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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
金木犀と春風の闇
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どろどろの液体をぶっかけられた美少女

2018/11/04 会話表示修正、会話内容修正

 只管に練習を重ねている俺は一つの問題にぶち当たっている。

 スキルの練習は順調である。順調ではあるのだが。



ぐぅぅぅぅぅぅ



 と、先程から何回も腹から悲痛な音を鳴らしている。

 人間もハーフエルフも空腹になるのは変わらないようだ。

 水に関しては近くに湧いている泉で補給できるので問題はない。人間水があれば1週間はやっていけるというしな。

 だが、生き延びるだけで体に力が入らないのはマズいのだ。

 ばったり魔物に出くわしてみろ。この美少女がR-15じゃ表現できない様な悲惨な目にあってしまうかもしれない。

 そのような危険を孕んでいるので、出来れば栄養を摂取したい。



(セピア、この辺で何か食べれるようなものとかあるか?)

(申し訳ありません、ここが何処かすらわかりませんのでなんとも……ただ、食べれるかどうかの識別は出来ます)

(む、そうか。じゃあ木の実とか果物を探しに行くか)



 すくっと立ち上がった俺は、食料を探すために泉を後にする。

 まさかサバイバル生活をする事になるとは……。出来ればゲテモノ食いは避けたい所だが。


 歩き続ける事数分。ついに俺は出くわしてしまう。

 正面でガサゴソと音がしたため、俺は一旦足をとめ、そしてゆっくりと木の後ろに隠れる。



(セピア、あれは)

(あれはスライムですね。ランクとしては下位の魔物です)

(ほほう、あれが)



 初めての生スライムに遭遇。本当に液体がぺちょぺちょ動いている。緑色がぷるんぷるんしてる。

 どんな理屈で動いてんだ? と、そんなこと言っていたらキリがないか。

 スライムはもぞもぞと何かを啜っているようだ。



(どうやら花の蜜を花ごと摂取しているようですね)

(つまり花を食ってるのね)

(そういう事です。不要な物は後から分解し、排泄するようです)



 スライムって排泄すんの!? と思ったが、要は大きくなりすぎた体のいらない部分を捨てるだけの様だ。

 今もスライムはちゅるちゅると花を溶かしている。



(因みにだ。あのスライムと戦って俺が負けたらどうなる)

(溶かされてスライムの栄養になります)

(やっぱり?)



 異世界こえー。セピアも淡々と言うなよ……。

 ここはゆっくり後退して逃げよう。



(ハナ様。ここはあのスライムを倒すことを推奨します)

(え、何故俺が逃げようとしていたのがバレた)

(ちらちら後ろを見て音を立てないように後ずさりをしていたからです)



 だってここ、所謂レベルの観念がないんだろ? 経験値も無いし倒しても無駄じゃね?

 そんな俺の考えに答えるように、セピアは続ける。



(この世界では魔物を倒したり、経験を積むことによって成長します。今目の前のスライムを倒したという経験が、ハナ様を強くするのです)

(ステータスが上がったりするのか?)

(はい、今はGばかりですが、経験を積むことで上方させることが可能です)



 Gばかりとか言うな!

 だがやっぱり異世界、努力が目に見えてついてくるのは良いねぇ。



(それに、今ハナ様に起こっている問題を解決することが出来ます)

(え? 問題?)

(はい、あのスライムは食べることが出来ます)

(……)



 あれ食べるのかぁ。率直に言って嫌だなぁ……。

 だって何食べてるかわからないんだよ? と言うか人間食ってるかもしれんのに……。

 それに、人を溶かしてるくらい酸が強いのに食べて大丈夫なのだろうか。



(スライムは死ねば消化機能もなくなるので問題ありませんよ。背に腹は変えられません。それに、スライムの栄養価はそこそこ高いので食べれば1日はもちます)

(うぐぐ……仕方ないな)

(これも生き延びるためです)



 そうだな、この美少女が痩せこける姿は見たくない。

 例えあの緑のぷるぷるでも食べなくては……うん、メロンゼリーだと思って食べれば案外イケると思うんだよね。

 俺はスライムにジリジリと近寄っていく。スライムはまだ食事に夢中でこちらには気づいていないようだ。



(で、どうやって倒せば良いんだ?)

(スライムの中心にある核に傷を付ければ倒せます。ですが、スライムが生きているうちは液状の体に守られて通常の攻撃は通りづらいです)



 真ん中の核……お、あれか。思ったよりも大きいな。手のひらサイズか。

 あれに傷を付ければいいけど、あのぷるぷるが邪魔をすると。



(じゃあどうすればいい?)

(本来であれば魔法を使っての攻撃がベストです。ですが、今のようにスキがある状態で勢い良く攻撃すれば核まで通ります)

(奇襲ゴリ押しか。でも俺、武器なんて持ってないぞ)

(問題ありません。人形遣いにとってスライムは最高の相性ですよ。カモ、と言うやつです)



 カモらしい。少し練習しただけなのだが果たしてそれで大丈夫なのだろうか。

 


(私の言う通りに動いて頂ければ大丈夫です)

(ん、わかった。頼りにしてるぞ、マジで!)

(お任せ下さい)



 という訳で、セピアの戦闘チュートリアルが始まった。

 因みに失敗したら死にます。そんなシビアなチュートリアルはやりたくない……。



(まずは、先程やったように木の枝に魔糸を繋げて下さい)



 俺は魔力を右手人差し指に集中させる。ぐぬぬぬぬ。

 そして、そこから直線に糸を飛ばすようにイメージし、先程の二股に分かれた枝に魔糸を繋げる。


 さっきの練習で、糸を繋げる事までは出来るようになった。

 出して繋げるだけなら、慣れれば割と簡単に出来る。問題はここからだ。



(成功です。そこから、その枝を動かして見て下さい)

(これが難しいんだよな……二股に分かれた部分を足に見立てるんだよな)

(はい、同じ動きを反復するだけなので慣れてくればスムーズに出来ます)



 今出来なきゃ意味ないだろ! と思いつつも俺は枝を動かす。

 右、左、右、左と足を前に出して進ませるイメージ。

 すると、魔糸を繋いだ枝がひょこっと立ち上がり、ぴょこ、ぴょこと拙く歩き始める。



(その枝をそのまま、あのスライムの所まで移動させて下さい。スライムが花を溶かすのにはまだしばらく掛かりそうなので、ゆっくり、落ち着いて……)

(よし……! わかった……! 少し……! ずつね……!)



 自分の中でテンポを合わせながら、一歩ずつ動かしていく。右! 左! 右! 左!

 傍から見たらちょこちょこと枝が歩いていて可愛いのだが、こっちは必死だ。

 そこから数分かけて、ついに俺の枝はスライムの後ろまで到達した。



(ふおお……結構維持するのもキツイぞこれ)

(もう少しです。その位置から、スライムの核目掛けて思い切り枝を飛ばして下さい)

(飛ばすってお前)

(飛び立つイメージを連想するのです。ハナ様ならきっと出来ます!)



 そこで俺のイメージ頼りかよ! 割とスパルタだなオイ!

 えーと飛び立つ飛び立つ……ロケット? 打ち上げ花火? そう言われてもあれも遠くから見るものだから実感わかねー!!



(ハナ様、早くしないとスライムが気づいてしまいます!)

(わかってる! でも)

「キュ?」



 ヤベッ、スライムがこっちに気づいてしまった!

 飛び立つ、発射、ぶっ刺す。あっ……そうだ!

 俺は両手をガッチリと組んで、人差し指を突き立てる。

 連想するのは小学校の思い出。少年時代は無知、無垢ゆえの残酷な遊びが流行ったものだ。

 狙うはスライムの尻。見てろ、二度とその○○○を使えなくしてやるぜ!



「喰らえェェェェェ!」



 俺は天高くそれを突き上げると、同時に木の枝もスライムに射出される。

 勢い良く飛んだ枝は、スライムの核を掠り、そのまま突き抜ける。



(やった!?)



 オイセピア! そのセリフはマズい!

 案の定スライムは倒れず、こちらを振り向いて(実際振り向いているかはわからんが)飛び出してきた!



「ちょ、やばっ、あっ!」



 と、口に出すも足がほつれて、俺は尻もちをついてしまった。

 ええい、異世界に来てもどんくさいのか俺は! やばいやばい死にたくない!



(ハナ様!!)

「ひっ!?」



 スライムが俺の上から飛びかかってくる。

 本当にヤバい時って何も声が出ないんだな。くそ、頭ではわかってるのに体が全く動かない。

 ああ、もうダメだ。と心の中で諦めかけたその時、空中でパァン!! と大きな破裂音が響き渡る。



「ふぇっ!? ぶへぇっ!!?」



 スライムが俺の頭上で破裂した!

 その体液がはじけ飛び、勢い良く俺に飛来してきた。



(ハナ様、大丈夫ですか!)

「うえ……ぺっぺっ、……一体何が起こったんだ」



 緑の液体が口にはいった。うげーマズい……きゅうりの青臭さをそのまま飲み物にした感じだ。

 スライムの残骸をはらっていると、セピアがなるほど、と話し出す。



(恐らく、スライムの核に傷が入ったのまでは良かったのですが、傷が浅く完全に破壊するまで時間差が出来てしまった様ですね)

(時間差とかあるのかよ……)

(はい、今のは窮鼠猫を噛むと言うやつですね。無事で何よりです)

(無事じゃねーよ!)



 俺はドロドロになったローブを脱ぐ。くそ、着替え無いんだぞ! この美少女を野外で素っ裸にさせやがって。

 うーん、こりゃダメだ。泉に戻って洗わないと。



(ハナ様。スライムの摂取もお忘れなく)

(え、今そのまま食うの!? 調理無し!?)

(はい、急がねば鮮度が落ちてお腹を壊してしまいますよ)

(マジかお前……)

(マジです)



 俺、きゅうり嫌いなんだよなぁ……よりにもよってなんで苦手な食べ物の味がするのか。

 しかもどろどろで飲み込みにくい……絶対咽るぞこれ。

 俺は下に落ちている、比較的綺麗なスライムの残骸を手で掬う。



(そのまま一気に、大丈夫です、舌を使わずに飲み込めばそこまで味はしません)

(ガキか俺は!)



 はい、ガキでした。言われたとおりに、口に含んでそのまま一気に飲み込む。

 んぐんぐ……うええ、やはりマズい。腹が減ってたら何でも美味く感じるなんて言うのは嘘だ。



(では、それで空腹を満たしましょう!)

(ぐっ、他人事だと思って……いつかお前に食わせてやるからな)

(ハハハ……)



 ハハハじゃないわ! コイツ割と楽しんでるだろ! いつか必ず同じ目に合わせてやる。

 それにしても、どろどろの液体をぶっかけられた美少女がそのどろどろを飲み込んでいくという極めて危ない光景だ。ケフィア? いいえ、スライムです。

 最初からこの体たらくじゃ先が思いやられる……。俺は半泣きでスライムを次々に口にしていった。

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