私の次くらいに美少女と言っていいですよこれ
途中で切るとどうしてもキリが悪かったので少し長めです。
ナッツの装飾店から出た後は、自由気ままに店を見て回る。
当然服屋にも寄ったが……どれも似たようなのばかりだな。実用的と言うか、洒落た服は少ない。
王都まで行けばそんな服もあるのだろうか。腕の傷も治さなきゃならんし、いつか必ず行かないとな。
「腹減ってきたな。折角だしオシャンティ~な店で飯が食べたい」
「このまままっすぐ行けば美味しいランチのお店ありますよ。私も良くギルドの友達と行きますし」
「お、いいね。女の子同士でそういった今時な店入ってさ、注文した飯を食べ比べて『次来たらこれ頼んでみようかな~』みたいな会話をしたいんだよ」
「なんか目的がズレてはおらぬか?」
いや、料理の美味しさも当然必要だし楽しみだよ? そうじゃなくて、皆で飯屋入ってお話ししながら食べる飯が好きと言うか。
自分で料理作って振舞うってのも良いと思うけど、お店の料理を食べ比べるのも嫌いじゃないし。雰囲気が好きなのよ、俺は。
「私はハナさんの言う事分かりますよ。少し前まで私、友達いなかったですし」
「突発的に悲しい事いうなよ……ハナちゃんシリアス苦手なんだから」
「言った所でハナさんは気にしないじゃないですか」
元箱入り娘のケイカは、呪いをかけられる前は余り人とつるまなかったようだ。
でも、仲の良い子がいたとして、既に生きてるとは思えないからな……ケイカがどれくらい寝てたか知らんが、あの家の老朽具合を見れば相当時間が経っているのは分かる。
そういった意味だと良かった……と言えるのか、難しい所である。だが、ケイカがどんな人生送っていようが関係無しに今を楽しんでいるだろうな。強い子だから。
なので、俺も気にせずいつも通りの返事をする。
「そりゃケイカだしな。ま、昔の事は気にすんなよ。飯行こうぜ飯」
「言われなくてもそうしますよ。ほら、早く行きましょう!」
「お、おおっ! 押すなって!」
ケイカがぐいぐいと俺を押しつつ前進する。この強引な所はもう少し直した方が良いと思う。
俺はケイカに押されたまま、目的地の店へと向かうのだった。
少し歩いて、お目当てのお店へとやってきた。
飯屋……と言うよりカフェだな。元の世界の知識バリバリ使ってます感が凄い。
こういった知識や文化も先輩方の尽力あっての物だろう。異世界感は薄れるが、見慣れてる分不安にはならない。
「外のテーブルで食べます?」
「外のしか空いて無くね?」
「待てばよかろう。寒いのは苦手であろう?」
「んー、今は日が出てるしそこまででもないかな。折角だし旅行雰囲気味わいながら食おうぜ」
「遊びで来てる訳ではないがのう」
早速店へと向かう。屋内は満員で、外の席が辛うじて空いている程度だった。
まだお昼になる前だというのに、ここまで混んでいるとは。
「んーどっこいせっと」
「相変わらずオヤジ臭いですね」
「ずっと立ってたから疲れちまったよ。ふいー、えーっと何々……」
席の中央にメニューっぽいのがある。こういう所も現代チックだな。楽だから良いけど。
中身を見てみると……うーん、流石に写真はないよな。どうしよ、名前じゃ判別付かないのばかりだぞ……。
「ケイカ、いつも何食べてるんだ?」
「そうですね、大体ここで食べる時は依頼を受けない日ですから……結構がっつりお肉食べちゃったり」
「だから少し腹が膨れてきたのか」
「違います!!! これは今までが痩せすぎてただけですぅ!!!」
「わかったわかった、で、どれよ」
頬を膨らませながらメニューを指すケイカ。
ほお、シチューとかあるんか。いいね、寒い日はあったかシチューに限るわ。
「んじゃこれで。二人はどうする?」
「う~~ん、悩みますねぇ……そうだ、あっさり系のパスタで行きましょう」
「きゅう、ちゅ」
「ぐおっ!? わかったわかった、お前はこれな」
「きゅう」
ボタンが忘れるなと言わんばかりに主張してくる。選ぶのは良いんだが、何の料理かわかっているのだろうか。
というかパスタとかあるんか。原料は小麦粉だっけ。確かに製法さえ確立してれば作りやすそうだな。量産も出来るだろうし。
後はソースか……後でケイカが頼んだヤツつまみ食いしよ。
「苺はあるかの?」
「メニューに書いてないんだから無いだろうよ……」
「そうか……」
このおばんは本当にブレないな。いきなりデザート注文するとは。
苺か……ノイモント以外でも流通しているのだろうか。あそこから持ち出すと途中で鮮度落ちそうだしな。リコリスの氷魔法が無いと辛そうだ。
結局リコリスは鳥のから揚げっぽい料理を頼んでいた。多分、昨日のお昼に食べた鳥皮が気に入ったんだろう。
「混んでるし結構かかるかもなぁ」
「まだ時間はありますし、ゆっくりしましょう」
「ウム、怪しい人物もいないようじゃしな。そも、人が溢れる程集まっておる場所で揉め事を起こすような輩はおらぬか」
そういや俺、狙われてるんだったな。あれから2週間程しか経ってないのな。既に半年くらい経ってると錯覚するくらい濃い日が続いてたからな。全く、おちおちランチも楽しめんとは。
ついきょろきょろと見渡してしまう。すると、他の客だろうか、外の席に座る二人の女性が目に入った。
片方はこの寒い中薄着のシャツを着ている。そして、何故か常に顔を手で覆い隠しているので顔は分からない。もう片方は、修道女の様な服を着ている。こっちにもシスターとかいるんだろうか。
「あの、そろそろその手を退けて頂けると――」
「ダメよ、どうしてもダメ。顔が見えちゃうのよ……」
「ですが、それじゃ食事も出来ませんよ?」
「最悪お皿に口を近づけて食べるワ」
「はしたないからやめて下さい……」
何やら女性同士の会話とは思えない話が聞こえる。この世界、変な人多いな……。
「どうしたんです?」
「あそこにいる二人が気になって」
「ム? あれは修道着ではないか。知り合いがおるのか?」
「いや、なんか変な会話してて」
俺が言うと、三人で同時に耳を傾ける。うん、俺らも中々にお行儀が悪い。
「シスター・プリム。何とかならないの?」
「いえ、普通に手を退ければいいだけじゃないですか」
「ダメなのよ……恥ずかしいワ。その帽子みたいなの貸してほしいのよ」
「それこそ駄目ですよ、鬼人である貴方の場合、角を出す穴が無いと破れてしまいます」
「でも、それが無いと困るのよ……」
「こっちが困ってます」
どうやら何としてでも顔を隠したいようだ。何かの要人だろうか?
というか、あの子鬼人なのか。肌が赤っぽいイメージがあったけど普通だな。でも、ガタイは確かに良さそうだ。しかも薄着でそこそこおっぱいデカい所が良い。
隣を見ると、ケイカがうんうん唸りながらその女の子を凝視している。
「どうした? 巨乳を睨んでも胸は大きくならんぞ」
「違います!! そんなんじゃなくて。あの子、もしかして……」
「え? お、おいケイカ」
立ち上がったと思ったら、その二人の席へと向かっていくケイカ。
俺が声をかける間もなく、ケイカはその女の子へと話しかける。
「ちょっと失礼します。貴方、ロメリアですよね?」
「その声は……ケイカちゃん?」
ケイカはふうっと息を吐く。どうやら知り合いだったようだ。
でも、あんな個性的な子なら一目見ればわかりそうなもんだが。
「やっぱり。いつもの鎧はどうしたんですか」
「兄さんにとられたのよ……昨日、依頼で少し凹ませちゃって……」
「だからってなんで手で顔覆って外に出るんですか……」
「さっきまでその凹んだヘルム付けてたら兄さんが無理矢理外していったのよ……酷い兄貴だワ」
凹んだヘルムそのまま付けてたのが悪い気がするが……そんなに顔を見られたくないのか。
その横から、シスターが話しかけてくる。
「貴方はロメリアさんのお友達?」
「はい、冒険者のケイカです。こっちは一緒に暮らしてるハナさんと、リコリス様です」
「プリムと申します。ロメリアさんとは多少縁があって、偶々見かけたので取り合えず座れる所で話を聞こうかと思ってたのですが……」
プリムは丁寧にお辞儀をしつつ、状況を説明してくれた。
ううん、かなり美人だな。話が頭に入ってこねえ。シスター服のお姉さんなんてあっちの世界じゃあんまり見ないからついまじまじと見てしまった。
「そうだったんですか。というか、ロメリアの素顔初めてみました……いや、見えてないですけど。そうだ、折角ですからお昼、ご一緒しませんか? ハナさん達も良いですよね?」
「ん? 別にいいけど」
「ウム」
丁度席が近い場所にあったので、ちょっと椅子と机を近づける。後で戻せば怒られないよな?
その間も、ロメリアはずっと顔を隠したままだった。う~~ん、気になる……友達のケイカですら見た事無いとは。
「あの、ロメリアさん」
「えと、貴方がハナちゃん? ごめんなさい、初対面がこんなみすぼらしい状態で」
「いや、そうじゃなくて……なんで顔を見られたくないんですか?」
「だって恥ずかしい……」
「そうは言っても、ずっと手で隠すのは無理があろう。食事はどうするのじゃ」
そう言われ、ロメリアはぐむぐむ唸っている。
「ロメリアさん、今慣れておかないとこの先苦労しますよ?」
「うう」
「そうですよ、リアムさんにも会えないじゃないですか」
「う、うう~」
「大丈夫大丈夫いけるいけるって頑張れ頑張れ気持ちの問題だって」
「う、う、う、ううう~~」
全員から後押しされ、顔を隠しながら悶えているロメリア。
ついに観念したのか、ロメリアは手を外すことを決心したようだ。
「……わかったワ。今から外すから少し気合入れさせて欲しいのよ」
「そんな大層な事かのう」
「私にとっては一大決心だワ」
「ロメリアさん、ファイトです」
婆さんもああは言っているものの、興味があるのか横目でロメリアを見ている。
一度深呼吸した後、ロメリアは結構タメてた割にはスッと手を退けた。
「……」
「うお……」
「ほう」
そこから現れたのは、俺と比べてもかなり良い勝負の美少女が出てきた。額から二つ出ている、ケイカより少し長めの角が目立つが、それも気にならないくらいの美しさだ。黒い長髪も相まって、大和撫子と呼ばれそうな雰囲気だ。
皆からまじまじと見られ、ロメリアは再び顔を隠してしまう。
「うううう……だから嫌だったのに」
「いやいや、なんで顔隠してんですか勿体無い。私の次くらいに美少女と言っていいですよこれ」
「たわけ、比べる物ではあるまい。しかし、美しいというのは否定せぬよ」
「なんで今まで隠してたんですかっ!」
「あうあう、あうううぅぅぅぅ……」
ケイカに手を外され、ロメリアは顔をこれでもかと言うくらい赤く染めて羞恥を露わにしている。
プリムは、その光景を見て笑みを浮かべている。
「これでやっと落ち着けますね」
「プリムさんは知ってたんですか?」
「ええ、私は元々彼女の、と言うよりその父との知り合いですからね。幼い頃に何度か会ってるんですよ」
「幼い頃……」
見た目20歳行ってない様に見えるんだが……おっと、詮索は良くないな。永遠の17歳と言う奴だろう。
「それで、アルスくんは何処にいるんです?」
「修理もしてくれる防具屋さんがあるんだけど……多分そこだワ。あのバカ兄貴、思い立ったら直ぐ行動するから……」
「じゃあお昼が終わったら一度行きましょうか。何か代わりの物を借りられれば良いのですが」
と、話が一息ついたところで飯がやってきた。
おお、ホワイトシチューじゃん。芋やら人参やら入ってるし、俺が知ってるシチューと変わり無いな。
そのシチューを俺と、もう一つはプリムの前に置かれる。
「プリムさんもシチュー頼んだんですね」
「ええ、やっぱり寒い日は温かい物ですよね。ロメリアさんは――」
「パーム……とお酒」
「昼から酒かよ……ですか」
「今日は依頼を受けれないから仕方ないのよ……鬼人は一日一回お酒を飲まなきゃ死んじゃうの……」
「普段は鎧着ながらストローで器用に飲んでますよね」
「そこまでして飲みたいのか……」
ちなみにパームとはナンみたいな生地の上に辛めの味付けしたひき肉を焼いて乗っけた料理だった。飲み屋の創作料理みたいだな。
あむあむとパームを頬張りながら、お酒をガンガン流している。見た目は美少女なのに残念な絵面だ。
俺も食べようかなと思ったその時、服の中から食いしん坊が顔を出す。
「ちゅっ、きゅう」
「あー待った待った、ちゃんと食わせてあげるから膝の上に乗っていなさい」
「黒いお餅が動いてるのよ……」
「この子はスライムなんですよ。名前はボタンって言って、私の従魔です」
「ケイカちゃんから聞いてるワ。本当に黒いのね……」
「ハナさんは魔物使いなんですか?」
プリムとロメリアにザッと俺の事を説明する。
特に奇異の目で見る事も無く、寧ろ可愛いと撫でてくれる程だ。偏見だが、神様信仰してるシスターみたいな人は魔物に対して厳しい印象だったから大事にならないで良かった。
さて、冷めちゃう前に食べるぞ。普通のシチューよりしゃばしゃばして水っぽい感じだけど、味はどうかな。
……うん、ちゃんと予想通りのシチューだった。牛乳? 牛の乳かはわからんけど、そのお乳の味が濃いな。水っぽいからかなり薄めてると思ったが、元々そういうモンなのかもしれない。
野菜も柔らかくて美味いし、文句無しだな。こうなると他のも食べてみたくなる。
「よしケイカ、早速飯の交換タイムだ。人参やるからパスタ半分くれ」
「全然釣り合ってないじゃないですか! それにそんな食べたらハナさんだって太っちゃいますよ?」
「俺は体につかないタイプだから。どれ……んー、美味い美味い。甘じょっぱくて食べやすい。パスタも良い硬さだぜ」
「んじゃ私も……わ、凄い柔らかいですこのお肉! ハナさんのほっぺみたいです!」
飯と俺の頬を比較するなよ……後、なんも躊躇いもなく肉取りやがったなこいつ。別にいいけど。
肉を取られたのでもう二口ほどパスタを頂戴する。やべ、かなり美味いぞ。異世界の飯も悪くない……と言うか、味付けがかなり日本寄りだな。元の世界でも他所の国だと結構味が濃かったりして癖が目立つんだけど。
飯を堪能しつつ、女の子(一人婆さんだけど)5人でお喋りする。うん、こういうのですよ、俺が求めていた異世界生活は。
その中で、俺はプリムに気になる事を聞いてみた。
「プリムさんのその恰好……ここ教会とかあるんですか?」
「そうですね、ディゼノの端にシャイルガーナ=ミ=フラッタ=ロトンゲム=アルタ教会があります」
「あ? え?」
いきなり詠唱開始するもんだから聞き返してしまった。シャイ……何?
予想が付いていたのか、プリムは笑いながら俺に話す。
「皆さん最初はそういう反応しますね。長すぎますよね、名前」
「ま、まあ確かに……1回だと流石に覚えきれないですね」
「なので、アルタ教会で大丈夫です。私はそこの管理を任されています」
「実は結構偉かったりするんです?」
「偉いというのは語弊がありますが……それなりに権限はありますね」
初対面の印象とは裏腹に得意気に話すプリムである。修道女って欲を断つとかなんとかそういう修行してるんじゃなかったっけか。ま、こっちの常識とはまた違うんだろう。
「シスターって事は神様を信仰してるんですよね?」
「そうなりますね。私はそこまで礼拝していませんが」
「いや良いんですかそんな事言って」
「成り行きでシスターやってますからね。本当は別の仕事もあるんですよ?」
「本来なら神の信仰なんか程遠い人なのよ……なんでシスターやってるのかわからないのよ……」
酒の所為なのか羞恥の所為なのか顔を赤くさせたロメリアがそう言うと、プリムは事情があるんですよと笑いながら答える。
直接神様と話してる俺からすればなんとも言えないな。絵がへったくそな美女といまいち頼りない優男で人間よりも人間らしい神様だからな、恩人として頭は上がらんが、信仰心は欠片も無いな。
「でも、この街の人はよく礼拝しに来るのですよ。ささやかでも、お祈りが出来る場所は必要なんです」
「我も偶に祈られてたな」
「え? リコリスさんがですか?」
「婆さんは幻獣だからな。ノイモントの守護獣って言われてるくらいだから拝まれても不思議じゃないだろ」
「どうせなら苺を供えて欲しかったのう」
「中身がこんな残念だってバレなくて良かったな」
「たわけ」
実は凄い人だったんですね、とプリムは驚いていた。そしてロメリアは何故か拝んでいた。酔っぱらってるのかこの子。
教会ねぇ。お祈りを捧げてる美少女も神々しい感じがして悪くない。周りから女神様では!? みたいな目で見られたいすっごく良いよね。美少女が教会行くなら定番なのだ。今度行ってみるか。
「今度立ち寄らせて下さい。私も御祈りします」
「はい、いつでもお待ちしていますよ。それに、教会では偶に演劇もやってるんですよ」
「教会で劇?」
「ええ。月に一度演劇を開催していまして。街の子供達がいつも楽しみにしているんですよ」
演劇か。見たのはガキの頃以来だな。いや、今も子供ですけどね。
いつやるか分からないけど、一回くらいは見に行きたいもんだ。
「ちなみに、演者は私達の先輩なのよ……」
「えっ? 冒険者の方が劇をやってるんですか?」
「ケイカちゃん知らなかったの? あのフロクスさんなのよ……」
「ああ……あのフロクスさんですか…。何となく想像付きます」
ロメリアは残り一口のパームを口に入れ、ふんすと鼻でため息をつくように言った。
知った顔らしいが、言い方からして苦手な人なんだろうか。
「ハナさんが直ぐに素が出るような人です」
「何その基準」
「ほほ、分かりやすいではないか」
つまり変人だと。今日はギルドにいないで欲しい。
話が逸れたが、この世界にも宗教はあるようだ。ま、そこまでガチガチなのは無いそうだけど。
ちなみにカラー様の名前は出なかった。セピアに聞いたら、あの女神様はあんまりこっちの人間に干渉しないそうだ。




