こういう時の美少女術は心得ているのだ
魔物が出てくる事も無く、無事ディゼノへと到着した。もしかしたら、ジナやリコリスがいたから魔物が近寄ってこなかったのかもしれない。
門の前にすら人がわんさかいる。前は気にならんかったけど、人口が多い所なんだなと実感させられる。
その多くの人々が、俺らを見ている気がする。もしかしなくてもユーリの所為だと思うが。
「なんかすっごい見られてますね……」
「俺の美少女力とユーリの厳つさに目を取られているんだな」
「ハナさんは確かに可愛いですけどそういうのじゃないんですよね」
ケイカと他愛ない話をしてる間に、ジナが守衛に話を付けている。
「おっす、お疲れさん」
「あ、ジナさん。お疲れ様です。今日も依頼を受けるのですか?」
「いや、今日はこの子がギルドに用事があってな、付き添いだ」
「そうだったん……で……」
途中まで普通に会話していた守衛が、ユーリを見て言葉を止めた。
大丈夫か、若干顔が青くなってるぞ。
「心配すんな、こいつは精霊だよ。大人しい奴だ。女の子背中に乗っけてジッとしてるんだから大丈夫だろ?」
「へ? あ、は、はい。ですが、この魔物は――」
「オイラ魔物じゃないぞ、精霊だぞ」
「喋った!!?」
守衛だけでなく、周りもざわついている。むう、何故美少女の俺じゃなくてユーリが目立っているのだ。
イラっとしたので鬣を引っ張る。
「いだだっ!! なにすんだよ!!」
「お前が俺より目立つからだ」
「嫉妬にしたって理不尽すぎんだろ!!」
ぷんすかとしているうちに、ジナが話を付けた(丸め込んだ)ようだ。相変わらず強引な奴。
「あの、街中で暴れるのはやめて下さいね?」
「だからそいつは暴れんよ。暴れようとしても乗っかってるお転婆にお仕置きされるだけだ。まぁ次からは首輪なりなんなり用意するさ」
「は、はあ……」
お転婆って俺か。お仕置きとか勘違いされる事いうんじゃないよ。俺がS嬢美少女みたいに見られてしまうだろ。俺はそういう下品なのとは無縁な無垢な美少女で通したいんだ。
守衛との話を終え、俺達は門をくぐりディゼノの街へと入った。中も人が多いなぁ。
暫く歩いてから、ジナが話しかけてくる。
「さて、俺は一足先にギルドへ向かうが、お前らはどうする?」
「ギルドに行くのは午後からでいいんでしょ? まだ午前中だし、街を見て回りたいなぁ」
以前はお店の中とか見れてないからな。この美少女に合う掘り出し物があるかもしれん。
後、ユーリの首輪は自分で選んでやりたいからな。その辺も探さないと。
「そう言うと思った。折角だ、女同士で楽しんでくればいいさ。リコリスがいれば安全だろ」
「任せよ。何があろうと主には指一本触れさせぬよ」
「オイラは?」
「ユーリは俺と一緒に来い。流石にお前さんは好き勝手動かれると困る」
「えー、むさいおっさんと二人きりかよぉ」
お前人じゃねえけどな。ともあれ、ユーリはギルドに留まっていた方が安全だろう。
連れまわせないのは少し可哀想だが……今度また連れてきてやろう。
「ユーリ、ギルドの人に迷惑かけるなよ?」
「オイラよりおっさんの方が迷惑かけるんじゃねえの?」
「それは違いないのう」
「オイオイ、俺はあらくれ者扱いか?」
いいえ、どちらかと言えば魔物扱いですよ。植物も認めるくらいにはな。
それから、ユーリは渋々ジナに連れていかれた。大人しくしてくれてるといいが。
「ハナさん、何処に行きたいですか? 案内しますよ」
「そうだなぁ、やっぱ服屋……いや、装飾品とか売ってる店だな」
「フム、先にユーリへ渡す物を揃えるのじゃな」
まぁ、美少女に相応しい物があればそれも買うけど。
俺はケイカに連れられて、大通りへとやって来る。相変わらず露店が広がっているが、今回行くのは普通の店だ。
目的地の店は結構大きかった。入り口も広いし、結構繁盛してるのかな。木製の扉を開けると、中にいろんな装飾品が飾られていた。
「おや、ケイカちゃんか。いらっしゃい、お友達かな?」
「はい! ルマリで一緒に暮らしてるハナさんと、リコリス様です!」
紹介されたので、頭を下げる。フ、こういう時の美少女術は心得ているのだ。
慣れてなさそうに、少し控えめに頭を下げ、ちょっと上目遣いで相手を見る。
「ケイカさんの友達のハナです。よろしくお願いします」
「ご丁寧にどうも。僕はナッツ。この装飾店の店主さ。寂れた店だけどゆっくりしていきなよ。そっちの……えと、貴族の方ですか?」
「いいや、ただの平民じゃ。そう気を張らんでも良いぞ、店主」
「そうかい? ならよろしくね、狐のお姉さん」
ちょび髭のお兄さん店主が笑顔で接客してくれた。こういう人、特定の女の子には刺さるんだよな。ワイルドっぽさと幼さを兼ね備えた様な顔。
寂れたって言ってるけどディゼノじゃ有名な店で、冒険者は良く来るらしい。
「さて、今回は何をお探しで?」
「私魔物使いなんですけど、従魔に装飾品を付けてあげたくて」
「ああ、従魔だって目印が必要だもんね。僕の友達にも魔物使いがいてね。数は無いけど、従魔用の装飾品も取り扱ってるよ」
ほう、俺の他にも魔物使いがいるのか。なら話は早いな。イメージしやすいだろうし。
「よければ、どんな魔物か教えてくれるかな? ご希望に添える物があれば良いけど」
「ちょっと大きい獅子の様な魔物です。顔は……このくらい大きくて、腕もこんなです」
身振り手振りで説明していると、ケイカがクスッと笑っている。
「……なんですか?」
「いや、ハナさん可愛いなって」
「俺は……私はいつでも可愛いんで」
ジェスチャーっぽく伝えていたのがケイカにツボったようだ。こいつめ、にやにやしよって。
前を向けば、ナッツと言う店主も似たような顔になっている。
「あはは、ごめんごめん。微笑ましくてつい、ね」
「いいえ、大丈夫です。自分の可愛さは理解してるので」
「割と強かなんだねぇ。えっと、大きい獅子って言うと……レクスと似たような4足で歩くような魔物って事かな?」
「はい」
「それじゃあ首輪か腕輪が良いだろうね。ちょっと待ってて」
ナッツは待つように言うと、店の奥へと引っ込んでしまった。
「親切ですよね、お客さん一人一人にこうやって接してくれるんですよ」
「なんだ、てっきり俺が可愛いから口説いてんだと思ったわ」
「あの人、奥さんいますよ」
それもそうか。結構なイケメンだったからな。既に店も持ってて安定してるなら身を固めててもおかしくない。
暫くかかりそうだし、店内でも見て回るかとウロウロしながら品物を見る。
「おお、指輪がいっぱいあるな。これ付けてるとなんかいい事あんの?」
「物によって様々な効果がありますよ。でも、基本的には魔力貯蔵の効果が大半ですね」
「魔力を貯めこんどくのか?」
「はい、身に着ければここから魔力を使う事も出来るんですよ。魔力量は人によってまちまちですからね、この手の装飾品は重宝するんです」
外付けハードディスクみたいなものだろう。俺も一つ欲しいな。かわいいの。
どれ、値段は――
「おげぇ、金貨20枚って」
「そりゃあここら辺の指輪は全部高品質のものですから、それくらいしますよ」
「装飾品でこんなすんのか」
「装飾品だから、ですよ。こんな小サイ装飾品なのに魔力量を増やすわけですから。手軽さもあって誰もが欲しがるんです」
アクセサリー気分で覗いてたけど、結構ガチな店なのね。お金足りるか不安になってきた。
そわそわしながら見て回っていると、ナッツが戻ってきた。
「お待たせ、丁度良い物があったよ」
ナッツの手には、大きめの首輪と腕輪がある。皮っぽい材質だが、どちらも緑色の宝石の様な石が付いており、薄緑に輝いて上品さが溢れ出ている。
「ありがとうございます……」
「うん? どうしたの? なんかテンション低いけど」
「いや、高そうだなって」
結構持ってるとはいえ、流石に金貨何十枚も払える訳ではない。
折角持ってきてくれたが、これは買えなそうだ。
「なんだそんな事か。心配いらないよ、これ、売れ残り商品だからね。誰も買わないから倉庫の肥やしになってるのさ」
「そうなんですか? 凄い綺麗だし、見せたら誰かしら買っていきそうなんですが……」
「それがねぇ、これ、魔力量を高める効果があるんだけど、両方付けないと効果が出ないんだよねぇ。首の方も腕の方ものサイズが大き目で人間じゃ合わないし……僕も仕入れてから知ってさ。その時は失敗しちゃったなぁ。知り合いもここまで大きなのは使わないってさ」
でも、それなら一目で従魔だってわかるよ。と、ナッツは笑いながら説明してくれる。
確かに、お上品だし美しいし俺の趣味にも合う。ユーリに似合うかは別として。
「でもお高いんでしょう?」
「いえいえ、今なら二つ抱き合わせで金貨10枚の所を……なんと、金貨1枚で!!」
「……ノリが良いですね」
「あはは、定期的にそういうフリされるからね」
本当に金貨10枚なのか知らんけど、金貨1枚なら出してもいいかな……う~ん、4万円か……結構躊躇する値段だが……。
「本当に金貨1枚で良いんですか?」
「大丈夫さ、このまま置いといても誰も買わないだろうしね」
「でも、知り合いの魔物使いの人が新しく従魔を連れてきたら買うんじゃないですか?」
「彼にはこだわりがあってね。新しく従魔をテイムしたとしても、これは使わないと思うなぁ」
持て余してる品物なら、買った方がむしろ喜ばれるか? デザインは好きだし、ここまで言われたら買うしかあるまい。
俺は懐から金貨を取り出す。財布も買った方が良いか……いつまでも布切れで覆っておくだけなのもどうかと思うし。
金貨をナッツに手渡し、首輪と腕輪を受け取る。
「首も腕もベルト式になっていてね。少しなら調整出来る様になっているからね」
「はい、ありがとうございます」
「物によっては肌に合わないのもあるからね、痒そうにしていたり、動きがぎこちなかったりするなら別の物に変えた方が良いね。1ヵ月までなら返品しても良いからね」
丁寧な上に親切な人だ。従魔専門の店って訳でもなかろうに、きっちり説明してくれるとは。また来ようと思える良い店である。
暫くナッツと話をしていると、ボタンが懐からもぞもぞと這い出てきた。
「きゅう」
「あ、コラ。今日は大人しくしてって言ったでしょ」
出てくるなり俺の頭へちょこんと乗る。
そして、きゅうきゅう鳴きながら辺りを見回している(目が無いから分からんけど)。物珍しい物が多いから気になって出てきたと言った所か。
「おや、もしや君の従魔かい?」
「は、はい。カースドスライムのボタンです」
「カースドスライム? 聞いた事ないね……」
俺も普通のスライムしか見た事ないからなぁ。基本は緑っぽい奴だけど、赤とか青もいるんだろうか。
「この子にも、何か買ってあげるのかい?」
「と思ってたんですけどね。如何せんスライムだし、身に着けられるものが……」
「アハハ、そうだね。装飾品を身に着けるのは難しいかもね」
せめて変化で形がしっかり出来る様になればな。そしたら可愛い服も買ってやれるのだが。
「何か思いついたら、また来ると良いよ。その子だって着飾りたいだろうし」
「そうですね。またお邪魔します」
ボタンが成長して、本当に人の姿になれたなら……ここで何か買ってやろう。
頭の上ではしゃいでいるボタンを腕に抱き、店から出ようとすると、リコリスがこっそり何か買っているのが見えた。
「リコリス様、何か買ったんですか?」
「ム、まあの」
「何買ったんだ?」
「秘密じゃ」
気になるが……教えてくれそうにないな。
ナッツがやたらニヤついているのが気になるが……分からん。
無事にユーリの首輪を買い、俺たちは店を後にした。




