
俺らが喋っていると、お金を払い終えたプリムが声をかけてくる。
「これから冒険者ギルドへ向かわれるのですか?」
「はい、元々ギルドに用事がありまして。プリムさんは?」
「ロメリアさんに付き合いますよ。他の人に迷惑をかけるかもしれませんからね」
「うう、まるで子供扱いなのよ……」
実際そうだからな。聞けば、この子はまだ16歳。この世界では大人でも、俺にとっちゃまだまだ子供だ。
そんな子が鎧を纏って魔物と戦うのは考えさせられる話だが、俺がどうこう言っても仕方あるまい。
「では、私達は先に行きますね。早く鎧を着せてあげないとこの子が危ないので」
「別に危なくないのよ……」
「顔隠して歩いてたら危ないに決まってるじゃないですか。ほら、行きますよ。……ああそうだ、教会にはいつでもいらして下さいね」
「ああっ、手を引っ張らないで……」
プリムはそんなロメリアを引っ張る様に去っていく。
中々濃い二人だったな。昨日出会ったセントレアもそうだったけど。
「ケイカ、冒険者ってあんな感じのばかりなのか?」
「ロメリアが特別変なだけで……いや、アルスも大概……フロクスさん……スノーさんもアレだし……」
「……」
冒険者とは一癖も二癖もある人間の集まりらしい。ヨルアのおっさんやリアムみたいな普通の人が逆に珍しいのかもしれない。
さて、ロメリア達も行ったことだし、俺達も行くか。
「じゃ、帰るか」
「たわけ」
「あーん、尻尾で拘束しないで!! 服に毛が付く!!」
「阿呆な事言ってないで行くぞ。もう十分見て回ったじゃろ」
リコリスの長い尻尾に巻き付かれながら、俺達は冒険者ギルドへと向かった。
目の前には大きな建屋。入口に西部劇出てきそうな扉がある。あれ一回バターン! って思いっきり開けてみたかったんだよな。やったら怒られるからやらないけど。
先頭を歩いていたケイカがその扉を開ける。キィ、という錆びた金属が擦れる音が聞こえ、俺たちはそのまま中へと入る。
酒臭いと思いきや、そうでもない。思っていたよりも空気の通りは悪くなかった。所々窓あるし、風通しは良いんだろうな。
目の前に受付がある。ホテルの受付みたいだな。カウンターに三人ほど女性が控え、各々冒険者を対応している。
その一人が、俺たちに声をかけてくる。
「あら、ケイカちゃん。待ってたわ」
「お疲れ様です。ハナさんとリコリス様を連れてきましたよ」
「うん、ギルドマスターを呼んでくるからちょっと待っててね」
受付のお姉さんはそう言うと、二階へと上がっていく。
その間も、俺は周りを見渡してどんな所なのか見ていた。
ほお、依頼ってあんな感じで紙で貼ってあるのな。で、ランクによって分けられていると。紙を引っぺがした冒険者が、受付へと持って行って話し込んでいる。
「どうした、主」
「うんにゃ、どんな風に依頼受けてるのかな~って思って」
「……興味があるのか?」
「まさか」
あくまで好奇心。冒険者になりたいとは思わない。ただ、旅はしてみたいなとは思うが。魔物と戦うなんて勘弁である。
やるとしても薬草集めるとか店のお手伝いするとかそういうのだな。ま、冒険者としてのお金稼ぎはケイカに頑張ってもらおう。俺、まだ子供だし。
そうして冒険者達(主に女の子)を眺めていると、少し離れた場所からガスガスと大きな音が聞こえてきた
「はいドスコーーーーイ!!!」
「がふっ!?」
ずどんと落ちる音がすると思ったら、ユーリがガタイの良いおっさんを思い切りぶっ倒していた。あのバカ何やってんだ。
思わずユーリの元へ向かおうとすると、横からジナが声をかけてくる。
「おう、お疲れさん。どうだ、店巡りは楽しんだか?」
「んな事より何やってんだアイツ。迷惑かけてないだろうな?」
「問題ねーよ。寧ろあの冒険者共から始めた事だぞ?」
「え?」
ジナがユーリを連れてきた時は大騒ぎだった。剣を抜く奴さえ出てきたが、ジナが事情を説明すると収まった。
しかし、それならと力比べをしたいという冒険者が出てきた。そこで、戦うというより相撲の様な相手を押し合う試合でやろうという話になったらしい。
ユーリもノリノリなのか、来てからずっとあの調子なのだと。
「おい」
「おうハナ! ここ最高だぜ! 飯は食えるし遊んで貰えるし、冒険者って良い奴ばっかだな!」
「怪我させとらんだろうな」
「へーきへーき。良い受け身の練習になるって言ってくれるし」
確かにこんな化け物に突進される機会ないだろうしな。
俺は倒れている冒険者に声をかける。
「あの、大丈夫ですか?」
「おう悪いな……お? なんだ嬢ちゃん。どうしてこんなとこにいんだ? 依頼か?」
「あ、いえ、そうじゃなくて……」
「こいつがハナだよ。その精霊の飼い主だ」
「へ? そこの嬢ちゃんが?」
ガタイの良いオッサンはなんともなかったかのようにむくりと起き上がった。結構派手な音したと思ったが、見た目通り丈夫だな。
「どした? 意外そうな声出して。ちゃんとさっき話しただろ?」
「いや、ジナの旦那が言うにはもうちょっとこう……お転婆で大暴れするようなイメージだったからな。まさかこんなお淑やかな子だとは思わなくてよ」
「……ジナさん?」
ジナはさっと俺から視線を逸らす。
この筋肉ゴリラめ、どんな説明しやがったんだ?
「ま、なんにせよ心配いらねえよ。俺も他の奴も、そんなヤワじゃないさ。と言っても、あんまり暴れてっとギルドマスターにボッコボコにされるけどな!」
「そんな怖い人なんですか?」
「ハハ、怖がらせちまったか? 嬢ちゃんにはそんな強気にゃいかねえさ。ジナの旦那にゃ容赦ないけどよ」
「ありゃスキンシップだ、スキンシップ」
「おいおい、スキンシップで受付のテーブルぶっ壊すヤツがあるかよ」
「ワハハハハ!!」
ワハハじゃないよ。頭にスポンジでも詰め込んでんのか。
俺が呆れてため息をついたと同時に、階段から受付の子が降りてきた。
その後ろに、結構な美人のお姉さん。おお、猫耳だ。ん? どっかで見た様な……気のせいか。
「貴様等、何を騒いでいる。備品をぶっ壊したら張っ倒すぞ? さっさと依頼をこなして来い」
「いやいや、折角精霊がいんだ。こうして遊んで貰う方が俺達の為になるってモンだぜマリーさん」
「はあ。貴様達がこうしてる間にもどんどん仕事が積み重なっていくんだがな……」
いきなり怖い事言いつつお小言をカマしてくるこの人は恐らくギルドマスターだろう。
何というか姉御って呼びたくなるような性格してんな。あ、でも耳がピコピコしてて可愛い。動物の耳って何故か良く動くよな。
そのマリーと言うギルドマスターが俺に近づいてくる。
「君がハナかな?」
「は、はい。初めまして」
「初めまして。私はマリー、この冒険者ギルドのマスターを勤めている。ジナから話は聞いているよ。ここまでわざわざありがとうね。疲れただろうが、少し話に付き合って欲しい。二階に来てくれるかな?」
「わかりました」
同時に、ジナもユーリを連れてくる。どうやらケイカ達を探しているようで、俺に問いかけてきた。
「ケイカとリコリスはどうした?」
「あっちで依頼見てますよ」
「ちょっと呼んでくるわ。先にユーリと上がっててくれ」
俺はマリーの後ろについて、二階へと向かう。
……ちゃんと猫の尻尾があるな。細くて黒い毛がシュッと並んだ毛並みの綺麗な尻尾だ。なんでこう、猫の尻尾って触りたくなるんだろうか。触ったらぶっ飛ばされそうだから触らないけど。
二階にもいくつか部屋がある中で、マリーは少し小さめの豪華な扉を開ける。中は机と椅子が並んでおり、前の世界でいう所の会議室の様な印象だ。
「余り片付けていないんだ。狭くてすまないが、かけてくれ」
「はい、失礼します」
少し傷んでいる木製の椅子に腰かける。……へんな傷み方してるな……これで乱闘とかしてないだろうな。
ユーリは俺の隣で大人しく座っている。こいつが静かだとなんか不気味だ。
(なあハナ)
(なんだ?)
(昼飯結構良い物食っただろ。ずるいぞ、オイラも食べたい)
(今度また連れてってやるから今は真面目にしてなさい)
静かだと思ったらこれですよ。なんで俺の従魔は飯の事しか考えていないのか。
そんな暢気な会話をしているとは知らず、マリーは目の前に座りじっと俺を見てくる。
……気まずい。こういう人は最初の掴みが難しいんだよな。俺がどうしようか考えていると、マリーの方から口を開いた。
「その、なんだ。お菓子……食べるか?」
「え?」
「あ、いや、なんでもない」
「……」
「……」
なんか凄い困ってるように見える。さっきの印象と全然違うな……どうしたんだろうか。
「あの」
「ん? なんだ?」
「今回、何故私を呼んだか教えて欲しいんです。ジナさんから一通りは聞いているんですが、一応ギルドマスターさんから直接聞きたくて」
「あ、ああ。そうだな。あいつの事だ、大分端折っているだろうし」
なんかめっちゃ汗出てるな。ユーリの事気にしてるのか? いや、さっきの様子からしてまずありえんな。襲い掛かられてもジナみたいに撃退しそうだわ。
「君には聞きたい事があるんだ。黒い魔物の事、ノイモントでの出来事、精霊の事」
「オイラ?」
「そうだ。そして、ハナ。君の事もだ」
「私の事、ですか」
まずいな、ユーリの事はともかく、俺の事はあんまし言えないんだよ。でも、この人に凄まれたら全部白状してしまいかねない。気を引き締めないと……。
少し顔が強張ってしまったのが分かったのか、マリーは慌てたように俺へと話す。
「ああいや、身構えなくても良い。そんな根掘り葉掘り聞くつもりは無いからな。言える事だけ言ってくれ」
「は、はあ……」
そんなこと言っても俺が言えるのは自分が最高の美少女だって事くらいだぞ。それでいいなら小一時間ほど語れるが。
と、話をしていると後ろから扉を開く音が聞こえた。
「おう、待たせたな」
「へええ、この部屋ってこんな感じだったんですね。ちょっと狭いかも」
「あいたっ!? これ、頭をぶつけたぞ! 扉が小さすぎるのではないか!?」
「俺もよくぶつけてたな……早く改装してくれよマリー」
「……喧しい奴らだ」
どうやらジナ達が来たようだ。マリーの言う通り騒がしい。リコリスが頭を擦っている。
その後ろから、金髪の綺麗なお姉さんが入ってきた。誰だろう。
「ほら、早く入った入った! ……マリー、大丈夫?」
「大丈夫とはなんだ」
「君、子供が苦手だろう? どうせあたふたして何も話せなかったんじゃないかい?」
「そんな事は無いぞ。なあハナ」
俺にふるんかい。あんた子供苦手だったんか。通りでどこかギクシャクしてると思った。
マリーと会話した女性を見る。おお、金髪美人だ。スタイルも良い。おや、耳がとんがってるな。まさかこの人エルフじゃなかろうか。初めてみた。俺ハーフエルフなのにな。
とりあえずマリーに言葉を返しつつ、女性に聞いてみる。
「え? まあ、そうですね。と言うか貴方は?」
「おっと、自己紹介が遅れたね。私はリナリア。ここの副ギルドマスターだよ。気軽にリナと呼んでね!」
「私はハナです。よろしくお願いします、リナさん」
「君が噂のハナちゃんね。聞いていた通りまるで絵に描いたような美少女だ。エルフから見てもとても美しい髪……髪……」
途中まで流暢に話していたが、いきなり壊れたラジカセみたいになった。どうしたんだ。
隣にいたケイカが不思議そうにリナリアを見ている。
「リナさん? どうしたんですか?」
「か……」
「か?」
「髪飾り見つけたァァァァァァァ!!!!」
俺の頭を指差して、リナリアが叫んだ。




