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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
麗しき牡丹耽々と試む
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でしでし言ってる変人に言われたくないでし

「なあ、魔物使いって魔物扱えるだけなの?」

「なんじゃ、藪から棒に」



 突然の質問にリコリスがそう答える。



「ぶっちゃけた話さ、従魔するだけでなんも出来ないじゃん? なんか俺から従魔に対してフォロー出来ないの?」

「お主、自身が持ってるスキルの詳細すら知らぬのか」

「だって誰も教えてくれないんだもん」

「はあ、仕方ないのう」



 だって、セピアも簡単な説明しかしないし、結構穴があるからな。これ言うとセピア泣いちゃうから黙っておくけど。



「そも、我もボタンも自身から従魔となっておるが、本来であればある程度力の差を見せつける必要があるのは知っておるか?」

「うん、ボコボコにして舎弟にすんだろ?」

「言い方は悪いが……まぁ、間違ってはおらぬな。その後、人と魔物の間で契約を結ぶ。お主がボタンを従魔にした時、はっきりテイム出来たと理解出来たであろう」

「そうだな、ボタンは喋れなかったけど何となく理解は出来た」



 あの時は必死だったから細かい事は考えてなかったけど。

 何となくボタンと繋がってるような、気配が濃くなったというか。



「魔物を従魔に出来たらその時点より以後、魔物から裏切る事は無い」

「ほー。それは初耳だな」

「理屈は……お主に言ってもわからぬじゃろう? まぁそういうものだと思っておけ」

「よくわかっていらっしゃる」



 理屈を知っても多分明日には忘れてるだろうからな。



「それで、お主から我ら従魔へ何か出来ないかと言ったのう。結論から言えば、出来るぞ」

「お、マジか。何々?」

「魔力の譲渡じゃな。自身の魔力を従魔へと渡せる。しかし、近くに居らねば出来ぬがな」

「じゃあボタンが魔力不足になったら俺のを渡せると」

「ウム、そして逆もまた然り。大抵魔物使いは普段から自身の魔力を温存しておる。いざという時に従魔へ渡せるようにの」



 実際、味方になるとめっちゃ頼りになるもんな。魔物。ボタンやリコリスが強すぎるだけかもしれんが。

 そうすると俺も温存しておいた方が良いのか? ううむ、俺も人形遣いとか呪術師とかあるからなぁ。その辺は臨機応変に、だな。



「じゃあリコリスにも渡せるのか?」

「渡せるが……それは考えなくて良い。お主は自分でも戦えるであろう?」

「そうだけどな。いくらリコリスでもいざって時は必要だろ」

「そのいざって時が来なければ良いがな」



 そうだな。この世界、平和そうに見えて殺伐とし過ぎてません? 朗らかなこの森ですら危険地帯と化したし。確かに転生する前危険だのなんだの言われたけどさ。


 お日様が登りきろうとしている。お昼前、と言った所か。ボタンが飯を催促してくるし、そろそろ家へ戻るか。

 最近は飯が充実してて良い。ジナが偶に美味そうな肉持ってくるし。リコリスの氷魔法で保存も利くしな。でも、ジナに料理させると碌なのが出ないからさせてないけど。普段はどうしてるんだアイツ。



「帰ろうぜリコリス。朝から走りまくって疲れたわ」

「待て」

「あん? どうした? 走って帰るのは無しだぞ。そんな事したら午後はずっと部屋で引きこもるしか無くなってしまう。あーつら、いつつつ、つれぇわ、きたきた、筋肉痛がキタ、あいたたたた」

「なんじゃそれは……そうではない。人の気配がする」



 リコリスが見ている先。俺たちが来た方向を見ると、木々で見えにくいながらも小さな影が見える。

 珍しいな、最近は調査が落ち着いて誰も来なくなったのだが。薬草取るついでにこうして一休みする冒険者もいるにはいそうだけど。


 その小さな影が近づいてくる。段々とその小さな影は大きく……ならない。身長小せえな。子供か? いや、服がそれらしくない。服というか、鎧なんだけど。騎士に憧れてコスプレしてんのかな。

 と、一瞬は思ったのだが……その身長には不釣り合いな、大きな槍を背負っている。やたらゴツくて装飾もある。物騒だ。



「主よ、警戒はしておけ。身なりは騎士の物だが――」

「なーんか色々おかしいな。チビなのにあんなデカい槍支えられるのか」

「種族によっては問題あるまい」

「そか。……ボタン、スタンバイ」

「きゅう」



 念の為、ボタンを懐に入れる。いざって時に防衛してくれるからな。

 さて、あれはただの人じゃないのかな。鎧で耳とか見えないから種族がわからんけども。

 近づくにつれ、容姿がはっきりとしてくる。顔を見る限り女か? ……お、結構可愛いな。背は俺より小さいか? だが、どこか大人びた雰囲気を出している。



「何やら気配がすると思えば……先客がいたでしか。珍しいでしな」



 ……変な語尾。



「お主、ここに何か用か? ルマリの衛兵はもうここを引き払っている筈じゃが」

「そう警戒しなくても大丈夫でしな。私はこの泉で一杯やりたいだけでし」



 ……酒か。子供じゃないのか? 俺は美少女モードで小さい衛兵へ声をかける。




「真昼間から衛兵がお酒を飲むの?」

「今日は非番みたいなもんでし」



 小さい衛兵はその辺に腰掛けると、木で出来た筒を取り出す。そのまま待ちきれないかと言うような勢いで、筒に口を付けた。



「――けふう。王都は嫌いでしが、酒だけは種類が豊富でしな」

「……本当にお酒を飲みに来ただけ?」

「そう言ったはずでし。寧ろ、そっちが何をしていたか気になるでしよ」

「そこの娘が水浴びしたいとうるさくてな。この泉で休憩していたところだ」



 うるさいは余計だよ。走って汗かいたらそりゃ水浴びしたいだろ。



「自己紹介が遅れたでしな。私はセントレアと言う者でし。ルマリで衛兵長を務めているでしな」

「衛兵長? でも、ルマリで貴方を見た事ないけど……」

「1年ほど王都で仕事してたでし。で、まさに今日戻ってきたのでしが……お昼に帰ると午後からお仕事になりそうでしからね、ここで時間潰して夜になったらルマリに戻ろうかと」

「普通にサボりじゃないですか」

「英気を養わねばならないでし。自然の中で美しい景色を肴にして一杯。んぐんぐ……くぁぁ~~!! これこれ。こういうの。こういうのでし~~」



 ぐいぐいと酒を飲みながら、セントレアはそうはぐらかす。

 かなり寛いでいるな。本当に衛兵なのかこの人。リコリスもそう思ったようで、思わずと言った感じで口にする。



「本当に衛兵なのか疑問じゃのう」

「小っちゃいしね」

「失礼な人達でしね……こう見えても私は大人でしよ。人とドワーフのハーフでしから、少しばかり背は小さいでしが」

「な、マジか」



 少し素が出てしまったが、気になる単語が出てきた。

 人とドワーフとのハーフ。やっぱいるんだなぁ。いや、俺もそうなんだけど。

 ドワーフ自体見たことないけど、そっちでも良かったかもな。



(ドワーフはエルフほど長命では無いです。ですがハーフエルフと一緒で希少な存在ですから、こうもあっさりと公にするのは珍しいですね)

(それぐらい腕に自信があるのかもな)



 衛兵長って言ってたしな。国から認められた騎士って事は地盤もきっちり固まってるんだろう。俺もいつか安心できるくらいの力を身に着けたいものだ。楽して。



「そこの貴方」

「え、私?」

「そうそう、私でし。貴方も人と精霊とのハーフでしな?」

「え? は? ちげえよチビ」

「分かりやすいでしな……あとチビいうな」



 セントレアはむすっとしながらも、俺に近づいてくる。近くで見ると高そうな鎧だな。



「うーん、見た所ドワーフではないでしな。するとまさか……」

「あーストップストップ。名前も知らない美少女に詰め寄んなよ」

「それもそうでしな。名前はなんというでしか?」

「え? 美少女のハナちゃんだけど。で、こっちがリコリス」

「これ、安易に名前を教えるでない」

「ハナ、リコリス……どーっかで聞いたような名前でし」



 セントレアは首をかしげて考え込んでいる。

 リコリスは兎も角、俺はそんな有名になる様な事してないから勘違いだと思いたい。確かにヤバい魔物と戦ってたりしてるけど。

 暫くぐむむと唸っていたが、諦めてこちらへと向き直る。



「ま、いいでし。ハナ殿、レディたるもの、そんな汚い言葉は良くないでしよ。悪目立ちもするでしから」

「でしでし言ってる変人に言われたくないでし」

「これは親が言ってるから、つられていつの間にか定着しているだけでし。というか、そんな直球で言う人は貴方が二人目でしな。仮にも私は騎士でしよ? 言葉遣いにはもう少し気を付けるでし」

「二人しかいないのか。違和感ないのかリコリス」

「まぁ、変人が多いからのう、ハーフは」

「は?」

「あ?」



 抗議の声が重なる。

 ハーフへの偏見が酷すぎる。大体お前の子供もハーフだろ。



「すまぬなセントレアとやら。この娘には本当に手を焼いておってな、大目に見て欲しい所じゃな」

「良いでしよ、同じハーフのよしみでし。でも、他の人には気を付けるんでしよ? 特に王都じゃ面倒なのが沢山いるでしから」



 話が本当ならアーキスよりも位が高い事になるからな。流石に失礼だったかな。

 ……うん、そうだな。これから同じことで苦労しそうだし、頑張って矯正しないと。



「わかりました。失礼な事を言ってすみませんでした、セントレアさん」

「う~~ん、なんかしっくりこないから前のままでいいでし」

「なんなのこの酔っ払い……」



 本当にこの世界はたわけた奴が多いな!!

 いきなり来たと思ったら酒飲み始めて俺がハーフだって暴露して……毎度ながら展開が早いんだよな。



「とりあえず、俺をハーフだのなんだの言うのはやめて欲しいんだけど」

「申し訳ないでし。精霊とのハーフは滅多に出会えないでしから、柄にもなく興奮してしまったでしな。人前では絶対に言わないでしよ」

「本来であれば、お主も隠しておくべきなのじゃがな」

「私は大丈夫でし。賊だろうが誘拐犯だろうが返り討ちに出来るでし」



 流石は衛兵長。だが、あんまり強そうに見えないというのが本音だ。

 鎧だから体躯がわかりづらいが、顔や足を見た感じ華奢ではある。その分、ゴツい槍に違和感を覚えるな。



「ほーん、さては疑ってるでしな?」

「いやそういう訳じゃ無いッスけど。実際重そうな槍持ってますし」

「ああ、これでしか。知り合いの職人に打ってもらった物でしな。かなりの業物でしよ。本当は支給された物以外を所持するのは良くないのでしが……私は強いのでセーフでし」

「強いのでセーフってなんじゃ……」

「実力で黙らせる、という事でしよ。ただでさえ見た目でナメられるでしから、これでもかってくらい鍛錬して強くなれば皆認めてくれるでし」



 騎士ってそういうのだけじゃダメな気がするんだが……まぁ、俺が実際騎士な訳じゃないからな。この人がそういうならそうなんだろう。

 そんな彼女の話を聞いた後、酒が無くなったのか筒をしまってセントレアは横になる。



「さて、ひと眠りするでし。お邪魔でしか?」

「勝手に一人で酒盛り始めて何を今さら。構わぬよ、我らもここを出るところであったからの」

「一人じゃ危ないんじゃない?」

「平気でしよ。ここ、スライムしかいないし。てきとーにあしらっとけば問題無いでし」

「とても衛兵の言葉とは思えんな……」



 まさに適当というか、村を守る衛兵にしては不安が残る。

 また会うだろうし、今度ちゃんと仕事してるかどうか拝見したい所だ。



「ではハナ殿、リコリス殿。またルマリで会ったらよろしくでし」

「明日からちゃんと仕事しろよ?」

「わかってるでし~~」



 一言そう言って、セントレアは目を閉じて寝てしまった。……俺も腹減ってきたし、さっさと帰るか。

 俺とリコリスはちょっぴり疲労感を感じながら、家へと帰るのだった。























 セントレアは先程リコリスが座っていた場所で寝転んでいる。流石に鎧のままで寛ぐ事は出来ないので、白く輝く鎧を脱ぎ捨てている。 

 いい感じに酔いながら、うつらうつらと先程会った人達の事を考えていた。



(不思議な人達でしな)



 第一印象は違和感だった。自分も違和感だらけの存在であるが、あの二人からは得体のしれない物を感じた。

 ハーフの少女も、獣人の女性も。ただものでは無いであろうと言う事はわかる。


 だが、話してみれば口が少し悪いだけの至って普通な少女、いや、類稀なる美貌を持った少女であった。

 最悪、黒い魔物の関係者で敵対する可能性も考えていたが、余りに飄々としていたので気が抜けて思わず酒に手が出てしまった。



(しかしあの少女――そっくりでしな。カルミア伯に)



 髪の色は違えど顔はそっくり、自分を美少女と呼ぶような自己愛に満ちた性格、人を小馬鹿にするような態度。どれも、あの厄介者と重なる。

 種族はハーフエルフの線が濃厚だろう。自分のハーフドワーフと同様、人とエルフ、それぞれの良い所を受け継いでいる精霊種のハーフ。カルミアの親戚かもしれない。

 獣人の方も異常だ。あの黒龍と同じ気配がする。もしかしたら、巷で噂になっているノイモントの守護獣かもしれない。何となく、リコリスという名前にも聞き覚えがある。



(だとすれば、こんなド田舎にとんでもないのが来たでしな。アーキスはこの事を把握しているのでしか? あー……なんか早く帰った方が良い気がしてきた)



 頭ではそう思っているものの、体が中々動いてくれないでいた。義務と面倒を天秤に掛けた所、面倒にあっさりと傾いてしまった。



(……まぁ、明日でいいでしな。悪い人達じゃなさそうだし。最悪、ジナ殿に押し付けるでし)



 面倒事は明日の自分に任せ、今はただ王都での疲れを癒す事を選択した。


 セントレアは戦闘面だけで見ればとても優秀な騎士だ。本来であれば若くして王家直属の親衛隊にまで上り詰める事も可能であろう。見た目にそぐわない荒々しい槍術は、ストレチア王国どころか世界各国で見ても指折りの物だ。

 しかし、彼女は騎士とは対照的な目線で物事を見る。国の為に命を捧ぐなどあり得ない。

 相手が誰であろうと無理なものは無理と、面倒だからやらないと、愛国心など必要無いと、ハッキリと言ってしまう。そして今時の若者と言うべきか、極力責任を負いたくないと言う難儀な性根もあり、ルマリという田舎町に配属され衛兵長を務めていた。

 それでいて騎士達の教官として度々王都へと赴いている辺り、彼女が優秀であるという証左である。



(考え事してたらイイ感じに眠くなってきたでし。もう衛兵長の仕事とか黒い魔物の件とかぜーんぶ放り投げて、酒飲みながら寝ていたいでしなぁ)



 日差しが強いおかげで肌寒さが気にならない。

 泉から流れる水のせせらぎが心地良く耳に残り、セントレアから寝息が聞こえるのに時間は掛からなかった。


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