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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
麗しき牡丹耽々と試む
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ゆっくり異世界美少女ライフ送りたいだけなのに

「ほほ、まさかこんな大きな猫を拾ってきたとはのう。よしよし、後でマタタビをやろう」

「爺さん、オイラは猫じゃないぞ。精霊だぞ」

「これ爺や、食事中に猫可愛がりするでない」

「だから猫じゃないんだが」



 ユーリが加わり、飯の賑やかさが増した。いや、騒がしすぎる。これでもレイやジナがいないんだぞ。

 爺さんも順応しすぎだろう。飯食いながらユーリを撫でている。猫が好きなんだろうか。というかこの世界、普通の猫いるのかよ。


 ケイカと俺でローフットと言う魔物の肉を調理する。ただ焼いて塩で味付けしただけなんだけどね。でも、パリッとしてて美味しそうだ。



「なあなあ、これ食べていいのか?」

「全部食うなよ。お前の前にある皿に乗っかってるヤツだけな」

「きゅう」



 俺が座ると同時に、懐からボタンがもぞもぞと出てきた。そういやずっと中にいたな。平べったくして俺の体に張り付いてるからつい忘れるな。



「お、そういやお前もいたな! ようボタン、オイラの事分かるか?」

「めし」

「……は?」



 ユーリだけでなく、ケイカからも垢抜けた声が聞こえた。そうだよな、いきなり喋るとびっくりするよな。俺も最初そんな感じだったもん。



「ハ、ハナさん。今……」

「んー、にく」

「!?」



 ボタンはゆるゆるな動きでローフットの肉を体内に取り込む。こいつめ、飯関連の言葉ばかり覚えおって。

 そのまま咀嚼するようにじゅわじゅわと肉を溶かしている。もう見慣れた光景だ。



「落ち着けケイカ。まずは飯食おうぜ、冷めちまうよ」

「色々な事が起きすぎてついていけないです……」

「数百年生きた我でも、主には時折ついていけないからのう」



 なんでも俺のせいにするな。精霊もボタンが喋るのも俺だって想定外だ。そもそもな話俺もついていけてないんだよ。

 大体ケイカは嘘つくな、さっきからノリノリでついてきてる癖に。

 文句を垂れながらも俺は肉をパクりと頂く。



「お、美味いな。ヘルスィ~だ」

「ヘルスィ~ってなんなんです?」

「健康に良いな~って意味だ。ケイカはもっとレイと一緒に勉強しなさい」



 余計なお世話です、とケイカは一言いってから肉を口に入れる。



「はうぅ、やっぱり自分でとってきたお肉は一味違いますね」

「オイラもオイラも! ……おお!! ヘルスィ~だな!!」



 ライオンの癖に蔦を上手く使って箸で食べてやがる。というかヘルシーの意味絶対わかってねぇだろお前。まぁ、肉が気に入ったのなら良いけど。



「我は皮のパリパリが好きじゃな。主よ、パリパリを寄越すのじゃ」

「婆さんの癖に子供みたいな味覚だな」

「ぐぅ……何を好こうと我の勝手であろう!」



 リコリスはぷりぷり怒りながらも、皮の部分をもしゃもしゃと食べている。苺の時といい、好物の事となると年齢が見た目以上に幼くなるな。

 肉をとろうとする度、ふるんふるん揺れるリコリスのおっぱいをおかずにしながら肉を食べていると、ボタンがねだるように俺の手へと体を擦り付ける。



「もう食べちまったのか。もうちょっと味わって食べなさいよ」

「にく」

「しょうがないな、今度はゆっくり食べろよ?」

「んー」



 箸でボタンの上に肉を落としてやると、嬉々として吸収し始める。

 味わっているのか知らんが、食べながら俺の膝の上でのびのびしている。



「それで! なんでボタンさんが喋ってるんですか!?」

「なんか頑張ったら出来たらしい」

「ハナももうちょっと頑張って説明してくれよ。オイラだってボタンと話したいぞ」

「いや、会話できるのはまだ先だろうよ。今は二文字の単語をぽつぽつ言うのが限度だからな」



 そう言いつつボタンを撫でてやると、きゅうきゅう気持ちよさそうに鳴いている。改めて見ても不思議な生物だ。



「よし、オイラはユーリだぞ、ユーリ。ほれ、ボタン、言ってみそ」

「めし」

「いやめしじゃないが」



 ボタンはぐにぐにと自分の体を伸ばし、ユーリの蔦に付いている花を一つもいだ。



「オワッ!? いきなり何すんだよ」

「んー」

「ユーリ、お前食糧判定されてるぞ」

「嘘だろ……勘弁してくれよ」

「まず」

「じゃあ食うなや!!」



 ボタンがどんどん言葉を覚えてなによりだが、今後相手を不快にさせないかが不安だ。ユーリは兎も角、他の人と会話する時は気を付けないと。 



「ボタン、明日はあんまり喋るなよ。特にギルド内では大人しくしてなさい」

「んー」

「あのギルドなら平気だと思うがの」

「そうですよ! 私の友達にも紹介したいです!」



 あんまり気は進まないな。どんどん黒い魔物の印象悪くなってるし。ご近所さんは見慣れてるのか特に何も言ってこないけど、ディゼノじゃどうか分からんからな。



「ほほ、ケイカさんにも友達が出来てなによりじゃな。レイにも紹介してやってほしいのう!」

「そうだ、レイはどうしたんだよ。あいつまだ剣の訓練やってんのか?」

「そうみたいですね。お昼もあっちで食べるって言ってましたし」

「ふむう、親父に似てきて爺ちゃんちょっと不安じゃのう」



 あいつめ、この間の事で焦ってんな? 大方俺が大怪我して自分が無力だとか思ってんだろ。相変わらず責任感の強いガキだ。俺が同じ年の頃は無責任の塊だったのに。

 ……今日帰ってきたら無理しない様に言い聞かせてやらんとな。



「こんなにおいしいのに、食べないなんて勿体ないな」

「まだ少し残ってますから、夜また焼いちゃいましょう!」

「にく」

「お前は食いすぎ」

「きゅう」



 まだ飯を食べたそうなボタンを撫でてやると、気持ちよさそうに鳴いている。食費は掛かるが可愛いペットである。

 横からケイカもポムポムとボタンを撫でてくる。この子は本当に可愛い物が好きだな。俺よりも魔物使いが似合ってると思う。



「主よ、明日はどうするつもりじゃ? 朝からディゼノへ向かうのか?」

「そうだな、以前は店も見て回れなかったし、朝一で行くか」

「危険じゃないですか?」

「リコリスいりゃ大丈夫だろ。ボタンもいるし」

「オイラは?」

「お前がディゼノに出てきたら討伐されるぞ……」



 せめて首輪みたいな、飼い主がいるって証明が欲しい。売ってたら買うかな。

 後は……ボタンにも何か買ってやりたいな。変化も順調に習得しているようだし、ご褒美が必要だ。そうなるとリコリスにも――

 と、考えていたところでそのリコリスが口を開く。



「金はどうするのだ。店を回ると言ってもそこまで持ち合わせはないであろう」

「フッフッフ、なめてもらっちゃあ困るな婆さん。これでもちゃーんと稼いでいるんだよ」



 以前トレント騒動で貰った金貨と、ルーファからかっぱらった金貨をじゃらりと見せつける。

 これだけあれば色々買えるだろう。流石に全額は怖いから持っていかないけど。



「いつの間にこんな……盗んでないですよね?」

「何てこと言うんだお前」

「ハナだからなぁ。オヤジ狩りでもしたんじゃないか?」

「そのデカい口を閉じないとサーカスに売り飛ばすぞ」



 さっと視線をそらして肉をモグモグ咀嚼するユーリ。どいつもこいつも美少女を何だと思ってるんだ。



「主、良ければ預かろうか?」

「えーやだよ。それなし崩しに婆さんの金になるじゃん」

「そんな事は無いぞ。我だって沢山蓄えがあるからの、これくらいはした金じゃ」

「じゃあ明日色々奢ってよ」

「たわけ」



 ケチケチオババめ。どうせ使うもん無いんだから若く将来有望な美少女に貢げば良い物を。いてっ、こいつめ、また察してこつんと頭を叩きやがった。



「自分で管理するのは良いが、盗まれぬ様しっかり持っておるのじゃな」

「その為の婆さんだろ。ちゃんと見張っとけよ」

「お主、突拍子の無い行動を取るからのう……明日は大人しくしておれよ」



 自分はそこまでじゃじゃ馬ではないと思うんだが……トラブルに巻き込まれやすいのはままそうだと思うが。

 その後も、俺はディゼノをどう回るかという話を続けるのだった。

































 昼飯が食べ終わり、午後はまったり店番をしながらボタンの変化練習に付き合っていた。

 そろそろ日が沈み、橙色の地面が薄暗くなってくる頃にジナとレイが一緒になって帰ってきた。



「おうハナ、店番ご苦労さん」

「ただいま、ハナちゃん」

「お帰りなさい。ジナさんはともかく、お前は遅いぞレイ」

「ごめんごめん、つい身が入っちゃって」

「言い訳無用! 今から話を――」

「汗掻いたから先にお風呂行ってくるよ!!」

「おいレイ!」



 レイは逃げるようにして家の奥へと引っ込んでしまう。あいつめ、人が心配してるというのに。

 確かに汗臭いのは良くないし、このクソ寒いのに汗掻いたままだと風邪ひいちまうから良いけどな。

 そんな俺の様子を、ジナはニヤニヤしながら見ていた。



「精が出るな、嫁さんよ」

「ウザい」

「ハッハッハ、すまんすまん」



 戯けた事を抜かすゴリラをげしげし蹴るがビクともしない。火だるまになっても生きてるんだからそりゃそうか。

 俺はジナにユーリの事を話した。



「そうだ、精霊出てきましたよ」

「ファイトから聞いたぞ。デカい獅子だってな。まさか植物から獣とはなぁ。後で紹介してくれよ?」



 他人事の様に言ってるが一応アンタの家だから関係してるんだぞ。巻き込んだの俺だけど。



「精霊について教えて下さいよ。S級冒険者なんでしょ?」

「S級冒険者だからって何でも知ってるわけじゃねえよ。俺よりも、ギルドに詳しいのが一人いるんだ。さっき話つけといたから、明日来た時に教えてもらうと良い」



 俺も風呂に入るかな~なんて言いながら、ジナは奥へと行ってしまった。

 詳しい人ねぇ。ギルドマスターじゃないだろうな……今のところ印象最悪だからあんまり長話したくないんだけど。



(そう言わないで聞いてみましょうよ。きっとハナ様のお力になる筈ですよ)

(セピアがなぁ~~もっと詳しければなぁ~~)

(すみません……本当にすみません……)



 新人さんだから仕方ないとはいえ……補助サポートらしい事をしないと女神カラー様に怒られるぞ?

 とは言ったものの、この世界に来た当初はめっちゃ助かったので気にしてはいない。

 それに、いつでもお話しできるのは気持ち的に安心である。それだけでも、俺はセピアを評価しているよ。



(だからセピア、女の子にならない?)

(いきなりなんですか……なりませんよ)

(イケメンなんだから女の子になればきっと美少女になれるって。俺ほどじゃないだろうけど)

(だからなりませんよ! 大体イケメンって言いますけど、私の顔見た事無いじゃないですか!)



 イケメンだろ絶対。もう声がイケメン。頼りない後輩イメージだから今時の女の子に受けは良いだろうな。俺のお傍付きになったらきっと映えるだろうな……どうにかしてこいつ引っぱり出せないかな。



(セピア、お前こっち来れないのかよ)

(私がこの世界に来た所で何も出来ませんよ……むしろ足手纏いなだけですね)

(そんな事は無い。俺はセピアと一緒に出かけたり飯とか食べたいぞ)

(ハナ様……そこまで私の事を……)



 俺の美しさが際立つからな。何となく家事得意そうだし。喜んで荷物持ちしてくれそうだし。



(ですが、補助神としての役目を全うしなければなりません。実際にお役に立てているとは思いませんが……今はまだ、こうしてハナ様の目線で居させて下さい)

(ん、わかった。というか実際こっちの世界これんの?)

(過去に補助神が顕現したというのは聞いたことがあります。方法はわかりませんが)

(おっ、マジか)



 また目標が一つできたな。にしし、セピアをこっちに引きずり込んでスライムを生で食わせてやる。



(ハナ様、また変な事を考えていますね?)

(そんな事は無い。明日の事で頭一杯だからな)



 ボタンは喋るしユーリも精霊になるし、どうしてこうも忙しなく状況が動くかね? ハナちゃんゆっくり異世界美少女ライフ送りたいだけなのに。


 気づけば、外が真っ暗になっていた。冬季だと日が落ちるのが早いのはこっちの世界も一緒か。俺は扉の鍵を閉める。寒っ、少し外気に触れただけで寒いわ。早く暖かくならんかな。

 明日も日が出て少しは暖かいといいな、なんて思いながら自分の部屋へと戻るハナちゃんなのでした。



「うわあっ!!? なんで魔物がここにっ!!?」

「おおっ!! おかえり坊ちゃん!! 待ってたぜ!!」



 やべ、庭で寝てるユーリを放置してたの忘れてた……。

次の更新は7/25前後です。

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