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美少女になりてえよなぁ  作者: 釜蔵
彼岸花は一期を尊ぶ
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俺、スーパーな美少女ちゃんだもんね

 同じ狐だと思ったら、親子だったのか。リコリスの方が大人びてるとはいえ、人型では少し想像しにくいな。

 尻尾の数も違うし。年取ると生えてくるのかな。なんか嫌だ。

 アイツも何百歳なんだろうなぁ。それにしては少し幼稚な言葉が多かったけど。



(……)

(何がお前も幼稚だろ、だ。バーカ、セピアのバーカ)

(何も言ってませんし!)



 なんだろう、凄い何か言いたそうな雰囲気を感じるんだ。それに、美少女に弄られるイケメン(声から暫定)と言うシチュエーションも悪くない。

 だが、そうだな。あの目元辺りはそっくりか。後、耳もそっくり? これは他の狐を見てないからわからないけど。



「言われてみれば何処と無く顔も似てる気がする」

「正真正銘、我の子じゃからの。昔はあんな人を傷付けるような言葉は言わない子だったのじゃが」

「ぶっ殺すだの運が悪いだの、思春期が癇癪起こしてるような状態だったぞ」

「我もアウレアに会うのは随分と久しいが、あそこ迄変わっているとは思ってもいなかった。いつかまた、話をしなければならないと思っておったが――そうか」



 子供がグレるってやっぱ辛いんだろうな。いや、グレるだけならまだしも、命を狙われるって相当だぞ。



「リコリス、どうするんだ? まさか本当に殺し合うのか?」

「やらねば、我もお主も殺されるじゃろうて」

「でも娘なんだろ? だったらどうにか説得してだな――」

「その娘が、辻斬り紛いの愚蒙な行いをしておるのだぞ? これ以上の狼藉は目に余る。お主とて、大狐に追い回されるのは嫌であろう?」

「嫌だけどさ、親子で殺し合うなんて悲しいじゃんか」



 俺の言葉に対し、リコリスは笑っているようにも見え、哀しんでいるようにも見えた。

 カタカタと窓の音が聞こえる。風、吹いてきたな。



「お主は、親を好いておるのか?」

「あん? 俺? そうだなぁ、別にそんな好きじゃねえな」

「好きではない。だのに、我等の事は悲しいと申すのか」

「そりゃあそうだろう。俺は親がクソ嫌いだけど……愛してたからな」



 親子の関係なんて大体そんなもんだ、と俺は思っている。

 好き嫌いとはまた別の感情だ。俺は馬鹿だからリコリスにその感情を伝えきれないけど、出来ればそんな悲しい事はしないで欲しい。

 リコリスはまたも、くつくつと笑っている。



「愛してるって……ククク」

「いっちいち笑うなババア! 人が真面目に話してるのに!」

「クク、悪かった悪かった。あまりにクサい台詞なのでな、つい」

「もう知らん、勝手に喧嘩してろっての」

「そう拗ねるな。捻くれた少女の家族愛、良いではないか。迷いなくそれが言えるのは大したものじゃ。本当、羨ましい程に実直であるな」

「捻くれた少女じゃない、美少女だ」



 また前世の話を掘り返してしまった。もう、俺はここで美少女としてやってくんだから思い出させるなっての。

 俺は小っ恥ずかしい気持ちをさっさと切り替えるべく、リコリスに話しかける。



「リコリス」

「何じゃ」

「喧嘩してもいいけど、絶対死ぬなよ? 麓の町で聞いたぞ。お前、ここの守護獣なんだろ?」

「守護獣などと……我はただここで平穏に余生を過ごしておっただけじゃ」

「麓で暮らすおばちゃんライズが言ってたぞ、寂しいって」

「……カフめ、我の事など忘れよと言っておろうに」



 一発でカフさんだと分かるのか。あの人、いや、あのライズ、リコリスと知り合いだったのね。

 苺が好きだと言ってたのを思い出す。実際に食べてる姿を見てたんだろうなぁ。しみじみと語ってたし。



「元々ライズがいれば、ノイモントは安全じゃ。我などおらずとも――」

「そうじゃないさ。カフさんはリコリスが心配なんだろ? どういう間柄かは知らんけど、あの顔見りゃ本気で案じているのが分かる」

「知ったふうな口を利いて……お主のような小娘に何が分かる」

「にしし、分かる分かる。俺、スーパーな美少女ちゃんだもんね。捻くれ婆さんも素敵な御婦人も心の中は乙女だって知ってるから」



 俺のおちゃらけた言葉に、キッと目を細め俺を睨むリコリス。睨まれると確かにあのアウレアってのとそっくりなのが分かる。でも、きつい目しても美人だから可愛いだけだぞ。



「カフさんだけじゃない、俺だってリコリスが死ぬのは嫌だ。お前の事、結構好きだし」

「ふん、先程出会ったばかりではないか。こう容易く情に絆されては、この先苦労するぞ?」

「そうかな? 俺、結構人を見る目はあると思うんだけどなぁ」

「う、自惚れが過ぎるわ、小娘が」



 リコリスは俺から視線を外しそっぽを向く。

 ふふん、少しは誂われた仕返しが出来たか? まぁ、リコリスが良いヤツだって思うのは本当だしな。

 



「全く素直じゃない婆さんだなー。な、ボタン」

「きゅう」

「最初は小奇麗な娘かと思っていたが……とんだ不良娘じゃな!」

「酷っ、こんなかわゆい娘を不良扱いかよ。見た目も中身も一流の美少女をとっ捕まえて何が不満だ? ああ?」

「ちゅう」

「へぶっ! コラ、頬を叩くなボタン」



 ボタンの奴め、ツッコミ役がいないから張り切ってるな。いつもの二割増し威力が強い。早く帰らねばビンタされまくって頬がハレちまうぞ。

 と、そうだ。ボタンといえば――



「リコリス、ちょっと聞きたいことがあるんだが。……いや、胸の事じゃないから隠さなくて良い勿体無いもっと曝け出せ」

「たわけ」

「乳はひとまず置いといて……変化について詳しく聞きたいんだ。実は、ボタンがそのスキル持っててな」

「ふむ、そのスライムがのう」

「スキルがあっても何故か使えないんだよ。何でかわかる?」



 ボタンとしてもそのスキルを使おうとする意思はあるようで、伸び縮みしたり形作ろうとするのだが、途中で断念して俺に突っ込んでくる。

 半年間練習をしたのだが、結局俺の耐久力しか鍛えられなかったのだ。



「そも、ボタンは何に変化させたい?」

「え?」

「変化というからには、何かしらに変化させるのであろう?

「ああ、それがよ、ずっと美少女になれって言ってるんだけど中々出来なくて」

「たわけ」

「あうっ!」



 スコーンとチョップが入る。いたたた……なんだいきなり美少女に向かって。



「ボタンはスライムであるぞ? 美少女がどういったものかも理解しておらぬ。そんな指示で出来るわけ無いであろう」

「えー、でもめっちゃ蠢いてたし、わかってると思うんだけどな。俺と言う偉大なモデルもいるし」

「ハア……大体、人に変化するのは相当な時間が必要なのだぞ? 我もアウレアも人へ変化するのに何十年もかけておるわ」

「大丈夫、ボタンは俺の従魔だぞ? ご主人が完璧パーフェクツなら従魔も完璧だからな。コツさえ掴めば数日でいけるいける」

「いけぬわっ! 我が教えてやっても良いが、長い時間を要するぞ。お主、ずっとここに住む気か?」

「いや? リコリスがこっち来ればいいじゃん。ボタンも喜ぶぞ。なぁ? ボタン」

「……きゅう」

「ボタン、お主苦労してるのう」



 なんだその呆れたような「きゅう」は! ボタンめ、これから毎日変化の練習をさせて絶対に美少女になってもらうからな。

 考えてもみろ、街中で美少女二人がカフェでお茶してたらチヤホヤされること間違いなしだ。ああ、チヤホヤされてぇ。



「にしし、頼むぞボタン」

「全く、従魔に理想を押し付けて……とんでもない主人じゃな」

「美少女は何をしても許される。アンフェアなコントラクトでも美少女相手なら仕方ないと思えちゃうよネ」

「碌な死に方せぬぞお主」



 今から死に方を考えても仕方ないのだ。死に様よりも生き様。俺はまだまだ死ぬ訳にはいかんのだ。

 そう、現に今だって命の危機だ。美少女論も大事だが、今こうしてくっちゃべってる合間にも出来ることがあるかもしれない。



「リコリス、ふざけた話をしてる場合じゃない。どうにかしてアウレアちゃんを救わねば」

「ふざけてるのはお主……待て、なぜ救う話になっている。あやつを甘く見過ぎじゃ。例え力で抑えつけたとして、話など通じるものか」

「話しても無いのに諦めるのは良くないぞ? 俺も一緒に説得してやるから」

「やめい! 余計に話が拗れる!」

「まぁまぁ遠慮なさらずに」

「ええい、ここで大人しくしておれ! 我等の事情に口を挟むでない」



 そう簡単にはいかないか。リコリスはまたそっぽ向いて苺を食べている。そんなに食うと太るぞ。

 びゅうびゅうと風が吹いている。おいおい、この状況で更に吹雪になるのは洒落にならんぞ。俺が風音に耳を傾けていると、リコリスが立ち上がった。



「……どうやら来たようじゃな。ハナ、決してここから離れるでないぞ。あやつはもはや幻獣とは言えまい。己の欲の為に力をふるうただの獣じゃ。せめて我の手で引導を渡してくれるわ」

「あっ、待てよ話はまだ――おいリコリス!」



 外へと出ていってしまった。本当にやり合うのか? 幻獣同士の戦いなんて俺が入る余地無いし、かといってボタンだけを戦わせて危険に晒すわけにも……くそ、どうしたもんかな。

 俺は悩んだあげく、いざ戦闘になるとイマイチ頼りならない相棒へ相談する事にした。



(セピア)

(何でしょうか)

(あのアウレアとかいうケダモノと戦う時の為に、少し良い策があれば考えといてくれ)



 その言葉の後、セピアの反応が途絶えた。どうしたんだ?



(…………ええっ!?)

(いやなんだその遅い反応)

(いえ、まさかハナ様。あの幻獣同士の決闘に割り込むわけでは――)

(何か文句あるか?)

(ありますよ!! いい加減にご自身の実力を理解して下さい!! 本当に死にますよ!!)

(そんな大声出すなよ。割り込まないで済むならそうするよ。でもさ、リコリスが負けそうになったら俺が加勢するしか無いだろ?)



 リコリスの負け=俺の死だからな。どんな手を使ってでも勝ってもらわなくてはいかん。

 それに、俺なら離れながら援護が出来る。この小屋に何か使える物がないかな?



(セピア、頼んだぞ。ここで一発神様っぽい活躍を見せてくれ)

(うう、無謀が過ぎますよ)

(そんな事じゃ世界のバランスは保てないぞ! シャキッとしろシャキッと!)

(ああもう、わかりました!! 私も全力を尽くして考えますから、絶対に死なないで下さいね!!)



 うんうん、気持ち良い吹っ切れ方だ。俺の相棒やるならこれくらい勢いがないとな。

 さぁ、アイツらがおっぱじめる前にさっさと使えるモン回収しなくては。

 ごうごうと風が強く吹き付ける中、俺は小屋の中を手当たり次第に物色し始めた。

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